俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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久しぶりにイチャつかせました。


第66話 俺は責務を全うさせるために引っ張り出す

 本人の許可を得たことで八幡、結衣、沙希の3人はゲートを潜って雪乃が暮らしている部屋へと向かう。

高級なマンションなだけに階層が多くエレベーターを乗り15階。そこから徒歩で直ぐそこにその部屋はあった。

『1507』それが雪乃の部屋の番号のようだ。事前に聞かされていた番号と間違いがないかを確認し、結衣が改めて呼び鈴を鳴らした。

人工的な機械音が鳴り少しすると、ゆっくりとながら扉が開いた。

 

「どうぞ、みんな」

 

そう声を掛けて扉から姿を覗かせたのは、いつもと少しばかり服装が違った雪乃だ。

肩口まで露出しているサマーセーターに足を覆うロングスカート。そして一つに髪を後ろで纏めている姿はいつもよりほんの少し年上のように見える。

促されて室内に入る3人。

きっと急いで着替えたのだろう。来客が来るのにだらしない格好など彼女は絶対に許さない。礼節を重んじる彼女ならではだと思う八幡。そういう高潔な部分は好ましく尊敬出来る。

だが………雪乃の顔色を見て八幡はその気持ちを否定する。

彼女がそのまま八幡達をリビングにあるソファーに座るよう促すのだが、そのテーブルに置いてあるノートPCと書類の数々。

もう呆れる他なかった。

だから雪乃が八幡達にお茶を入れようとする前に八幡は結衣達にも聞こえるように声を大きめにして言う。

 

「雪ノ下、茶はいい。それよりもだ………由比ヶ浜、川崎、二人でこいつを着替えさせろ。病人が来客の相手をするもんじゃない。見舞いに来てるこちらが気を遣われたんじゃ話にならんだろ」

 

そう言われそれに同意する結衣と沙希。二人とも同じように思っていたらしい。

 

「そ、そういうわけにはいかないわ。そ、それに………」

 

熱とは別で顔を赤くしながら八幡をチラチラと見る雪乃。

きっと寝間着姿を見られたくないのだろう。女性はそういう姿を見られるのは恥ずかしいらしい。

しかし、それを分かったところで止まるわけがない。

 

「ゆきのん、手伝ってあげる」

「恥ずかしがるのは分かるけど、アンタ病人でしょうが。私達の気持ちも考えな」

 

そう言うと共に雪乃をがっしりと確保する結衣と沙希。二人は雪乃に自室を聞きつつ某宇宙人の様に引きずっていく。

そしてリビングで八幡が待つこと約5分。

何やら満足気な結衣達と共に周知で顔を真っ赤にしている雪乃が出てきた。

 

「ま、待たせてしまったようね………」

 

雪乃が来ているのは水色のパジャマ。清涼感があり、彼女に見事に似合っていた。

 

「恥ずかしがるようなもんじゃないだろ。似合ってるじゃないか」

「~~~~~ッ!? あぅ……ず、ずるいわ、こんな時なのに………」

 

見た感想を言うと、雪乃が頭から湯気を出して俯いてしまう。

常日頃ならそれを羨ましい目で見る結衣と沙希だが、病人なのだしこういう時は良いだろうと多めに見るようだ。

 そんなわけで改めて着替えたところでお見舞いを再開する八幡達。

本来なら雪乃には寝ていてもらうべきなのだが、流石に彼女の寝室にまで押しかけるのはよろしくないため、場所は先程と同じリビングである。

特に八幡が入るのはいろいろな意味で駄目だろう。

 

「ごめんなさい、迷惑を掛けてしまって」

 

ソファ-に座る八幡達に雪乃は改めてお礼と謝罪をする。

 

「そんなことないよ。それよりごめんね、ゆきのんが大変なのに手伝えなくて」

「私もごめん。同じ奉仕部として申し訳ない」

「それを言ったら俺が一番駄目だろ。一切手伝ってないんだからな」

 

寧ろ自分達の方が悪いと謝る3人。まさにどっちもどっちだ。

そのままいけば双方とも謝り合う展開が予想出来る。

だから八幡は軽く咳払いをして場の雰囲気を変えることにした。

 

「まぁ、そういうことだ。見舞に来て互いに謝罪していたって切りがない。だからそれよりも堅実的な話をするぞ」

 

そう言い、八幡は雪乃に問いかける。

 

「お前が倒れるってことは、想定以上に仕事に負荷がかかったってことだろ。いったい何があったんだ? たかが高校の文化祭の準備にしては些か被害が見過ごせない」

 

