俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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雪乃ちゃんもヒロインとして頑張らせたく思い今回はいじめていません。
その変わり八幡がただのイケメンにしかなっていない。何故?


第7話 俺にこんな雰囲気は似合わない

 先程まで泣いていた女の子と一緒というこの状況に八幡はやはり気まずさを覚える。

これがまだ関係のない人間ならそこまで気にしないが、流石に自分が原因となれば気にしないわけにもいかない。

八幡にとってある意味初めてのことだった。

妹の小町に泣かれることはこれまで何度かあったが、家族ではない他人に自分の事で泣かれたのは彼のこれまでの生に於いて初めてだったのだ。

今までそれなりに色々な事を経験してきたつもりではあったが、まだ16年しか生きていない彼はまだ経験不足である。

だからなのか、この状況を八幡は持て余していた。

別に何か引け目があるわけではない。

要は一年前に飼い犬を救ってもらったお礼を今言われているということなだけ。

だと言うのに、何故こうも気まずいのだろうか?

相手に泣かれるだけでもあれなのに、何故か相手は自分に対し恩以外にも何か感じているらしい節が見られる。その感情が何なのかは分からないが、あの潤んだ瞳に見つめられるのは妙に落ち着かない気分にさせられた。

 

(本当に………どうすればよいのやら)

 

まったくもってその言葉に尽きる。

そんなわけで気まずさと妙な雰囲気の中、何とか聞きだした依頼が『クッキーの作り方を教える』こと。

それだけなら問題はないのだが……。

 

(何でよりによって『俺』へのお礼として送るためのクッキーなんだよ……)

 

そのクッキーの送る相手というのが自分だというのだから余計にややこしい。

それをどう説明すればよいのか分からずに八幡はこうして困っているわけだ。

傍から見れば明らかに『青春』している光景。されど本人はこれが青春だとはまったく思えず困るのみ。これがどこぞの『孤独で捻くれた少年』なら色々と捻くれた答えを出すのだろうが、残念なことに彼は捻くれる前に世間の厳しさを身に染みこませられたのでより現実的にクレバーになっている。

だから面白い返しなど出来ないし、変な警戒心も抱かない。

ただ、困るのみ。

そんな彼に救いが来たのか、軽く扉をノックする音が鳴り扉が開かれた。

 

「もういいかしら? 比企谷君、依頼は聞けたの? あぁ、貴方のような話し下手では聞けなかったわよね、ごめんなさい」

 

室内に入ってきた雪乃にそう言われ、八幡はこの状況から脱することが出来る有難みと何気に貶されていることに脱力しながら答えた。

 

「一応は聞けたよ。後会話下手なのは認めるが、だからと言って何も話せない程下手糞でもないっての」

 

八幡の言葉に雪乃は軽く頷くと依頼について八幡に話すよう促す。

 

「それで依頼は何なのかしら?」

 

その言葉に八幡は少しだけ困り、結衣は再び顔が赤くなっていく。

この時、何故か八幡も気恥ずかしさを感じていた。

 

「あ、あぁ、由比ヶ浜の依頼だけどな………そのだな、クッキーを相手に贈りたいらしいんだが、作り方が分からないから教えて欲しいらしい」

「う、うん、そうなの! 私、こういうのって初めてだから……」

 

八幡の言葉に結衣は力強く頷くのだが、その後何度も八幡の方に目を向けているため、『誰に贈るのか』バレバレであった。

それは勿論八幡にもバレており、内心少し焦る八幡。

 

(おい、由比ヶ浜! せっかく人が誤魔化してやったのにそんなんじゃバレバレだろ! 何、寧ろバレたいのか、こいつは!)

