幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで 作:とるびす
メリーと魔理沙と香霖堂
私は美少女賢者 八雲☆紫!
幼馴染で式神の「八雲藍」と幽々子の家に遊びに行って、たまたま春雪異変の真相に感づいてしまった。そして自分が助かることに夢中になってしまっていた私は、どこからか忍び寄っていた桜に潜む妖怪の魔の手に気がつかなかった!
私は意識を奪われ、気がついたら……ロリが付く子供になっていたのよ!
八雲紫が生きてると藍や幽々子にバレたら、またあの子たちに命を狙われ、かわいい我が身に危険が及ぶ! 咄嗟の機転で正体を隠すことにした私は、『森近霖之助さん』に『ギリシャ出身のメリーちゃん』と名のり、協力者を得るためにその霖之助さんが営んでいる香霖堂へと転がり込んだ。
私の正体は霖之助さんにもまだ知られていない。知る由があるのは心を読む畜生ロリの『古明地さとり』と、私をこんな姿にした張本人だけ……。
各地の情勢は依然として謎のまま……!
「見かけはロリでも頭脳は明晰! 小さくなっても心は同じ! その名も、大賢者メリー!」
とまあ……あらすじはこのくらいにして。
霖之助さんは私が思ってた以上に変人だったわ。だっていくら「ここで働かせてくれ!」って頼み込んでも頑なに断ってくるのよ。
今の私は超絶美少女のゆかりんなのよ? どんな枯れた男だってこんな可愛い女の子に頼まれごとをされたら引き受けるでしょ普通!
まさかおっぱいか? おっぱいが欲しいのか!? って言ったらさすがに怒られた。
まあ確かに、いつものボインボインゆかりんだったなら断られるのも分かるわ。だってあんな絶世の悩殺美女と一つの屋根の下なんて男の人が耐えれるはずがないもんね! ……霖之助さんってどこか枯れてるように見えるけど。
そんなこんなで断られたのだが、こんな優良物件をみすみす逃すわけにはいかない。ていうかそもそも香霖堂から出ていくのはなんとしてでも避けなきゃならないわ。
だって香霖堂から一歩外に出ればそこは魔法の森。どんな危険が待ち受けてるか分からないし、なにより森から流れてくる瘴気でアウトだもん!
と、いうわけで。
今の私は見た目は子供、頭脳は賢者! 心そのまま紫ちゃん! つまり体は退行したけど知識、記憶、思考力はそのまんまなのよ。
この頭をフル回転させて私を売り込む! 媚びて媚びて、媚びまくってやるわ!
輝かんばかりに眩しい笑顔! とても甘ったるい猫なで声! そしてトドメに裾を少しだけたくし上げて服をフリフリ!
賢者のプライドなんか関係ない。私は生きるために幼女メリーを演じ切るわ!
「ほら〜こんなに可愛い女の子が看板娘になったらこのお店も大繁盛よ?」
「遠慮しておこう。まず君が居たところで客が来ないんだから看板娘が居ることすら認識されないだろう。それに……まあないだろうが、もし客が増えたとしても僕にとっては大迷惑だ。
「いやいやいや……」
ならなんで店なんて開いてんのよ。
やばい……霖之助さんの変人具合が私の想像をはるかに凌駕しているわ……! 幻想郷でもそうそうこのレベルはお目にかかれないわよ。
くそぅ、表情筋が疲れた! いつもはちょっと口の端を上げているだけだものね。慣れないことはするもんじゃないわちくしょう。
悩殺作戦はダメ。となれば素直に賢者らしく謀略で……と言いたいところだけど、全然いい案が思い浮かばないわ。
ぬぐぐ……私の賢者力はこんなものだったの? いつも逆境は口先で切り抜けてきたじゃない! 今こそ力を発揮する時よ八雲紫!
……あら、そういえば思い返してみるといつも藍に助けてもらってばっかで、私なんにもしてないや。……あれれ、賢者ってナニ?
