幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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境界賢者のとある一日③

 遠い誰かの、夢のような千切れた思い出。淡くも儚い幻のような砕けた日々。

 ひどく懐かしいようで、実は昨日の出来事なの。……私にとってはね。

 

 

 

『ねえ、────。貴女ならどうする?』

 

『誰の────』

 

『私の……いえ、私たちの────』

 

 

 そう。いつかそんなことを言ってた。

 ……違う。それは違う。

 所詮夢物語でしかないのよ。そう、思い描くことは全て夢に帰すものなの。

 誰かの予想は仮想に……仮想は空想に……空想は幻想へ。

 想うだけじゃ何も在りはしない。

 

『そんなこと言うなんて貴女らしくないわね……?シャンとしてよ!────が────と何も始まらないわ!』

 

 そうね、貴女の言う通りよ。何時も貴女は恐ろしいほどに”見ていた”。何も見えないはずなのにね。

 私は……全てが”見える”のに、何も見えやしない。震えそうになるほどの非現実を夢と断定する。弱さと脆さを受け入れたのが今の私なの。

 

 貴女には多分幻滅されるわね。

 

『だから、今こそ────を────に──のよ!』

 

 ……その声を、もう一度響かせて欲しい。私が願うたった一つのエゴ。叶うことのない小さな小さな欲望。

 貴女はいるの?

 この空の下に。

 空間を隔てたその先に。

 境界を越えた果てない世界に。

 幻想を……受け入れる現の角に。

 

 私はね、なんとなく分かるの。だけどそれは敢えて考えない。だって悲しくなるんだもの。こんなものなんて、感じたくもなかった。

 私たちの始まりの言葉を、私は今も追い続けている。……いや、待ち続けている。

 

 廻り巡り捲る幾千の夜は、未だに更けない。

 紫の雲を超える光は、未だに降らない。

 空虚を満たすものすら、未だに在りえない。

 

 幻想を葬ろう。そうすれば自ずと道は見えてくるんじゃないかしら?

 何も分からないことばかりだけど、また見えてくる気がするの。

 ねぇ、────。私は────……

 

 

 

 

 

 

 

「ゆかりん?」

 

 

 

 ────────

 

 

 

「……んあ?」

 

 引っ張り上げるような私を呼ぶ声と、手のひらに感じた温もりとともに私の意識は覚醒した。目の前には吸い込まれそうなほどの深緑色の瞳。翡翠のレンズに映る私の姿はどこか歪んで見えた。

 

 ……おうふ、頭痛い。

 なんか誰かのクソ恥ずかしい心のポエムが他でもない私の夢の中で漏洩してたような気がする。内容ははっきり覚えてないけど。なおその内容には全く心当たりがないから恐らく私のものではない。

 

 そういえば久々にドレミーが来なかったわね。てことは今回のあのイミフな夢は私にとっての良夢になるってこと?

 ……もしかしてあのクソ恥ずかしいポエム擬きはドレミーのものだったりするのかしら? だから恥ずかしくて出てこれなかったんだったりして。……念のため今度会ったら謝っときましょう。

 

 

 さて、目の前にはこいしちゃんがいる。私を覗き込み、手のひらをギュッと握っていた。可愛い以外の言葉が見つからないわ。

 ふと、甘くてどこか上品な香りが鼻腔をくすぐる。見るとテーブルの上には紅茶を乗せたトレーが置かれていた。私が寝ている間に持ってきて、淹れてくれたんだと思う。気遣いまでできてしまうこいしちゃんに隙はなかった!

 ありがとうの意を込めて軽く微笑んだ。するとこいしちゃんはまん丸な目を薄く細め、帽子を深くかぶった。私には表情を隠しているように見える。案外照れ屋さんだったりするのかしら?

 

「……あー、うん。ごめんねゆかりん。ちょっと興味があって覗こうと思っただけなの。もう勝手に見たりしないから……ね」

「……? そう……?」

 

 えっと、いきなり謝られた。

 勝手に見ないって……一体何を見ていたのかしら。もしかして寝顔だったり? それなら別に気にすることはないんだけど。だらしない顔をしてなかったかだけが心配ね。よだれなんて垂らしてたらできる美少女お姉さんのイメージが崩壊してしまう。

 

「はいゆかりん紅茶。コーヒーもあるからね」

「あらありがとう」

 

 こいしちゃんから渡された紅茶を軽く一口。上品でまろやかな味が口いっぱいに広がる。贔屓目とかそういうのなしでめちゃくちゃ美味しい。こいしちゃんが完璧すぎて生きるのが楽しすぎる!

