俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn

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滅茶苦茶久しぶりです。最近どうも筆が進まなかったもので申し訳ないです。
今回はだれもヒロインがでていません。


第75話 俺はこうして修学旅行の参加を決める

 文化祭もそれなりに終わり彼等の日常はいつも通りに戻っていく。そこで本来ならばその後で行われる体育祭について語るべきなのだろうが、この男の事である。目立つことが何よりも嫌いなこの男が目立つような事をすることもなく、強いて上げるなら周りにバレないようにこっそりと自分達のチームが有利になるように細工を施したり秘密裏に何かしらを仕掛けたりした程度のことしかしていない。そのことが周りにバレることはなく、彼の周りにいる者達は何かしらしたのかなっと疑う程度だが彼と参加出来ることが嬉しいのでそれ以上咎めるようなことはしなかった。

そんなわけで体育祭も終わった後、今度は二学年の行事である修学旅行が間近になってきた頃の話である。

 

 

 

 今までの彼………比企谷 八幡であればまず断って参加しない。学校行事である修学旅行よりも仕事と妹を優先するのが比企谷 八幡の在り方だった。だが、今回の件に関しては少しばかり違うらしい。何せ妹から若干怒り気味に参加するよう言われたから。唯一の家族である妹に檄甘な八幡である。妹にそう言われてしまっては首を縦に振る以外あり得ない。これが一点。そしてもう一つ、それは学校内で修学旅行の話題が出た際に話題に盛り上がった奉仕部の面々の楽しそうな笑顔を曇らせたくないと思ったからということもあった。人間関係の好意というものに鈍い八幡ではあるが、自分と修学旅行に行きたいという思いには流石に気付く。故に気持ちが揺らいだというのが一点。

そして…………これが決め手となった。

 

 

「レイス8、出頭しました」

 

夜のとばりが落ち、真っ暗な暗闇が辺りを包みこむ。そんな時間、八幡は緊張感が満ちる室内にて背筋を伸ばしながらそう言った。

その部屋の中央奥にて設置されているデスク、そこに立つ男こそが八幡の上司。この『株式会社三雲清掃業』の裏の顔『掃除屋』の極秘チーム『レイスナンバーズ』を束ねる『レイス0』こと『武蔵 幻十朗』である。

この度八幡はこの男に呼ばれてここにいる。上司からの呼び出しなんていうのはどの企業でもあるだろう。だからこの状態に対し何ら問題はないのだが、それとは別に緊張してしまうのは、それだけ八幡が上司を尊敬し畏敬の念を持っているからだ。

そんな上司からの呼び出しに社会人らしく構える八幡。濁りきった目には普段にはない厳しさが宿っている。

そんな八幡の様子をみながらウンウンと軽く笑いながら頷いたレイス0は八幡に笑いかける。

 

「ご苦労、レイス8。楽にしていい」

 

その言葉に八幡は休めのポーズを取る。勿論ポーズを取っているだけであり身体は一切休まない。即座に動けるように構えたままだ。

そんな八幡を見つつレイス0は話を始める。

 

「さて、今回君を呼んだのは…………とある仕事を頼みたいからだ」

「仕事……ですか?」

 

その言葉に八幡は静かにそう返す。別に仕事を頼まれるのは何ら問題ない。個人指名をするということは極秘な上にその仕事の性質状その者が向いているというためからだ。これまでの仕事でもそういったものを熟してきた八幡にとっていつものことの一つに過ぎない。だから特に驚くようなことはなく普通に応じる。

そんな八幡の様子を見ていてレイス0もまたいつものように話す。この上司は同時に八幡の親代わりもしている。その成長を常に見ている身として今の八幡の様子は十分好ましいのだろう。普段より若干口元が綻んでいた。

 

「今回君に頼みたいのは………私の名代だ」

「名代……つまり課長の代わりということですね」

 

自分のすべきことが難しい事であると言うことがたった今決まった八幡。今まで単独での潜入や破壊工作、殲滅行動や暗殺など数々熟してきたが、まさか自分達のトップの代わりに何かしら参加するというのは初めてのこと。故に経験がない仕事というだけでその難易度は跳ね上がる。

八幡の表情が更に引き締まる様子がおかしかったのか、レイス0は軽く笑いながら話しかけてきた。

 

「別にそこまで緊張することはない。何、ただ私の代わりにとあるパーティに出てお偉い方に挨拶するだけだ。将来の予行演習とでも思い給え。いずれ君はそうなるのだから。何せ私の後釜なのだしね」

