真・怪人バッタ男 序章(プロローグ)   作:トライアルドーパント

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これにて、『怪人バッタ男』シリーズ一周年記念が終了です。本編とは異なるルートを辿る事となったシンさんの活躍をお楽しみ下さい。


3/3話 私と戦い、『ワン・フォー・オール』を渡すのだ!

古来、バッタの大量発生による蝗害は天災の一つに数えられ、『ヨハネの黙示録』に登場する「奈落の王アバドン」は、蝗害が神格化されたものだと言われてきた。

 

日本でも明治初期に北海道で蝗害が発生し、1880年には陸軍が大砲を打ち込むなどして駆除を務めたが、バッタ達は入植者の家屋の障子紙まで食い尽くし、各地で壊滅的な被害をもたらしている。

もっとも、日本を含む大抵の国では殺虫剤の普及が進み、現代ではまず蝗害が発生する事は無い。

 

しかし、エリが脱走した日の夜。死穢八斎會の本部は、夜空を覆い尽くさんばかりの、大量の巨大なバッタの群れに襲われた。

 

「うわああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「何じゃ、コレはぁああああああああああああああああああああッ!!」

 

「フンッ!!」

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

下っ端の組員達が混乱の極みに陥る最中、機械の様な力強さと正確さで、冷徹に組員を斬り伏せていく、銀色の甲冑を纏った剣士――シャドームーンは単身で殴り込みをかけていた。

その手に持つのは、自身の“個性”で創り出した剣『サタンサーベル』。その刀身は血の様に赤く、刃は満月の光に照らされて妖しい輝きを放っている。

 

「……ムンッ!」

 

見張りを一通り黙らせたシャドームーンは、鍵の掛かっていた扉をサタンサーベルで両断すると、建物の中へゆっくりと歩を進めた。

特徴的な足音がシャドームーンの侵入を組員に知らせる警報になっていたが、そんな事はお構いなしに、シャドームーンは次々と迫り来る組員をなぎ倒し、斬り捨て、真っ直ぐにある場所へと向かって進んでいく。

 

「……此処か」

 

シャドームーンの緑色の両目は『マイティアイ』と呼ばれ、望遠・暗視・広視界に加え、透視能力を備えている。本部の中をこの『マイティアイ』で観察しながら戦っていたシャドームーンは、地下に通じる隠し通路の存在を容易く看破していた。

 

「フッ! ムゥウンッ!!」

 

「「「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああッ!!」」」

 

当然、隠し通路の向こう側に待機していた組員の存在も、シャドームーンには筒抜けである。壁にサタンサーベルを突き刺し、壁越しに三人の組員を戦闘不能に追い込むと、壁を斬って地下へ悠々と降りていく。

 

しかし、順調だったシャドームーンの歩みは、通路の天井・壁・床がまるで生き物の様にウネウネとうねり始めた事で止まる。

 

これは、死穢八斎會本部長、「ミミック」こと入中常衣の“個性”『擬態』によるものであり、強化薬によって“個性”をブーストする事で、膨大な質量を操る事を可能にした結果である。これにより地下は「生きた迷宮」と化し、侵入者は容易に目的地に辿り着けず、鉄砲玉である『八斎衆』との戦闘を余儀なくされる。

 

――本来ならば。

 

「シャドービームッ!!」

 

「ぐわぁああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

シャドームーンが掌から稲妻のような緑色の光線を放射すると、照射された通路が赤熱化して大爆発を起こし、通路の内部に潜り込んでいたミミックは、シャドームーンの眼前へ強制的に引きずり出される。引きずり出されたミミックは辛うじて生きていたが、戦闘を続行する事は不可能であった。

 

「………」

 

湾曲したまま固定された通路を見やり、再び歩き出すシャドームーン。ここまで足止めは全く意味をなさず、シャドームーンにとっては消化試合と言っても過言では無かった。

 

「やれやれ、『攻め込んできたのが一人』だと分かった時は、何処の馬鹿の仕業だと思いやしたが……」

 

「ああ、こんな奴がこんな時代に居るとはな……」

 

しかし、この男だけは違う。死穢八斎會若頭・治崎。「オーバーホール」と呼ばれるこの男だけは、本気で相対しなければならないと、シャドームーンは確信していた。

 

「シャドービームッ!!」

 

「盾」

 

「はッ!」

 