 あー……染みるぅ……。緑茶もいいけど偶には紅茶を嗜むのもいいわ。今度外の世界に出かけた時は幾つか貰っていきましょう。

 

 さて、場が落ち着いたところでそろそろ本題を切り出そう。

 そうズバリこいしちゃんが見せたいものは何なのかって話をね! いい加減気になって仕方ないわ。うずうず。

 ついでにあの死体人形の詳細も聞いておきたいわね。あんなに精巧な作りで肉質を生々しいまでに再現している人形なんてそうそうお目にかかることなんてないだろうし、いつか()()()へのお土産話になるかもしれない。

 ぐいっと紅茶を喉に流し込んで、こいしちゃんに向き合う。

 

「ふぅ……美味しい紅茶ね。それで、見せたいものって何かしら?」

「見せたいもの……? えっと、なんだっけ?ゆかりん覚えてる?」

 

 こいしちゃんはこてんと首を傾げた。

 うーん……可愛い。って違う違う! 私に聞いても分かるわけないわ!けど惚けて私を困らせているようには見えないし……。まあこいしちゃんは不思議ちゃんだから許す!

 取り敢えず手当たり次第に言ってみましょうか。

 

「そうねぇ……この紅茶かしら? 結構上等なものでしょう?」

 

 私は別に嗜好家ってわけじゃないけどこいしちゃんが淹れてくれた紅茶は一級品のものであると確信している。これが飲めただけでもさとりの陰湿ないじめに耐えた甲斐があるというものだ。

 しかしこいしちゃんはふるふると首を振る。

 

「多分違うよ。だってこの紅茶ってお姉ちゃんの部屋から持ってきたものだからね。まあ美味しかったならなにより! 何が入ってたのかは知らないけど」

 

 うぇい!? こいしちゃんそれってまずくない!? あいつ結構根に持つタイプだからもし気付かれたら一生ネチっこく虐められることになるわよ!? しかもあいつ相手じゃ嘘をつけないし!

 うーん……誠心誠意土下座したら許してくれたりしないかな……。

 まあこいしちゃんが他でもない私への善意でやってくれたことだし、私が彼女を追求することは止めておきましょう。この子の悲しむ姿は見たくないもの。

 

「後で一緒にさとりに謝りに行きましょうね? ……それにしても紅茶じゃないなら……」

 

 必死に考えてみるが中々思いつかない。まずこいしちゃんが私へ見せたかったものを私が考えるっておかしくない? いまさらだけど。

 ふとこいしちゃんを見てみる。むぅ……と唸りながら腕を組んでいる。可愛らしいお顔と深緑色の瞳がいつも以上に所在なさげに浮いているように感じた。こいしちゃんも考え込んでるのかしら?

 ……あ、もしかして。

 

「髪型変えた?」

「いんや?」

 

 はい大恥かいた。

 なら……

 

「ネイルアートでも変えたの?」

「何それ?」

 

 ネイルアートの幻想入りはまだ早かったわね。ていうかこいしちゃんにそんな趣味があるはずないか。

 うむむ、ちょっと本格的に当てがなくなってきた。けど当ててあげないと気まずいし……何か少しでもヒントがあればねぇ。

 と、空を仰ぐと私の視界に殺風景な物体が映り込む。あまりにも周りと浮きすぎているその物体。サプライズには十分だ。

 

 まさか……ねぇ?

