※お気に入り登録一名、感想一件本当にありがとうございました!
「ッ、痛ぁ……。なんで、俺がこんな目に……」
「えっ……と、大丈夫?君」
全身に走る打ち身の痛みと泥から漂う悪臭に涙が溢れる。頭上から響く柔らかい声に俺はゆっくりと立ち上がって、その少女の横へと進み出る。全身を多く泥を拭いながら、少女を安心させるためにニッコリと微笑む。
「うん、大丈夫だよ。これくらい」
“師匠との特訓はこれよりもかなりハードであったから……。しかし、本当に死ななくて良かった……”
上を向くとよくあんな高さから無事だったものだと感心する。
「本当に?レムがさっきそこに動物の糞を肥料にまいてたのよね」
「………、………。うん、大丈夫大丈夫。これくらいでへこたれる俺じゃないから……うん……」
“もう、泣いてしまいたい……。俺って、なんでこんなに報われないの……”
涙目になりながらも気遣ってくれた少女にお礼を言わないといけないだろう。その少女はキラキラと太陽の光を反射する銀髪を腰近くまで伸ばしていて、紫紺色の瞳を泥まみれ元い動物の糞まみれの俺へと向けてくる。服装は白を基調としたもので紫色のフリルや線が所々入っている。胸元で輝く緑色の結晶と銀髪の髪から覗く耳が少しとんがっているのが不思議に思うところだろうか
「俺の事、気遣ってくれてありがとうございます。それと始めましてですよね?このロズワール邸で使用人として働くことになりました、イチジョウ・ハルイトです」
「君が……、ロズワールから聞いて気になっていたの。とても面白い子って聞いてたからどんな子かなーって思ったけど、とっても可愛らしい。本当に男の子?」
「それは訳すと女々しいって事ですか?それも男に見えないほどに……」
これで出会った全員から女々しいという称号を授かったというわけだ。ぅ……ぅっ……、もう いやだぁ〜。見知らぬ幼女に閉め出されて、動物の糞まみれにはなるし、今まで出会った全ての人に女々しいって言われるし。
「あっ、ごめんなさい。そういう意味で言ったんじゃないの。だから、そんな泣きそうな顔しないで。ねぇ?」
「うっ……ぅっ……ぅ……」
「どっ、どうしよう。そうだ、パック 起きて」
取り止めとなく流れ出す涙を拭いながら、前を向くと銀髪の少女の掌で「ふわぁ〜」と大あくびをして、伸びをしている小さな灰色の猫が目に入る。ポカーンと間抜けな顔を晒す俺の前で少女と小猫が言葉を交わす。
「おはよう〜、リア」
「うん、おはよ パック。起きていきなりなんだけど、そこにいる男の子の身体 洗ってあげてくれる?」
「んぅ?」
そこで俺に気づいたらしい灰色の猫は可愛らしく小首をかしげると数秒間 何かを考えて、ウンウンとうなづき、可愛らしいピンク色の肉球を此方へと向けて
「うん、いいよー。じゃあ、洗うねー。それ!」
「いや、そんな簡単に……ぐぷぷぷぷ……がはぁっ……」
軽口を叩く俺を突然、包み込む渦巻く水。その発生源はあの灰色の猫からみたいで俺に向けて突き出されている小さな両手を起点に、青白い輝きが展開する。その光は次の瞬間、大量の水へと変わり 渦を巻き、俺の身体は抵抗虚しく その渦へと身を任せた。
「それ〜それ〜」
「ぐはっ……死ぬ……しにゅ……ごぽぽぽぽぽ………」
グルグルと回る視界、息苦しく酸素も無い水の中。俺は数分間、意識を何度も失いかけて なんとか、その人間洗濯機を耐え抜いたのだった……。
「………ごほっ、ごほっ。息が吸えるってこんなに素晴らしい事なんだね……」
「うん、バッチリ綺麗になったね」
芝生に倒れこみながら、呼吸ができる幸せを噛みしめる。ビショビショに濡れた身体を起こすと俺は恨めしく灰色の猫を見つめた。
「どうしたの?お礼ならいいよー」
「確かに……、確かにお礼は言わなくてはいけませんね。洗っていただきありがとうございました。しかし、それと同時に俺の心に湧き上がってくるこのメラメラと燃える気持ちはなんなんでしょうか?」
「うーん、怒り?」
「そうですね、それが一番 俺の今の気持ちに適切かもしれません。なら、怒ってもいいですよね?死ぬかと思ったわッ!!あんなの生身の人間にやってはいけませんッ!!俺でも一瞬、意識飛んだからッ!!」
