今回の話はタイトルの通り、レムちゃんとハルイトがイチャつく話です。甘い雰囲気が出るように書いたので良ければご覧ください、では。
※初めて読まれる方はこの章は後回しにして、読んで頂くことをお願いします。
ある部屋の中、一人の少年が窮地に立たされていた。床へと正座で座り、同じく正座で真向かいに座る青髪の少女の表情を伺うようにチラチラと見ている。
「えぇ〜と、レム……ちゃん?」
俺はぎこちない笑みを浮かべて、正面に座る青髪の少女へと声をかける。青髪の少女はいつも身につけている肩や胸元が露出しているメイド服ではなく、休日用メイド服というものを身につけている。露出は少なめだが、ハッキリとスタイルが現れるところはいつも着用しているメイド服と大差ない。
「何ですか?兄様」
俺に声をかけられたのが、よっぽど嬉しかったのか、レムちゃんが満面の笑顔で俺を見つめてくる。そう満面の笑顔、不自然くらいの光り輝く笑顔を。
“うぐ……、その笑顔が今は痛い……”
「その……怒ってる?」
おっかないびっくりに声をかける俺にレムちゃんは慈愛に満ちた微笑みを口元へと浮かべせて、横へと首を振る。
「どうして、レムが兄様に怒らなくてはいけないのですか。変な事を言う兄様ですね。確かに兄様とのお出かけは楽しみにして居ましたし、ちょっぴりおめかしをしようと兄様が贈ってくださった髪飾りをつけて、鏡の前で何度も何度も身なりを気にしましたが、それはレムが勝手に舞い上がってしてしまった事ですし、兄様が気になさることはないんですよ」
「本当にすいませんでした!!!!!」
何度も頭を床へと叩きつけながら、同時に自分を責める。
“俺のバカバカバカバカ、バカちん!”
ゴンゴンゴンゴン、ゴチンガチンゴチン。
「兄様!?ダメです。そのようなことをなさっては」
「止めないでくれ、レムちゃん。これは俺へと戒めだから!!レムちゃんが楽しみにしてくれてたデートをすっぽかした俺への。よし、これで最後」
最後にもう一度、床へと頭を打ち付けて、正面の少女へと向き直る。
「本当にごめん、レムちゃん。こんな事で許してくれるとも思わないけど、今からレムちゃんが言うことを何でも聞くよ。もちろん、今日のデートも違う日に改めて、一緒に行こう!だから、なんでも俺に言ってみてくれ」
「……その、なんでも……いいのですか?」
遠慮がちに俺の方を見るレムちゃんに俺は胸を叩いて言う。
「あぁ、俺に出来ることなら何でも任せてくれ」
「なら、兄様」
意を決したのか、レムちゃんは俺を見てこう言ったーー
「レムに……をさせてください」
「えへ?」
俺はその言葉に間抜けな声を漏らした……
τ
「〜♪」
「……」
頭上から聞こえてくる鼻歌を聞きながら、自分の状況を軽く分析。
・見慣れた景色が横を向いているように見える→自分が寝かされているから
・頬に感じる暖かく柔らかい感触→誰かの太ももに頭を乗せているから
・左耳から聞こえる何かを取る音→耳かきを誰かにされてるから
上の三つの状況から俺は何者かに膝枕をされて、耳かきをされていることがわかる。
なら、誰に?
それは下の会話文を読めば、分かってくるだろう。読まずとも分かる人、あんた凄いな。
「兄様、痛くありませんか?」
「ん……うん、痛くないよ……。むしろ、気持ちいいくらい」
「そうですか、良かったです。あと少しで此方の掃除が終わるので、もう暫くお待ちくださいね」
「うん、分かった」
再開される鼻歌。俺はそれを聞きながら、思考を再開する。
そう、俺はレムちゃんに膝枕をされて耳かきをされている。
…………。いや、いくら考えてもおかしいだろう!?この状況!?俺がレムちゃんにお詫びして、奉仕しなくていけないのに、逆に奉仕してもらって、癒されているとはどんな冗談だ!?
“いかんいかん、いかんぞ。これは”
由々しき事態だ、これは。早急にどうにかしなくては、これはレムちゃんの為に用意したお詫びの時間なのだから!!勇気を振り絞れ、俺!!
「兄様、此方は終わりましたよ。次は其方の掃除をしたいので、御手数ですが、顔をレムの方へと向けてください」
「あ……うん」
ゴロンと向きを変えて、黒いメイド服の生地と白いエプロンが目の前に来る、漂ってくる甘い香りにふわっとする思考。
「じっとしててくださいね」
拍車をかける慈愛に満ちた優しい声。俺は無意識に返事をしていた……
「……うん」
再開させる耳かき。右耳から聞こえるガシャガシャという音を聞きながら、俺は心の中で悶える。
“あかんかったーー!!!何をやっとるじゃ、俺!?”
バカか、バカなのか俺。あぁ、バカだな俺!俺はバカだ、バカだからこんな事態に陥っても何もできないんだな!?
「?右の方はあまりないようですね……、残念です。兄様、お疲れ様でした。耳掃除、終わりましたよ」
「あぁ、ありがとう、レムちゃん。おかげでいつもより耳が聞こえる気がするよ」
「いえ、お礼などいいのですよ。レムは兄様にしたいことをしているだけなので」
そう言って、今度は俺の赤い髪を撫で始めるレムちゃん。壊れものを扱うように俺の身体を動かすと、頭を撫でながら下を向く。バッチリと重なり合う赤い瞳と薄青の瞳。
「ずっと羨ましかったんです、姉様が」
「……」
羞恥心で頬が赤くなるのを感じながら、俺は真上で照れたように微笑むレムちゃんを見つめる。小さな桜色の唇が奏でる音を聞き逃さずようにする。
「兄様にいつも、このように膝枕をしておりましたから……兄様も嬉しそうでしたし、何より兄様はレムのことなど気にもされておりませんでした」
「……」
「でも、近頃は兄様もレムの存在に気づいてくれて、念願だった膝枕をさせてくださいました。
兄様……、レムは兄様の側に居られるだけで幸せなんです。レムがしたことで兄様が喜んでくれる事が何よりも幸せなんです」
「……俺も、レムちゃんが側に居てくれたから乗り越えてこれた事が沢山ある。だから、レムちゃん」
「はい」
俺は目の前の大切に思っている人にこの思いを伝えないといけない。だから、言葉にするよ。
「ーーこれからも側で情けない俺を支えてくれると嬉しい」
コクリとうなづく青い少女の笑顔を見ながら、俺はその幸せな時間を過ごした……
最後のセリフは断じてプロポーズとかじゃないですよ!