俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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本来ならば2500文字くらいのはずなのに、何故こうなったのか?
そして原作とは少し違った展開です。


第35話 俺は彼女を助けたい

 自分の正体を明かした八幡は改めてカウンター席で笑う。

その様子はこれから話すことを楽しそうにする子供のように見えるが、目が濁り切っている八幡ではまるで悪い話をする悪人のようにしか見えない。

だから沙希は当然のように警戒を強めてしまう。

 

「願いを叶える? 一体どういうつもり?」

 

警戒心を顕わにした沙希に八幡は軽く手を振って沙希に警戒しないように言う。

 

「そう警戒するなって。まずはドリンクでも飲んで落ち着いたらどうだ。まぁ、お前に作ってもらったものだけどな」

 

警戒するなと自分が無害だと伝えるかのように言う八幡。

促された沙希は当然のようにカクテルには手を出さない。その様子に八幡はやれやれと軽く手を上げて呆れる。

そして仕方ないと思い、先に注文をした。

 

「そう警戒されても困るんだがな。とはいえするなと言う方が無理がある。だからまずは俺にカクテルを作ってくれ。せっかくバーに来て飲まないのは居心地が悪い」

「………何を頼むの?」

「ではマティーニを」

「未成年の癖にそういうのを飲むの?」

「既に俺が酒を飲むってのは前回同僚に絡まれた際に知ってるだろ」

 

八幡のその言葉に当時の事を思い出しつつ沙希は注文の品を作り始める。

ジンとベルモットを3対1の比率でミキシンググラスに注ぎ、バー・スプーンで丁寧にかき混ぜる。そしてカクテル・グラス注ぎオリーブを飾る。

その工程を八幡はじっと見つめ、見られていた沙希は妙に気まずさを感じつつ八幡に作ったマティーニを出す。

 

「はい、注文の品だよ」

「あぁ、ありがとう」

 

若干ぶっきらぼうな物言いの沙希に八幡は礼を言うと、さっそく出されたマティーニに口を付けた。

それを軽く味わいながら八幡はゆっくりと沙希に話しかける。

 

「さっきの話だけどな。そもそもはお前の弟がお前のことを心配して俺の妹に相談したのが事の発端だ。塾が一緒らしくてな、その経由で俺達にその話が来たんだ」

 

最初の事の発端を語る八幡。その話を沙希は何も言わずに聞いていた。

 

「そこで弟の願いである『姉の急な朝帰り』を辞めさせるという話になったわけだ。個人のプライバシーは重要だが、流石に高校生が朝帰りってのは感心しないな。そんな行動をしていれば当然のようにこうして問題が浮き上がるわけだから」

「それは分かってるけど、やめ」

 

問題は分かってはいるが辞める気はないと言おうとする沙希に八幡は軽く手を添えてその先を止める。

 

「分かってる。お前にも辞める気がない理由があるのは分かってるから。そこまで考えが追いつかなかったあいつ等に非があるのは認める。まずはその謝罪をさせてくれ。悪かったな、辞めろの一点張りで脅すような真似をしてしまって」

「べ、別に……あんたがしたわけじゃないんだし、謝らなくてもいいよ」

 

軽く頭を下げる八幡に沙希は少し罪悪感を感じつつ八幡に顔を上げるように言う。

先程の話し合いに関し、八幡は一切発言していなかったのにその比例を雪乃と結衣の代わりに詫びたのだ。本来なら本人達がすべきことを代わりにさせてしまったことに罪悪感が湧かないわけがない。

だからなのか多少警戒心が緩んでしまう沙希。彼女は基本真っ直ぐな人間だ。相手が誠意でくれば誠意で返す、所謂礼儀正しい人物なのである。

だから沙希は八幡の話を聞く気になっていく。

自分の事を彼がどう思っているのかが単純に気になったのだ。

謝罪を終えた八幡は改めて沙希に話しかける。

 

「物事には必ず始まりがある。だから当然お前にも何かあったんだろ。このような深夜のバイトをするぐらいの理由が」

「…………」

 

八幡の言葉に沙希は彼をじっと見つめる。

その視線を感じつつ、八幡は少しばかり笑いながら語りだした。

 

「そこで俺は雪ノ下や由比ヶ浜とは別行動でお前のことを調べてみた。あぁ、勿論変なことやプライバシーにかかわるようなことはしてないからな。なんだったら俺の首を賭けてもいい」