治崎の傍に侍る三人の男が気になるが、シャドームーンは治崎を倒せば統制は崩れると考え、先手必勝とばかりに治崎へ破壊光線を発射するが、発射された破壊光線は半円状のバリアによって全て防がれた。

 

「矛」

 

「オウッ!」

 

そして、ビームを放出し終えた直後を狙い、一人の大男がシャドームーン目がけて突進し、高速の連打を繰り出してくる。

 

「ムゥウウン……!」

 

「! ほう! コレを受けて倒れない奴は久し振りだ」

 

両腕を上げて頭をガードし、強化皮膚『シルバーガード』で連打を耐えきったシャドームーン。それを見て治崎に矛と呼ばれた男――乱波は相手が自分の全力をぶつけても良い実力者だと判断する。

 

「俺は思うんだ。ケンカに銃や刃物は無粋だって。持っていたら誰でも勝てる。そういうのはケンカじゃない。その身に宿した力だけで殺し合うのが良いんだ……分かるかな?」

 

「………」

 

そう語る乱波の視線は、シャドームーンが乱波の攻撃をガードした際に捨てた、サタンサーベルに向けられている。そこで乱波の意図を察したシャドームーンは、サタンサーベルを拾うこと無く両手を構えた。

 

「……来い」

 

「! 分かってくれたか! 良い虫だ!」

 

喜びを露わにする乱波が再び拳を振るい出すと、シャドームーンもそれに応える形で拳を繰り出した。二人の拳と拳はぶつかり合う度に血飛沫を舞い上がらせ、鮮血が赤い軌跡となって、二人の攻防の凄まじさを第三者の目にも明らかにさせた。

 

防御力で言えば、乱波よりも『シルバーガード』を全身に纏ったシャドームーンの方が上で、攻撃力に関してもシャドームーンの方が若干上回っている。

そうなれば乱波の方が受けるダメージが大きくなるのは必然であるが、シャドームーンの方も全くの無傷と言う訳ではなく、シャドームーンの拳には少しずつだが亀裂が生じ、それは徐々に大きくなっていた。

 

「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「おるぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

乱波とシャドームーン。渾身の力を込めた二人の拳が激しくぶつかり合った瞬間、遂にシャドームーンの右腕の装甲が衝撃により爆ぜて砕け、その中から緑色の腕が露出した。

 

「よし、今だ」

 

「へい」

 

瞬間、治崎の傍に控える三人目――クロノスタシスが一発の弾丸を発射し、それがシャドームーンの右腕に命中する。

通常の弾丸ならば全く問題は無い。だが、その弾丸には“個性因子”を傷つける薬品が込められており、それはシャドームーンの全身を覆っていた『シルバーガード』を消滅させ、シャドームーンは『怪人バッタ男』と形容すべき姿になっていた。

 

「何!?」

 

「!? 何だ!?」

 

「なるほど。異形系がベースの複合系か。多少手こずったが、もうお前は終わりだ。お前はこれから、しばらく“個性”を使う事は出来ない。異形の姿をした、普通の人間だ」

 

「何……だと……!?」

 

「乱波、何をしている。早くソイツを始末しろ」

 

「……チッ!! 悪いがそう言う事だ!!」

 

「!! ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

打ち込まれた薬によって、鎧と特殊能力を失ったシャドームーンを、再びマシンガンの様な連打が襲う。シャドームーンも負けじと先程と同じように連打を繰り出すが、攻撃力・防御力共に大幅に弱体化した今、二人の優劣関係は完全に逆転していた。

こんな時に頼りになる超回復能力は一切発動せず、シャドームーンの体には確実かつ急速にダメージが蓄積されていき、それは今にもシャドームーンの命に手が届く所まで迫っていた。

 

正に絶体絶命。そんな時、シャドームーンの脳裏に浮かんだのは――

 

『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』

 

――暗く深い闇の中で、かつて脳無に与えられた敗北だった。

 

「!! ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

腹の底から声を絞り出したシャドームーンは、乱波の拳を足の裏で受けると、拳を足場にして後ろ向きに跳躍し、乱波の殺傷圏内から離脱する。

そして渾身の力を込めて床を蹴り、そこから更に天井を蹴り砕いて勢いをつけ、斜め下にある乱波の頭に強烈なキックを叩き込んだ。

 

「ハハハハ!! やるじゃないか! やっぱりお前は良い虫だ!!」

 

「……ァァ……」

 