 

実はその様子が可愛くて顔が熱くなるのを感じる八幡だが、勿論ばれないように顔はいつもと同じ気だるげなものを装う。何故だか知られたくなかった。

八幡のことはそれでバレなかったが、結衣の行動に雪乃は呆れ返ったため息を吐く。

 

「惚気なら余所でやってもらいたいのだけれど」

「の、惚気ッ!? そ、そんなこと………ぅぁ~~~~」

 

その言葉にボンッと顔が真っ赤になって蒸気を噴き出す結衣。八幡は初めて蒸気を噴き出す人間というのを見た。

見ていて面白いと思わなくもないがこれではまったく進まないし、何より結衣に有らぬ嫌疑をかけてしまいかねない。

 

『これはあくまでもお礼。一年前にあった出来事へのお礼と感謝を込めての贈りもの』

 

なのであって、決して相手に好意を抱きプレゼントしたいというわけではないのだ。

変な誤解は結衣の今後の学園生活によろしくない。

故に八幡も口を出す。

 

「いや、これは惚気とかじゃない。実はな、一年前に由比ヶ浜の飼い犬が車に轢かれそうになった時に助けたことがあったんだよ。それでその時のお礼が言いたかったらしいんだが、クラスが違かったし俺はバイト三昧であまり学校に居なかったら出会うことがなくてお礼を言えずじまいだったらしい。それが2年になって俺と同じクラスになったからお礼を言おうと思ったんだが、流石に一年も前の事で今更お礼だけっていうのはあんまりだと思ったらしくてな、それでクッキーを贈りたいんだと。お礼は受けたし俺も気にしてないんだが、由比ヶ浜がそれだけじゃ納得できないってことでこうなったわけだ。だから変な邪推とかはするなよ」

 

八幡にしては珍しく一気に語った。それはもう見事な説明口調で、感情の籠らないテストの例文を読むが如く丁寧に。

それを聞いた結衣は少しだけシュンとしていたようだが、雪乃は少し様子が違っていた。

まるで信じられない何かを見たかのように目を見開き、震えそうになる声を何とか抑えつつ八幡に問いかける。

 

「ひ、比企谷君、それは去年のいつ頃の話なの………」

 

雪乃の様子に少し違和感を感じ八幡は警戒しつつ答えた。

 

「俺も由比ヶ浜に言われるまですっかり忘れてたけど、去年の4月、入学式の早朝だ。今にして思えば由比ヶ浜、何で入学式の前に犬の散歩なんてしてるんだよ」

「そ、その、毎日の日課だったし、あの時は私も入学式で色々と緊張してたからほぐすにはちょうど良かったの。まさかあんなことになるなんて思ってなかったけどね」

 

八幡に話を振られ、結衣は慌ててそれに答えた。

それ自体に意味はないのだが、雪乃の目は確かに何かを思い出していた。

 

(入学式の時、人を轢きかけた………まさか、アレが比企谷君だったの!?)

 