その言葉に雪乃は何とも言えない気持ちになった。

八幡に自分のことを理解してもらっていることへの嬉しさ、文化祭実行委員の仕事が予想外に上手くいかずこうして倒れてしまった事への不甲斐なさなどが入り交じる。

そしていつもなら強気で答えるはずなのに、倒れたせいなのか八幡に甘えたくなってしまう。だから雪乃は正直に答えた。

 

「その、相模さんのことで…………」

 

 

 

 話を聞き終えると2人が同じ顔をしていた。

 

「さがみん酷い!! こっちの手伝いに良く来るから大丈夫ってみんな心配してるのに、そのときは『大丈夫、大丈夫! 順調だから』って言ってたのに」

「まさか自分でやると言っといて自分で放棄するなんて………最低だね、アイツ」

 

雪乃が倒れた理由が相模 南にあると知って怒る結衣と沙希。

何せ委員長自らが率先して仕事を放棄しているのだ。あり得ないことが起こり、そしてその尻ぬぐいが全て雪乃がすることになり……彼女の負担が大きくなってしまった。

確かに彼女は文化祭実行委員だ。そして奉仕部でもあり、その依頼を達成するために努力を惜しまない。

だが、その依頼も本人のやる気があってのものだ。

やる気もない人間の依頼を叶えるほど、奉仕部の人間は暇ではない。

だが、文化祭実行委員としては仕事をしなくてはならない。

その板挟みにあいながらも彼女はサボる相模に変わり指揮を取り、膨大な量の書類を一人で裁いていった。

その結果………パンクした。

元々皆でやる仕事なので本来ならこのようにならない。

だが、周りを纏めるべき委員長が率先して仕事をサボるということに他の実行委員の士気も下がってしまい、仕事の効率が下がり挙げ句は他の実行委員もサボるという事態になった。

その結果が全て雪乃へと集まったというわけだ。

一人で熟すのは大変なのに、彼女はそれでも頑張った。意地もあったが、それ以上に八幡達に迷惑がかからないようにしようとしたのだ。

結衣も沙希も文化祭の準備で頑張ってる。八幡はアルバイトと学業の両立に苦労してる。

なら、そんな忙しい友人の負担になってはいけないと考えるのは当然ではないか。

だからこそ、一人で何とかしようと思ったのだ。

そうしてこうなってしまったわけだが。

 

「そうか………まったく、頑固な奴だな、お前は」

 

話を聞き終えて怒る二人とは違い、八幡は少し呆れつつも、どこか優しげな苦笑を浮かべながら雪乃の頭を優しく撫でていた。

 

「ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」

 

頭を撫でられた雪乃は当然驚き顔を赤くするのだが、撫でられている感触が気持ちよいのか目を細めて身を任せてしまう。

そんな雪乃の様子を見ながら撫でる手を止めずに八幡は彼女に語りかける。

 

「もう少し俺達を頼ってくれ。皆奉仕部でお前の仲間なんだ。仲間が大変なら助けるのは当然のことなんだからな。まぁ、俺は役立たずだがね」

「そ、そんなこと………ないわ。比企谷君がいれば、きっと………」

 

そこから言葉はでな。ただ、雪乃にとって撫でてくれる感触が心地よくて顔が熱いのに嬉しい。

きっと今の雪乃の顔ははしたない顔になっているのだろう。いつものキリッとしたクールな彼女はその場におらず、ここにいるのは久しぶりに他人に甘える女の子だった。

多めに見るとはいえ、それでも羨ましいと雪乃と八幡を見つめる結衣と沙希。

なので少しでもそんな気持ちを和らげるべく、結衣は八幡に質問した。

 

「ねぇ、ヒッキー。もしだよ……もし、私が風邪とかひいて学校休んだら、その時はお見舞いに来てくれる?」

 

上目遣いに見つめてくる結衣。その顔は何かを期待している。

そんな瞳に見つめられ、その意味を理解しなくても八幡は当然のように答える。

 

「当たり前だろ。お前が休んだってちゃんと見舞うよ」

「そっか…………えへへへ」

 

答えに満足したらしく嬉しそうに笑う結衣。

 

「わ、私の時は、その…………」

 

そんな結衣が羨ましいのか、恥ずかしさもあって小さな声で同じ事を問う沙希。

沙希のそんな様子に八幡は呆れつつも優しさの籠もった苦笑を浮かべる。

 

「お前等はどれだけ人をロクデナシにしたいんだ。川崎でも同じだよ。友達が大変なことになってるんだ。助けてあげたいって思うのは当然だろ」

「…………そっか………」

 