乱波の頭を蹴った反動で、乱波から再び距離を取ったシャドームーン。“個性”を封じられて尚、闘争の意思を保ち続けるシャドームーンの行動に、乱波は心底興奮し、喜びを顕にする。

しかし、シャドームーンには全く余裕は無い。先程の蹴りが、それこそ最後の悪あがきと言う奴で、このまま戦闘を続ける事は死を意味していた。

 

蹴り砕いた天井から一筋の月の光が差し込まれ、血塗れで瀕死に追い込まれたシャドームーンの体が照らされる。

 

――その時、不思議な事が起こった。

 

シャドームーンの腹部の宝玉が月の光に反応し、周囲に眩い緑色の光を放った。視界を埋め尽くし、影さえも消し去る激しい輝きの中、シャドームーンの体は瞬く間に修復され、そこから“更なる進化”を遂げていく。

 

そして、光が収まった時、シャドームーンは先程とは異なる形状の白い鎧に包まれた、新たな姿を獲得していた。

 

「!? ば、馬鹿な!! 未完成品とは言え、幾ら何でも復活が早過ぎる!!」

 

「どっちでも良いッ! これは正に命を賭す事でしか生まれぬ力ッ!! それをもっと、この俺に披露してくれッッ!!!」

 

復活……否、新生したシャドームーンに再び繰り出される連打の嵐。残像によって無数に分裂した様に見える二つの拳を、シャドームーンはピッチャーフライでも取るかの如く、難無く両手で掴み取ってみせた。

 

「!? 動かねぇ……ッ!! 押すことも、引くことも出来ねぇッ!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

拳を掴む事で乱波の攻撃を封じ、そのまま押し相撲の如く前進するシャドームーン。床を削りながら乱波の体を後退させ、勢いを付けたシャドームーンは跳躍し、乱波に両足蹴りを繰り出した。

 

「シャドーキィイイイイイイイイイイイイイイイック!!」

 

緑色に発光した両足が乱波の体に命中した瞬間、シャドームーンは掴んでいた拳を離し、乱波の体を大きく吹き飛ばした。

 

「ガ……ッ!!」

 

「!! 最大最硬防――」

 

「サタンサーベル!!」

 

敗北した乱波を見やり、盾と呼ばれた男――天蓋は自身に出来る最大最硬のバリアを展開し、治崎を守ろうとした。

それを見たシャドームーンは、地面に落ちたサタンサーベルを手元に呼び戻すと、天蓋をバリアごと一刀の下に斬り捨てる。

 

「ぐぉお……ッ」

 

「チッ、仕方が――!?」

 

「!? オーバーホール! 何をして――」

 

「フンッ!!」

 

「ギャアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ぐっ……!」

 

自身の“個性”を用いて乱波と天蓋を復活させようと考えた治崎の動きが止まり、その様子をクロノスタシスが怪訝に思った瞬間、シャドームーンはサタンサーベルを投げつけ、クロノスタシスを壁に縫い付けた。

 

治崎の“個性”は『オーバーホール』。それは触れたモノを生物・無生物問わず“分解”して“治す”事が出来、それは複数の異なる物体や生体を融合させたり、“分解”の段階で止める事で相手を即死させたりする事が出来ると言う、恐るべき“個性”である。

 

その事をオール・フォー・ワンから事前に聞かされていたシャドームーンは、「もしかすれば他人や自分自身を一度“分解”して“治す”事で、与えた負傷も即座に治す事が出来るかも知れない」と考え、治崎を始末しない限り、自分に勝利は無いと確信していた。

故に、手駒が倒れ、治崎が動いた瞬間に狙いを定め、自分が持っていた生来の能力である「超強力念力」を使い、治崎の動きを完全に封じたのだ。

 

そして、そんなシャドームーンの懸念に応えるかの様に、生まれ変わったシャドームーンは新しい姿と共に、治崎を問答無用で殺害する方法を獲得していた。

 

「シャドーセイバー!!」

 

シャドームーンが叫んだ瞬間、ベルトの左側の穴からグリップの様な物が出現し、それを左手で引き抜くと、スムーズな動きで振り回しながら右手に持ち換える。

 

進化したシャドームーンが生成した新たな武器。それは深紅に輝く光子の剣であった。

 

「シャドークラッシュッ!!」

 

「うぐわぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?!?!?」

 

