幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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ディストピア、幻想郷の対義語


無駄なきことのディストピア*

 紅が延々と続く薄暗い回廊。

 等間隔に配置されたキャンドル炎の妖しい揺らめきが侵入者の不安を掻き立て、それがまるで同じところをループしていると勘違いしそうなほどに単調で一人迷宮に取り残されたような錯覚に陥らせる。

 外観と比べても紅魔館の内装はとにかく広い。

 もはやこの規模は館ではない。まさに城…いや、都市と言っても過言ではあるまい。

 

 その攻略は勿論容易ではないのだが…今のところ霊夢、魔理沙ともに特に問題なく紅魔館を闊歩していた。そこんじょそこらの妖精たちとは一味も二味も違う、訓練されたメイド妖精が次から次に二人へと襲いかかるが苦戦するわけもなく一蹴してゆく。

 

 霊夢は持ち前の博麗の巫女としての勘を頼りに迷うことなく別れ道、通り部屋、隠し通路を突き進んでゆく。その歩みは着実に紅魔館の主人へと近づいていた。

 

 一方の魔理沙…彼女に霊夢ほどの勘はない。それ故に昔より遅れをとり、辛酸を舐めてきた。しかし彼女には霊夢に匹敵するほどの機転の良さがある。魔理沙は紅魔館が普通の館ではないと決めつけるや否や壁をぶち抜き始めたのだ。下手な弾幕も数撃ちゃ当たる…部屋を転々とすればいずれ黒幕に出会えるとタカをくくった脳筋攻略であった。

 

「ん?壁の向こうにでかい空間があるな。ラスボスの間ってヤツか?」

 

 コンコン…と試しに壁を叩いてみると確かにその先には奇妙な空間があることが確認できる。

 魔理沙は躊躇わず壁に向かって弾幕を放った。

 

「ぎゃおっ!?」

 

 爆発とともに変な鳴き声が聞こえたが大して気にとめるまでもない。よっこらせっと壁を乗り越える。

 そして魔理沙はバカに広い空間へと出た。

 ツーンッとどこか黴臭い匂いがする中、ふと見渡すと視界の先には埋めつくさんばかりの本、本、本…。しかもその中には強力な魔導書も紛れ込んでいるようだ。

 魔法使いの魔理沙としてはまさに宝の山。魔理沙の内から暇潰しの異変解決という大義名分は消滅し、代わりに魔法使いとしての飽くなき探究心が湧いてくる。

 

 そうだ、()()()()

 霧雨魔理沙の異変解決は終了した。

 

「まあ異変は霊夢だけでどうにでもなるからな。今回はパスして次の異変で頑張ればいいさ。そうと決まればさっさと借りてトンズラするとしよう」

 

 魔理沙は空間魔法によって自宅から麻袋を取り出すと手当たり次第にポイポイポイと本を雑に詰め込んでゆく。

 この麻袋、実はとある場所からの頂き物で容量に制限がないのだ。まさに四次元ポケットである。レンタルする際の道具としてはちょうどいい代物だ。

 

「ははは、宝の山だなこりゃ! 時空魔法で図書館ごと家に持っていてやろうか…我ながらいい発想だ」

 

 ごきげんごきげん、気分有頂天。

 魔理沙がとんでもないことを言い出したと同時に背後より呻き声が上がる。先ほど奇妙な叫び声を出していた人物だろう。

 紅い長髪で頭と背中に悪魔然とした羽、白いシャツに黒褐色のベスト、ベストと同色のロングスカートで、ネクタイを着用している。

 ぱっと見で悪魔とわかる優しい格好だ。

 

「いたた…痛覚をシャットアウトしてないっていうのに…。いったい全体、なんなの?」

「おっ、ここの図書館の秘書さんか?悪いがここらの本、全部借りていくぜ」

「は? 何を言ってるんです? ダメに決まってるでしょう」

「あっそう」

 