「恐縮です」

 

そんな事を言われても嬉しいとは感じない。ただ余計にプレッシャーを感じさせるだけである。しかも上司から直々に自分の後継だと言われているのだ。親代わりをしている人から言われただけに嬉しさはあるが、それ以上に目の前の『最強』に並ばねばならないということが余計にキツイ。故に八幡はそう答えるので精一杯だ。失敗は絶対に許されない。死にはしないが会社とこの『最強』の名誉に泥を塗りかねないからだ。故に八幡は気を引き締める。やるからには絶対に事を成すという兵士としての心得を体現しているかのようだ。そんな八幡が面白いのか、やけに愉快そうに笑うレイス0。

 

「勿論先方方に粗相があってはならないが……君ならば大丈夫だろう。何、いつもの潜入護衛の時と同じだ。ただそこに自ら会話に入っていくだけの違いしか無い」

「その会話が難しいということを知っていてそう言っていますね。生憎と自分は腹芸の類いは出来ないのですが」

「それも含めて経験だ。たまにはそういった方面に頭を揉まれてきなさい。向こうにいるのは一癖も二癖もある妖怪みたいな人達ばかりだから良い勉強になるだろう」

「極力善処します」

 

相手の思惑が分かってきただけに八幡の濁りきったジト目がレイス0に向けられる。子供が見たら精神を不安定に落としめて泣かせる程の威力があるそれをレイス0は意地が悪い笑みで返す。

 

「それでそのパーティなんだが、会場が………・京都の駅前にある高層ビルの一角で行われる。確か君はそろそろ修学旅行だったな。ならば丁度良い。修学旅行にも行ってきなさい」

 

そこでやっと八幡は今回の件を完璧に理解した。

 

「課長、それが本題ですね。俺が修学旅行をサボらないよう任務を与えて縛り付ける。回りくどいですが確かに効果的だ」

 

それが真意だと察した八幡はそう言った。仕事も確かにあるのだろう。だが、この目の前にいる男は八幡を強制的にでも修学旅行に参加させたいのだと。

見破られたレイス0は降参だといわんばかりに両手を挙げて答える。

 

「仕事なのも確かで私の名代として行ってもらうのも確かだがね。だって君、中学の時は無理矢理にでも仕事を入れて強引にサボっただろ。確かアフガンで一週間の医療団の護衛任務だったかな。だから今回は先手を打ってこうさせてもらったんだ。確かに君は優秀だがまだ子供だ。アイツの代わりとして学校行事はなるべく参加させたい。それが親心というものだよ」

「公私混同だとは思わないんですか?」

「何、丁度良く両方揃ったんだ。これは公私混同ではなく一石二鳥なだけだよ。その方が効率がいい」

 

そう言われ八幡は引き下がった。

この親代わりが言いたいことも良くわかる。確かに中学の時、八幡は修学旅行をサボった。それはあの時、今以上に必死だったからだ。余裕なんて無かった。ただが我武者羅に戦った。自分の力不足を嘆き呪い、それを覆そうと只管動いた。死にそうになろうとも反省しても只管走り抜き突っ走る。少しで足を緩めようものなら途端に崩れ落ちそうだったから。自身に死ねと呪いをかけながらも唯一の家族のために死ねないという矛盾を抱えながら。壊れようと関係ないと自身を徹底的に鍛え叩いていた。

そんな時期が確かにあったのだ。今では多少の余力というものが生まれてきているため、その頃の青臭い自分を思い出し気恥ずかしさを感じさせる。あの頃は青かったと懐かしむ程度で済ませられるのだが。そんな時に学校行事をサボったわけであり、あの時の必死過ぎる状況に流石の保護者であるレイス0も何も言えなかったのだが、今回は違う。精神的に成長しているだけに多少の精神的余裕を得た八幡ならば問題ない。そんなわけでサボる前に先手を打ったわけである。

 そんなわけで八幡は深い溜息を一回吐き、そしてレイス0に軽く敬礼を返す。

 

「はぁ………了解しました。レイス8、比企谷 八幡。その任務、謹んでお受けします。レイスナンバーズの名に泥を塗らぬよう、身命を賭して頑張ります」

「あぁ、頑張ってくれ。そして………修学旅行の土産もわすれないようにね」

 

 

こういうこともあり、今回の修学旅行に参加することになったのであった。


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