 

「もしかしてあの人形かしら?」

「ん? あーあれかぁ。いい出来栄えでしょ? お燐が色々と加工したものを譲り受けたのよ! もうお燐ったら嬉々として私に譲ろうとするからねー」

 

 死体人形を指差しながら楽しそうに語るこいしちゃん。話から想定するにあれはもともと火車のものだったようだ。あいつってそんなに手先が器用な妖怪だったのかしら? ぶっちゃけそうは見えないけど。

 それにしても美少女と死体ってのも中々オツなものよねぇ。最初は不気味に感じてた死体だけど、こいしちゃんと話してるうちになんだか可愛く見えて……くるわけないか。さすがに気持ち悪い。

 

「そうそう死体だよ! 私がゆかりんに見せたかったのって!」

「へ、へぇそうなの」

 

 宝石のように輝く瞳をより一層煌めかせて、こいしちゃんは興奮しながら私の手を取る。そしてどうリアクションしていいか分からなくてオロオロするしかない私の図である。

 いや、だって……ねえ? 私は別に死体愛好家ってわけじゃないし。そりゃ妖怪として生を受けた以上、本物の死体を見たこともあるし、時にはこの手でそれを築き上げたこともある。私のこの光り輝く美貌に羽虫の如く釣られた野党なんかを返り討ちにした時とかね!(ドヤァ)

 まあ昔話は割愛。

 

「それにしてもよくできてるわね。一種の美しさすら感じるわ」

「えへへ、やっぱりゆかりんもそう思う?キレイだよねー」

 

 ごめんねこいしちゃん……今のお世辞なの。流石にそうは思えないわ。

 けどこいしちゃんの不思議な感じが変に噛み合ってネクロファンタジー的な独特の雰囲気を感じさせることは事実。

 私はうんうんと頷くしかないのだ。

 

「けど私はまだまだ満足してないの。だってほら見て? まだあの子は一人しかいない。一人だけじゃ私もあの子も寂しいよ」

 

 うん、こいしちゃんは感受性の強い子なのね。確かに独りぼっちは寂しいわ。

 だけどあの死体人形の苦悶の表情を見るとなんかそれ以前の問題のように思えてくるの。あれって寂しがってるんじゃなくて苦しがってるんじゃ……。

 ま、まああれを作った当の本人から譲り受けたこいしちゃんが言うんだからあれは寂静の表情なのね。そう思い込むことにするわ。

 

「確かに。こんなにも壁やタンスの上にスペースがあるんですもの。他にも色々と飾ってあげてもいいかもしれないわね。例えば猫とか鼠のとか」

 

 別に趣味を否定するわけではないけど、私はあんな人体模型擬はこいしちゃんには少しばかり早いと思うのよ。こいしちゃんぐらいの年頃の子はミッ○ーマウスとかピ○チュウとかドラ○もんとかの人形を飾ってた方がいい。うん、絶対いい。

 

「なんなら持ってきてあげるわよ? うちにも色々とあるから」

 

 ミ○フィとかハロー○ティとかね。可愛い人形と戯れる美少女こいしちゃん……夢が広がりんぐじゃないの!

 

「ふふ……それもいいかもしれないね。だけどそんなのじゃダメなの。私が心の底から欲しいのはたった一つだけ。それさえ手に入ればもう何もいらないんだから!」

 

 へえそうなのね〜。ならそれとなく聞いておきましょ。誕生日かクリスマスにプレゼントしてあげれるようにね!

 

「それで、他でもない貴女が望むたった一つのもの……それはなにかしら?」

「流れるように艶やかな長い金髪」

 

 ふむふむ金髪……金髪? カツラでも欲しいのかしら。私は緑の髪も好きよ?

 

「その紫色の輝く瞳」

 

 紫色の瞳? えっなにそれ。カラーコンタクト?

 

「全部、全部よ! その全部が欲しいの! ねえゆかりんいいでしょ?」

 

 こいしちゃんはゆらりと立ち上がると私へとそう訴えかける。う、うん一回落ち着こう? ね?sit-down!sit-down!

 だが私の(心の中での)制止も空しく、こいしちゃんは止まることなく私へと向かって徐々に近づいてくる。

 深く被られた帽子から深緑の光が不気味に溢れる姿に、私は曲がりなりにも彼女が妖怪であることを再認識させられた。えっと、なんか怖い! けど悪意は感じないし……ゆかりん困っちゃう!