うー……なんか劣等感と知恵熱で頭がぐるぐるしてきた。賢者マインドと賢者ブレインが悲鳴をあげてるわ。空腹と吐気が同時に来るような嫌な感じ。
……もしかして私が気づいてないだけでこの二つも退行してたりとか? それってまごう事なきただの幼女じゃない。
「メリー君、疲れてるなら奥で休んでたらどうだい? 僕は鬼じゃないからね、今日明日に出ていけなんてことは言わないさ。居住は勘弁だがね」
霖之助さんが気を利かせてくれた。変人は変人でも常識のある変人なのね。若干見直したわ。少しだけ私の中での株が上がったわよ。
多分起きたばかりっていうのもあって体調がすぐれないんだろうし、ここはお言葉に甘えましょう。だって八雲紫は眠る事が大好き。
「う、うん……お休みなさい」
体格が変わって歩きづらさを感じながらもえっちらおっちら歩く。しかし物が散乱している事もあってか、足を踏み外して転んでしまったわ。
ちゃんと受け身は取れたから痛くはなかった。
「あー……物は壊さないように。案外精密な物が多いんだからね」
「はいはいすみませんでし───うべっ!?」
瞬間、私の脳天に中々質量のあるものが落ちてきた。うーん西のカバさん東のお空へ飛んで行くー……。うぅ……たんこぶができちゃった。
賢者の頭には知識という名の財産が詰まってるんだからね……気をつけないと。それにしても一体何が落ちてきたのよ。
「これは……セ○サターン?」
「……ほう?」
そりゃ頭にセガ○ターンが落ちてきたら痛いわ! ナイトキャップが無かったら即死だったわ! ていうかついに○ガサターンが幻想入りする時代になったのね。
外の世界は日進月歩……記憶と古きは風化し、懐古と新しい物だけが世を作り上げてゆく。……なんだか寂しいわ。
急展開に次ぐ急展開の挙句、頭が痛いし気分が悪いし、おまけに悲しい。
私の体と心はもうボドボドだ!
寝るっ! お休みっ!
不貞腐れながら布団に入った時だった。勢いよく香霖堂の扉が開け放たれ、来店を告げるベルが慌ただしく何者かの来訪を鳴らす。
私からは置物や霖之助さんの背中でその人物が分からないのだが、その正体はすぐに理解できた。決め手はその口調だ。
「邪魔するぜこーりん」
「文字通り、かい?」
〜〜ぜ、なんて語尾を付ける女の子なんて幻想郷には一人しかいない。外部からの来訪者に一人だけ彼女以外にも語尾に『ぜ☆』を付ける女の子は見たことあるけど、まあそれっきりね。
お目当の霧雨魔理沙がやってきたのだ。こりゃ運命の女神様が私に微笑んでるとしか思えないわね! 日頃の行いの賜物かしら?うふふのふ!
どうやら霖之助さんの話しぶりでは互いに面識があるみたいだ。取り敢えずここは身を引いておいてタイミングを見計らおう。二人の関係が気になるし!
「おいおい私は邪魔なんかしないだろう? 人聞きの悪いことはやめてくれ。……ところで、今日は頼みごとがあって」
「ふむ……一応聞いておこうか。昨日の新聞で大体察しはつくがね」
「悔しいがご明察だ」
昨日の新聞って【激震!八雲紫
「……スマン、これだぜ」
ガシャガシャ、と金属の散らばる音がする。
霖之助さんの息を飲む音が聞こえた。
「ミニ八卦炉をここまで砕かれたのか。鬼に殴られても耐えれるくらいには頑丈に作ったつもりだったんだが……いったい何があったんだい?」
「あいつは……握り締めるだけでミニ八卦炉を壊した。いや、それどころか私のマスタースパークすらあいつには全く通用しなかった。……ごめんなこーりん。せっかく作ってもらったのに」
「いいんだ。ミニ八卦炉なんてまた作ればいい。それよりもあまり危ないことには顔を突っ込まないでくれ。新聞を見るたびに親父さんがやつれていってるよ? …僕だって気が気じゃない」
あらら、なんかなんとも言えない雰囲気が……。魔理沙にも複雑な家庭事情があったみたい。……あれ? 魔理沙のお母さんって緑髪の人じゃないの?
ていうか魔理沙のマスタースパークが全く通じないってそれどんな化け物よ!? だってマスタースパークって地核に撃ったら地球を吹っ飛ばせるかもってくらいの代物なのよ!?
幻想郷にまだそんな存在がいたなんて……うっ、お腹が……! うぐぐ……!
魔理沙は若干の不機嫌を含ませた声音で言う。
「耳が痛いな。それでだ、今回お前に頼みたいことっていうのは……」
「ミニ八卦炉の修理だろう?」
「それだけじゃない。そうだな……ヒヒイロカネとやらでコーティングするなりして強化してくれないか? ついでに砲口も拡大させてさ、名付けて『ミニ八卦砲』だ。そんでもって……」
「魔理沙」
夢中に話していた魔理沙を霖之助さんがストップさせる。
グッジョブよ霖之助さん! これ以上の魔理沙の強化なんて幻想郷滅亡の種なのよ! なんとしても頓挫させてちょうだい!