「別にそこまでしなくてもいいよ」

「そうか? まぁそう言うなら安心して語れるよ。それでだ、調べた結果………川崎家の経済状況はそこまで余裕はないだろ」

 

その言葉に沙希は目を見開く。

その様子に八幡は子供のような悪戯心が芽生えそうになるのをこらえつつ更に語る。

 

「別に喰うに困ったりするほど酷くはない。そのまま家族全員を養うには両親の共働きで事足りる。だけどさっきお前は雪ノ下に言ったよな。『偉そうなこと言ってるけどあたしの為にお金用意出来る? ウチの親が用意出来ないものをあんた達が肩代わりしてくれるんだ?』って。その言葉の通りなら、今の両親の稼ぎじゃ足りないくらいの金をお前は必要としている」

 

その答えに彼女は無言だが、それは同時に肯定しているのと同じだ。

彼女の肯定を感じ取り八幡は笑う。

 

「そしてそうなったもっともな原因は弟の塾だ。塾の費用が掛かるため、お前はこうして働かざるえなかった。なぜならお前は………」

 

そこで一端八幡は言葉を切ると、沙希の目を見つめながら答えを言った。

 

「大学に行きたいから」

「ど、どうして………」

 

どうして分かったんだと沙希は呆然とする。

調べたとはいえそこまで調べられるとは思わなかったのだろう。そんな彼女の顔を見ながら八幡は少し面白く呆れ返る。

 

「何せ進路指導室で大学の資料を漁って学費云々で悩んでる所を見せられれば誰だってわかるだろ」

「んなっ!? 見てたの!」

「さっき言っただろ。調べたって」

 

そう言われ恥ずかしかったのか怒りだしたのか顔を赤くする沙希。

そんな沙希に八幡は笑いつつ、少しだけ悲しそうな、そんな顔で話しかける。

 

「だから分かってたんだ、今回のこの件が絶対に失敗することは。奉仕部の理念は飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えてその人の自立を促すというものだ。それは確かに尊いし素晴らしいものだとは思う。だけどな……本当に飢えてる人間にはそんなことを学ぶ余裕なんてない。今すぐ食べ物を食べなければ死んでしまうくらい飢えてる人間はそんな知恵なんて求めてないんだ。欲しているのはこの危機を脱するための食糧なんだから。だから分かってた。大学に行きたいという夢を叶えるために、家族に迷惑をかけたくないから自分でどうにかしようとするお前のこのバイトを辞めさせるのはあいつ等には無理だって」

 

以前にも八幡は雪乃に語った。

如何に尊く崇高なことでも、人を救えるかは別である。本当に救いたいになら、正論だけでは無理なのだと。

 

「分かった上でこの茶番に付き合った。そうしないと奉仕部としての収拾がつかないから。あいつ等が悲しむのは分かり切っていたのに……我ながら自己嫌悪するよ、本当」

 

そう言いながら自分に呆れる八幡。

そんな八幡にそれまで話を聞きいっていた沙希は少しだけ温かい言葉をかけた。

 

「あんた、妙に大人っぽいね。本当に同い年なのか疑わしいよ」

 

そう言われ八幡はそうかと軽く聞き返した。

別に自分が年相応じゃないことは分かり切っているので気にしてはいないのだが。

 

「お前が知ってるかは知らないが、俺も一応はバイトで働いてる身だ。だから如何に働くと言うことが重要なのか、給料が如何に大切なのかは良く分かってるつもりだ」

「バイト先の人と酒を飲みに来るくらいだし?」

「まぁね。あんな感じだが、普段は………普段もあんな感じか。でもやる時はやる奴だし、尊敬できる所もあるよ」

 

そう軽く話し、少しだけ気を解す八幡。沙希も彼の冗談に付き合ってくれたので、少しばかり気が安らいだ。

そして八幡は少しばかり真面目な顔をする。

 

「奉仕部としては失敗することは分かってたけど、俺個人としては寧ろお前たちの願いを叶えたくなったんだ」

 

その言葉を告げると共に、八幡は沙希を見つめる。

急に見つめられ沙希は身体が委縮してしまった。その前の言葉もあってか、妙に緊張してしまう。

 

「お前が頑張ってることは分かる。家族の負担にならないようにするためにこうして働いていることを俺は素直に凄いと感心するよ。だけどな、弟の言い分もわかるんだよ。家族にもしものことがあったらと思うといてもたってもいられないって気持ちは特に。だからバイトを辞めて貰いたいって気持ちも分かる」

 

