俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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お気に入り数に驚く作者です。この後も引き続き楽しんでいただければ幸いです。


第29話 俺はいつのまにか弟分が増える

 川崎 沙希がどういった理由にせよ働いていることを知っている八幡としてはあまり事を荒立てずに調べたいと思う。故に雪乃や結衣と一緒に行動するのは良くないと判断しての独断行動なのだが、それに対し反対の意見を申し上げる者がいた。

 

「えぇ~、ヒッキー一緒にやろうよ~」

 

合理的な判断だと認めた雪乃と違い、結衣は八幡の意見に反対なようだ。

小町達が帰った後……つまり依頼を受諾した後にすぐ結衣はそう言いだした。

 

「いや、さっき理由は言っただろ。そっちの方が効率が良いって」

「それでも嫌なんだもん。ヒッキーがいてくれた方が安心できるし」

 

結衣は頬を赤くしつつそう答えながら八幡の腕を引く。

その際に体が密着し、結衣の大きな胸が八幡の腕に当たり形を変える。流石の八幡でも異性との接触と言うものには慣れておらず、この状況に困る。

 

「そうは言ってもなぁ………」

 

思春期の男なら鼻の下を伸ばすような状況だが八幡は素で困る。

なので離れるように素直に伝えることにした。

 

「由比ヶ浜、離れてくれ。さっきから近いんだよ。そのせいで、その………胸が………」

「え?……ってキャァッ!? ご、ごめんヒッキー!」

 

まるで自分から胸を押し付けているかのような状態になっていることに気付いた結衣は顔を真っ赤にして急いで離れる。

 

(ど、どうしよう、ヒッキーにむ、胸を押しつけちゃうなんて………で、でもヒッキー顔赤くしてたし……意識、してくれたよね)

(何と言うか気まずい。別にわざとじゃないってことは分かるんだが、わざわざ指摘する理由はなかったんじゃないか、俺?)

 

身体から離れていく温もりにホッとすると共に少しばかり残念な気持ちを感じる八幡。そんな彼の心境を察したわけではないが、雪乃が白い目で八幡を見てきた。

 

「見事なまでに鼻の下を伸ばしていたわね、ムッツリ谷君」

「そうだったら自己申告なんてしないだろ、まったく」

 

雪乃にそう返しつつ、八幡は彼女のお陰もあってすっかりと落ちつく。

そして結衣を宥めつつ、改めて依頼について話し合う。

この話し合いで決まったことは、八幡は独自に調べ、雪乃は結衣と一緒に調べるということ。雪乃達のバックアップとして戸塚が手伝える時は手伝うと言ってくれたので彼の厚意に甘えることに。

そしてそろそろ帰ろうかという話になった所で、八幡は考えていたことを雪乃達に言うことにした。

 

「あぁ、それと…………雪ノ下達には小町を付けようと思う。同じ女性同士だから仲良くできると思うしな」

 

今回の依頼は小町が最初手伝う事になっていたのだから、当然この後も手伝うのだろう。ならば雪乃達に付いてもらった方が色々と役立てるかもしれないと八幡は思った。八幡が知る限り、小町は聡いのだ。きっと役に立つと思っている。

そんな彼の判断に結衣と雪乃の二人は頷くのだが、戸塚は少しだけ苦笑をしつつ八幡に問いかける。

 

「その心は? 八幡」

「小町に近付く悪い虫を遠ざけるためだ。俺が虫の方を連れていけば小町にちょっかいは出せないからな」

 

その本音を聞いてやっぱりそうかと苦笑する3人。その前のやり取りで八幡が物凄いシスコンだと言うことは皆の共通認識になっていた。

 

 

 

 翌日になりさっそく奉仕部は依頼で動き始める。

雪乃と結衣、そして戸塚の3人は部室で作戦会議を始めるらしい。その後決まった方針などやらは雪乃がメールするようなのでとりあえず変な暴走はしないだろうと八幡は判断し、独自に動くと決めた自分もさっそく行動を開始する。

と言っても今回は前回のチェーンメール騒動のように特殊な技能を使う気はない。あくまでも常識に収まる範囲で行動すると決めた。

なのでさっそく八幡がしたことは電話である。

そしてその相手は……………。

 

『あ、お兄さんっすか!』

「ほう、俺はいつからそんな風に呼ばれる間柄になったんだ、川崎 大志君? それは詰まる所小町に手を出す気が満々だと、俺に宣告していると取っても良いということかな」

『ひ、ひぃっ!? す、すみませんっす!』

 