シャドームーンは身動きの取れない治崎の脇腹をシャドーセイバーで貫き、体内に高エネルギーを注ぎ込むことで、治崎の肉体を内部から破壊し尽くしていく。

注ぎ込まれた高エネルギーは、その高出力故に治崎の肉体を燃やすのを通り越して一気に気化させ、骨も残らない所か灰さえも残さず、断末魔の悲鳴と共に治崎をこの世から完全に消滅させた。

 

「終わった……」

 

こうして、実質的にボスと言える立場の若頭・治崎を倒したシャドームーンは、再び薄暗い通路の中を歩き始める。そして、目的地に到着すると、近くで待機していた見張りを蹴散らし、頑丈な扉を無理矢理こじ開けて中に入った。

 

「だ、誰……?」

 

そこには、シャドームーンが昼間に出会った少女――エリがベッドの上から此方を驚いた様子で見ていた。

 

「……もう大丈夫」

 

「え……?」

 

「私が来た」

 

オールマイトを倒す為に造られた『更なる男』。

 

シャドームーンは皮肉にも、オールマイトと同じ言葉をエリにかけた。

 

 

○○○

 

 

それは、雄英高校ヒーロー科に進学した緑谷出久が、ヒーロー基礎学で「屋内対人戦闘訓練」を行い、放課後に幼なじみの爆豪勝己に、自分の秘密の打ち明けた日の夕方。

 

彼が家路に就いた時、一度聞いたら忘れられない特徴的な足音を響かせて、ソレは彼の目の前に突然現われた。

 

「……緑谷出久。いや、九代目『ワン・フォー・オール』継承者よ」

 

「あ……あっちゃん? あっちゃんなの?」

 

「私は『暗黒結社ゴルゴム』の首領にして、次期『創世王』シャドームーンだ」

 

「ゴ、ゴルゴム? シャドームーン?」

 

「フッフッフッフッフッ……」

 

不敵な笑い声を上げて「シャドームーン」と名乗る銀色の怪人。

 

しかし、出久には直感で理解できていた。目の前にいるのは、1年前に突然行方不明になった、自分にとって一番親しかった友人にして、ある意味で最も憧れていた幼馴染みなのだと言う事を。

 

「今まで何処に居たの、あっちゃん!? おじさんも、かっちゃんも、オールマイトも心配して……今まで何をやっていたの!?」

 

「フッフッフッ……緑谷出久、私は理解したのだ。この世界に蔓延る理不尽と、私が成すべき使命を……」

 

「な、何を言ってるんだよ……」

 

「かつて、人という規格が崩壊し、文明が歩みを止めた時代があった。人々は超常の力を持つ者達を“化物”と呼んで忌み嫌い、人ならざる者として存在そのものを拒絶した。それから時は流れ、世界総人口の約8割が“化物”となった現在、“化物”達は“人間”を自称し、自分達の中から再び“化物”を選別し、彼等を拒絶し始めた……」

 

「……!」

 

「私はソレが許せないのだ、緑谷出久。誰かがやらねばならん。やらねば彼等は、永遠に歩き続けなければならない。だからこそ私は“化物”の烙印を押された彼等を率い、世界に忌み嫌われし者達の楽園を……『ゴルゴム帝国』を築くのだ」

 

「『ゴルゴム帝国』……」

 

「そうだ。“化物”と称された彼等はいずれ、“人間”に取って代わり、地上に新たな文明を作る事となる。今の世界や文明を破壊し、零から新たな世界を創り直す。故に私は『創世王』と名乗るのだ」

 

変わり果てた幼馴染みが語る壮大な野望。その余りにも巨大なスケールに圧倒されつつも、出久は「これはオールマイトの力を受け継ぐことになった、自分に対する宣戦布告なのだ」と理解した。

 

「緑谷出久。私は必ずや、九代目『ワン・フォー・オール』である貴様等を倒し、この地上に『ゴルゴム帝国』を築いて見せる。覚悟しておけよ……」

 

「! 待って! あっちゃん!!」

 

次の瞬間、シャドームーンの全身を緑色の稲妻が走ったと思うと、シャドームーンはまるで蜃気楼のように消えた。幼馴染みの悲痛な叫びに応える事も無く……。

 

 

○○○

 

 

シャドームーンの宣戦布告から数日後。雄英高校は『敵連合【ヴィラン連合】』を名乗る、多数のヴィランの襲撃を受けていた。USJで救助訓練を受ける予定であった1年A組の面々は、黒霧の“個性”によってUSJの多種多様な救助エリアへ飛ばされたことで散り散りとなり、そこで待ちかまえていた複数のヴィランとの戦闘に身を投じていた。

