俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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あまりイチャイチャしてないです。


第56話 俺はやはりトラブルに見舞われる

 沙希と京華の二人と別れ、八幡は再び仕事に戻る。

彼がしているのは警備という面目だが、その実やっていることは不穏分子の無力化といった方が正しいだろう。トラブルに見舞われている所があればその原因を周りに知られぬように排除、無力化して祭りの運行をスムーズに進める。それが今回戦闘屋である彼への本当の依頼だ。流石に危険な相手に警備の人間が相手では分が悪いこともある上に、周りの人間を不安にさせる可能性がある。それはこの祭りを運営する側としては宜しくない。だからこそ、速やかに対象を無力化出来る戦力が必要だったのだ。

その依頼に基づき、八幡は花火が上がる少し前までひたすらに有料エリアの付近をうろついた。そして何か問題があればその原因を取り除く。後のことはその付近にいる警備の人間に任せ事態を処理させ、そして時間内をずっとこのまま過ごすつもりだ。

確かにこれは休みのような仕事だと思う。

それまでの仕事が命の危険に晒されるものばかりだから、それに比べればこの程度は本当にお遊びレベルでしかない。

この仕事は上司からの優しさなのだろうと尽く付く思った。

ここ最近が自業自得とはいえ忙しかったのは事実なので、その温情に甘えさせてもらおうと改めて思う八幡。

そんなわけで周りを改めて見回せば、賑わう人々が視界一杯に移る。

皆笑顔だ。

 

『笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔……………』

 

笑顔に溢れているこの空間。きっとそれは幸せなのだろう。

家族と、友人と、恋人と、親しい人達が皆この祭りを楽しんでいる。とても楽しそうであり、今この一瞬のような時間を満喫している。

それは結構なことだ。だが、その中で自分はどう映るのだろう?

濁り切った目で周りを見渡し、笑顔一つ浮かべづ黙々と仕事をこなしていく。

楽しいとは思わない。だからなのか………いや、きっと明らかに浮いているだろう。

この場にいる自分が異物だと認識できる。この場にいることが似つかわしくない。相応しくない。それは真っ白な紙の上に垂らした一滴の黒いインクのように、絶対に馴染むことがない。

その事に不快感が込み上げてくる。

本当にこんなところにいて良いのだろうかと、そう考えてしまう。

出来ればこの場から去りたいと思うくらいにはそう感じる。

仕事なのだからそんな事はしないが、一個人では寧ろ疎外感を感じてしまう。

そしてこうも思ってしまった。いや、思うと言うほどではない。ただ頭の片隅に過ぎっただけのことだが。

 

『羨ましい。俺もあんな風に何のしがらみもなく笑ってみたい』

 

それは自分への裏切りに他ならない。許されない者が考えて良い事では絶対にない。

そんなのは逃げだ。自分がした罪から目を背け、己の責務から逃げ出そうとしている。そんなことは今まで考えもしなかったのに、何故今そんな事を思ってしまったのだろうか。

そのジレンマに少しばかり頭に痛みが走った。

 

(何を考えているんだ、俺は。そんなもの、とっくの昔に捨てたってのに……)

 

その痛みに少しだけ呻きつつ八幡は歩いていく。

余計なことを考えてしまったと自己嫌悪をしながらも、仕事を続行しようと。

そんな時、少し前に聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「ちょ、その………」

「イヤだって言っているのが聞こえないのかしら?」

「しつこいのは嫌われるって知らないんですか?」

 

その声は八幡にとって聞き覚えがあり過ぎる声。

もう毎日聞いているんじゃないかと言うくらい聞いている慣れ親しんだその声に、八幡は内心呆れてしまった。

どうも今日という日は何かしらと縁があるらしい。

その所為なのか、先程まで頭を巡っていたジレンマはもう消えていた。

 

 

 

 小町、結衣、雪乃の3人は少しばかり不快に感じる出来事もあったが、それでも祭りを楽しんでいた。

ハシャぎにハシャぎ、買い食いをしながら会話に花を咲かせる。

よくある男がいればより充実するという話があるが、この3人はそんなことはないと思った。3人でも十分に楽しい。

小町は受験勉強の息抜きには最適だったし、雪乃はこれまで友人がいなかったことからこんな風に一緒になってハシャぐことが初めてであり、それが楽しくて仕方ないようだ。そして結衣はそんな二人と一緒に楽しんでいることが嬉しくてたまらない。