 魔理沙の陽気な貸借宣言に悪魔は当たり前のようにノーを出した。魔理沙はそれに対し心底残念そうな顔をすると…

 八卦炉から放ったマジックフレイムによって()()()()()()()()。暴虐、ここに極まれり。

 そのマジックフレイムの火力はロンズデーライトすらも一瞬で焼き尽くす。魔法耐性のある悪魔とはいえそれほどの火力を受けては塵すら残るまい。

 

「よし、五月蝿いのがいなくなった。そんじゃレンタル再開といこうかね」

「…………だから、先ほども言った通りここの図書館にある本は貸し出しできるような代物ではありません。さっさとお帰りになりやがってください。あと図書館は火気厳禁ですよ」

 

 静かになった図書館に再びハリのある声が響く。魔理沙が面倒くさそうに振り返ると、そこには先ほどと姿の変わらない悪魔がいた。

 

「なんだ…別個体か?」

「いえ同個体です。魔素で体を構成しているからいいものの…あっそうで小悪魔を焼き払うなんて…これだから魔女という連中は嫌いなんですよ。血も涙もない悪魔め! あ、けど貴方の魔力は美味しかったですよ。ご馳走様です」

「あっそう」

 

 殺しても死なないなら意味がない。

 魔理沙は本格的に小悪魔を無視し、本の物色作業へと戻った。あまりの勝手すぎる行動に小悪魔は頭を押さえる。

 恐らく彼女はこれまでにも魔女に振り回された経験があるのだろう。というより現在進行形で振り回されているのかもしれない。

 

「あのー…ちょっとー? もしもーし? 聞こえてますかー? えくすきゅーずみー?」

「うるさいなー。まだなんか用があるのか?」

「悪魔の話を聞いてますか?」

「悪魔の声には耳を貸すなってのは魔法使いの常識だぜ。私もお師匠様にそう教え込まれた。おっとっと、耳を貸しちゃいかん」

 

 小悪魔は困ったように顔を顰めると…ため息を吐く。そしておもむろに手を魔理沙へと伸ばし、魔力を充鎮させてゆく。そのあまりの濃度に空気は淀み、呪が撒き散らされる。そして大悪魔ですら受ければ一撃で葬れそうなほどの呪いが一瞬で作り上げられてしまった。

 だが魔理沙はお構いなしにポンポン本を麻袋の中に詰め込んでゆく…真後ろに濃厚な死の気配が迫っているにも関わらず。

 

 最初は神妙な面持ちで魔理沙へと呪いを向けていた小悪魔であったが…やがて諦めたかのように俯き、呪いを己の身に吸収した。

 

「…もうわかりましたからここの責任者に許可を取ってください。そしたら私はもう何も言いません。許可をもらえたのなら本を袋に詰めるのを手伝ってあげてもいいです」

「ほう…そうか。そうゆうことなら仕方ないな、許可を取りに行くとしよう。その責任者とやらはどこにいるんだ?」

「案内します」

 

 言われるがままに小悪魔について行く現金な魔理沙。図書館も紅魔館の内装と同じくやたらデカイ。しかしそれほどの大きさでありながらも本棚は所狭しとひしめき合っている。そしてその本棚の全てに魔導書を始めとした書物がこれまた所狭しとひしめき合っている。

 これらのものがいずれ自分のものになる。

 魔理沙は笑みを抑えられずにはいられない。

 

「ところで悪質な魔法使いさん。あなたの魔力は中々の美味ですし、なんか懐かしい感じがするんですよね。私たちってどこかで会いましたっけ?」

「会ったとしてもお前みたいなやつはすぐ忘れちまうだろうな。多分気のせいだろうよ」

「そうですか。しかし…本当に美味しいですねぇ、あなたの魔力は。その魔力を毎時私に注ぎ込んでくれるなら使い魔になってあげてもよろしくてよ?」

 

「いらん」

「そ、そうですか…」

 

