俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn

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まだまだ合流出来ない八幡です。


第45話 俺の昼食は○○、妹はカレー

 彼女達が『それ』を見つけたのは必然でもあったのかもしれない。

いや、それは誰がどう見たって明らかであり、気付かない方がおかしいのだ。

特に過去に於いて、『同じ境遇』に遭った事がある人間なら尚のこと気付いた。

 

「あの、あの子、もしかして…………」

 

それに気付いたのは最初は小町。

彼女はそれに遭っているであろう少女に直ぐに気付いた。

そして当然一人が気付けば周りも気付く。

 

「どこに行ってもこういうものってあるものね」

 

雪乃が少し悲しそうに目を細めつつそう言い、結衣もそのことに同情を禁じ得ない。

沙希は沙希でそんなことが許せる性分ではなく苛立ったが、当人達の問題に部外者が口を出すべきではないと判断し耐えた。

しかし、そんな小町達と違い葉山達は……というよりも葉山はそれを見逃せなかったのか、そんな彼女に優しく微笑みながら話しかけた。

 

「チェックポイント見つかった?」

「いいえ」

 

周りの女子達から明らかに孤立している彼女にそう話しかけた葉山に、その少女は軽く首を横に振る。

 

「そっか…………それじゃみんなで探そう。名前は?」

 

その問いかけに少女は少し悩んだ後に小さく答える。

 

「鶴見 留美」

「俺は葉山 隼人、よろしくね。あっちの方とかありそうじゃないか? 一緒に探そう」

 

そう言って少女にそっと肩に手を添えて葉山は班のグループの方に少女……鶴見 留美を連れていく。

それは傍から見たら好青年が一人寂しそうにしている女の子に救いの手を差し伸べている光景に見えるだろう。

だが、それは…………。

 

「確かに彼の行動は善意なのだろうけど………それは悪手ね」

 

雪乃はそう断言する。

その言葉に小町と結衣と沙希は同意した。

彼は確かに善意でそうしたのだろう。けれども、それで問題が解決するわけではない。寧ろより悪化させかねない手を自ら出しているのだから、ある意味余計に性質が悪い。

それを気付けない葉山に、小町はぼそりと呟いた。

 

「見た目は格好良いけど、その中身は寧ろ駄目ですね、あの人。お兄ちゃんだったら、そんな『温い』ことは絶対にしないのに」

 

その言葉を聞いて周りの3人は同時に苦笑した。

 

 

 少しばかり楽しい気分に水を挿されたような気分になったが、それでも行事は続いていく。

今度は昼食作りであり、キャンプ場の釜戸を用いてのカレー作り。

家で作るのと違い、木や薪を燃やして作るだけに如何にもキャンプっぽさを感じさせる。それ故に小学生達は皆テンション高めにはしゃいでいた。

とはいえ手本もなしにいきなりやられては火事の危険性もある。だからまずは静が周りに見えるように火をつけて見せた。

 

「ざっとこんなところだな」

 

慣れた手付きで手際よく釜戸に火を付けた静は、立ち上がると共に小町達に少しばかり自慢げに胸を張る。

その際にTシャツ越しとはいえ大きな胸がゆさりと揺れたのを雪乃は見逃さなかった。

 

「随分と慣れているんですね」

 

雪乃の若干恨めしそうな視線に苦笑しつつ沙希が代わりにそう言うと、静は自信を持って答えた。

 

「ふ、これでも大学時代ではよくサークルでバーベキューをしたものさ。私が火を付けている間にカップル達がイチャコライチャコラと…………べ、別に悲しくなんかないもん…………」

 

途中から悲しそうな顔になり涙目になる静。

そんな静を見て地雷を踏んだと思った沙希は慌てつつも面倒だと思いながら彼女を慰める。

 