友達という言葉に少しだけがっかりしつつも、八幡にとって友達というポジションがどれだけ重要なのか分かりつつある沙希は嬉しくて顔がニヤつきそうになるのを堪えた。

しかし、その顔は誰がどうみてもバレバレな乙女の顔だった。

 

「…………たらし………」

 

そんな二人の様子を見て八幡にそっとそう呟く雪乃。

その顔はジト目であり不機嫌そうであったが、嬉しそうな二人を見て仕方ないかと諦めた。

 

 

 

 さて、そんなデレデレな雰囲気であったわけだが、流石に気まずさを感じ八幡は話を元に戻す。

 

「とりあえず事情ははわかった。雪ノ下は三日ほど休め」

 

その結論に当然雪乃は不満を感じ抗議する。

 

「そういうわけにはいかないわ。明日には仕事をしないと追いつかないから」

 

勿論その言葉が通るわけがなく、結衣と沙希がその発言を潰す。

 

「駄目だよ、ゆきのん。ちゃんと治さないと」

「そうだよ。そう言って無理してこうなったんだから。大人しくしときな」

 

二人の言葉に言いよどむ雪乃。そんな雪乃に八幡が更に追撃を掛ける。

 

「どのみちその顔色だとまだ全然回復してないだろ。今行って無理しても直ぐに倒れるだけだ」

 

その言葉に観念するように脱力する雪乃。この3人にこう言われては抵抗出来ないとなんとなくわかってしまったからだ。

だから仕方なく、それでいて甘えさせてもらうことを申し訳なく思いながら雪乃は3人に言った。

 

「わかったわ。申し訳ないけど少しだけ休ませてもらいます」

 

その言葉に嬉しそうに頷く結衣と沙希。

そして八幡が雪乃を安心させるべく若干の怒りを含めながらこう言った。

 

「お前の仕事は俺が引き継ぐから安心しろ。ちゃんとその『責任』を果たしてもらうからな」

 

その言葉が誰に向けて言われたのか分からないが、雪乃は八幡のその言葉で肩に籠もっていた力が抜けるのを感じ、根拠もないのに安心した。

 

 八幡に任せれば絶対に大丈夫だと、何故か思ったから。

 

 

 

 翌日の放課後。

教室で友人とお喋りをしながら楽しそうに笑っている相模 南に八幡はズンズンと近づいた。

 

「おい」

「!?」

 

八幡の接近に気付かない相模は八幡に声を掛けられてやっと気づき、肩をビクッと震わせる。

 

「な、何よ………」

 

急に声を掛けられたことに警戒心を露わにする相模。

そんな相模に八幡は表情を一切変えずに問いかける。

 

「文化祭実行委員はいいのか? アンタ、実行委員長なんだろ」

 

その問いに相模はそのことかとつまらなさそうにしながら答えた。

 

「別に私が行かなくて『優秀な雪ノ下さん』がいるし。彼女に任せておけば大丈夫でしょ」

 

その答えを聞いて八幡はそうかと言う。

別に言葉の意味自体に間違いはない。

確かに彼女よりも雪乃の方が優秀だ。彼女に任せれば万事問題なしだろう。

だが………それとこの『責任』とはまったく関係がない。

 

「だが、それはお前が仕事をサボって良い理由とはまったく関係がない」

「ちょ、何、いきなり!? 引っ張らないで!」

 

八幡は何も言わずに相模の右手を掴み、強引に引っ張り歩き始めた。

その事に当然騒ぎ出す相模だが、そんな事など知ったことないと言わんばかりに八幡は無視する。

セクハラだの訴えてやるだの何だのと喚き立てる相模だが、八幡は気にすることもなく相模を強引に引きずる。

抵抗する相模は寧ろ別の意味で驚く。何せ自分をこうも易々と引きずるのだから。普通、高校生男子が女子をまるで物のように引きずるにしても、もっと大変な事になる。人間が気絶もしていないで抵抗するのだから、もっと困難なはずなのだ。

だというのに八幡にはそれがない。まるで車か何かに縄で繋がれて強引に引っ張られてるかのようになっているのだから。車は例え人間が抵抗しようとも動きに支障はない。その馬力を存分に振るい、矮小な存在など無視して前に進むだけだ。

だから相模は何の抵抗も一切無視されて引きずられていく。

当然周りからの視線が集まる。好奇心と奇妙なものを見た時の視線だ

そんな視線に晒されて相模は恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にする。

だが、それでも……いや、この男その程度では止まらない。

 

「さぁ、実行委員長としての責務を全うしてもらうぞ。なぁ、委員長」

 

そう言う八幡の瞳は残虐な光を宿し、顔は嘲り笑っていた。

 相模はその顔を見て絶句するしかなかった。

 








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