電話のスピーカーから大志の焦った様子が良く伝わってくる。声だけだと言うのに八幡の怒気は十分に伝わったようだ。

八幡が電話をしたのは今回の依頼人でもある川崎 大志。小町に近付かれたくないというのも本音ではあるが、実のところはそれだけではない。今回の依頼の対象にもっとも近い間柄の人間であるだけに、色々と調べやすい。川崎 沙希本人のことは勿論だが、『川崎家』そのものを調べるには彼の協力が必要なのである。

八幡が知っているのは働いているということとその働いている店。働いている理由までは分からない。そしてきっとそれが分からなければこの問題は解決しない。

だからこの依頼を受けると決まった後に八幡は大志と連絡先を交換しておいたのである。

電話をかけたのは勿論彼から色々と聞くためだが、その前に待ち合わせをして会うためだ。

 

「今から駅前のワックに来れるか? まずは詳しい話を聞きたいんだ」

『別に良いっすよ。今から向かいます』

 

そして通話を切り八幡は駅前のワクドナルドに向かって歩き出す。

 その道中何故か小町からメールが来て八幡はそれを見て何故か首をかしげてしまう。

 

「何故猫?」

 

メールの内容は何故か八幡の家で飼っている猫『カマクラ』を高校に連れて行きますというものだった。

比企谷家には一匹の猫がいる。名前はカマクラ。八幡が仕事で忙しくて小町の相手をしていられないということで寂しい思いをさせていると考えている時に一緒に出かけられる日にペットショップに言った時に小町が一目惚れしたので飼うことにしたのだ。小町にはよく懐いているが、八幡は寧ろ嫌われていて絶対に近付かない。きっと野生動物ではないにしても八幡から血の匂いを感じ取っているのだろう。

だから八幡はそこまでカマクラのことを考えていない。小町が少しでも寂しがらずに済めば良いと考える。

そんなあまり愛着のない猫がどうして高校に駆り出されるのかが分からない八幡だが、小町がそうすると決めたのなら反対する理由などない。

だから別に良いとメールを返しながら歩を進めていった。

 

 

 

 ワックに着き八幡は大志を探すと彼はすぐに見つかった。何せ此方が見つける前に向こうが此方に向かって手を振ってきたからだ。

それを見て八幡は軽く手を振り返しつつ注文をしにカウンターに向かう。そしてハンバーガーとコーヒーを受け取ると大志の所まで向かい、彼に向かってハンバーガーを軽く放る。

 

「わっ!? あのこれは?」

 

急にハンバーガーを渡され戸惑う大志。

そんな大志に八幡は軽く笑いながら答える。

 

「これから手伝ってもらうための礼だ。前金のかわりだとでも思えばいい」

「で、でも、そんな……」

「お前ぐらいの年頃ならこれぐらい食べても平気で夕飯を食えるだろ。気にせず食え。さっきも言ったが手伝ってもらう礼だ。上からの厚意には素直に甘えるのも礼儀だぞ」

 

そう言われ大志は軽く頷き八幡に返事を返す。

 

「うす、ありがたく頂きます」

 

そしてそれを食べる大志。八幡はコーヒーを軽く煽る。

そのまま少し寛ぎ人心地ついた後、改めて八幡と大志は話し会う。

 

「それで俺は何をすればいいっすか?」

 

協力する気満々な大志。きっと余程の事じゃなければ結構やりそうな雰囲気がある。

そんな大志に八幡は落ち着けと軽く諭す。

 

「そうやる気を出すな、別にすぐ何かを始めるというわけじゃない。今日お前をここに呼んだのは情報が欲しいからだ」

「情報っすか? それは分かりますけど……流石に姉ちゃんのプライベートとかは無理っすよ」

「そういうのは別にいい。今欲しいのは川崎本人の事じゃないからな」

 

そう答える八幡。彼の狙いは川崎 沙希本人ではない。

今回八幡が知りたいのは『川崎家』のことである。

 

「まず最初に。川崎 沙希が何故ここ最近にそんな行動を起こしているのかを考えるために、ここ最近でお前に起こったことを聞きたい」

「へ、俺っすか?」

「あぁ、そうだ。お前の前の話から兄妹が多く両親が共働きだと言うことは分かった。だから今度はお前の弟妹などの話も聞いておきたい。勿論姉の話は無しで。だからまずお前から。次にその下の弟妹について」

 

八幡が何故それを聞きたいのか? それは彼が川崎 沙希が働いていることを知っているからだ。理由はどうあれ働くということは弁償でもなければ金の為である。それも深夜帯の仕事ほど高金利だ。それだけで川崎が金を必要としていることは分かる。だが、それだけでは理由は分からないし働くきっかけも分からない。だからまずは周りから。家庭の事情ならつまりは家庭で何か変化があったからこそそうなったのだと判断できる。それを大志に聞こうと言うのだ。