そんなふうに3人で楽しんでいたわけなのだが、やはりと言うべきかトラブルに見舞われやすいというべきかなのか、彼女達はとあることを全く持って忘れていた。

もう一度言おう。本人達はあまり意識していないようなので。

雪乃下 雪乃は美少女である。その美しさは万人が認めるものであり、美しい黒髪は大和撫子を彷彿とさせる。

由比ヶ浜 結衣もまた美少女だ。雪乃とは方向性が違い、低めの慎重に大きな胸をいう我儘ボディ。そしてあどけない顔が可愛らしさを強調する。

そんな二人が薄着でこの場にいるのだ。『悪い虫』が寄り付かない方がおかしい。

小町は小町で可愛らしく、まさに年相応の無邪気さが魅力的だ。

だが、小町はそれでも年相応。こういった行為をする輩の対象にはなり辛い。

つまり何が言いたいのかと言えば………………

 

「そう言わずにさぁ~~~」

「そうそう、この後やる花火、絶景のマル秘ポイントがあるからさ。一緒に見ようよ~~~」

 

ナンパされていた。

これだけ可愛く綺麗な女の子が二人もいれば、それはもうこの場に於いては恰好の獲物だろう。

成功するとは傍から見たらまったく見えないというのに、この手の輩は何故かはしらないが良くやるものである。飽きないし痛い目に遭わないのだろうかと気になりもする。

それが気にならないのが当人達であり、被害に遭っている小町達はそれまでの楽しい気持ちを台無しにされ不機嫌になりながら目の前にいる二人組の男を睨みつけていた。

相手の二人組は典型的と言うべきか、所謂軽薄そうな男共だ。思慮というものがまったく感じられず、その視線には常に自分達を性的にみるイヤらしいものが宿っている。

その視線に晒され、小町と雪乃は不愉快だと睨みつけ、結衣は不快感から両腕で自分の身体を抱きしめた。

このままついていかなければ良いだけなのだが、相手もそう簡単に逃がすつもりはないらしい。微妙に此方へと近づき、小町達の逃げ場を塞ぎにかかっている。

大声を上げれば誰かしら此方に目を向けて助けてくれるかもしれないが、それで相手が逆上してきたらどう動くか分からない。下手に刺激するのはまずいと判断する。

だからどうするべきか悩む雪乃達、大の男二人を無力化する術を彼女達は持たないのだから。

だからどうするかと彼女達は二人に警戒しながら考える。

そんな彼女達はまさか救いの手が差し伸べられると、彼女達にとってのヒーローが現れるとは思ってもみなかった。

その手は男達の…………背後からにゅっと現れた。

それまで一切何もなかったのに、そこから一瞬にして姿を現して。

 

「当祭りでは、このような脅迫的な勧誘などは禁止されています。至急やめてお引き取り下さい。出なければどうなるか………」

 

ガシッっと背後から首を掴まれた男二人は突如として襲った衝撃、そして耳元で囁くかのような警告に身体を震わせる。

彼等はきっと、その後驚きながら掴んできた腕を振り払いその主に牙を剥くはずだろう。だが、そうはならない。

何せ、その掴まれた首に尋常じゃない程の力が込められているのだから。

ギリギリと徐々に締めつけてくるその手はまさに万力。締めつけられている首は激痛を走らせ、男達を苦悶の表情にさせる。

それでも尚止まらないそれは下手をすれば首そのものが折れるかもしれない。

その恐怖が実感として湧いてきた彼等は顔を真っ青にしながら苦しむ。

そんな彼等にもう一度囁きが来た。

 

「どっちにする?このまま退くのなら、此方はそれ以上追いかけない。これでも懲りないのなら、その時は………その首の動脈静脈共に止めてぶっ倒れた後に係員にでも引き渡す。あんた等に選べるのはこの二つだけ。だから………どうする?」

 

それはきっと死神の囁きだろう。

従わなければどうなるのかが分からない。それが怖くて男達は必死になりながら手を退くと言い始める。

そしてそれを発言した後に手を離され、二人はまさに逃げるようにこの場から去って行った。

そして彼女達は助けてもらった相手を見ながら驚きと嬉しさを顕わにしながらその名を口にした。

 

「あ、お兄ちゃん!?」

「比企谷君だったのね、さっきの」

「ヒッキーいつの間にいたの!?」

 

その返しに対し、八幡は濁った瞳で呆れながら笑う。

 

「まったく……お前等はほとほと仕事を増やすな、この問題児ばかりめ」

 

こうして八幡は雪乃、結衣、小町の3人とも会うことに。

それを見ながら八幡は思った。

 

(本当につくづく縁があると言うべきか……)

 

どうやらまた、八幡は『青春』するらしい。








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