 

 そして、彼女の手のひらが私の胸へと伸ばされ────

 

「紫いるー?」

 

 張り詰めた空気を壊すように、ハリのある声が部屋に響いた。こいしちゃんの危ない瞳から目をそらすようにそちらに目を向けると、フランがドアノブに手をかけこちらを見ていた。その後ろにはさとりの姿も見える。

 フランはキョロキョロと部屋中を見たあとにこいしちゃんへと焦点を合わせた。

 

「わお、幻想郷はすごいのね。まるで狭間の存在のバーゲンセールだわ。肉眼じゃ何にも見えないし……すごいすごい!」

「……あれ、見えてる?」

 

 一触即発を感じさせる剣呑な雰囲気を孕んだ空気がまた再び部屋に充満したような気がする。いつかは合わせてみようと思ってた二人だけど、もしかしたら相性がすこぶる悪かったりして……?

 交錯する二つの視線からは火花が散っているような激しいものを感じた。

 

 見つめ合う二人の妹は互いにその距離を詰めてゆき……拳を打ちつけあった。そしてビシバシグッグッからの流れるような握手。

 その一連の流れに私は惚けるしかなかった。

 

「……気が合うわね! 私はフランドール・スカーレット! 気軽にフランとでも呼んでちょうだい!」

「古明地こいしよ! はい紅茶」

「わあ、ありがとう! ……マズっ! こんなの飲めたもんじゃないわ!」

「やっぱりー? あはは!」

 

 フランは私が飲んでいた紅茶に口をつけ、顔を顰めるとカップを壁に投げとばす。それをこいしちゃんがケタケタ笑う。……なにこの状況。

 するとツンツンと私の腕をさとりが小突いた。そしてそのまま腕を掴まれると引きずられるように部屋から退出した。

 

 廊下に出るとすぐに、さとりは私をジト目で睨みつけた。養豚場の豚を見る目だ。

 

「フランの心を隅々まで覗かせてもらいました。とんだ脳内フィルター詐欺ですよ、女たらしの紫さん。いえ、八雲ケダモノさん」

 

 そしてこの言葉である。

 女たらし? ケダモノ? 一つとして心当たりがない。ていうかまず私が女だし!

 

「一つとして意味を理解できないわ。虚言もほどほどにお願いしたいわね」

「はい、それですよそれ。貴女の内面と外面があまりにも違いすぎるんです。心じゃバカ丸出しなのに外面はもう取り繕うとかそんなレベルじゃない、もはや別々のものですよ。おかげで心の中まで胡散臭い。貴女の軽はずみな言動がどれだけの人物の運命を狂わせてきたのか……考えるだけでも億劫ですね」

 

 そんなこと言われても賢者としての建前は必要だし。まず私だって本当なら気楽に生きていきたいわよ! 素を出せる場所がトイレと夢の世界しかないんですよちくしょう!

 ていうか誰がバカ丸出しだ!

 

「貴女ですよ。まったくフランもこいしも……厄介な妖怪に捕まったものですね。正直気の毒に思います。ああかわいそうかわいそう」

 

 あ、これってこのままネチネチ言ってくるパターンだ。生憎私はそんなものを進んで受けに行くようなマゾではないのでさっさと退散させてもらうに限る。

 

「……帰るわ。色々と悪かったわね」

「逃げるんですか? 惨めですね。あとお気に入りの茶葉を勝手に飲まれた恨みは重いですよ。この恨みはネチネチと返していきますからそのつもりで。『ごめんなさい』ですか? 許しません」

 

 安定の追い打ちである。

 

「そうそう、フランは定期的にここへ連れてきてください。まだまだ不安定な部分がたくさんあって経過を見守りたいので。どうやらこいしともうまくやれているようですし。……似た者同士はやっぱり惹かれ合うものなんでしょうね」

 

 これからは定期的にここに来ることになるのね……。さとりが遠回しに私に向かって死ねって言っているのは明白である。

 うん?ちょっと待って。フランとこいしちゃんが似た者同士……? も、もしかして!

 

「まさか、貴女もDVをしてるんじゃないでしょうね?」

「……はぁ」

 

 さとりは大きなため息を吐くと、今日一番の冷たい目を向けて言い放った。

 

 

「死んでくれませんか?」

 

 解せないわ!