「せ、先生! もう昔の事なんですから、気にしないで行きましょう。別にこれからだって何かありますよ」

「う、うん、そうだな………今回だって比企谷が来てくれたら、アイツと一緒に火を起こしてアイツと一緒にお米とか研いだりして、その時に互いの手が触れちゃって、そしたらアイツを意識しちゃって咄嗟に手を離しちゃって、でもそれはアイツも同じで顔を赤くして手照れてて………えへへへへへ」

「あ? 何言ってんの、この馬鹿教師?」

「ちょ、沙希、少し落ち着いて! 先生も!」

 

静の妄想にキレる沙希、そしてそんな彼女を止める結衣。

雪乃はそんな二人を見て苦笑を洩らし、小町は少しだけ引いていたりする。

 

(これはまた随分な修羅場になりそうな予感………でも、お兄ちゃんにはこれぐらいの方が丁度いいかも)

 

そう思い直しながらとりあえず暴走中の静と沙希を止める為に動いた。

このやりとりを彼女達以外の大勢の小学生が見ているのである。はっきり言って教育に悪い。ただ、傍から見たら急に妄想しだした教師とキレ出した高校生にしか見えないので内容までは分からないようだった。

なので二人を止めている結衣と小町に変わり、雪乃が小学生に指示を出す。

 

「とりあえず、男子は先程先生が見せたように釜戸に火をつけて。女子は食材を取りに行って下さい」

 

「「「「「はーーーーーーーい!」」」」」

 

わけのわからない状態よりもはっきりとした指示に皆が頷き小学生達は動き始めた。

そして皆がカレーを作り始めると、小町達も同じくカレーを作り始めた。

結衣がジャガイモの皮をピーラ―で向き、雪乃が人参を丁度良いサイズに切り分けていく。

その手際を見て玉ねぎの皮を剥いていた小町は感嘆の声を上げた。

 

「うわぁ、雪乃さん、手際が良いですね!」

 

褒められた事が気恥ずかしかったのか、雪乃は頬を赤くしつつそっぽを向く。

 

「別に、この程度は普通のことよ」

「その普通が出来ない私っていったい…………」

 

その言葉に『普通が出来ない』と言われたような気持ちになる結衣。そんな結衣に雪乃は慌てて励ます。

そんな様子に薄く笑みを浮かべつつ、沙希が鶏肉を見事な手捌きで切り分ける。

 

「それにしても、こう言う時にカレーっていうのはやっぱりお決まりなのかもね。難易度も低いから小学生にも優しいし。そう言えばこういう時、家のカレーだと作る人によって個性って出るよね」

 

家事が得意ということもあってか、いつもより若干饒舌な沙希。

そんな沙希の話題に小町達も喜んで応じる。

 

「そうですね。ちなみに家だと小町が作るんですけど、隠し味にインスタントコーヒーとか入れますよ。お兄ちゃん、いつも美味しいって言ってくれますから、頑張りがいがあります」

 

その言葉に脳内メモに『八幡はカレーの隠し味にインスタントコーヒー』という言葉が記録された4人。ちゃっかり離れたところで一人罰ゲームのように米を研がされている静の耳にもそれは入った。

そんな有益な情報を手に入れ内心喜びつつも沙希は気恥ずかしそうに自分の家の場合で答える。

 

「そうなんだ。家だと林檎にはちみつ、あと生姜かな。妹が小さいから甘口が好きで」

「それはそれで美味しそうですね! 良ければレシピ、教えてくれませんか」

「う、家ので良ければ…………」

 

小町の反応に顔を赤らめつつ答える沙希。その気持ちは将来の義妹にものを教える気持ちであった。

それが羨ましかったのか、今度は結衣が発表する。

 

「う、ウチだとママが作るんだけど、この間変な葉っぱが入っててさー。ママってば結構ぼーっとしてるところあるからなぁ」

「それってもしかしてローリエじゃないかしら?」

 

結衣の話に雪乃が乗り、その葉っぱの正体を言い当てる。

それを聞いた結衣は当然分からずに首をかしげるが、家事が得意な沙希はその事に感心していた。

 