その言葉を沙希は聞き入る。まるで一字一句聞き逃さないように。

そして八幡はそこで言葉を切ると、沙希に向かって優しく微笑んだ。

 

「だからさ……お前等二人の願いが同時に叶えられる答えを俺は示そうと思う。明日の早朝5時、通り沿いのワックに来てくれないか」

「う、うん……わかった」

 

その言葉とそれ以上の笑みに沙希は何とも言えない顔になったが、とりあえず頷いた。八幡が示す答えと言うのが純粋に気になったからだ。

それを見届けた八幡はグラスに残っていたマティーニを飲み干すと席を立ちあがった。

 

「んじゃ俺はそろそろ帰る。バイト、頑張れよな」

 

そう沙希に告げて八幡は店から出て行った。

彼女はその背中が見えなくなるまで見続けていた。

 

 

 

 翌日の早朝、八幡は私服に大きめなトランクを持ちながら昨日沙希に告げた通りに通り沿いのワクドナルドに来ていた。

コーヒーを片手にゆっくりしている所で声をかけられる八幡。それは勿論待ち人の声である。

 

「来たよ」

 

声の方に顔を向けると、そこには少しばかり大人っぽい服を着た沙希が立っていた。どうやらバイトから直に此方に向かってきたようで、年齢を疑われないようにするためにも服装にも気を付けているようだ。

その大人っぽい沙希に少しだけ八幡は見入ってしまったが、すぐに気を取り直し彼女に話しかける。

 

「あぁ、おはよう」

「ん」

 

まずは挨拶をする八幡。しかし、沙希はそれよりも八幡の答えを速く聞きたいのか急かすように頷く。

その様子に苦笑しつつ八幡は席から立ち上がった。

 

「ここだと目立つからまずは出るか」

 

そう言って八幡はワクドナルドから出る。その後ろを付いていく沙希。

店を出ると八幡はある方向に向かって歩き始める。沙希はそれが気になって八幡に話しかけた。

 

「どこに向かってるの?」

「ん、あぁ、近くにある公園だ。あそこなら人に聞かれるようなこともないし見られるような事もないだろ」

 

そう答える八幡に沙希は少しばかり警戒してしまう。

男女二人っきりでその発言とくれば恋仲でもない限りは確かに警戒してしまうだろう。

その気配を感じ取ったのか、八幡は尚更苦笑してしまう。

別にそんな意味で言ったのではなく、そのままの意味で言ったと言うのに。

そう思いつつ二人は歩いていき、目的地の公園に着いた。

こんな時間ということもあってか誰も人はいない。しかも公園の規模が小さいこともあってかラジオ体操をしようとする老人たちも来ないだろう。

誰もいないことを確認した八幡は近くにあったベンチに座り、沙希にも同じように座るように勧める。

警戒心を抱いている沙希は当然八幡から少し離れた距離を保ちながら席に着いた。

 

「それで、あんたの答えって?」

 

急かす沙希に八幡はそう急かすなと言いながら話しかけた。

 

「二人の願いはどちらも大切だ。でも、両方を実現するには難しい。だってそうだろ。お前は大学に行くための金を稼ぐためにバイトをしなくちゃいけないからこうして朝帰りになってしまうわけだし、お前を心配してる弟はその朝帰りが心配だからやめてほしいと言う。どちらかを解決しても必ずどちらかが叶わない。これはそういう話なんだから。でもな……そもそもの前提を解決すれば問題ないんだよ」

「前提?」

 

八幡につられてそう聞き返す沙希に八幡はニヤリと笑った。

 

「そうだ。事の発端が金が必要ってことなら、金さえあればもうバイトをする必要はなくなる。違うか?」

「それはそうだけど、そんなお金なんてないからバイトしてるんだけど」

 

何を言っているんだこいつは。

そんな視線を向ける沙希に八幡はしてやったりといった顔をしながらトランクを沙希の前に差し出した。

 

「だからさ………これをお前にやる」

 

そして八幡がトランクを開くと、そこには敷き詰められた万札が詰め込まれていた。

その光景にそれまで警戒をしていた沙希の目が丸くなる。

 

「な、え……?」

 

誰だっていきなりこんなものを見させられたら驚愕するだろう。

それは当然のことであり、彼女の反応は決して間違いではない。

そんな沙希に八幡は証明するように話しかける。

 

「中に入ってるのは一万円が千枚、つまり計一千万円ある。これだけあれば大学に行くくらいの費用は賄えるだろ。あぁ、勿論本物だ」

 

