俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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大好きな作者さんから感想がいただけてテンションが上がっていますよ。
やっぱり感想を貰えてうれしいですよね。


第28話 俺は人の事情に首を突っ込みたくはない

 八幡のちょっとした暴走により一時期話し合いどころではなかった大志だが、八幡が小町によって叱られてたお陰もあって何とか本題に辿りついた。

 

「改めて言うっす。俺の姉ちゃん、川崎 沙希って言うんすけど……知ってますか?」

 

その問いかけに雪乃は首をかしげる。彼女の場合は無理もない。何せクラスが違う上にその『川崎 沙希』とやらは目立ってはいないのだから。結衣のことを知っていたのは彼女と浅からぬ因縁を持つ相手の近くに居たからである。だが、そうでないのなら、彼女が他のクラスの女子のことを知っているわけがない。

そんな雪乃と違い、同じクラス3人組である結衣、戸塚、八幡の3人は大志に知っていると返す。

 

「あぁ、川崎さんでしょ! ちょっと怖い系っていう感じの」

「確かに川崎さん、他の人と一緒に居る所見たことないかも」

「同じクラスの人間ってことは知ってるが、直接関わったことはないな」

 

3人の反応から大志は自分の姉の知名度を知り、この相談を持ちかけても大丈夫だと決める。その意思が小町に伝わったのか、小町が大志の相談事の補助を行った。

 

「それでね、最近大志君のお姉さんが不良化したっていうか、夜とか帰りが遅くて、どうしたら元のお姉さんに戻ってくれるか、ていうか相談を受けてたんだよ」

 

小町のその言葉を聞き、八幡の脳裏には昨夜のバーでの出来事を思い出す。

確かにああいった仕事は夜遅くまで働くため、帰りが遅くなるもの納得がいく。

その事を考えていると雪乃が大志に具体的な話を聞き始める。

 

「そうなったのはいつ頃からかしら?」

「最近です。総武高に行くぐらいすから、中学の時は凄ぇ真面目でしたし、優しかったっす」

 

大志からの情報を聞いて推理を始める雪乃。

とりあえず分かったことはそれまで真面目だった人間が最近不審な行動をしているということ。確かにそれが身内だと言うのなら、心配になるだろう。

更に情報を聞きだすべく、今度は結衣が大志に問いかける。

 

「でもさ、帰りが遅いと言っても何時くらい? 私も結構遅いし」

「それが………5時過ぎとかなんっすよ」

「え、何それ! 滅茶苦茶遅いし! っていうかもう朝じゃない、それ」

 

確かにその時間は高校生が出歩き返ってくるにしては遅すぎる。普通なら結衣のような反応が当然だし、大志が如何に心配しているのかも良く分かる。

そんな空気の中、小町は何となしに爆弾発言をした。

 

「え? お兄ちゃんもそれぐらいに返ってくること、結構ありますよ」

 

「「「えっ!?」」」

 

小町の言葉に驚く結衣、雪乃、戸塚の3人。

まさかここでそんな事を暴露されるとは思わず、八幡は冷や汗を掻き始めた。

別に小町にばれるようなヘマはしていない。だが、それでも帰りの遅さっというのは明らかに目立つ。だから彼の顔は少し強張っていた。

 

「ヒッキー、何でそんな時間まで出歩いてるの?」

「不審者で通報されないのかしら?」

「八幡、流石に朝帰りは良くないよ」

「あ、朝帰りッ!?」

 

戸塚の言葉に結衣が顔を真っ赤にして反応する。

少しばかり邪念が多いんじゃないかと八幡は突っ込みたくなったが堪え、3人に分かりやすく理由を話す。

 

「たまに深夜のバイトが入るんだよ。あぁ、勿論清掃のバイトだ。その手当が結構いいもんだから、ついな。小町に心配をかけてることは分かってるんだが、そうでもしないと金が貯らないんだ」

「そんなにお金を貯めてどうするつもり? あぁ、勿論貯金は大切よ。でもそんなに遅くなってまで働いて学業に支障をきたすのは感心しないわよ」

「ヒッキー働き過ぎじゃない? そんなにお金貯めてどうするの?」

「八幡、休んだ方がいいよ」

 

八幡のその理由に雪乃達3人は当然のように突っ込む。

それは当たり前だろう。高校生がそんなに働いて一体何をするつもりなのやらと誰しもが思うことなのだら。

だが、その事に付いて八幡と件の川崎 沙希ではまったく違う。

何故なら八幡のバイトは『学校に正式に認められている』のだから。

その理由をこの場で口にするのもどうかと思い八幡は誤魔化そうとしたのだが、先に小町が悲しそうな表情で皆に教えてしまった。

 

