俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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久々の更新なので感覚が分からず………変だったら申し訳ない。


第74話 俺はこうして文化祭を終わらせる。

 首だけを掴んで人間一人を持ち上げているという状態は普通に考えれば不可能なはずである。しかし、それを実感している張本人である相模はそんな風に考えていられる余裕などなかった。彼女からしたら自分に降りかかった自業自得に八つ当たりして逆上したらあっという間にこの状態になっていたのだ。それまでの経緯など感じることなく、気がつけば自分は足元がなくなり首だけで何とか支えられた宙吊り状態。首を掴む手の握力に苦しさを感じうめき声が漏れ出すのを何とか自覚出来る程度なのが彼女の今の状態だ。突然の事に思考が追いつかず、彼女は自身に感じる浮遊感に恐怖しか抱けない。そんな状態からの八幡の言葉は確かに彼女に更なる恐怖を刻みつけた。

何故こんな目に自分が遭っているのだと彼女は瞬時に考える。自分はただ周りにチヤホヤされたいだけだった。気にかけてもらいたかったのだ。そしてちょっとした優越感を感じたかった。だというのに現実は無情で自分の思い通りには行かず、良いとこは全てサポートとして入ってもらった雪ノ下 雪乃に持ってかれた。最早自分のいる意味なぞ皆無であり気力なぞ湧かない。故にグダグダになりながらなんとなしに過ごしていた。途中で八幡によって強制的に仕事にかり出されたが、それでも良いことはなし。そして迎えた当日では緊張のあまりに滑って衆人観衆の前で大恥を掻いた。

この年齢の子共には耐えられない羞恥だ。故にこんな風にふて腐れても自分は悪くない。そう思うのは自分だけではないはずであると。だが、だからといってこの仕打ちは如何なものだろうか? 『その程度の事だというのに』彼女はこうして死の危機に瀕しているというのだから。

 

(な、何で…………)

 

そんな言葉が口から漏れ出しそうになるが、その言葉を口にする前に八幡が先を制する。

 

「今お前の命は俺の左手一つに握られている。抵抗するなら手を離す………それがどういう意味か分かるだろう?」

 

その言葉に八幡の本気度合いが窺える。それどころか一切躊躇していないことが分かってしまい彼女は更に困惑した。目の前にいる男は自分を殺すということに対し一切の恐怖を抱いていない。それどころかその目はまるでトイレに行ったら手を洗うというのが当たり前の行動であると言わんばかりに相模を殺そうとしているようであった。

故に彼女は取り乱し叫んだ。何で自分がこんな目に遭っているのだと。

 

「ふ、ふざけるんじゃないわとッ!! 何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ! そもそもアンタ、これでもし私を放せば本当に殺人になるの、分かってる? それにこんな脅しをしたって無駄よッ! どうせできっこなッいもの。それに私がアンタに脅されて殺されかけたって言えば、どうなるかッッッッッッ!?」

 

怒りのままに吐き出したその言葉は確かに八幡に届いている。それに言っていることもあながち間違いではない。だが、そんな言葉に八幡は揺るがない。その答えと言わんばかりに首を掴んでいた左手を放したのだ。

相模に襲いかかったのはソレこそ本当の浮遊感。自分の身体が重力によって落下する感覚に絶叫しかけた。

しかし、それは八幡が素早く再び彼女の首を掴んで持ち上げたことで止められる。

何とか助かったことに相模は放心しかけ、そんな相模に八幡は淡々と告げた。

 

「分かっていないのはお前だ。お前の生殺与奪権はこちらが握ってる。そしてお前の『戯れ言』を周りに吹聴しようとも、証拠もないのに信じられるはずないだろう。仮に信じたとしても『今の俺はここにはいない』記録が出てくる。その戯れ言は戯れ言で終わるだけだ」

 

その言葉の意味を半分しか理解出来ない相模。そんな彼女に八幡は止めを刺す。

 

「別にお前が死のうが生きようが関係ない。正直に言えば集計結果さえあればお前なぞいらないのだからな。偏にこうしてるのは最低限の仕事を何とかしたことへの慈悲だ」

 

八幡の静かな殺気を受けて今度こそ言葉を失う相模。そんな彼女に八幡はもう聞く気はないと言わんばかりに彼女を引き上げた。

力なく項垂れる彼女。やっと危機を脱したということに安堵出来ればどれだけ幸せだっただろうかと。彼女の危機はまったく脱していない。ある意味死んだ方がマシかも知れないだろう。何せ未だに静かすぎる殺気を向けられているのだから。

八幡は項垂れる彼女の手を掴むと無理矢理起き上がらせた。そして彼女腕の関節を極めつつ背後に回るとその背中に艶消しが施された真黒の刃をそっと突き立てる。

チクリとした痛みが彼女の背中を走り、ひんやりとした感触が何を押しつけられているのかを嫌がおうにも彼女に教える。

 

「では行くぞ。あまり時間がないんだ。もし抵抗したり逃げたりしようとしたら、その時は…………背中の痛みがどうなることかな?」

 

ひやりとしたものが背筋を駆け巡る。背後にいる八幡からの静かすぎる殺気に相模はもう狂いそうになった。精神が崩壊間近だと言ってもいい。それぐらい彼女にとってこれは『恐怖』になったのだ。いや、誰だってこんな目に遭えばそうなるだろう。それも年頃の娘という精神的に不安定な存在なら尚のことだ。

だが八幡はそんなことを気にしない。最低限の慈悲以外くれてやる気などないのだから。雪乃達の頑張りに報いさせるために仕方なく連れて行くというのが本題だから。

だから八幡は今にも倒れそうな相模にゆっくりと話しかける。

 