 

その中で、水難ゾーンに飛ばされた出久は、中央広場で『敵連合』の首魁と思われる手だらけ男の傍に侍るシャドームーンに目が釘付けになっていた。

 

「あっちゃん! 目を覚まして! 君はそいつ等に騙されているんだ!!」

 

「………」

 

「何だ? お前の知り合いか?」

 

「………」

 

出久の説得にも、死柄木の疑問にも、シャドームーンは一切答える事無く、ひたすらに沈黙を保っている。

 

実を言うと、此処に居るシャドームーンは、シャドームーンがイナゴ怪人をベースにして創り出した分身体であり、呉島新本人では無い。本体である呉島新からサタンサーベルを与えられてはいるが、分身体そのものの戦闘力は本体の10分の1程度しかない。

 

これではとてもオールマイトを倒す事など夢のまた夢なのだが、今回それは死柄木が率いる『敵連合』の目的であり、シャドームーンが率いる『暗黒結社ゴルゴム』の目的では無い。故に、このシャドームーン分身体は、それとは全く別の目的からこの場に居合わせている。

 

「まぁいいや。コイツの知り合いだろうが、何だろうが、平和の象徴の矜恃を少しでもへし折る為に……死んでくれないか?」

 

素早い身のこなしで出久達の眼前に移動した死柄木は、迷うこと無く出久と蛙吹の頭部へ両手を伸ばし、“個性”『崩壊』による即死を狙う。

そして、後ほんの数ミリで死柄木の両手の五指が出久と蛙吹の頭部に触れると言うタイミングで、USJの外壁が破壊され、何者かがUSJに侵入した。

 

「スパークリングアタァアアアアアアアアアアアアアアアアック!!」

 

「!! 脳無!!」

 

突如、USJに超高速で飛び込んできたソレは、ロケットの様に死柄木に向かって一直線に向かっていく。対する死柄木は背中に言いしれぬ悪寒を感じ、『ショック吸収』の“個性”を持つ脳無を呼び出し、盾にする事で難を逃れようとした。

 

しかし、この時の死柄木は二つのミスを犯していた。

 

一つは対オールマイトを想定して造られた脳無の性能を過信していた事。もう一つは、突っ込んできた相手が、規格外と言う言葉の枠にさえ収まりきらない、怪物的性能を誇るモンスターマシンだったと言う事。

 

「CYUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「うごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

そのモンスターマシンの名は「ロードセクター」。最高時速960km。最高出力は1,515馬力を誇る“文明破壊マシン”であり、そこから生まれる突撃攻撃は如何に『ショック吸収』の“個性”を持つ脳無とは言え、とても吸収しきれるようなものでは無い。

衝撃を吸収しきれなかった脳無は頭部と両腕を残してバラバラに砕け散り、大幅に速度を殺されたものの、ロードセクターは瞬間的に身をよじった死柄木を軽く跳ね飛ばす。

 

「え!? え!? 誰!? 何!? ピザ屋!?」

 

「いってぇ……何だ、コイツは……」

 

「………」

 

吹き飛ばされて全身を強く打ちつけ、両腕と左足を骨折した死柄木と、『超再生』の“個性”によって復活しつつある脳無。

 

それらから守るように出久達三人の前に現われたのは、赤と白のカラーリングが施された一台のバイクと、それに跨がるバッタを模した黒いバトルスーツを身に纏った一人の男。

ソレを見た瞬間、沈黙を保っていたシャドームーン分身体が、サタンサーベルの切っ先を向けて、男に近づきながらこう言った。。

 

「来たか……裏切り者の『虫けら【ワーム】』。イナゴ怪人BLACKよ!」

 

「……違う。俺は、イナゴ怪人BLACKでは無い」

 

イナゴ怪人BLACKと呼ばれた男はバイクから降りると、シャドームーン分身体を真っ直ぐに見やり、独特のポーズを取りながら高らかに、自分のヒーロー名を堂々と名乗った。

 

「俺は、人類の自由と平和を守る為、それを奪う悪と戦う正義の戦士……仮面ライダー、ブラァックッ!!」

 

それは、『創世王』を目指す前の呉島新が目指した「“個性”に苦しむ人々の希望の象徴」を体現し、呉島新が改造された時と同時刻に、密かに生まれたイナゴ怪人。

 

そんな正義の心を宿したイナゴ怪人は、自身の創造主が『創世王』となるのを止める為、与えられた「強化服・零式」を身に纏い、自らが『仮面ライダー』となる事を此処に宣言した。

 

 

●●●

 

 

「……始まったか」

 

「? どうしたの?」

 

「何でもないよ。エリ」

 

 

 

 

――完――

 

Q:もしもシンさんが、ダークサイドに身を堕としていたら?

