俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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八幡が隠れてるお話ですね。


第31話 俺は答えをもう掴んだ

 少しばかり年相応な青春をした八幡であったが、流石にそのままの雰囲気に流されるほど緩くはない。

昼休みが終わり放課後になると共に彼は意識を引き締める。

これから行うことはある意味犯罪に近い。とはいえ害意がなければそれはただの迷惑行為にしか取られないだろう。あくまでもバレればだが、

しかし、彼の『それ』を見破れる者などこの学校内には絶対にいない。

対象が動く前から違和感を感じないように薄れさせていく。自分という存在が周りから消えていくように、まるで息をするという当たり前の行動であるというように。

そして意識を最深部まで潜らせれば、その先にあるのは一人だけの世界。

彼だけの個性にして絶対の唯一無二、『亡霊襲撃』の名にふさわしき絶対のステルス。

己を世界から切り離し一人だけの世界で彼がすることとは………。

 

川崎 沙希の尾行。

 

普通に考えて貰いたい。

何故その者がそれを求めたりするのか、それを知るにもっとも必要なことは何なのかを。

推理は確かに必要ではある。だがそれは所詮考えであって事実とは言えない。確実性がないのだ。

ならもっとも確実性がある情報というのは何か? そんなものは決まっている。自分の目で見て手に入れた情報である。

対象が何をしているのかを見れば自ずと答えは出るのだ。それをしない理由はきっとそれが人道や道徳観念に触れるからだろう。尾行とは言いかえるのならストーキングといっても過言ではないのだから。

だが八幡はそれをするのに躊躇しない。必要であるのなら当たり前にそれをする。そう考えるのが当たり前の世界だから。

故に彼は気配を消して対象である川崎 沙希の背後に周り、そして彼女が動くと共にその背を追い始めた。

 と、そんなことをしているとはまったく知らない結衣は放課後になったので八幡と少しでも話そうと席に目を向けるのだが、そこにあるのは空席。八幡が既に去った後である。

 

「せっかくヒッキーとおしゃべりできると思ったのに、いつの間にかいなくなってる~! むぅ~」

 

年相応にむくれる結衣であるが、彼女はこの後部活で雪乃と合流し今回の依頼を解決すべく作戦を行わなければならない。だからしょうがないと判断し彼女もまた教室から出て行った。

 

 

 川崎 沙希は自分が尾行されているとは一切気付いていないだろう。それだけ八幡の尾行は完璧だった。元の特技は勿論追跡などの技能も勿論叩きこまれている彼だ。その二つが揃えば見破れる者などそうはいない。

それを自覚はしていない八幡ではあるが、自分なりには問題ないと思うようだ。尾行対象の様子を見ながらそう思う。

川崎 沙希は教室を出るとゆっくりとした歩みで廊下を歩いていく。八幡はそれを少し離れた距離から追いかける。別にこの能力があれば隣に立っても気付かれないのではと思うものだが、実は弱点があるため念の為違和感がないように距離を取っているのだ。ちなみに弱点とは『電子機器は誤魔化せない』というものである。いくら生物の五感に感知できなくてもカメラには映るしセンサー類にも引っかかる。完璧とはいえないのがこの能力のミソであろう。

だから念の為、仮にどこかしらでばれたとしても疑われないようにするために距離を取る八幡。必要に応じて距離を詰めればよいので問題はない。

そうとは知らない川崎 沙希がまず向かったのは進路相談室である。

彼女は部屋に入ると教師と少し話し、許可を得たらしく棚から資料をいくつか引き抜き閲覧している。

 

「ん~、やっぱりこっちの方が……でも学費が高いし……」

 

八幡はバレないように近付きその中身を覗き込むと、そこにあったのは大学の資料であった。見た限りだが複数の大学の資料のようで、その中の情報を見て彼女は悩んでいるようだ。

彼女の進路は進学希望らしい。

その様子から見て既に答えなど分かり切っているだろう。

八幡は何故彼女が金を必要としているのかを察した。

川崎家の経済状況、そして今年から弟が塾に入ったこと。それらに寄る経済圧迫の行き先が彼女に向かったと言うことなのだろう。弟の話から両親に信頼されており家族思いだということは知らされている。だから両親から工面が出来ないとは言われていないと思われる。つまりこれは彼女が自分から進んでしていると言うことなのだろう。

結論……川崎 沙希が高金利のバイトをしているのは、大学進学のための学費を稼ぐためである。

そう考えればすべてがぴったりと収まる。

ここ最近にバイトを始めたのもそれが理由だろう。

その考えに八幡は内心感心した。自分の為に頑張るのは勿論のこと、家族に迷惑をかけたくないからこその努力。それはとても純粋で綺麗に思える。

それはきっと八幡には考えられないこと。八幡も似てはいるがまったく違う。彼は家族の為にすべてをかけるが、自分の為には一切しないのだから。

だからなのだろう。八幡は川崎 沙希という人間をもう少し個人的に知りたいと思い始めた。

自分と少し似ていて、それでいてまったく違う少女のことを。

そう思いながら更に八幡は尾行を続ける。

彼女は資料の閲覧を終えると進路指導室から出て昇降口へと向かい始めた。

どうやらもう学校に用はないようなので歩みは多少速い。

そして昇降口真近になった所で彼女は急に呼び止められた。

 

「川崎」

 

その声に彼女は振り向くと、その先には平塚が立っていた。

彼女は呼び止められたことに多少不服を感じているためなのか、声に多少の険が籠りつつ返事をする。

 

「何か用ですか?」

「君、最近家に帰るのが遅いらしいな。どこで何をしているんだ?」

 

その話に彼女の顔が若干強張る。何せこの情報を教員が知っているとは思わなかったからだ。下手をすれば退学にもなりかねない。

だからこそ、彼女はより慎重に返答する。

 

「誰に聞いたんですか?」

 

誤魔化そうとはせずに情報源を探る。

その問いかけに平塚は守秘義務だと答え、質問に質問で返されたこともあって先程の答えを要求し始めた。

勿論それに答えるわけがない川崎 沙希。答える気はないと言わんばかりに話を流そうとする。自分は誰にも迷惑をかけていないのだから問題はないと。

それに対し平塚はこれから迷惑をかけるかもしれないと言い、そして親御の気持ちも考えろと言った。その意見は正しい。

だが、ここで平塚は予想外の反撃を喰らった。

 

「って言うか、先生親の気持ちなんて分かんないでしょ。なったことないし」

「え?」

「だって独身だし」

「ぐはッ!?」

 

そろそろ結婚しないとまずい年齢になった平塚には禁句であるそれを言われ、平塚はダメージのあまり跪く。

 

「先生、あたしの将来より自分の将来のことを心配しなよ……結婚とか」

 

そう言い捨てながら川崎は平塚の元から去っていく。

その様子を見ていた八幡は平塚に苦笑しつつ川崎を追いかける。

だが、彼の耳には入らなかったがこの平塚はとんでもないことを口にしていた。

 

「うぅ~~~、いいもん、誰もいなくても、比企谷に貰ってもらうもん」

 

その言葉に陰ながら見ていた奉仕部二人組が反応したのは言うまでもなく、この後結衣と雪乃の二人は平塚を捕まえて『お話』をしたようだ。

 そんな出来事があったとは全く知らずに八幡は川崎の尾行を続ける。

 






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