なんて思ってたけど、霖之助さんの口から出たのは予想外の言葉だった。
「君はもうミニ八卦炉を使わないほうがいい」
「……ッ!」
「……うぇ?」←紫
「僕は君の枷になるためにミニ八卦炉を作ったんじゃないよ。君が勝手に思い詰めてしまっているのなら、僕はミニ八卦炉をこれ以上作るわけにはいかない」
「こ、こーりん……」
何この展開。ゆかりん頭がついていかないわ。
え、えっと……なにかフォローを入れてあげたほうがいいのかしら? だけど身内揉めみたいだし……私にできることはないわね。うん。
けどあれか。霖之助さんは魔理沙に異変解決から手を引くよう言ってる感じ? ……幽々子と藍に痛い目にでも合わされたのかしら。新聞が欲しいわ。
なんにしても魔理沙の引退はマズイわよ。言動が色々と雑な魔理沙だけど今じゃ霊夢と並ぶ解決屋だからね。彼女の引退によって幻想郷の脅威に対抗する戦力が減少するのはなんとしてでもさけたい!
いざとなったらフォローに入ってあげましょ!
「あくまでミニ八卦炉は護身用だ。生活に役立つものではあるが、こと戦闘においては君の枷にしかなれない……そう何度も言ってきた。ただ僕はミニ八卦炉を使うなとも、君に人間を辞めろとも言ってないんだ。半端な気持ちであんな異変に挑むべきではないと、そう言ってるんだ」
「……お前も、それを言うんだな。あいつにも散々言われたよ。そして完膚なきまでに叩きのめされた。あいつに対抗できたのは霊夢だけだった!」
悲痛な叫びが狭い店内に木霊する。
魔理沙のナニカにかける情熱が伝わってきた。無関係な私の心の中にまでね。
「……それで、魔理沙は何を目指すんだい?」
───…わからない、と魔理沙は重苦しく呟いた。その言葉に霖之助さんは軽く息を吐き、手を組んでしっかりと魔理沙を見据える。
「漠然と前に進むだけじゃ何も得ることはできない。
うーん、凄いアウェイ感ね。
……何が何だかよく分からないけど取り敢えず頑張れ魔理沙! 私は貴女を応援してるわ!
そしてこれからも幻想郷と私の平穏を守っ───
「私は人間のまま強くなる! そして今度こそ自慢のマスタースパークで
……ふぁ!?
「なんでだゴラァァァッ!!」
「「!?」」
ここで思わず私は話に介入した。被っていた布団を思いっきり跳ね飛ばして全力疾走! そして魔理沙の首元を掴み上げる!
言い間違いよねぇ!? そうだと言ってよマリー!
「だ、誰だお前。なんで香霖堂の奥から……」
「成り行きでうちに泊まらせているメリー君だ。ギリシャの妖怪らしい」
代わりの自己紹介ありがとう!これで心置きなく魔理沙を説教できるわ!
胸倉を掴んでグラグラと魔理沙の頭を揺らす。今の私はロリゆかりんだから見上げる形になってるけど、まあそんなことはこの際どうだっていいわ。
「私がどれだけ貴女を気にかけてると思ってるの!? 貴女が核爆弾を使った時だって庇ってあげたのにぃぃ!! 霧雨魔理沙ゴラァァ!!」
「何言ってるんだお前。……ん? ちょっと口を閉じててくれ」
「話を逸らさな──むぅっ!?」
魔法で無理やり口を閉じられた。まるでチャックされたジッパーのように開かないわ!
火力馬鹿の魔理沙がいつの間にこんな繊細な魔法を使えるようになったの!?
「むぅー!」
「んー……このガキンチョどっかで見たことあるような気がするぜ。フラン…じゃないな。うーむ、しかし”ぎりしあ”なんて行ったことないしなぁ。気のせいか」
「ぐぐ……ぷはぁ! な、何すんのよいきなり! 乙女の唇を奪うなんて!」
デリカシーのなさに定評のある魔理沙らしいっちゃらしいけど……窒息するわ。
ぐぬぬ……さっきの私を吹っ飛ばしたいとかいう旨の供述は多分聞き間違いじゃない。つまり魔理沙は私の味方じゃないってことになるわね。まだ四面楚歌状態は継続していたのか……。
藍や幽々子の差し金っていう線も否定できないわ。魔理沙がこの調子だと霊夢も危ういかもしれない。下手したら幻想郷中に指名手配されてる可能性だってあるわ! 賢者から逃亡人への転落劇ね。
……私にはメリーとして生きていくしかもう道はないのかもしれない。
よくよく思えばこの状況って難易度ルナティックな八雲紫の人生をリセットすることができるんじゃない? これぞ逆転の発想! 窮地をチャンスに変える女!