彼女の頭の中では当時の事が再生されていた。

去年の4月、入学式の朝。雪乃は初登校ということもあって彼女の実家である雪ノ下家のリムジンに送られていた。

別になんて事のない日、彼女にとって親の過保護が目立つ程度に思っただけの日だった。しかし、その途中で突如としてそれは変わる。

いきなり飛び出してきた犬。そしてそれをかばうように飛び出してきた人。

車の速度は法定速度よりも多少だけ速めだった。ブレーキをかけても絶対に間に合わない距離。車内で運転手と彼女の悲鳴が響き渡り、彼女は目を瞑ってしまった。

硬く閉じた目は何も写し出さない。しかし、ぶつかる前の光景を彼女の目は確かに焼き付けていた。

その先にある結果を見たくない。でも、このままではいられない。

故に彼女は目を開けた。

そしてその先には……………何もなかった。

先程までいた、本来ならどうあっても回避不可能で轢かれているはずだったはずの人も、その人に庇われた犬も、何もかもがいなかったのだ。

その何でもない光景が逆に不気味さを呼ぶ。

まるで先程まであったはずの悲劇がなかったことにされたかのようになり、まさにホラーと呼んでも差し支えない。

その事が余計に彼女の恐怖を煽る。

その後、しばらく放心していた運転手を置いて彼女は一人で学校へと向かうことに。

その前に車の周りを調べたが、ぶつかったような形跡は一切なかった。

以上が彼女にとって記憶に残る高校の初登校の日。

あの時の言い知れぬ恐怖は今でも彼女の心に刻み込まれ、今でも忘れることができない。あの時結局どうなったのかと。

何も出ていない、証拠もない、ぶつかった形跡もない。

しかし、彼女は確かに見たのだ。車の前に出た人影を。

その今まであった恐怖の疑問が今、まさかこのように明かされるとは思っていなかっただろう。

雪乃は信じられないと口をパクパクとしてしまう。

その様子があまりにも似合わないためか、馬鹿にされている八幡でさえ心配になって話しかけた。

 

「おい、雪ノ下、大丈夫か? 何か凄い顔してるぞ」

「え、えぇ………なんでもないわ………」

 

何とかそう答える雪乃だが、その声は震えているし顔は真っ青に変わっている。

いくら人間として駄目な八幡でも、流石にこれはどうかと思い少し強引に雪乃に近づいた。

 

「少し悪いが額に触るぞ」

「え?」

 

まさに手慣れた動作の如く、一分の隙もない無駄なき動きで八幡は雪乃の額に手を触れた。

八幡の手から伝わってきたのは、女の子特有のやわらかな肌の感触と少しひんやりとした体温。それらを分析しつつ八幡は雪乃の告げる。

 

「熱はないようだが、寧ろ体温低くないか? ちゃんと寝ないと駄目だぞ、マジで。これ経験談な」

「ッ~~~~~~~~~~~~!?」

 

まさか異性に、それも毛嫌いしていた男に額をマジかで触られ声にならない声を出してしまう雪乃。その際に顔も真っ赤になっている。

彼女はそんな反応を見せるや否や、急いで八幡から離れた。

 

「べ、別に何でもないから! それよりも無断で女の子の額を触るなんて、貴方は訴えられたいのね、この変態、痴漢、ヒキガエル!」

「心配したのに何でこんなに罵倒されてるんだ、俺?」

 

雪乃からの罵詈雑言に八幡は呆れて反応する。

そんな彼だが、何故か横を向くと結衣がどうにもむくれていた。

 

「どうかしたか、由比ヶ浜?」

「何でもない、ふん!」

 

何故か機嫌が悪くなる結衣に八幡はわけがわからなくなる。

そしてこの状態は少し続き、雪乃が落ち着き始めてから改めて依頼の話をすることになった。

 

「由比ヶ浜さん、貴方の依頼は分かったわ。でも今からは少し無理よ。何せ家庭科室の使用申請に材料の用意をしなければならないから。材料はあるかもしれないけど、使用申請は事前に出さなければいけないのよ」

「そっか~、残念かも」

 

雪乃に言われて結衣は少し肩を落とす。

そんな彼女と雪乃に対し八幡は待ったをかけた。

 

「ちょっと待て、二人とも」

「何かしら?」

「何?」

 

待ったをかけられた二人の視線を受け、八幡は自分なりにしてやったりといった笑みを浮かべる。傍から見たら犯罪者のにやけ顔にしか見えないが。

 

「すぐに家庭科室の使用許可は出るぞ。何せ…………この部活動の時に限り、そういった学校内の施設の使用を優先的にしてもらえるようにしてもらったからな。勿論平塚先生との契約だ。俺が部活に入る際にあの後条件として言ったんだよ。『学校内の施設を使用する場合は最優先で使用できるようにしてもらいたい。それが部活に入っても良い条件です』ってな。だから申請の紙を提出すれば直ぐに使える。文句を言われたら平塚先生に言うように言えばいい。だからさ………」

 

そこで言葉を切った八幡は二人の顔を見ながら言う。

 

「これからクッキー、作りに行こうぜ」

 

 

 こうして3人は家庭科室へと向かって行った。

 








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