 

 

 

 

 

 

 

 フランを連れてスキマをくぐった。こいしちゃんは別れ惜しそうに手を振り、フランもそれに合わせて振り返す。今日1日で随分と仲良くなったのね。引き合わせた私としては嬉しい限り。

 途中までのこいしちゃんにはどこか危ない雰囲気が出てたけど、最後には元に戻っていた。結局アレはなんだったのかしら。一番欲しいものも最後まで聞けなかったし。

 

 

 スキマを抜けるとそこは紅魔館だった。

 ……あれ、紅魔館って吹っ飛んでなかったっけ?

 

「あっ、妹様!おかえりなさいませ。紫さんもご苦労様です」

 

 にこやかな笑顔を浮かべた門番がこちらへ近づいてくる。その背後では地面から4本の足が植物のように生えており、緑髪の妖精が頑張って引っこ抜こうとしていた。なんともカートゥーンな風景である。

 そんな私の視線に気が付いた門番が聞いてもいない答えを勝手に言ってくれた。

 

「ああ、あれは侵入者ですよ。といっても妖精と雑魚妖怪ですけどね。あいつら弱いんですけどいくら潰しても湧いてきますから地面に刺してるんです。しかしこれではおちおち休憩も取れませんよ。どうにかならないものですかね?」

「私に言われても困るわ」

 

 逆に言えば因縁つけられるようなことをしたあんたたちが悪い。嫌なら静かに暮らしなさい。いやホントお願いします。

 ていうかあの突き刺さってる二人ってチルノとルーミアじゃない? 幻想郷A級危険物の。どっちとも大妖怪を逸脱したレベルなんだけど。”雑魚”妖怪……ね。

 いや、今はそんなことはどうでもいい! なんで紅魔館が建ってるの!? 木っ端微塵だったじゃない!

 

 そんな私の疑問に気づいたのか気まぐれなのか、またもや門番が聞いてもいない答えを勝手に語ってくれた。

 

「変わり映えがないでしょう? あんなの(紅魔館)を欧州の各地に建てまくったお嬢様の気がしれませんよホント。まあそのぶん館が壊れても建てた分のスペアを持って来ればいいだけですから便利といえば便利なんですけどね。ただ悪趣味なのがちょっと……」

 

 いやどんだけ外の世界で好き放題やってたのよ。まずそんな簡単に結界を超えられちゃこっちが困るんだけど。あっ、あいつらには関係ないか。

 と、ここで私の妖力探知がこちらに接近する巨大な妖力を捉えた。これは……

 

「あら、先に帰ってるじゃないの。どうやら逃避行は私の思い過ごしだったみたいね。よかったよかった」

 

 やっぱりレミリアのものだったようだ。メイドを傍らに携えて降り立ち、ホッと安心したように胸をなで下ろしている。見間違いかもしれないけど随分と彼女の雰囲気が変わったような気がするわ。

 

「八雲紫。フランを連れ出すのは……まあいいけど、せめて一言言ってからにしてちょうだい。突然いなくなったから気が気じゃなかったのよ。もしものことがあれば幻想郷の存亡に関わるわよ?」

 

 おおう、幻想郷を引き合いに出してきたか。つまりこれってアレでしょ? 「フランに傷一つでもついてたら幻想郷を滅ぼすからよろしく」ってことでしょ? いつの間にこんなに過保護になったのかしら。フランをいじめていいのは私だけ! 他は手を出すな! っていうベジータ理論?

 まあ突然いなくなったのは状況が状況だったし? それに帰りが遅くなったのはフランの意志を尊重したからであって云々……。

 

「まあいいわ。フランを取り巻く気質が変わってる……っていうより昔のものに近くなってるのは貴女のおかげなんでしょ? あんなにぐちゃぐちゃだったあの子の運命も今じゃ手を取るように見えてしまう。……貴女には感謝してもしきれない」

 

 レミリアは美鈴と談笑しているフランを見ながら感慨深げに語った。

 感謝なんていいからもう二度と異変を起こさないで欲しいわ。私はそれだけを切に願う。別に出過ぎた願いってわけでもないわよね。

 レミリアはそれだけを述べるとメイドとともに紅魔館へと向かった。すれ違った時にメイドの舌打ちした音は聞き逃さなかったわよ!

