俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn

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滅茶苦茶遅くなってしまって申し訳ありません。
そして毎回恒例スランプですのでご容赦を。


第40話 俺は彼女に贈る物を決める。

 陽乃との邂逅も衝撃的と言えばそうだが、八幡にとってそれ以上に衝撃的と言えたのはその後の雪乃の拗ねつつも甘えるような様子と、更にそれを見て大変ご機嫌斜めになった沙希であろう。

二人の様子は普段からは考えられないくらい珍しく、それでいてドキドキしたりハラハラしたりと様々だ。

そんな心の動きに八幡は内心楽しさを感じつつも疲れていた。

これが年相応だというのなら、同年代の男はどれだけ精神的にタフネスなのだろうか。

彼にとってここまで振り回されるということが今までなかったため、慣れない状況に常々心の疲労を感じる。これならば寧ろ、一人で戦場に投げ出された方がマシではないかとすら内心思ったりした。彼にとってそちらの方が余程楽なのだ。何せすることは決まっていて自分が何をすれば良いのか分かり切っている。自分がどうすれば良いのか分かり切っているのだから、その行動を行う際に心労は一切ない。それが彼にとって『当たり前』なのだ。

だが、この状況に於いてはその『当たり前』が一切適用されない。

だから彼にとってこの状況は新鮮でありつつも疲れる。慣れないことをするということは、それだけ心身ともに負担をかけるのである。

そういうわけで日頃からそんな環境に振り回されているであろう男性に向かって八幡は敬意を抱きつつ、合流した沙希達と共に再び結衣の誕生日プレゼントを探そうと考える。既に雪乃は決めており、沙希も何かしら考えがあるらしい。小町は小町で何やら考えているようだ。つまり未だに決まっていないのは八幡だけである。

まぁ、彼の場合は仕方ないところがあった。何せこれが初めて家族以外へのプレゼントになる。小町相手の場合、八幡は常に小町のことを考えてプレゼントを贈った。

欲しがりそうなものは勿論欲しいと呟いた物を常々記憶し、それを誕生日に小町に贈っていたのだ。

このシスコン、内容だけで言えば妹限定のストーカー並みに危ないが、それも偏に最愛の妹の為。八幡にとってそれが当たり前であった。

なので小町の殆んどを知り尽くしているからこそ、そんな芸当ができるわけだが他人で最近知り合ったばかりの結衣に関してはそうはいかない。

小町しか比較対象がいないが、流石にすべての感性が小町と同じではない。だからどのような物が喜ばれるのか、八幡には未だに考え付かないのであった。

故に考え込む八幡。

そんな八幡だが、この場で少しばかり違和感を感じる音が聞こえたことで考えるのを中断した。

 

「何だ、この音………犬の鳴き声か?」

 

このショッピングモールでは似つかわしくない音に反応した八幡。その鳴き声は次第と大きくなってきていることから近付いてきていることが伺える。

この場に本来あり得ないはずの音に周りにいた客からも動揺が伝わってきており、その正体は次第に姿を現した。

 

「い、犬!?」

 

それは小さな犬であった。品種からしてダックスフント。

その犬を見て怯えを見せる雪乃。彼女はどうやら犬が苦手のようだ。

そんな彼女を嘲笑うかのようにその犬は八幡達が居る所目掛けて突っ走ってきた。

 

「ひっ!?」

 

犬が近付くにつれて雪乃が更に怯え八幡の身体に身を寄せる。

そんな雪乃が八幡には更に珍しく見え、同時に可愛らしくも見えた。

だが、そのままでは彼女に悪いと思い八幡は雪乃を護るように少しだけ身体を前に出す。

 

「雪ノ下、こっちにいろ」

「比企谷君………」

 

そんな八幡の心遣いに気付いてなのか、雪乃は頬を染めつつ八幡の服を指で軽くつまむ。今の彼女には八幡が自分を守ってくれるヒーローのように映っているのだろう。

その光景を見て再び機嫌が悪くなりそうになる沙希。小町は小町でこの状況がどう転ぶのかが気になり楽しそうに見ていた。

そんな各自の考えなど無視するかのように犬は八幡の方へと飛びつく。

それを八幡は怪我をさせないようにしながら受け止める。

 

「よっと………飼い主はどうしたんだ、お前?」

 

答えるわけがないことは分かっているが、そう問いかける八幡。

彼の心情はその言葉とはまったく違う事を考えている。何故なら八幡は『動物に好かれない』からだ。

彼は常に血を浴び続けてきた。その所為なのか、彼は動物にまったく好かれず、寧ろ恐れられて逃げられるのだ。

だからこうして八幡に好意を向ける犬が珍しく、何故こうも好かれているのか八幡にはわからない。

とりあえず犬を観察すると、その首輪にリードを繋ぐ金具が付いているのを見つけた。

 

「放し飼いかもしくは……お前、勝手に抜け出してきたな」

 