そう言いながら沙希に札束を一つ取って渡す八幡。

急にそんな物を渡されて沙希は慌てそうになるが、念の為一応確認すると確かにそれはちゃんとしたお札だった。流石に偽札かどうかまでは話からないが、確かにそれは彼女が普段使っているお札とまったく同じものだった。

それを確認し終えた沙希は震えそうになる手で何とか八幡に札束を返す。

そんな彼女に八幡ははっきりと告げた。

 

「これはお前のものだから、これで大学に行けばいい。ほら、金の問題は解決した。だからもう働く必要もない。これで弟の願いも叶えられるだろ。すべての問題はこれで解決というわけだ」

 

だが、その言葉を素直に聞き入れられるわけがない。

当然のように沙希は八幡に喰いついた。

 

「急にこんなお金を渡されても、受け取るわけには! それにこんなお金、一体どこで!」

 

喰いついた沙希に八幡は宥めるように手を翳しながら答える。

 

「これは俺の貯金だ。俺には必要がないからな。だからお前にあげるんだよ」

 

そう言われた所で当然沙希は納得できない。

 

「あんたにそうまでしてもら理由がない」

 

彼女の言い分はもっともだ。確かに八幡にそうまでしてもらう理由が沙希にはないのだから。それどころか昨日まで存在すら知らなかった相手である。そんな相手のことを信用できるわけもなく、この金に裏があるんじゃないかと疑ってしまう。

その心を手に取るように分かる八幡はそれもそうだと笑いながらも話し始めた。

 

「お前のことを調べたって言っただろ。放課後になって学生らしく寄り道することもなく真っ先に妹を迎えにいって、しかもその後は家事炊事をして家の為に頑張って、それでバイトまでの時間を使って勉強して働いてるんだ。一生懸命なお前を見てたら俺はお前のことを応援したくなった。それじゃもらう理由にはならないか?」

「っ~~~~~~~~!?」

 

八幡のその言葉に顔を真っ赤にする沙希。

見られていたことは勿論恥ずかしいのだが、それ以上に八幡の優しい笑顔に胸が高鳴ってしまった。

ドキドキしてしまうことに驚きつつ、それでも彼女は受け入れない。

 

「だ、だとしてもおかしいでしょ! ただ応援したいってだけでこんなお金出すなんて! あんた、お金持ちなの?」

「いや、全然。寧ろ暮らすのに必死な所まであるくらいカツカツかな」

「だったら何で! どうしてこんな馬鹿げた真似をするのよ!」

 

先程やられた所為もあってか怒りだす沙希。

そんな沙希に八幡は落ち着けと言うが彼女は収まるわけがない。

目の前に急に降ってわいた幸運が本物なのかどうかわからないのだ。信じられるわけがない。一体どこに一千万をポンっと人にあげる奴がいるのだろうか。そんな事を出来る人種は金持ちくらいであり、過ぎた娯楽化だと思われるかもしれない。

だが、彼女は美人ではあるがそれだけでしかない。将来有望なスポーツ選手でもなければ絶世の美女としてアイドルや女優をしているわけでもない。

ただのどこにでもいる普通の女子だ。

そんな女に何故こんな風に大金を出せるのか、彼女はその正気を疑った。

そんな沙希に対し、八幡は昔を懐かしむように寂しく後悔を思い出しながら語りだす。

 

「何でって言われてもな。そうだな………お前は俺に少しだけ似てると、そう思ったからかな」

「似てる? 私とあんたが?」

「あぁ、といってもボッチだとかそういう部分じゃないぞ」

「茶化さないで!」

「悪かったって。そうだな……少し昔話をしようか」

 

そう言った八幡は少しだけ苦しそうに顔をゆがめた。

 

「昔、ある所に父子家庭があった。どこにでもいる普通の家庭だと思う。父親に息子に娘の計3人家族だ。母親は娘を産んだ際に体調を崩してなくなったらしい。だから子供たちにとって父親こそがすべてだった。父親は男手一つながらも一生懸命子供達を育てていたよ。健やかに和やかに、子供に寂しい思いをさせないように、一生懸命働きつつ子供達を見守っていた。幸せな家庭だった。母親はいないが、それでも十分に幸せだった。だが、息子が小学校に上がって少ししてそれは起こった。その時小学校では親の仕事について子供達で自慢するのが流行りだった。学校側もそれを授業に取り入れて色々な事を教えていた。息子は父親の事が大好きで、当然父親の仕事姿を見たいといったけど、何故か父親はその事だけは教えてくれなかったし見せてくれなかった。それが我慢できなくて、息子は父親を驚かせようとして仕事に行く父親の車のトランクに忍び込んだんだ。父親が仕事を始めたら出ようと思って。