 

「……あっ、言い忘れてたけど」

 

 くるりとレミリアが振り返る。

 

「しばらくは身を隠してた方が身のためよ。霊夢がやけに殺気立ってるからね。あれの相手は流石の私でも御免被るわ」

 

 霊夢のツン期が箆棒に長く感じる今日この頃。雪解けのデレ期はもうすぐだと思うんだけどねえ。

 ていうかあのレミリアが私に助言ってなんか嫌な感じがする。運命を見れるから信憑性は高いんだけど人となりが壊滅的だから。

 その後レミリアは見返りを求めるわけでもなく門をくぐり、近くにいた門番の腰を突拍子もなく蹴り上げる。門番は高速前転しながら地面を転がり、霧の湖に大きな水柱を作った。

 

「門番風情が悪趣味とはよく言ったものね。デビルイヤーは地獄耳よ、覚えときなさい。さあフラン戻りましょ」

「うん。じゃあね紫!」

「さようならフラン」

 

 遠い目で手を振りながらフランを見送った。吹っ飛んだ門番については気にしない。だっていちいちツッコンでたらキリがないもの。そろそろスルースキルを完全マスターしなきゃ流石に持たないわ。

 まあ一つ言えることは、これからのレミリアへの悪口は心の中だけにしておこう。うん。

 

 さて、やることも終わったし……これからどうしましょうかね。取り敢えず住むところを決めないと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 取り敢えず幻想郷西南部のなにもない荒野に降り立った。本当はこの辺りには肥沃な森林があったんだけど吸血鬼異変の時に色々あって消し飛んじゃったらしい。いや、ホント何があった。

 

 しかしこれで全てのツテは消滅した。いや、他にある事にはあるけどそれは私の胃が死ぬこと前提の場所だ。つまり元々の候補には入らない。ぶっちゃけ野宿の方が幾分マシってレベルね。

 

 ……ていうかもう野宿しちゃおうかしら。この南西部に強力な妖怪がいるって話は聞いたことないし、あの連中にしてもこの場所でごく僅かにでも遭遇確率があるのは幽香とブン屋だけだもん。霊夢もまさか賢者ともあろうものが野宿してるなんて夢にも思わないだろう。住んでみれば案外都かも。

 

 よし決めたわ。私野宿する! 萃香が再建を終える数日後までなんとか生き抜いてみせる! だから萃香様、早くお家を建ててください……お願いします。

 テントなどをスキマからポンポン出してゆく。これらは全て外の世界から取り寄せたものだ。元々持っていたものはあったけど多分幽香パンチで消し飛んじゃったと思うから。

 

 ぶつくさ不満を呟きながらテントの組み立てにかかる。しかし慣れないもので中々立たない。最近の物はどうにも細々しててねぇ、もっと単純化できると思うんだけど。

 ……やめにしましょう。こんな面倒くさいことやってらんないわ。

 まずそもそもなんで幻想郷の賢者である私がこんなレジャーなことをしなきゃならないのよ。おかしいでしょ。

 藍ならすぐにテントぐらい立てれるだろうけどそんなことを頼むわけにはいかないし……寝袋だけで我慢しましょう。

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐く。なんだってこんなことになってしまったのかしら。私はただ平穏に暮らしたいだけなのに。失くせば募る哀愁の思い。

 いや、気を持ち直しましょ! 数日、たった数日頑張ればまた元の生活に────

 

『もしもーし。紫いるー?』

 

 あ、萃香から念話がきた。この頭に直接語りかける念話は妖術の一種らしいけど、私には使い方がよく分からない。まあ私には携帯電話とかがあるから無用の長物だけどね。……橙に使えて私に使えないっていうのはちょっと悔しいけど。

 

「いるわよ。どうしたの?」

『えっとねー、今貴女の家があったところに着いたんだけど……こりゃ酷いね。倒壊どころの話じゃない。家を建てるだけならすぐなんだけど……空間の修復は専門外だから時間がかかるよ? 大体数週間ぐらいかな?』

 

 ……うん? 空間の修復?

 どゆこと。

 

『高密度エネルギーの爆発のせいでスキマ空間が破れかかってるんだよ。こりゃ重症だね』

 

 こ、高密度のエネルギー? そんなの心当たりなんて……ってあったわ。霊夢の夢想封印をスキマ空間に放置したまんまだったわ。

 あーなるほど。私のスキマ空間なんかで霊夢の夢想封印を押さえこめるはずないものね。納得納得。

 

 じゃ、ないッ!!