軽く推測を建ててそう犬に問いかけると、犬は嬉しそうに鳴いた。

その様子から何故だかは分からないが好かれていることがより伺えて、八幡は犬を床に置いた。そのまま逃げ出したら厄介なのだが、どうもそんな気配はなく犬は寧ろ八幡に向かって腹を向けながら寝そべり始めた。所謂服従のポーズである。

それを見て更に分からなくなる八幡。何故こうもこの犬に好かれるのかまったくわからない。過去に何かあったのかと考え始めた所で、その答えはやってきた。

 

「ごめんなさい! ウチのサブレがご迷惑を!」

 

大きな若い女性の声。

その声の方向を皆が向くと、そこには私服姿の結衣がいた。

 

「えぇ~、ヒッキーにゆきのん!? それにサキサキに小町ちゃんまで!?」

 

結衣は愛犬が迷惑をかけたのが奉仕部の皆だと驚くと共に、何故皆がこの場にいるのか気になった。

 

「どうしてみんなここにいるの?」

「そ、それは……」

「えっと………」

 

そう聞かれ、八幡達は困ってしまう。

何せ結衣の誕生日プレゼントを買いに来たと言うわけにはいかないのだ。

故に返答に困る雪乃と沙希。

それが何なのかまでは分からないが、結衣には少し寂しく見えた。まるで自分だけ取り残されたような、そのような気持ちにさせられたのだ。

その感情が表情に出ていたのか、八幡達は表情を曇らせる結衣にどう答えれば良いのか考え始める。

勿論素直に言うわけにはいかないのだから、それ以外の回答を用意しなければならない。

その答えを最初に口にしたのは雪乃だった。

 

「わ、私はたまたま来たくなっただけよ!」

(まったく説明になっていないぞ、雪ノ下。それに顔の強張り加減があからさま過ぎて嘘だって丸わかりだ)

 

雪乃に続くように答えたのは沙希である。

 

「わ、私だってこういうお店に行くことくらいある」

(お前の嘘も分かりやすいぞ、川崎。お前はこう言う所よりももっと安い服屋とかにいく方だろうが。眉間の皺が増えてるぞ)

 

そして最後に八幡達になるのだが、そこで答えようとしたのは小町であった。

彼女はこの状況にわくわくしているようで、修羅場だ修羅場と楽しんでいる。そんな小町から出る回答が当然良いものなわけがなく、元気よく答えようとした小町の口を八幡は塞いだ。

 

「小町、余計な事を言って場を混乱させないように」

「ん~」

 

八幡に優しく叱られ少しだけむくれる小町。

そんな小町に優しい目を向けつつ八幡が結衣に向かって答えた。

 

「俺は小町と一緒に買い物に来ただけだ。雪ノ下と川崎に会ったのはたまたまだよ。寧ろ俺だって驚いてるくらいだ」

 

そう答えると、やっと納得したのか表情を明るくする結衣。

 

「そうなんだ~、そんな偶然って本当にあるんだね」

 

ホッとした様子でそう答える結衣に皆がホッとした。

そして結衣とも少し話すことになるだが、その話題は彼女の飼い犬であるサブレについてであった。

 

「それで……この犬なんだが、どうしてここまで懐かれてるのか分からないんだが?」

 

八幡の困惑した様子に結衣は優しい笑みを浮かべつつ答えてくれた。

 

「サブレはヒッキーがあの時助けてくれたことを覚えてるんだよね。ね、サブレ」

 

結衣の言葉に同意するかのように鳴くサブレ。

それを聞いてやっと思い出した。確かに八幡は結衣の飼い犬を助けたことがあると。

それを思い出しながら八幡はサブレを撫でてやる。

 

「別にそこまで大仰なことでもないのにな。義理がたいよ、お前も、お前のご主人様もな」

 

撫でられたのが気持ち良いのか嬉しそうに鳴くサブレ。

そんなサブレを見つつ結衣は八幡に優しい笑みを向ける。

 

「私とサブレにはとても凄い出来事だったんだもん。忘れるわけがないよ」

 

それは彼女が恋をした瞬間でもある。忘れるわけがない。

と、そんなことを思い出し頬を桜色に染める結衣。彼女の顔はとても綺麗であり、少しだけ八幡は見入ってしまう。

それを見て妙に不機嫌になる雪乃。そして沙希は八幡と結衣との間に何があったのかを雪乃から聞き始めていた。

 

 

 

 こうして最後には結衣も合流して皆でららぽーとを周ることになった八幡。

内緒にすべき人物と行動を共にすることになってしまった為にこれ以上は無理と判断し、誕生日プレゼント探しは断念せざる得なかった。

だが、八幡は結衣とサブレを見て、彼女に贈るものを決めた。

 

(そうだ、由比ヶ浜にはアレを贈ろうか。たぶん喜んでくれるはずだ)

 

こうしてこの日、一応皆結衣に贈るプレゼントを決めた。

 


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