そして車が止まったわけだが少しばかり息子は寝入ってしまっていた。だから目が覚めるのに少し時間がかかり、トランクから出るのが遅れたんだ。それが致命的だった。トランクから出て父親の姿を見た息子は喜んで父親に駆けよった。その姿を見た父親の顔は凍りついたよ。何でいるんだって。そして次の瞬間、父親は息子に覆いかぶさるように飛び込み、その後は一切動かなくなった。息子が分かったのは、父親に安らかな笑顔と、そして背中からあふれ出る血。父親は死んだ。何が起こったのか具体的なことは分からない。だが、父親は息子をかばって死んだんだ。その事実だけは確かだった。それだけははっきりとしていて、それを受け入れた息子の精神は限界だった。当然だろ。何せ大好きな父親を殺したのは自分のようなものなんだから。でも壊れるわけにはいかなかったんだ。何せ自分が壊れたらどうやって妹を助ければいいのか分からなくなるんだから。息子は妹のためだけに生きることを決意し、父親の同僚に助けて貰いながら何とか今も生きている」

 

そこで話を切ると、それまで聞き入っていた沙希は当然八幡に問いかける。

 

「それはあんたの………」

「別に俺とは言っていない。だけど似たような境遇ではある。ウチは両親がいないしな」

 

それだけ答えると八幡はまるで自虐のような笑みを浮かべる。

 

「まぁさ、それで息子は色々と父親の同僚の仕事を手伝って行くことになるんだよ。その時に渡されるお小遣いを必死に貯金して、少しでも妹に楽をさせるために頑張ったんだ。だが、同僚はそれは勿論として息子の方も心配してくれた。だから小遣いを本来の額よりも下げ、下げた分浮いた金を息子の将来の為の貯金にしたんだ。息子からしたら正直迷惑だったけどな」

「迷惑だった?」

 

何故心配して用意した貯金が迷惑なのか沙希にはわからなかった。

その答えを八幡は言う。

 

「息子は同僚の仕事を手伝いながら決めてたんだ。将来自分はこの同僚や父親と同じ仕事に就こうと。そのために息子は最短距離を駆けていく。だから貯めた貯金は一切触れられることなく残ったまま。このまま行けば使われることは一生ない」

 

断言する八幡はそれまでしていた苦しそうな切なそうな顔を切り替え、尊いものを見る朗らかな笑顔を沙希に向けた。

 

「だからずっと使われもしない金を持っているより、今それを必要としている一生懸命で家族思いな女の子に使ってもらいたいと、そう思ったんだ。だからこれはお前が使ってくれ。もう道を決めてしまって不要な俺なんかより、これから先を悩めるお前にこそ、俺は使って欲しいんだ」

 

その言葉と笑顔に沙希は飲みこまれた。

きっと八幡は沙希が尊く美しいと言うだろう。だが、彼女はこの時の八幡こそ尊いと思ったのだ。同時に深く悲しくて今すぐにでも壊れてしまいそうな印象すら抱いた。

だから彼女はそんな八幡の本当の願いを聞いて、ゆっくりと頷いた。

 

「…………わかった。このお金、確かに私が受け取らせてもらう。あんたのその気持ち、確かに伝わったよ。だから私はもうバイトはしない。これで大志の願いも叶えられるでしょ」

 

彼女の少しだけ泣きそうな顔を見つつ、八幡は軽く頷いた。

 

「まぁ、これで頑張れよ。それと一応、予備校にはスカラシップっていうのがあるらしくてな、成績優秀者には予備校側から塾の費用を負担してくれるらしい。上手く使えばお前の両親も楽になるかもしれないな」

 

せっかくなのでそう伝えると、彼女は目から涙をこぼしつつ答える。

 

「まったく……あんたには何から何まで世話になって……どれだけお人良しなんだい」

「俺はさ……一生懸命な奴が大好きなんだよ。特にお前はそれこそ本当に頑張ってる。だから……俺はお前が好きなんだ」

「!?」

 

八幡の言葉に沙希の顔は真っ赤になった。

普通こう言われれば誰だってそうなるだろう。傍から見たら告白にしか見えない。

だが、ここで敢えて言おう。八幡が大好きなのは『一生懸命な奴』であると。

そこに男女の差などない。しかし、このような場で言えば、当然誤解してもおかしくないわけで…………。

沙希は顔を真っ赤にしたまま黙ってしまう。

その赤は耳まで染まり切り、彼女の顔から蒸気を噴出させる。

 