 

A:おめでとう! イナゴ怪人BLACKは、仮面ライダーBLACKに進化した!




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新/シャドームーン
 ドクターとオール・フォー・ワンの手によって肉体を改造され、ヴィランと化したシンさん。Mt.レディとの出会いで見いだした、自身の理想像である「生まれ持った“個性”で苦しむ人々の救済」は、「ゴルゴム帝国の建国」と言う歪んだ形となって、彼の行動原理となっている。書いていて思ったが、コレは“悪落ちした”と言うより、“ダークヒーロー化した”と言った方が正しい様な気もする。

治崎/オーバーホール
 指定敵団体『死穢八斎會』の若頭。“個性”である「オーバーホール」は、原作の描写を見る限り、一瞬で壊して治す事が出来る上に、その過程で別々の物体や生体を合成させる事も可能である事から、作者のイメージでは『ジョジョ』第四部の「クレイジー・ダイヤモンド」に近く、“燃えて灰になったり、炭になったりした木材を元に戻す”と言った事は出来ないと思われる。
 シャドームーン戦では「アナザーRX化したシャドームーンのリボルクラッシュによって絶命する」と言う、生身の人間相手には余りにもオーバーキル過ぎる最期を遂げたが、ある意味物凄く豪華。原作でもこれ位華々しく退場して貰いたい。

エリ(壊理)
 この世界ではシャドームーンによって救出され、将来的には大神官になるかも知れない逸材。ちなみに作中でシャドームーンが彼女を助けるべく行動した経緯は――、

異形の姿の少女が助けを求めている。

追跡させたミュータントバッタからの情報で、男の言った事が嘘っぱちと判明。

ゆ゛る゛さ゛ん゛ッ゛!!

――ってな、感じ。ちなみに連れてきたエリの詳細を聞いたオール・フォー・ワンは、「彼女が“次の次の僕”になるのかな~」と思っていたりする。
 原作において彼女の血や細胞を元にして、“個性”を無効化する薬品が造られている事から、作者的には『X-MEN:ファイナルディシジョン』に登場した、“近くにいるミュータントの能力を無効化する能力”を持つ少年リーチがイメージとして近い。

死柄木弔
 シンさんが敵になっても味方になっても苦労する羽目になるのは変わらない悲劇の男。この世界ではピザ屋轢き逃げアタックによって戦闘不能に陥る。
 この後、「脳無 VS オールマイト」と「シャドームーン分身体 VS 仮面ライダーBLACK」の戦いを観戦してから逃げ帰る羽目になる。

シャドームーン分身体
 シャドームーンがイナゴ怪人をベースにして作った分身。テレパシーによるリアルタイムの情報共有が可能。戦闘力は本体の10分の1程度だが、大抵のヒーローやヴィランなら、これで充分対処できる。

イナゴ怪人BLACK/仮面ライダーBLACK
 この世界では、シンさんが改造されたと同時に誕生した、正義の心を持つイナゴ怪人。下記の「強化服・零式」を使い、「仮面ライダーBLACK」を名乗るが、ポジションで言えばむしろ『BLACK』のクジラ怪人が近い。だからデク君が瀕死に陥った際には、大自然のエネルギーが込められたイナゴエキスを強制的に飲ませる。勿論100%の善意で。



世紀王 シャドーシンさん
 自称、次期創世王。オール・フォー・ワンとドクターの改造手術によって生まれた地獄の怪人王子。改造前の能力や特性に加え、瞬間移動を筆頭とした様々な特殊能力を行使できる。ちなみに複数の“個性”の投与された影響で、怪人バッタ男の状態でも普通に喋れるようになった。
 元ネタはご存じ、元祖悪の仮面ライダー「シャドームーン」。ちなみに、改造手術中のシンさんの姿は、当初予定されていたと言う「色違いの白いBLACK」であり、「怪人バッタ男」→「白いBLACK」→「TV版のシャドームーン」→「アナザーRX」と言った、フリーザ様の三段階変身の様な進化をしていたりする。

