俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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イチャつきが足りない!


第55話 俺は迷子の幼女を助ける

 まるで台風のような人だと八幡は思い返す。

助けた知り合いは自分の事などお構いなしに動き、聞きたいことを何の遠慮もなく根掘り葉掘り聞き出そうとし、断っても聞く耳持たずに無理やり言うことを聞かせる。

まさに横暴としか言いようがないが、何故だか嫌ではない。キライではない。

そう思えるのは偏に彼女の人徳だろうか?

年上の女性にこのように関わったのは初めてのことであり、それが何だか新鮮に感じる。

八幡はそう思いながらも仕事に戻ることにした。

まぁ、先程のような輩や特殊な観客を狙う手相が八幡の対象であり、そのような相手はそうそういないので焦る必要もないのだが。

だから再びある程度気配を薄くしてゆっくりと歩こうとしたのだが、それは突如として身体に感じた重みと拘束によって止められた。

それは足から感じられ、八幡は何事かと思いながらそちらへと目を向ける。

その先にいたのは幼い女の子。見た限りはまだ小学校にも上がっていない年齢であり、その瞳は不安そうに八幡を見つめていた。

その子供と八幡に一切の関わりはない。だが、彼は彼女の事を知っていた。

目の前の少女はとある女の子の妹だ。その子とはこの所付き合いがあるし、何より八幡が珍しく本気で助けたいと思った女の子でもある。

そんなある意味『特別』な女の子の身内なのだ。流石に無碍に扱うなんてことは考えられない。

だから八幡は足にしがみ付いている幼女の頭に軽く手を似せて優しくポンポンとしつつ、彼女と目線を合わせる為にしゃがみこんだ。

 

「どうしたんだ、ん?」

 

濁り切った瞳に珍しく優しい光を灯しながらゆっくりとそう問いかけると、幼子は涙に濡れる瞳で八幡を見つめながら答えた。

 

「さーちゃん、いなくなっちゃった………」

 

その言葉を聞いて八幡は大体のわけを悟った。

大方この幼女が彼女の元から離れて迷子になってしまったのだろう。こういった催し事では良くあることだ。

だから当然のようにその対処も決まっている。この祭りの主催者側の本拠に連れて行き、迷子のお知らせをを流してもらうだけ。そうすれば終わり………なのだが、何故だかそうできそうにない。

何せそうする前に幼女が先手を打ってきたからだ。

 

「いっしょにさーちゃん、さがして」

 

八幡の手をぎゅっと握りながら泣きそうな顔でそう言う幼女。

そんな顔をされては一緒に探さざる得ない。

八幡は見知っている人間には甘いなぁと思いながらも仕方ないと割り切ることにした。

どちらにしろ彼女も困っているだろう。一緒に探した方が早く見つかるはずだ。

 

「わかった。一緒に探そうか」

「うん!」

 

八幡の言葉に彼女は弾けんばかりの笑顔になりながら力強く頷く。

こうして八幡は幼女と共に彼女の身内を探すことになった。

 

 

 離れないように幼女の手を繋ぎながら八幡は一緒に歩く。

傍から見たら幼女を何処かへと連れて行く不審者にしか見えないだろう。誰がどのように見ても、そうとしか見えない。即通報物なのは考えるまでもなく当たり前だろう。

その事に内心冷や冷やしている八幡は気配を薄くして何とか周りにそう見られないようにしていた。そうすることで八幡への認識は低下し不審者どころかいるかどうかすら分からなくなる。

とはいえそれは見た限りであり、手を直に繋いでいる幼女にはそうならない。

彼女は八幡という仲間を得て、先程まで泣きそうだったのが嘘だったかのように上機嫌である。

だからなのか、実に楽しそうに八幡に話しかけてきた。

 

「ねぇ、おにいちゃんのおなまえは?」

 

舌足らずで可愛らしい質問に対し八幡は答えようと思ったのだが、先に彼女の名を聞くことにした。

別に彼女の名前は知っているのだが、普通にその名前を呼べば何故知っているのかと不振がられるだろう。だから先に聞くことにした。そうすれば違和感はないはずだ。

 

「人の名前を聞く時は自分の方から先に名乗るものだぞ?」

「?」

「あ~……君の名前は何ていうのかな?」

 

少し言葉が難しかったのか、幼女は不思議そうな目で見つめてきた。

その様子に八幡はもう少し柔らかく聞き返すと、幼女はやっと理解したようで嬉しそうに名乗り上げた。

 

「かわさきけーかです!!」

「そうか、けーかちゃんっていうのか」

 

名乗り上げた名前をその通りに口にすると、幼女改め『けーか』は違うといった様子で首をぶんぶんと横に振った。

 

「ち~が~う~! けーちゃん!」

「けーちゃん?」

「そう、けーちゃん!」

 

そう言いながら胸を張るけーか。どうやら彼女は普段からそう名乗っているらしい。

その微笑ましい様子に八幡は顔を綻ばせる。

ここまで純粋な子も珍しい。だからこそ、可愛く思う。

だから彼女に八幡は名乗り返す。難しくないようにしながら。

 