 たわいのない話をしながら図書館を歩く二人。やがて中々開けた場所にまで歩みを進めた。

 その空間の中央には山積みの本、一脚のランプ、そして本を読み耽る紫の魔女がいた。

 

「偉大なる魔女、パチュリー・ノーレッジ様。お客人を連れてまいりました」

「……客人? ………ああ、例の彼奴」

 

 パチュリーは魔導書から目を離さずに答えた。

 その態度…魔理沙は気に食わない。そうそうに目の前の魔女、パチュリーは相当に陰険な奴だと決めつける。

 

「貴方が来ることは知っていたわ。私の友人の予言めいたもののおかげでね」

「ほう、そりゃ興味深いな。それでそいつは他になんか言っていたか? 例えば…これからの展開とか」

「ええ…言ってたわよ。黒白のエセ魔法使いは自分の元にはたどり着けないってね」

「はっ、確かにあたしはもう異変解決に行く気はないからそいつの言う通りかもしれん。しかしそいつはエセ占い師だな。手口が詐欺師のソレとほとんど一緒だ。お前は騙されてるぜ」

「…と泥棒まがいの詐欺師が言うのね。なるほど」

 

 言葉の応酬。知らず知らずのうちに両者の口論が熱くなっていった。

 しかし、やがて魔理沙は一度平静を取り戻す。こちらは本を借りる側である。粗相な態度をとるわけにはいかない。

 

「私のことを詐欺師と言ったことは許してやる。その代わりにここの本をありったけ貸してくれよ。いいだろ?」

「返却は何時で?」

「私が死んだ時だ」

 

 魔理沙は悪びれもせず答えた。パチュリーは眉を顰め、その様子を見た小悪魔は目を見開きその場から急いで退避する。

 パチュリーがパタンと魔導書を閉じ初めて魔理沙を見やると、素っ気なく言い放った。

 

「帰れ」

「断る」

 

 開幕の狼煙は魔理沙の極太ビームからである。

 凄まじい爆発音とともに大図書館は衝撃と発光に包まれた。まともに魔理沙のビームを受けて耐えきれる者はそういないだろう。しかし、そうはいないだけでいることにはいる。目の前に存在する魔女もまた、その一人なのだ。

 

「…精霊呪文か。実にお前らしい、他任せな魔法だな」

「あなたと会ってまだ一分も経ってないと思うんだけど? 出会ったばかりのコソ泥に勝手に性質を決められちゃ終いよ」

 

 パチュリーと魔理沙の間を遮ったのは巨大な緑柱石。俗に言うエメラルドであるが、精霊の手によって相生されたそれは普通の鉱石にない硬度を持っていた。

 土金符『エメラルドメガロポリス』。

 容易く魔理沙のビームを掻き消した瑕疵無き最高級精霊防御魔法のスペル名である。なお攻撃にも使える。

 

「なんの捻りもない爆熱魔法…貴女の魔女としての程度が知れるわね。敢えて言ってあげるわ、この三流魔法使い、と」

「三流…ねぇ。久々に言われたよ、その言葉。

 私の持論を教えてやろう。いいか?魔法ってのは火力だ、魔術ってのはパワーだ。難しいことを考える前に即実行だ。考えるのはやった後からでもいいんだよ」

「…訂正するわ。貴女が間違っても魔法使いとか魔女とか語るのはお門違いというものよ。貴女が魔術に触れる資格なんてない。

 一つ一つの魔法が緻密な計算と術式の織り成す世界の理として顕現している。それがどれだけ崇高なことか分かっているの?」

「知らんな。魔法ってのは手当り次第の努力でも生み出せる。現存する知識を使っていくのもいいが、それじゃ限界があるしな。魔導書なんて嗜む程度でいいんだよ。お前さんみたいに引き篭もって本ばかり読むより、私みたいに健康的な魔法使いライフを送った方が効率もいいし、なにより楽しい」

 

