俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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陽乃さんとそれまで目立っていないサキサキが頑張ります


第61話 俺の花火大会は穏やかだ

 陽乃からの誘いに最初は断ろうとした。

別に彼女が苦手だとかそんな理由ではなく、単純に申し訳ないと思ったからだ。具体的には有料エリアのお金をすべて彼女が払うと言ってきたからであり、そんな世話になるわけにもいかないと思った。

だからといって自分達でお金を払えば良いだけなのだが、有料エリアの金額をこの人数で払えば高額となり、学生の手持ち金からでは払えるか微妙になる。八幡は余裕で払えるが、それをしてしまうと周りから気を遣われてしまうし、あるいは学生らしからぬ金銭感覚を疑われ不振に思われるかもしれない。目立つことが嫌いな彼はそれを避けなければならない。

だからどうしようかと悩んでいた一行であるが、それは思いがけない一言によって簡単に決まってしまった。

 

「はーちゃん、さーちゃん、けーか、ここではなびみたい!」

 

幼い声による無垢な要望。

それを聞き沙希は宥めようとしたのだが、先に陽乃によって止められた。

 

「こんな小さな子供がお願いしてるんだし、ここは大人として叶えてあげないとね。お姉さんからの夏の素敵な思い出をプレゼントしよう!」

 

こうして一同は陽乃と一緒に花火を見ることになった。

 

 

 

 夜空に向かって一筋の光が上っていく。

その際に遠くから『ひゅ~~~~~~~~』という音が聞こえてくるのはこのイベントならではだろう。そして光が一定以上の上空に上がると、『バァン!』という破裂音とともに夜空に大輪の華が咲く。

 

「「「「「「わぁっ………!!」」」」」」

 

夜空に上がる花火を見て、その壮大さに皆が感嘆の声を上げる。

確かに美しい花火だ。毎年小町と一緒に見に来ている八幡ではあるが、今回のはさらに綺麗に見えた。

 

「すごいっ!すご~~~~~~い!!」

 

花火を見て瞳を輝かせながらハシャぐ京華。その様子は感動を幼いながらに全身で表しており、見ている者の心をほっこりさせる。

そんな幼女の喜ぶ姿とは別に女性陣は八幡へと意識を向ける。

初めて見る意中の相手との花火というイベントに心を高ぶらせ、一緒に見上げる八幡の横顔に普段とはまた違った姿に胸をときめかせる。

言葉が出ないのか、花火と八幡に集中する結衣、雪乃、沙希……そして陽乃。

そんな彼女達の視線に気づかないのか、もしくはこのムードを読めていないのか、八幡は彼女達に目もくれず、花火を見上げていた。

 

(同じ爆発音でも全然違うからなぁ…………)

 

その綺麗な炎の華を見てそう思う八幡。

普段の仕事では爆薬による爆発も珍しくないので、同じ爆発音でもやはり違うなと素直に関心していた。

そう思いながら見上げている八幡だが、周りは既に次の段階へと動き出す。

 

「そ、そういえばどうしてゆきのん………雪ノ下さんのお姉さんがここに?」

 

結衣が少し気まずそうにしつつそう問いかける。

それに対し、答えの憶測が付く雪乃が答えようとしたが、それは問われた本人が先に答えた。

 

「陽乃でいいよ、ここには同じ雪ノ下が二人もいるからね」

「そ、それじゃぁ………陽乃さん……」

 

おずおずとした様子でそう言う結衣。そんな彼女に対し、陽乃は年上の余裕を持った茶目っ気を出しながら答える。

 

「堅いな~、何なら雪乃ちゃんみたいに『はるのん』でもOKだよ」

「そ、そんな、流石に年上の人にそれは出来ないですよ」

「あれ、そう? 何だったら比企谷くんは陽乃って呼び捨てにしていいんだよ。出来れば愛を込めて………キャ!」

 

その言葉に当然向けられた本人は反応する。

 

「いや、陽乃さんでいいじゃないですか。雪ノ下と区別するならそれで十分かと」

「ぶーぶー、比企谷くんのいけず~」

 

八幡にそう言われふくれる陽乃。

そんな陽乃にそろそろ我慢が出来なくなったのか、雪乃がしびれを切らして問いかける。

 

「姉さん、そろそろ本題に入った方が良いんじゃないかしら。大体の憶測は付くけど、姉さんから言いたそうだし、ここはちゃんと役割をしっかりとこなしてもらわないと困るわ」

「あ、ごめんごめん、雪乃ちゃん。だから怒らないで」

 

妹の顔を見て陽乃は笑いながらそう言うと、改めて皆に聞こえるように話し始める。

 

「私がここにいるのは父親の仕事の代理でね。それでここで主に挨拶回りをしていたわけ」

 

彼女の父親の仕事を知っている八幡や娘である雪乃は理解しているので驚きはしないが、そこまで詳しく知らない結衣や沙希、小町はそのことに驚きを見せている。

そんな3人が面白かったのか、今いる場所について陽乃は愉快そうに話す。

 

「私の父の仕事、こういう自治体系のイベントには強いの。だからこうして貴賓席にいるってわけ。普通じゃ入れない場所なんだよ、ここ」

 