「あはは、大丈夫だよー。ボク、ちゃんと手加減出来るからー。さっきのはほんのちょっとだけ余分な気持ちが混ざっちゃっただけだからー」
「ほんのちょっとじゃないわッ!!大分多く余分な気持ちが混ざってたよッ!!そんな余分な気持ちで死ぬかもしれない危険にさらされた俺の気持ちにもなってくださいッ!!」
灰色の猫と口論していると近くから小さな笑い声が聞こえてくる。首を傾げて、横を見るとあの銀髪の少女が口元を抑えて 笑い声を漏らしている。
「あはは!ごめんね、でも もうダメ。だって、二人して何してるの……あは、ふふふふ!ああ、お腹が痛い」
その笑顔に見惚れているとほっぺに尻尾でビンタがお見舞いされた。叩かれた右頬を抑えながら、宙を浮く灰色の猫を睨む。
「痛かったですよッ、猫さんッ!!」
「いやー、複雑な親心っていうか。変な虫を娘に近づけたくないって感じだね。うん」
「うんじゃないよッ!俺、全然納得できないからッ!!」
「ふふふ、あはは!」
灰色の猫と漫才じみたやりとりを繰り広げている横で銀髪の少女がお腹を抱えて笑う。そんな光景がしばらく続いた後、銀髪の少女が目に溜まった涙を細い指先で拭う。
「名前、まだ教えてなかったね。私の名前はエミリア、こっちはパック」
「エミリアさんにパックさんですか。これからよろしくお願いします」
「うん、よろしく。さっきはパックがごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるエミリアさんに俺は両手をブンブンと振る。
「いえ、俺こそ洗ってもらってありがとうございます。あのまま、仕事場に帰っていたらラムさんレムさんに怒られていたでしょうし、いや この濡れたまま帰っても怒られるか……」
安易に想像出来るあの二人のコソコソ話に俺は顔を青ざめる。それにあの二階の窓硝子も割ってしまったのだから、今日は正座で淡々と毒舌を聞かさせるのだろうか?
「あの二人、そんなに怖い?」
「怖いどころじゃないです……心に大きな傷を負います、あのコソコソ話は……」
「あれはハルイトをからかっているだけだと思うけど」
「そうですかね?そうだといいんですが……」
「こんなところに居たのね、ハル。レムに頼まれた仕事も果たさず、おまけに二階の窓硝子を割って、レムとラムがその後片付けに追われているを知りながら、淫蕩三昧とは随分と偉くなったものだわ。あの女々しいハルが」
スラスラと背後から語られる毒舌に俺は目をギュッとつぶって、諦めるとそちらへと向き直った。そこには仁王立ちで此方を見下ろすラムさんの姿がーー
「すいませんでしたッ!!本当に色々あったんです、あの硝子は変な幼女に飛ばされて壊したものであって……」
速攻で土下座を繰り返す俺をいつも以上に冷えた瞳で見ていたラムさんは俺の言い訳じみたセリフの一部に眉を上げる。
「変な幼女?ベアトリス様の事かしら、そんな事はどうでもいいわ。早くこっちに来なさい、ハル。ハルのせいでレムとラムの仕事に大きな支障が出たのよ、今からその支障をハルが全て一人で終わらせるのよ。今から取り掛からないと夜までに終わらないでしょう?」
「それは無謀というものです、ラムさん……。痛たたたた、耳がッ。耳が痛いです、ラムさんッ!!」
突然、現れた桃髪のメイドに耳を引っ張られながら去って行く赤髪の執事を取り残されたエミリアとパックは微笑ましげに見ている。
「ロズワールの言うとおり面白くていい子ね、ハルイトは」
「そーだね、少しやかましくはあるけど」
顔を見合わせたエミリアとパックはどちらからともなく、笑い声を庭園へと響かせた……
ロズワール邸住人が抱く主人公の好感度と認識調査その1
〈エミリア〉好感度【51】認識【面白くていい子】
〈パック〉好感度【45】認識【いい子だけど娘には近づけたくない】
〈ロズワール 〉好感度【62】認識【面白くて不思議な子または有能そうな駒】
〈ベアトリス〉好感度【21】認識【やかましくて失礼な奴】
〈ラム〉好感度【47】認識【なぜか見てるとイライラする。理由はわからない】
〈レム〉好感度【36】認識【仕事の面では信頼出来る。しかし、??の匂いが時折漂ってくるのが不安な気持ちにさせる】
以上、好感度と認識調査その1でした。