 勝手に引き篭もり呼ばわりされているパチュリーであったが、別にあながち間違いでもなかったのでスルーした。

 しかしそれでも着実に彼女の癪に障っていたのは紛れもない事実であって…対立する二人の衝突は不可避のことだった。

 

「貴女と泰平の話はできそうにないわね」

「奇遇だな。私もだ」

 

 パチュリーはふわりと宙に浮き上がり、紅蓮の魔法陣を展開した。対する魔理沙は懐の八卦炉を握り締め、それを抜き出す。両者の視線と魔力が真っ向から交錯し、放たれる。

 

「火符『アグニレイディアンス』」

「魔符『ミルキーウェイ』!」

 

 二つの膨大な魔力が爆ぜた。

 その爆風に煽られ、本棚とともに吹っ飛ぶ小悪魔はその光景を目の当たりにし、必死の形相で叫んだ。

 

「火気厳禁ーーッッ!!!」

 

 

 *◆*

 

 

 私とガキンチョ…もう面倒臭いからレミリアと呼ぶことにするわ。レミリアとたわいもない話を始めて一時間程度が経過した。話は未だに終わらない。

 そろそろ血とか反吐とか色々吐きそう。

 

「そういえば…あの時のお化けみたいな奴は元気にしてるかしら?」

 

 お化けみたいな奴…?私に聞くってことは私と面識があるってことよねぇ…誰かしら…。

 あ、もしかして幽々子のこと?いつの間に知り合ったの?冥界との間には幽明結界があるから簡単には会えないし、妖夢がこんな連中を通すようには思えないんだけど…まあこいつらに常識を求めるのは間違いね。

 

「ええ元気よ。元気すぎて困るくらい。今日も従者を泣かせてるんじゃないかしら?」

 

 妖夢には本当に同情する。幽々子と共同生活なんて考えただけで気絶ものよ。まあ、橙と藍も大概だけどね。

 

「ふぅん…あいつって嗜虐心ありありって感じよね。いいことを聞いたわ。次こそは一杯くわしてやろう」

 

 手を口に当てクスクスと笑うレミリア。いや、何が面白いの?私全く話についていけないんだけど…

 会話のドッジボールというか…フリスビーというか…。

 ていうかこいつはいつまでそんなたわいのない話をしているの?さっさと用件を言いなさいよ。こちらとて暇じゃないのよ。今にも吐血しそうなのよゴフッ。

 

「…おい! いつまでそんなくだらない話をしているつもりだ! 紫様がお暇を割いて貴様らなんぞに会いに来てるのに…」

「橙、止めなさい」

 

 私の言いたいことをそのまま代弁してくれた橙だが、それをここで言うのは得策ではないわね。いやホントはGJ!って叫びたいのよ?ありがとう橙。

 すると橙の一喝が効いたのかレミリアはスッと目を細めて余裕あり気に言い放った。

 

「あら…いいじゃないの。どうせ何処ぞの陰気なスキマ空間でこの異変の行く末を監視していたんでしょ?そんな所でジメジメネチネチ観戦するよりも生で見た方が面白いと思うわよ」

「効率性に欠けますわ。何処で見ようと同じことでしょうに…理解に苦しみますわね」

 

 ちょっとした私からのバッシングである。

 

「フフ…スキマ妖怪殿は妖生に余裕がないと見えるわ。永く生きすぎて物事をじっくりと味わう楽しみを忘れたのかしら?無駄こそが美しさ、誰もが思い通りになる便利な世界ほど退屈なディストピアは無いわ。分かるでしょ?」

 

 …妖生が余生に聞こえてビクッとしたのは内緒だ。

 それにしてもこの吸血鬼はやはりガキンチョである。若さがあるうちは新しいものに目移りして気楽にやってりゃいいでしょうけど、私みたいに永く生きるとそのループする生活の中に価値と美しさを見出すものなのよ。そのあたりが全く分かっていないわね。だから私の平穏を返してくださいお願いします。何でもしますから。

 あと橙、クールダウンクールダウン。

 