「では体育館に行くぞ。別に歩きでいいが………絶対に止まるな」

 

その言葉に相模は命を握られていることに恐怖しか感じられず仕方なく従うしかなかった。

 

 

 

 八幡に背後に密着するかのように立たれたまま歩かされる相模。

ゆっくりとふらつきつつ歩く彼女であるが、彼女の顔はどうしてと恐怖していた。

端から見たら分かるだろう。八幡は相模におかしいくらい密着していることにその背に刃物を突きつけているということに。今にも死にそうな程酷い顔色をしているということに。

だというのに周りにいる者達はそんな相模の異常に気付かない

学園祭を普通に楽しんでいる周りは笑顔が絶えない。そんな笑顔が溢れる場所で明らかに異常である相模を見ても皆何も思わないのか、それとも『見えていない』のか。

どちらにしろ相模にとってこの場から自分は切り離されているように感じられた。周りに人がいるというのに一人っきり。そのどうしようもない孤独感が彼女の心を侵していく。だが立ち止まることは許されない。少しでも止まる素振りを見せようものなら背中にチクリとした痛みが襲いかかってくるのだから。もし自分が本当に死んでも気付かれないんじゃないだろうか? そんなことを本気で考えてしまうくらい彼女の心は追い詰められていた。

勿論種明かしは八幡の存在感を限界まで消す技能。コレにより周りは八幡に気付けず、それに巻き込まれるような形で相模も気付かれていないのであった。

そして八幡誘導の元、やっと相模は体育館の裏口に到着した。

そして八幡に促されたまま雪乃達の所まで行き、やっと解放される。ソレと共に八幡は存在を元の濃さに戻した。

 

「あ、さがみん!」

 

相模を最初に見つけたのは結衣。彼女は相模を見つけるなり早足でこちらに来た。

そして次に沙希が声に気付いて近づき、最後に雪乃が何とか怒りを隠そうと頑張りながら彼女に近づく。

そして急いでエンディングセレモニーの準備を始める実行委員会達。

彼等のお陰で無事エンディングセレモニーが始まりった。

 

「ご苦労さん」

 

そんな風に八幡に声をかけてきたのは良い汗を掻いたと言わんばかりにスッキリとした顔をしている静州。そんな静州に八幡は労いの言葉を返す。

 

「其方もな。まさかこんな事になるとは思わなかったから悪かったな」

「別にいいさ。寧ろ久々に観衆の前で思いっきり弾けたんだ。悪くないギグだったぜ」

 

そう答えながらニヤリと笑う静州に八幡は感謝を軽く告げる。すると静州はケラケラと笑いながら答えた。

 

「そんなもんより次に吞みに行くとき奢ってくれよ。俺、今月ピンチでさ」

 

綺麗な場面だったのが台無しにされたような気がしたが、寧ろこちらの方が自分達らしいと思い八幡は軽い溜息を吐く。

 

「それは別にいいが、あんまり酔っ払うなよ。後始末が面倒だ」

 

男同士の約束に互いに不敵に笑い合う。

そんな間を今度はアリスが入り込んだ。

 

「だったらウチも一緒に行くー。カルーアミルクをたらふく飲んでやるぜい!」

「お前は呼んでないんだがな………まぁ、今回世話になったしその例ってことで来い。静州にも言ったが飲み過ぎるなよ。酔っ払い二人の後始末は御免だ」

 

そして職場の同僚相手らしい笑みを浮かべる三人。そんな三人を見て結衣。沙希、雪乃の三人は羨ましそうな目を向ける。

 

「いいなぁ~、ヒッキーと仲良くて」

「いつものアイツとはまた違った感じ。バイト先だとあんな感じなんだよね、きっと」

「ちょっと嫉妬してしまうわね。私達の知らない比企谷君を知ってるあの人達に」

 

若干の嫉妬もありつつも約束を守ってくれた八幡に暖かな気持ちを抱く三人。そんな風に彼等達は青春していた。

ただし、そんな甘酸っぱくない青春をする者もいた。

エンディングセレモニーも最後になり相模の出番が回ってきたのだ。

相模はふらつく足取りで何とか壇上に上がり、そして青ざめた顔のまま震える声で何とか発表を行っていく。そして締めくくりの言葉を言うと、涙を流してその場でしゃがみ込んでしまった。端から見たら感動して泣いてしまったようにしか見えない。だが実際はやっと生命の危機から脱した事による安堵からであった。

 

 

 こうして彼等の文化祭は終わりを迎える。

相模はこの後八幡が脅したということを友人に告げ口しそれは周りに拡散。当然悪感情が八幡に向けられる事になるのだがその証拠があるのかという事、そして八幡が『校舎の屋上を探していたために相模を見つけられなかった』という証拠が出てきた為にその

事実は判明しなかったために無効となった。結果精神的に動揺していた相模の戯れ言と処分されることに。

 尚…………。

 

「当然踊ってくれるよね、ヒッキー」

「わ、私も、その………お願い」

「どうせ踊る相手もいないんだし、仕方ないから踊ってあげるわよ。この文化祭の救世主には褒美を与えないといけないのだからね」

 

結衣、沙希、雪乃の三人にキャンプファイヤーに引っ張り出された八幡。仕方なく踊ることになり、ロマンチックな場面でダンスを踊るという乙女の心に最高の一幕として飾られる事となった。

尚、八幡はドギマギしつつも悪くない気持ちになっていた。

 

 こうして彼彼女等の文化祭は終わりを迎えた。

 



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