大志は八幡の意図に気付きはしないが必要な事なのだと判断し、思い出しながら八幡の問いに答える。

 

「ん~特になかったと思うっすけど。俺が3年になってから塾に通い始めたくらいっすかね。下の弟妹は特になかったと思うっす」

「塾か…………成程な」

 

それだけで更に答えが見えてきた八幡。

今までの生活に更に加わった新しいものによって圧迫されたのは川崎家の経済だ。

それまでしていなかった分だけ確実にそれは締め付けるだろう。つまり川崎家では確かに経済的負担が大きくなったことがはっきりとした。

だがまだ足りない。大志が塾に入ったのは中学3年に上がってから。そして今は6月真近。既に一月以上経っている。塾に行くのはこの後もずっとだろう。きっと今年受験の大志を慮っての考えだ。その間の塾の費用を考えていない両親ではない。だから彼の費用については織り込み済み。

前提がそうであれば、川崎が今頃になって働く理由がない。仮に大志の塾の費用を少しでも負担したいと考えるのなら行動が遅すぎるのだ。

つまり川崎が金を求める理由は大志のためではない。それ以外の理由で金が欲しいのだ。

大志の話を聞くに、それまでアルバイトをしたことはなく彼女は家事を率先してやってきたらしい。そんな彼女が2年の今頃になって金を求め始めた。

きっと答えはその『時期』にあるのだろう。

まだ完全には分からないが、八幡はそう確信する。

 

「何かわかったんすか?」

 

八幡の様子に何かを期待する大志。

そんな大志に八幡は普通に答える。

 

「いやまったく。分かったのはこの時期に働き始めたってのが重要だってことぐらいだ。お前の塾の費用は川崎家の経済内で完結してると思われる。だからお前が原因とは考えづらい。いや、それは早計だな。まだ情報が足りない」

「そうっすか……」

「そう落ち込むな。俺の中では少しずつだけど固まり始めてる。あともうちょっとだ」

 

そう答え大志に礼を言う八幡。

更に分かったことと言えば、彼女が金を求め始めたのは悪い意味ではないと言うことだろう。何かしらの弁償や脅迫を受けたといった感じではないということは大志の話を聞いていて大体分かっていた。

家事に追われる真面目な少女。それが家族が感じている印象を周りが聞いた時の反応だ。つまり彼女には遊んでいる余裕がなかった。そして真面目な人物が危険な場所や人物に近付くことは絶対にない。学校での評判を聞くに隙のない人物のようなので付けいられると言うこともないだろう。それらを考えてみれば、今回の件が怪しいものではないと言うことは十分に分かる。

それが分かるだけで多少気持ちが和らいだ。

もしそんなことになっていたら、その時はより『強行的手段』を取らざる得ない場合があるからだ。それに雪乃や結衣が関わってしまい問題になったら、その時八幡は彼女達を助けるために相手の血を見ることも辞さない。それぐらいには彼女たちは八幡にとって親しい存在にはなっているのだから。

 結局大志から聞けた情報では川崎 沙希の働く理由までは判明しなかった。

だが、彼の情報のお陰で川崎家の経済状況や川崎 沙希の人物像が分かってきたのは大きい。その情報のお陰でこれからの調査がより進展することは確実だ。

 

 

 

 それ以上することがないので帰ることになりその帰り道、大志は八幡に笑顔で話しかけた。

 

「今日はありがとうございました。本当に話していて思ったっすけど、お兄さんは本当にお兄さんって感じっすね」

「それはどういうことだ?」

 

小町の事かと思い警戒心を顕わにする八幡。

そんな八幡に大志はそうじゃないと必死に答える。

 

「いや、そういう意味じゃないっすよ! その、俺は兄がいなにので、もしいたらこんな感じなのかなって。クールで冷静、それでいて頼もしい。きっと兄ってこんな感じなんだなって思って。だからお兄さんはお兄さんっぽいなって」

 

そう答えて何やら尊敬するような眼差しを向ける大志。

そんな大志の視線を受けて気まずそうに目を逸らしつつ、八幡は仕方ないと言った様子で返事を返した。

 

「そう思うんだったら好きにしろ。別に小町に手を出さないならお兄さんでも兄ちゃんでも好きに呼べばいいさ」

「はいっす、お兄さん!」

 

そんな嬉しそうな声に背を向けつつ八幡は自宅に向かって歩き出していた。

親しい友人が出来たと思ったら今度は弟分ができたようだ。本当に人生とは何が起こるかわからないものであると、彼はそう思いながら帰った。






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