「実はウチ、両親がいないんですよ。私が物心ついた時にはもういなくて。お母さんは私を産んですぐに死んじゃって、お父さんも交通事故で亡くなったって………だからこれまでお父さんの友人の人に保護責任者をしてもらいながらお兄ちゃんとずっと二人暮らしだったんです。その生活費とかはお兄ちゃんが出していて、我が家はお兄ちゃんの収入で現在成り立ってるんですよ。お兄ちゃん、ごめんね。小町は役立たずで」

「いや、小町は全然役立たずなんかじゃないぞ。ウチの家事炊事は小町のお陰で成り立っているんだ。小町がいなかったら今頃俺は死んでるよ。だからそんな気にするな。お前にはただ、幸せに過ごしてほしいから。働くのは兄として当然のことだよ」

 

泣きそうになっている小町にそうフォローを入れる八幡。

事実確かに小町がいなかったら八幡は死んでいるだろう。精神的にも物理的にも。それぐらい八幡にとって小町は大切なのだ。

と、そんな兄妹の絆を確かめている二人なわけだが、それを聞いた者はそれどころではない。

その事実は更に雪乃達に衝撃を与えた。

まさか両親ともに既に他界しているなどと誰が思おうか。そして子供だけだったのを大人を頼りつつも懸命に生きてきたということに驚かずにはいられない。

その悲しい事実に結衣は泣いてしまい、雪乃は申し訳なさそうにうつむき、戸塚はしゅんとしてしまう。

 

「ヒッキー……ぐすん……そんな大変な事があったのに、一生懸命働いて……それなのに私、酷いこと言っちゃったかも………ご、ごめんね、ヒッキー……」

「ごめんなさい、比企谷君。そんな辛いことがあったのに、私たちが無神経に掘り返してしまって……何と詫びればよいのかしら……」

「八幡、今までずっと大変だったんだね。そんな辛い状態なのにこうして僕達と仲良くしてくれるなんて…………」

 

場の空気がジメッとした物に変わり、実に居たたまれない状態になってしまった。

その如何にも気まずい感じをどうにかしたく、八幡は少し声を大きく上げながら皆に話しかける。

 

「その話はゴミ箱にでも捨て置いておけ。今は川崎君の姉の話だろ。お前等がそんなんじゃ話すに話せないだろ。なぁ、川崎君。君は相談をしに来たのだから」

「う、うっす!」

 

場の空気に流されかけていた大志は八幡の声に身体を震わせ、姿勢を正して先程の話の続きをする。

 

「ウチ、両親が共働きだし、下に弟と妹がいるんであまり姉ちゃんにはうるさく言わないんです。下の世話を良く姉ちゃんは焼いてるから」

 

それを聞いて皆先程の空気から脱したのか、真面目に考える。

そして雪乃は少しばかり難しそうな顔をして何か思うことがあるのか口に出した。

 

「家庭の事情………ね。どこの家にもあるものね」

 

その言葉を聞き、八幡は念の為に雪乃に話を振る。

 

「雪ノ下、念の為に言っておくが、これは家庭の事情だ。俺たちがそう安易にちょっかいをを出して良い問題でもないぞ」

 

大志の姉が何故働いているのかは知らないが、働いていることを知っている八幡は念の為にそう釘を刺す。

これは彼女の事情だ、それもかなり深いものであり、お悩み相談の域を超えている。下手に自分たちが関与して良い問題ではない。

だからそう八幡は雪乃に警告するのだが、それを考えた上で雪乃は大志を真っ直ぐ見た。

 

「わかってるわ。それでも………大志君は本校の生徒『川崎 沙希』さんの弟、ましてや相談内容は彼女自身のこと。奉仕部の仕事の範疇だと私は思う。それに………何かしら理由があるにしても、家族に心配をかけるのはよくないわ。相談が解決するにしてもしないにしても、せめて家族に心配をかけないようにしてもらわないと」

「………ありがとうございます」

 

雪乃の出した答えに大志が静かに頭を下げた。

その様子に皆やる気を見せていたが、その中で八幡だけはそうは思わず、あまり良い気分とは言えなかった。

八幡もそうだが人の事情はそれぞれだ。それに関与して良いのかは程度に寄るが、間違いなく今回の件は深い。だから彼としては受けて欲しくはなかったのだが、受けてしまったからにはしょうがない。

だからその代わりに八幡は雪乃達にこう告げた。

 

「だったら悪いが俺は別方向から調べさせてもらう。その方がお互いに色々な情報が集まって解決しやすいかもしれないからな」

 

 

 

 こうして大志の依頼を八幡達は受ける事になったのだ。

 

 

 

 

 








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