「いや、その、いきなり何言って………」

 

言葉がおかしくなる沙希。八幡の顔を正面から見れなくなっていた。

それに八幡自身目が腐っていることを除けば実は結構格好良かったりする。目がすべてを台無しにしてしまっているわけなのだが、見慣れてくるとそれも一つの味に思えてくる。彼の個性としては十分に全体を引き上げることもある。

つまり……そう思ってしまった沙希には今の八幡の顔が格好良く見えてしまい正面から見れないのだ。

そんな沙希の心情など知らず、八幡はベンチから立ち上がるとトランクを閉めて沙希に返しながら話しかける。

 

「このまま家まで送らせてもらう。この時間とはいえこの大金を持ってるのは危ないからな」

「え、いや、いきなり家に行くなんてまだ早い……」

「何が早いんだ?」

「な、何でもない!」

 

誤解をしたまま沙希は八幡の隣に並びながら歩き出し、八幡も一緒に歩いていく。

そしてその道中ずっと沙希の頭の中は八幡のことで一杯になり、碌に他のことも考えられなかった。

結局家まで送ってもらった沙希はその後八幡に何も言葉をかけられずに八幡は帰ってしまう。

その事を内心残念に思うも、胸の中にある確かな思いを彼女は自覚し幸せな気持ちを感じていた。

あの時、確かに八幡の言葉で誤解したままなのかもしれない。

だが、八幡の優しそうな笑顔と後悔に満ちた悲しそうな笑みを見て、彼と言う人間に触れて、沙希は確かにその気持ちが芽生えた。

 

『恋心』というものを。

 

 

 

 あれから二日が経ち、少しだけ微妙な雰囲気が漂う奉仕部。

依頼が失敗したことにより落ち込んでいる雪乃と結衣がその原因である。しかし、再びリベンジをするかどうかを二人で話し合うあたり、その闘志はまだ消えていないらしい。

ちなみに八幡はいつも通りに勉強をしている。彼は既に事が終わっていることを知っているが、それを二人に言うのがややこしい事になると思いやめている。

そんないつもと少しだけ違う奉仕部の扉が急遽ノックされた。

突然の来訪に驚く結衣。雪乃も少しだけ驚いたがすぐにそれに応じる。

 

「どうぞ」

 

その声とともに開かれた扉。

その先にいたのは青身がかった長髪を一つにまとめた凛々しい女子だった。

それは彼女達が知っている人物であり、そして雪乃と結衣の二人が落ち込んでいる原因でもある。

彼女は驚いている結衣に向かって話しかけてきた。

 

「ねぇ、由比ヶ浜……部長って誰?」

 

急に話しかけられた結衣は更に驚き肩をビクッと震わせると、雪乃に手を指しながら答えた。

 

「ゆきのんが部長だよ」

 

雪乃が部長だと知った彼女………川崎 沙希は雪乃の方まで歩くと持っていたものを彼女に手渡しながら言う。

 

「私、もうバイトやめたから。それとこれ、入部届けね」

「え、え?」

 

急な展開に追いつけない雪乃彼女なりに話を整理しようと頭を回転させる。

その所為で周りに目を向ける余裕がないのか、沙希のその後の行動み頭が追いつけない。

沙希は雪乃に入部届けを出した後、八幡の近くまで来た。

そんな沙希に八幡は特に気にすることなく反応する。

 

「まさかこんな部活に入部しようとする変わり者が由比ヶ浜以外にいるとは思わなかった」

 

そんな言葉を漏らす八幡に沙希は笑顔で答えた。

 

「あんたは私の恩人だ。だからあんたの為に頑張ろうと思って入部したの。それにあんたと一緒にいたいから………」

 

後半はまったく聞こえない。

しかし、沙希は確かにそう言った。きっと八幡には聞こえていないと思っているのだろう。

それをしっかりと聞いた八幡は内心呆れる。

 

(まったく、俺といても面白くないだろうに)

 

 

 

 こうして奉仕部にまた、新しい部員が増えた。

彼女の名前は川崎 沙希。可愛いより格好良いという言葉が似合うが、それでも可愛い一生懸命な女子である。

 

 




基本俺ガイルのキャラって皆可愛いから嫌いなキャラがいないんですよね~。
サキサキ可愛い………。





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