 数週間って……数週間って!?

 

「も、もう少し早くならないものかしら?」

『流石に無理だね。まず空間系統は私の専門外だし、数週間でも私の出せる最高速度だよ。まあ自己空間を作り出すといえば仙人だけど……知り合いとかいないの?』

 

 いないことはないけど……あの人はちょっとね。色々と面倒臭いというか、嫌われてるっぽいっていうか……。

 

『ま、私に任せるんなら数週間はかかるよ。タダでやってあげるんだから文句はほどほどにしといとくれ』

 

 タダより高いものはないけどね!どうせ今回の貸しを使ってうちに転がり込んでくるくせに!私は分かってるんだからね!

 しかし萃香以外に頼める人物がいないことも事実……。彼女に頼むしかない。

 

「……分かったわ。その代わりしっかりと頼むわよ? 風見幽香に殴られても壊れないくらい頑丈に作ってちょうだい」

『そりゃ勘弁してもらいたいね。それじゃあ作業に取り掛かるとしようか。────────あっちょい待ち』

 

 少し間が空いて萃香が念話をよこした。

 

『この数週間はスキマを使わないでおくれよ。空間に少しでも穴を開けられちゃ作業に悪影響が出るからさ。それに色々と圧縮したりするから無闇にスキマを開けると吸い込まれてバラバラになる。あっ、もちろん紫がね。そういうわけで不便だろうけど我慢してね。そんじゃ』

「ちょ、ちょっと待っ────」

 

 私の制止も空しく、ブツッという無慈悲かつ無機質な音が頭に響いた。なんだろう、夏なのに肌が冷たく感じる。

 改めて萃香と通話しようと思っても私からじゃ念話を使えないし、萃香は携帯電話なんて持ってないし。まず持っていたとしても繋がらないだろうし。

 藍もまた同じ理由。マヨヒガは空間を別にする場所だから電波が通じないの。しかもマヨヒガまでの道中が危険すぎてたどり着けるか分からない。つまり彼女への助力も期待できない。

 そして頼みの綱の霊夢はテラ反抗期。

 

 数週間……この状況でスキマなし……?

 もしかして→詰み?

 うわぁ……軽く10回は死ねる。いや、運が悪ければ50回は死ねる。新事実、幻想郷はホンジュラスだった?

 

 ……仕方ない。こうなったら恥を惜しんで紅魔館に厄介になろう。雑用でもなんでもしますから住まわせてくださいと。ていうか紅魔館以外にここから無事にたどり着けそうな場所がない。

 

 そう、数週間だ。数週間だけ生き残ればいい。別段難しい話じゃないわ!私は泥水啜ってでも生きてやる!

 

 

 

 

 だが私は数十分前まで確かに存在していた紅魔館の消失現場に立ち会い、元の荒野へと回れ右をすることになる。

 だって氷漬けになった紅魔館が闇に沈んでたんだもん! なお元凶であるチルノとルーミアは紅魔館の誰かのレーザーによってバラバラに消し飛んでいた。

 

 

 

 

 荒野へとんぼ返りした私は空を見上げる。散りばめられた星々が私へと降り注ぐ。灯りの少ない幻想郷の夜空では、外の世界では失われた輝きをこれでもかと彩っていた。

 夢と見間違うような美しい光景だが、今私がいるのは夢の世界ではない。現実の世界だ。明日からも、これからも。

 

 さて……明日からのご飯どうしよう。

 

 

 

 ──ゆかりんサバイバルライフ終了まで

 あと23日と13時間。

 

 




それなりに質問があったので作者なりの評価基準。

E これが…大妖怪…!
D うん…うn!?
C 論外
B good-bye日本
A 宇宙の法則が乱れる!
S

ルーミア…D→?
大妖精…E+
チルノ…C
美鈴…B→?
小悪魔…C+
パチュリー…B+
咲夜…B+
レミリア…A
フランドール…A−


ゆかりん…E−

こんな感じです。なんで日本がgood-byeしてないかは次回あたりに少し触れるかと。ちなみに作者は1面ボスが大好きです。ロ、ロリコンちゃうねん!
次回は吸血鬼異変について。これが終われば東方荒魔境は終了となります。

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