「まあいいですわ。その辺りは不問にしましょう。ところで、この異変はあとどのくらいで解決させてくれるのかしら?」

「さあね、もしも解決するんならあと数分でこの異変は終わるわ。まあ、今みたいに時間を延ばそうと思えば咲夜に頼んでいつまでも引き延ばせるけど」

 

 今みたいに…? あ、そういえば藍がいつまで経ってもこないわね。あの子ならスキマ空間に私たちが居なかったら真っ先に飛んできそうなものだけど。

 なるほど、ここの時間をメイドの力でゆっくりにしていたというわけ。

 あのメイドって本当になんでもありなのね。

 あと数分ってことは霊夢がここに来るのも時間の問題。異変解決モードの霊夢に出くわしたら退治されかねない。さっさと離脱するに限る。

 

「それでは、私はもう帰っても?」

「まあちょっと待ちなさい。博麗の巫女は貴女が育てたのよね? ウチの育てたメイドと一騎討ちをさせてみない?」

「あら、死なせたいの?」

 

 驚くほどスパッと口からこの言葉が出てしまった。いや、霊夢に生身で挑むって=死だからね?コーラを飲むとゲップが出ることぐらい確実なことだからね?

 

「ほう言ってくれるじゃないか。どれどれ………ふむふむ、確かにお前の言うことはあながち間違いではなさそうね。完全にそうだとは言わないけど」

 

 でたよこいつの能力。

 こんな能力が存在していいはずがない。

 

「まあ、ものは試しよ。やらせてみるわ」

「結果が分かるのに?」

「結果が分かるからよ。

 咲夜、博麗の巫女の元へ行ってその首を取ってきて頂戴な。紅魔のレベルを見せつけてやりなさい」

「かしこまりましたお嬢様」

 

 負けると分かっていながら戦いに臨む姿はあまりに悲壮ね。同情はしないけど。

 するとメイドがドアノブに手をかけた時、こちらを振り向いた。目は私を鋭く射抜いていた。なに?怖いのだけど?

 

「博麗の巫女は貴女が育てたのですか…。それはもう、愛情を込めて?丹念に?」

 

 なにその「人形の手入れしてる?」みたいな問いかけ。霊夢は全自動殺妖ドールである。私の手に負えるものではない。けど愛していることは事実よ。

 

「ええ、それはもう…目に入れても痛くないほどには。私の娘と言っても恐らく差し支えのない…一番の存在よ」

 

 視界の隅でシュンとなる橙の猫耳が見えた。も、もちろん橙も大好きよ?もうちょっと成長してくれたらもっと好きになれるかしらねぇ?

 藍?あの子はもう自立したわ。

 

「それはそれは…大層気に入っておられますようで…殺しがいがあるというものです」

 

 メイドはいつもの殺気微笑を浮かべ、ドアノブに再び手を掛け扉を開くと…消えた。もはや私としても見慣れてしまったあのメイドのお家芸である。

 結局あのメイドはなにを伝えたかったのか…この賢者と呼ばれし私の頭脳を持ってしても理解不能ね。

 さて、これからどうしましょうか…。やっぱり体調の面もあるし家に帰りたいのが本音なんだけど。

 

「……ねぇ、やっぱり帰っても――――」

「…八雲紫、本題に入りましょう。実のところ、私はこれが聞きたくてお前を此処へ呼び出したのよ。これまでの話は前座に過ぎない」

 

 振り返るとレミリアは先ほどのお気楽な雰囲気を一変させ、重々しいナニカを放ち始めた。目は紅く輝き、傍に置かれていたティーカップが音を立てて砂のように崩れ去った。

 その身から放出する規格外の強者としてのオーラ的なドス黒いナニカが私と橙を包み込む。その圧倒的な死の気配の重圧に私は息が詰まり、身動きが取れない。目の前を見るのがやっとだ。私は相当厳しい表情をしているのではないだろうか。自分が今どんな表情をしているのかも把握できない。

 

 視界隅に映る橙は頬に汗を流しながらレミリアを見据えている。彼女を持ってしてもレミリアを抑えることは厳しいのだろう。いつもの可愛らしい真ん丸の目は細長くなり、橙の強気の姿勢を表していた。

 

 これが、吸血鬼レミリア・スカーレット…!?