「あ、ちなみに私のカレーは隠し味にケチャップとソース、それにニンニクよ」

 

捕捉で入れた雪乃のカレーの隠し味を聞いて更に盛り上がるカレー談義。

それらを交えつつ作られたカレーはとても美味しく、彼女達の心と体を満足させた。

 

 

 

 そんな美味しい昼食を食べている小町達と違い、八幡はというと………。

 

「この季節で唯一ありがたいのは食べられる動植物が多いことだな」

 

そう言いながら蔓植物になっている実のようなものを口に入れる。

 

「そう言うけどよぉ~、もっとまともで文化的な飯の方が誰だっていいだろ」

 

文句を言いつつ地面に生えていたツワブキを引き抜き口に放り込んでまずそうな顔をするレイス7。そんな相棒に仕方ないなぁといった顔をする八幡。

この総合野戦演習において、食糧の支給というものは一切ない。それこそ休憩時間中に各自で現地調達するしかないのだ。

幸いと言うべきなのか、この季節の山には食べられる動植物が多くあり、そのお陰でそこまで探すのに苦労はしない。

ただし、休憩時間中でも気が抜けないこともあってか、二人とも未だに休まらない。

 

「それにしても課長も酷な事を言うよなぁ。まさか休憩時間中に『仮想襲撃者』を秘密裏に任命して俺等を襲わせるんだから」

「実戦じゃ休憩なんてないからな。いつでも戦えるようにしておけってお達しだ」

 

癖々した様子のレイス7にそう答える八幡だが、その意見には内心同意する。

実はこの休憩中に課長による秘密裏のミッションが言い渡される場合があり、それを受けた人間は他のメンバーに襲撃をかけるようになっているのだ。

とはいえそれに死亡による減棒はない。ただし、その際に手に入れた食糧の一切を没収されるのである。

ある意味減棒以上に厳しい。この環境下で満足に食糧を補給できるわけがなく、当然空腹による集中力の低下などの問題が出てくる。だからこそ、少しでも食べられるものは貴重なのだ。

それを取られるということはある意味減棒以上の地獄である。金はなくても直ぐには死なないが、食べ物がなくては死ぬのが早まる。

だからこそ、休憩と称されたこの時間でも気は抜けない。

誰が襲撃者になるのかわからない以上、下手に徒党も組めないので単独行動になり、孤独に一人で時間をやり過ごす。

ある意味本当に実戦に近いのである。

ちなみに八幡が相棒と一緒に行動出来ているのは、レイス7が襲撃者に任命されていないと察しているからであり、レイス7は八幡が食糧を探している姿をみて任命されていないと判断したのだ。

結果二人でこうして何かしら摘まんでいる最中であった。

 

「あぁ~、せめて火を通すくらいしたいぜ」

 

さっきから食べているものがすべて生の状態なので青臭かったり臭いがあったりなど癖が多く、正直美味しくないのでせめての文句を垂れるレイス7。

確かに火を使って焼いたり茹でたりすればこれらの食物も多少マシになるだろう。

だが、それは当然…………。

 

「すれば襲撃者の恰好の餌食になる。自分の居場所を教えているようなものだからな。我慢するしかない」

「うへぇ~、わかっちゃいるがやっぱりまじぃ」

 

火を起こすと必然的に煙が上がる。

それは敵から見れば居場所を教えているようなものである。そんな間抜けなことをすればどうなるか、課長に知られたらどう言われるのか分かったものではない。

だから我慢して八幡は木になっている木の実を摘まんでいた。

 

「木イチゴに山ブドウがあるのはありがたい」

「あ、ずりぃ」

 

そんな風に気楽に喋りつつ八幡達は気の抜けない昼食を過ごすのであった。

 

(小町達はキャンプだから、今事はカレーでも食べているのだろうか? 帰ったらお願いして作ってもらうか)

 

そう思いつつ、八幡は食糧の補給を速やかに終えた。


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