その言葉に恐縮する結衣と沙希。二人ともその手のものとは一切無関係なので恐れ多いと萎縮してしまうようだ。小町は驚きはしているが、実感がわかないのか二人に比べれば落ち着いている。

その説明で何故陽乃がいるのかを理解した面々。

そのまま花火を見ているわけなのだが、女性陣はそれだけではないようだ。

陽乃は面白そうな顔で八幡をからかってきた。

 

「ところで………比企谷くんは随分と女の子を侍らせているようだけど、これはどういうことなのかなぁ?」

 

その言葉に八幡は苦笑しながら答える。

 

「別に侍らせてなんていませんよ、人聞きの悪い。ただ単に今日は友人と遭遇するのが多いだけです。俺だって驚いているんですから」

「ふ~ん、そうなんだ(本人は自覚なしか………)」

 

八幡の反応を見た後、陽乃は雪乃達に小さい声で八幡に聞こえないように話す。

 

「そ・れ・で………比企谷くんは今、誰と付き合ったりしてるのかなぁ?」

「「「!?」」」

 

その問いかけに彼女に恋焦がれる3人が体を震わせる。

そして急いで結衣が答えた。

 

「べ、別にヒッキーはまだ、誰とも付き合って……ない………」

 

言っていて少し悲しくなったのか、声が小さくなっていく。

そんな結衣に対し雪乃は軽く陽乃を挑発する。

 

「どういうつもりかしら、姉さん。随分と彼のことを気にしているようだけど?」

 

その言葉に陽乃は軽く流す。それは挑発に乗らないようにしたというよりも、その前の事実確認が取れて喜びを露わにしているようだ。

 

「そっか~、比企谷くんは今誰とも付き合っていないっと。うん、よし」

 

その言葉に警戒を露わにする雪乃達。いったい何がよしなのかと。

3人の警戒する顔を見て、陽乃は改めて八幡が置かれている状況を把握する。まぁ本人はまったく気づいていないのだが。

そして陽乃は3人に向かって爆弾を投じる。

 

「ん~、本当は雪乃ちゃんのことを応援すべきなんだけど………ごめんね、雪乃ちゃん。私………参戦することにしたから」

 

「「「はぁ!?」」」

 

その爆弾の爆発により過剰な反応をする3人。ちなみに八幡は京華を肩車しながら花火を見ていた。

 

「ちょっと姉さん、随分とおかしなことを言うのね。いくら冗談好きの姉さんでもそれはないと思うわよ?」

「な、ななな、なんで陽乃さんがヒッキーのこと!?」

「そうですよ、なんで………」

 

困惑する3人に、陽乃はにニッコリと笑いかける。

それはまるで悪戯好きな猫のような笑みだ。

 

「気になるんだ、私……彼のこと。私の『本当の姿』を見てくれるかもしれないから。今まで見たことなかったから、そんな人。だから……気になるの」

 

その言葉は3人をからかうにはあまりにも真実で、それ故にそれを聞いても3人は惑わされることはなかった。

そして新たな『恋敵』が出来たことに闘志を燃え上がらせる。

 

「わ、私……負けません!」

「姉さんに負けるつもりはないわよ」

 

結衣と雪乃の二人は陽乃に負けないと意思表示をする。

それを聞いて受けて立つと言わんばかりに陽乃は笑みを浮かべる。

しかし、沙希だけは少しだけ違うようだ。

 

「私は……あいつに幸せになって欲しいです」

 

その言葉に陽乃は興味深そうに反応する。

 

「へぇ……貴女は二人とはまた違う感じね」

 

そう言われ、沙希は顔を赤らめながら答えた。

 

「あいつは……自分の幸せなんて考えてない。自分がない。だから……あいつが少しでも幸せだって思えるように……そうなって欲しい。それを出来れば私がしてあげたいから、だから…………」

 

そこから先の言葉はない。だが、恋する女性ならその先の想いなど言わなくてもわかる。だからこそ、陽乃はより関心した。

自分が気になる男の子は本当に不思議で、そして魅力的なのだと。

だからこそ、彼女は仮面を外して笑う。

 

「そう………うん、わかった。でも、負けるつもりもないから。だからこれからは……競争だよ」

 

その言葉に頷き返す3人。

その顔には確かな決意が表れていた。

花火が空を彩る中、少女達は己の胸に恋を彩らせる。

 

 

 こうして花火も無事に終わり、皆そろって帰ることになった。

とはいえ帰るのは女性陣のに。陽乃の気遣いで皆車で送ってもらえることになった。

ただし、八幡はまだバイトにつき会場で分かれた。

だから八幡は知らない。自分がどのような状況に置かれているのかを。

そして…………。

 

(う~~~~~~ん、お兄ちゃんを巡る恋の戦いもさらにヒートアップ! そして小町はより楽しくて仕方ないよ。いったい誰がお兄ちゃんの心を射止めるのか………楽しみ)

 

小町はこの状況をさらに楽しんでいた。

こうして一夏の花火大会が終わり、恋の花火もまた一つ上がった。

 








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