俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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殆んど話が進みません。そしてリアルが忙しすぎる………。


第48話 俺は少女とこうして出会う

 火が爆ぜる音と共に、辺りに香ばしい匂いが漂う。

その発生源は石が敷き詰められた河原、そこで燃え上がっている焚火である。

その焚火には木の棒が突き刺さった川魚が翳してあり、焚火の熱気に焼かれて焼き魚特有の食欲を誘う香りを発生させていた。

それらすべて行った八幡は炎に枝をくべつつ魚の焼ける様子を楽しそうに眺めている。

そんな彼の様子を見て興味深そうに見る小町達。

あの後、水着姿を褒められて舞い上がっている結衣、雪乃、沙希、静と違い八幡の姿を見て普通に驚いた葉山達に八幡はなんてことなく言い含めて特に何も言わせないようにした。別に脅したりしたわけではない。小町達に話した内容とまったく同じ内容を話し、そして服装に関してはただの趣味で通した。善人である葉山は多少変な格好をしていたとしても、それを馬鹿にしたりするようなことはしない。

だから八幡の格好が多少物騒でも、その事に関して何か言うと言うことはないだろう。

それが分かっているからこそ、八幡は速やかにそう説明したのだ。

そしてそれを聞き入れた葉山達は八幡達から離れ先程と同じように遊び始めた。

いつもの彼なら八幡も交えて遊ぼうというだろうが、多少真面目な八幡の言葉によってそれはなくなった。

久々に食べられる『マシな食べ物』である。絶対に邪魔されたくないのだ。

その殺気に近い熱意の籠った言葉に葉山は少し怯えつつも頷いた。

だから彼等は八幡の事を気にせず遊び始める。

 と、いうわけで八幡は現在魚が早く焼けるかどうか、待ち遠しいといった様子を醸し出していた。

先程も言ったが、水着を褒められて舞い上がっていた4人はそんな彼に目を向けるも内心はそれどころではなく、褒められた事がリプレイ再生されている。

だから八幡が木の棒とそこらにあった倒れて枯れ果てていた木から剥がした皮の部分を用いて手早く原始的に火を起こしていた所など見ていない。

唯一見ていた小町は八幡がそういったアウトドア技術が凄いということを知っていたので特に驚いてはいないようだ。

傍から見たら不自然としか言いようがない状況だが、片や浮かれ上がって見えていない4人と、やっと食べられるまともな食事に浮かれる八幡ではこの変な状況の空気を察することは出来なかった。

普段なら真っ先に気付くはずの八幡が気付かない辺り、彼もまた追いつめられていたのだろう。

だが、それも仕方ないことなのだ。何せ目の前にあるのは、やっと食べられる『文明的な食べ物』なのだから。

太古より人類という種が誕生したときより、人は様々な工夫を凝らしてきた。石器の誕生や土器の発明などが良い例だろう。

そこで考えられるのは、人とそうでない種の圧倒的な違いの原点とは何かということだ。物を切るというのが最初だと思われるが、道具さえあればそれは猿……ここではチンパンジーと言っておこう。つまりチンパンジーでも出来る。

つまり切るという行為そのものは人間だけのものではない。切り分けるという行動自体、蟻ですらやっていることなのだから。

では何が最初なのか? 物を切り分けたりするのではないのなら、石器を作ることだろうか? いや、確かにそれは人間が成し得た偉業ではあるが、それはあくまでも牙や刃を持たぬ人間だからこそだ。自然界ではそれらをもって獲物を切り裂く生物も少なくないだからこそ、人間だけが可能なことは、もっとも原初の工夫とは、すなわち………火を使うことである。

自然界に発生することも稀にあるが、それらはすべて天災にしかならず、生物は本能で火に恐怖を抱き逃げる。それをあろうことか克服し逆に利用するようになったのは人間だけだ。つまり、もっとも最初の文化的なものは炎と言っても良い。

そんなことを少しだけ考えつつ(疲れきっている所為でテンションが若干可笑しい)八幡は人類最古の文化の恩恵に心よりの感謝をしながらひたすら待つ。

そして焼けたと思われる魚の刺さった木の棒を一つ、火傷しないように掴むと手元に手繰り寄せた。

別に何かしらで味を付けたわけでもないただ焼いただけの川魚。だが、その身から滴る肉汁はこれまで見たどのごちそうに勝るとも劣らない程に美味そうだ。

そんな魚に八幡はただ静かに言葉を口にする。

 

「いただきます」

 

普通の言葉だが、その言葉には本来の意味が深々と感じさせられた。

八幡の囁くような声にそれまで浮かれ上がっていた4人もやっと意識を此方に戻す。

ただ焼かれただけのはずの魚なのに、その香りは彼女達の空腹に十分な威力を見せており、そのためなのか無意識に生唾を飲み込んでしまう。

緊張したような雰囲気を発する4人にまったく気付かず、八幡は魚を冷ましつつやっと一口食べた。

 

「!?」

 

口の中に広がる魚の肉汁とほっこりとした身、そしてパリッとした皮の食感が彼の脳に響き渡る。

分かってはいてもこの驚きは、感動は抑えきれない。

久々に食べた食べ物は、確かに文明的なものだった。

その感謝をこめて、八幡は幸せそうに、その幸せを実感し噛み締めるように顔が緩んでいることなど気にせずに言う。

 

「………美味い……」

 

ただそれだけしか出ない。

その言葉しか思いつかない。

ただ焼いただけの魚でも、それまで食べてきた木の実や虫などに比べればはるかに御馳走だ。

本当に美味い。それだけが八幡を幸せの極地に誘う。

と、そんな八幡を見た4人は、

 