「んじゃ次はお兄ちゃんの名前だな。比企谷 八幡って言うんだ。はちまんでいい」

「はちまん?………じゃあ『はーちゃん』だ!」

 

八幡の名を聞いてそう決めたけーか。

その名前に妙なこそばゆさを八幡は感じた。今まで生きてきた中でそのような呼ばれ方をしたのは初めてだからだ。

幼いからこそのあだ名に可愛らしさを感じる。だから八幡はそれを素直に受け止めることにした。

川崎 京華……それが彼女の名前だ。そして彼女の名字から誰の妹など分かることだろう。だから八幡は京華と同じ青に近い黒色の髪をした『彼女』を探し始めた。

 そうしてしばらく京華の手を繋ぎながら探すこと約15分、予想以上に早く探し人が見つかった。寧ろ向こうが見つけたと言うべきだろうか。

 

「あ、けーちゃん!!」

 

彼女は八幡に手を繋がれた京華を見て驚きと安堵の表情を見せながらトレードマークであるポニーテールを振りまわしつつ二人へと駆け寄る。

そんな彼女を見て京華もまた顔を輝かせた。

 

「さーちゃんみつけた~!」

 

そして八幡の手から離れ、とてとてと走り彼女へと抱きついた。

 

「もう~、心配したんだからね。駄目だよ、勝手に離れちゃ」

「ごめんなさい~」

 

母親が子供を叱るようにメ、と京華を叱る彼女。そんな彼女に抱きしめられ、京華は気持ち良さそうにしていた。

そして京華は彼女に楽しそうに話しかける。

 

「はーちゃんといっしょにいたからだいじょうぶだったよ」

「はーちゃん?」

 

その言葉を聞き、京華が指した先を見て彼女の顔は固まった。

何せここで予想外の人物にあったからだ。

 

「よぉ、さーちゃん。可愛い呼び名だな」

「ひ、比企谷………」

 

想い人である八幡にこの場で出会い、彼女……川崎 沙希は顔を紅くしてしまう。

その赤さは周りの赤い灯りよりも更に紅く、見ていて誰もが心配するほど紅かった。

出会えたことは嬉しい。だが、そこで自分が幼い妹にどう呼ばれているのかを知られ、そうしてその名を彼から呼ばれたことに彼女は恥ずかしさを感じたのだ。

 

「な、何で比企谷がここに…………」

 

真っ赤な顔のままそう問いかける沙希に、八幡は普通に返す。

 

「俺はバイト。そっちは妹さんと一緒に祭りか?」

「う、うん。この子一人じゃ行けないから」

 

八幡の言葉にそう返しながら沙希はそうなんだと返した。

そして大切に京華の手を繋ぎながら沙希は八幡にお礼を言う。

 

「その、京華が迷惑をかけたみたいで、その………ありがとう」

「別にいいよ。素直で可愛い子じゃないか。迷惑なんてなかったくらいだ」

 

そんな単純なやり取り。だが、彼女にはそれでも嬉しかった。

それと共に後悔もし始める。

せっかく八幡と会えると知っていたのなら、もっとオシャレをして彼と会いたかったと、そう思った。

そんな彼女に八幡は気付いてか気付かないのか、やはりと言うべきか爆弾を落とす。

 

「またお前の可愛いところが見れたな。なぁ、さーちゃん」

「さ、さーちゃんはやめて…………」

 

八幡にさーちゃんと呼ばれ、恥ずかしさから顔を真っ赤にした俯く沙希。

その胸中は可愛いと言われたことがリプレイされ、嬉しくて仕方なかった。

 

 

 

「じゃぁね~、はーちゃんーーーーーー!!」

「おう、けーちゃんも迷子になってさーちゃんを心配させるなよ」

 

探し人も見つかったことで八幡は再び本来の職務に戻ることにした。

その背にそう声をかける京華に少し笑いつつ八幡は去る。

その背を沙希と京華の二人は見えなくなるまで見送った。

そして二人は祭りを楽しむべく歩き出そうとするのだが………。

 

「さーちゃん、おかおがまっかだよ?」

「な、何でもないよ、けーちゃん!?」

 

妹にそう言われ、沙希は慌てた様子で取りつくろう。

そんな姉の様子など気にしないのか、京華は更に彼女を煽った。

 

「さーちゃん、けーちゃんまたはーちゃんにあいたいなぁ」

「そ、そうなんだ。でもひ……はーちゃんは忙しいからねぇ」

「そうなんだ~。あーぁ、はーちゃんがおにいちゃんだったらいいのに。ね、さーちゃん。さーちゃんもそうおもうよね?」

「ひ、比企谷がお兄ちゃん!? それってつまり………(つまり比企谷と結婚すれば京華の兄にもなるということだから、だから……………ぁぅぁぅ………でも、そうなったら…………いいなぁ………)」

 

 その言葉に沙希の心中は混沌としていたが、その混沌はとても幸せな混沌であった。

 






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