そうよ、これからはメリーとして一から交友関係を築いていくのよ! 新たな第二の人生で今度こそ幸せをつかむの私!
胸が無くなっちゃったのは辛いけど、代わりに人生を得るなんて素敵ね!
と、いうわけで話の軌道修正よ。
「……まあまあ、今までのは冗談冗談! ギリシアンジョーク! まともに受け止めないでね。あくまでジョークだから!」
「馴れ馴れしいヤツだな。それがぎりしあ流の挨拶ってわけか?」
「そ、そう! 人間も妖怪もみんな
「日本語を話せ。ここは幻想郷だ。……で、なんで私が核爆弾を使ったことを知ってる? 今まで2回しか使ったことないのに。私の名前まで知ってるし……」
「ほ、ほらアレ……貴女って有名人だから! 妖怪退治のカリスマだって聞いてるわよ! その火力に一途な姿に惹かれたの。大ファンよ!」
「そ、そうなのか? なんか照れるな……えへへ」
魔女もおだてりゃ地に堕ちるってね! 魔理沙って自分の努力が報われることがあんまりない幸薄な子だから、褒めてあげると一気に機嫌が良くなるのよ。
そんな彼女のちょろさは巷の妖怪や里の人間達から
気分を良くした魔理沙が朗らかに言う。
「メリーだったか? 初対面だがお前とは美味い酒が飲めそうだな」
「うふふ、そっちが用意してくれるならいつでものるわ。気軽に誘ってね!」
こう言っとけばもう友達よ。これ幻想郷の常識。
酒はみんなを繋ぐ架け橋となるわ。いやあ、お酒って本当に素晴らしい。酒は命より重い…!って萃香とどっかの偉い人も言ってたような気がするし。
その後なんだかんだあって、魔理沙はヒヒイロカネとの等価交換のために家へ帰っていった。そして再び香霖堂にやって来た時、彼女は鉄くずを袋いっぱいに持ってきたのだった。
うわぁさび臭い。香霖堂独特のカビ臭さと合わさってこらもうたまんないわね!
ていうかコレほとんど使い物にならなそうなんだけど……これを霖之助さんって欲しがってるのね……。さすが変人。
……あら? 鉄くずの中に埋もれている一本の刀剣。どっかで見たことあるような?
「ねえ霖之助さん? その剣って……」
「うぐっ…!? な、なんの変哲もない剣だろう? こんなものとヒヒイロカネを交換してあげるんだ。偽善者と呼ばれても仕方ないくらいだね」
「なんで慌ててるのよ。……ははーん? 霖之助さんって相当のワルね?」
「……なんのことやら」
悪い大人の目だわ。昔っからああいう人とか妖怪は、ずぼらなフリして繊細さんなのよ。
魔理沙……貴女って霖之助さんという悪い大人に騙されてるんじゃない? 貢がされてたりしてね。闇が深いのかも……。
純情な魔理沙はそんな霖之助さんの思惑には気づかず、きょとんと首を傾げた。
「何がワルなんだぜ?」
「多分だけどね…あの剣……」
「おっとメリー君! 君はさっきまで寝込んでいたんだから大事をとって休んでるといい。──いい子にしているのなら先ほどの
「……お休みなさい」
「はいおやすみ」
悔しい……! だけど嬉しい!
あのしてやったりって顔が気に入らないけど、それを交換条件にされちゃ断れない。
けどあの剣……うーん……。
スッキリしないわ。
まあ、体の調子は全然良くなってないし、素直に休みたいところではあったけどね。
不思議そうに私たちを見る魔理沙とも軽い別れを告げて、私は奥部屋の布団に伏した。
こうしてメリーとしての1日目は過ぎていった。
とまあ…ゆかりんはゆかりんを放棄しましたとさ。幻葬狂がそれを許すとは思えませんが。
霖之助ルートなんてものは存在しないんだ……恐ろしいことにね。俺らの霖之助さんはそこらのラノベ主人公とは一味違うぜ!
香霖堂の原作ロリゆかりんが愛おしい。個人的には萃夢想ゆかりんの次に好き。