「「「「…………」」」」

 

言葉が出ない程に赤面して八幡を見つめてしまっていた。

何故かと問われれば、それはきっとギャップの所為なのだろう。

普段の八幡と言えば、歳不相応なまでに落ち着き払っていて目が濁り切っている。

だが、今の八幡は目こそ多少濁っているがそれでも輝き、そしてその表情は普段からが想像できないくらい素直に感情を表している。まさに幸せを感じているほぐれた笑顔。

その幸せそうな笑顔は、女性から見たら所謂『母性を刺激される』代物だった。

普段とのギャップが凄まじいその笑顔は、彼を歳以上に幼く見せた。

そんな彼を見て4人が思ったことはほぼ同じである。

 

(うわぁ!? ヒッキーってあんな顔も出来るんだ! 凄くうれしそう)

 

結衣は八幡の意外な顔を見て喜ぶと共に見入ってしまう。出来れば自分の手料理でそんな笑顔を浮かべさえられたらな~と彼女は思う。

 

(普段とのギャップが凄まじいわね、彼……その、少し頭を撫でてあげたくなるかも………)

 

雪乃は今の八幡の頭を撫でてしまいたくなる衝動に駆られつつも何とか堪える。今の八幡の顔は彼女にとって子猫が嬉しそうに食事をしている時の顔に近いようだ。

 

(比企谷、可愛い!? ど、どうしよう、いつも格好良いのに今は凄く可愛く見える………お、お世話とかしてあげたい)

 

世話好きな沙希はもっと八幡のそんな顔が見たくて世話を焼きたくなる。格好良いに可愛いが追加されたら最早最強としか言いようがない。彼女は胸の前で手をぎゅっと握り合わせていた。

 

(うぉ、とんでもないな、このギャップは。何だ、比企谷の奴、そんな可愛い面をしてからに…………ぎゅってしたくなってしまうだろうが)

 

静は幼子のように喜ぶ八幡を抱きしめたくて仕方ない。歳が一番上なだけに、その母性本能も一番強いようだ。自分を抱くかのように両腕で抱きしめ八幡を見つめる瞳が潤む。

 

そんなことを考えてしまい赤面しつつうずうずしてしまう4人。

そんな4人を見て小町はニヤニヤと悪い笑みを浮かべる。

 

「流石はお兄ちゃん、さっそく皆を煽ってる煽ってる」

「ん、何か言ったか?」

「なんでも~」

 

ホクホク顔の八幡に少しばかり気にされたが、小町はなんてことはないと流す。

そしてそんな幼い彼の笑顔はすべての魚を食べ終わるまで続いた。

といってもかかった時間はわずか15分。火起こしと合わせても20分と少ししか経っていない。元の位置に戻るまでにかかる時間を考えれば残り時間は約15分程。それだけあれば食休みも十分に取れる。

幸せに満ちた時間を過ごし、感慨に耽りつつ余韻に浸る八幡。

そんな八幡を見て小町も満足そうに笑う。

そんな兄妹を見て和む4人。

そんな集団の中、昨日多少打ち解けた少女がやってきた。

 

「あ、あの………」

「あ、留美ちゃん!」

 

それは今回出会った小学校の中でいじめに遭っている鶴見 留美だ。

また結衣達と相談しようと思ってきたのだが、そこで昨日いなかった男を見て少しばかり驚いてしまう。

 

「誰!?」

 

きっと今まで彼女が見てきた男の中で初めてのタイプなのだろう。まぁ、目が濁り切った人間など早々いないものだが。

そんな彼女を見て小町が苦笑しつつ答える。

 

「えっとね、この目が濁り切ってるのが私のお兄ちゃん」

「えっと……比企谷 八幡です」

 

小町の紹介を受けて八幡は名乗る。先程まで浮かべていた無垢な笑顔はなりを潜め、今は普段と変わらずに目が濁り切っていた。

何故自己紹介しなければならないのかと思ったが、振られたからにはするのが普通。なので相手が誰か知らないとはいえ名乗った。

その名乗りと小町の言葉を聞いて留美も八幡に軽く自己紹介をした。

それを聞いてとりあえず頷く八幡。せいぜい小町の知り合いになった程度の相手なのだからその程度だろう。

そんな八幡の捕捉をするように小町は留美に言う。

 

「お兄ちゃんはこの合宿には参加してなくて、アルバイトの実地研修で向こうの山にある施設からこっちに来たんだよ。何でもご飯が美味しくないからとかで」

 

その説明を聞いてずっと見なかった理由に納得する留美。

当然これから相談することに交えて良いのか迷う。

そんな彼女の心情を察してか、小町が心強い笑みを彼女に向けた。

 

「安心して! 何せお兄ちゃんは今まで何回もいじめを受けてきたけど、それらをすべて弾き飛ばしてきたんだから! お兄ちゃんに任せれば絶対に大丈夫だよ」

 

信頼100パーセントのその言葉を聞いて、留美は八幡にも相談に乗ってもらうことにした。

 

「あの…………」

 

 

 こうして彼女の問題解決に八幡も加わることになった………のだが、八幡からしたらただあったかいご飯を食べに来ただけなのに厄介事に巻き込まれたとしか言いようがない。

しかし、まぁ………ここまで妹や友人に信頼されている以上、乗らざる得ないかと、そう思いながら心細そうにしている彼女の話に耳を傾けた。

 



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