 紛れもない夜の王者としての風格。決して私などでは届きえない絶対の支配者。

 私は、死を覚悟した。

 

「嘘偽りなく答えなさい。吸血鬼には嘘も、偽りも、通用しない。勿論、貴女とて例外ではないわ」

「…」

 

 何も話せない。

 喉から言葉が出るのを本能が拒絶してしまっている。

 帰りたい…自分の空間に逃げ込みたい…。

 

「……単刀直入に言うわ」

 

 レミリアは目を細め、若干の怒りを放ちながら言った。

 

「どうして私を生かした?」

 

 

 *◆*

 

 

 ピタリと、全ての動作を制止させた。

 

 たった今、この洋館の何処かで強い妖力が吹き荒れた。その妖力から感じることのできる強大さはこの幻想郷においてもトップクラス。最強の一角を占めるほどのものである。

 

 霊夢は眉を顰めた。

 これほどの規模だ。恐らくこの妖力の持ち主はこの館の主人。しかしなぜこのタイミングで妖力を開放した?考えられることは二つ。

 気まぐれか、戦闘か。

 

 なんにせよ場所は分かった。案外此処から近いところにいるようだ。誰と戦っていようと関係ない。どれほど強かろうが関係ない。

 ただ、退治する。それが巫女の務め。

 いざ、黒幕の元へ足を踏み出し――――。

 

「…」

 

 ()()()()()()()

 目の前には銀髪のメイド。

 勿論、先ほどまではいなかった。

 

「この館は手品師でも雇っているのかしら?」

「残念、ただのメイドですわ。ご期待に添えず、申し訳ございませんこと」

「嘘ね。メイドは手品なんてしないわ」

「あら、しますわよ? 種も仕掛けもない、完璧な手品ですけど、ね」

 

 再び霊夢は()()()()()()()

 

「ここら辺一帯に霧を出してるのあなた達でしょ? あれが迷惑なの。何が目的なの?」

「日光が邪魔だからよ。お嬢様、冥いの好きだし」

「私は好きじゃないわ。止めてくれる?」

「ダメよ。お嬢様の命令だもの。それに私、掃除を仰せつかってるから」

「メイドらしいわね。それでそのゴミは?」

「貴女」

「なるほど」

 

 霊夢はナイフを掴み、握り潰す。

 パラパラと銀が霊夢の手からこぼれ落ちてゆく。

 

「呆れた勘の良さですこと」

「で、殺り会うの?」

「勿論。私怨もあるから」

 




小悪魔

能力
魔術を操る程度の能力

パワー
厚さ35cmの魔道書を小指で軽く引き裂く程度。

スピード
自己転移可能

交友関係
紅魔館の面々
魔界の住人

出会った中で一番強いと思った存在
魔界神


大図書館の司書を務める使い魔。階級的には下の方に当たるがパチュリーの使い魔となったことで大悪魔を一撃で葬るほどの魔力を手に入れた。しかし実際は魔術よりも体術の方が得意な線がある。
魔素が体の成分を占めているのでいくらでも再構築可能。美鈴の能力などで魔素を完全に消滅させる他に倒す方法はない。なお破壊の目はあるのでどこぞの妹様なら殺せる。
性格は良くも悪くも小悪魔的。魔力の美味しさで人の良し悪しを判断している。ちなみに魔理沙はうまい、レミリアは珍味、パチュリーは人工物の味がするという。最近天狗の味を覚えた。
パチュリーに対する忠誠心は高いが日頃の行い故に不満も多い。しかしパチュリーがそれを意に介す様子はない。

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