サタンサーベル
 シャドーシンさんが“個性”により生成した魔剣。金色の柄と細身の紅く透き通った刀身が特徴。単純な切れ味もさることながら、刀身から紅いエネルギー刃を飛ばしたり、稲妻状のエネルギーで相手を拘束して振り回したりといった技も使える。
 元ネタは『BLACK』の、ゴルゴムに伝わる世紀王専用武器「サタンサーベル」。設定的には『RX』の「シャドーセイバー」の方が近いが。

シャドーシンさんRX
 開発中の無個性弾(仮称)によって“何の能力も無い怪人バッタ男”に弱体化してしまったシャドーシンさんが、月の光を浴びた時に不思議な事が起こり、更なる進化を遂げた姿。『死穢八斎會』に勝ち目なんて初めから無かった。
 元ネタは『HERO SAGA』に登場した、シャドームーンが月の光で進化した白いRXこと「アナザーRX」。但し、変身過程は『RX』本編や劇場版『アギト』の要素が入っている。

シャドーセイバー
 進化したシャドーシンさんが生成する赤い刀身を持つ光子剣。コレを抜いた瞬間、シャドーシンさんの勝利が確定する必殺武器であり、必殺技は突き刺した相手の肉体に高出力のエネルギーを送り込み、体の内部から破壊し尽くす「シャドークラッシュ」。相手は死ぬ。
 元ネタは『RX』の「リボルケイン」と「シャドーセイバー」。見た目が赤い刀身の「リボルケイン」で、名前が「シャドーセイバー」になった所為か、『スターウォーズ』シリーズでシスが使う「ライトセーバー」の亜種みたいになった様な気がする。

死穢八斎會
 2017年8月現在、ヒーロー達の襲撃を受けている、天然記念物扱いのヤクザ屋さん。この世界では、シャドーシンさんの手により一夜にして壊滅。若頭の治崎は完全に殺したが、寝たきりの組長さんには手にかけず、むしろシャドーフラッシュの「その時、不思議な事が起こった」で回復させたお陰で、組長派を筆頭とした大多数の組員はゴルゴムの傘下に吸収され、残りは先生によって脳無の素体にされた。
 作中で『死穢八斎會』が“個性因子”を破壊して“個性”を使用不能にさせる薬品を作っていた事が、今回の「シャドーシンさんのアナザーRX化」を思いついたきっかけだったりする。

暗黒結社ゴルゴム
 本編である『怪人バッタ男 THE FIRST』の外伝では、シンさんを頂点としたヒーロー事務所の名前だが、この世界ではガチの世界征服組織。そして『敵連合』のライバル企業。組織の行動理念故に、所属メンバーの仲間意識はかなり強い。
 ちなみにこの世界では、シャドーシンさんと『ゴルゴム』が存在する所為で、ステインは『敵連合』ではなく『ゴルゴム』の方に所属するわ、お陰で『敵連合』の世間の評価は「雄英を襲って返り討ちにされたチーマーの集まり」のままだわ、原作よりもメンバーの集まりが悪いわと、死柄木はかなり散々な目に遭う事になる。正にゴルゴムの仕業。

ロードセクター
 対シャドーシンさんを目的として、『ゴルゴム帝国』と言う悪い文明を破壊する為に製作された文明破壊マシン。決してピザ屋のバイクでは無い。その怪物的性能故に、人間ではまず乗ることさえ難しい代物であり、イナゴ怪人BLACKが下記の「強化服・零式」を纏うことで、ようやく乗りこなす事が出来る。

強化服・零式
 イナゴ怪人BLACKが纏う強化服。『序章』および『THE FIRST』でシンさんが装着した「強化服・一式」よりも前に造られた試作品であり、見た目は『仮面ライダー THE FIRST』的なアレンジが施された「仮面ライダーBLACK」。コードネームとして「ブラックサン」の名が与えられ、厳重に保管されていた。
 ベルトに風車が無く、完全にバッテリーだけで動いている為、設定的には『アギト』の「G3」や「G3-X」なんかに近い。必殺技は赤熱化した拳を叩き込む「ライダーパンチ」と、赤熱化した足を叩き込む「ライダーキック」。そして、ベルトから放つ光線「キングストーンフラッシュ」。
 元ネタは、小説『仮面ライダー1971-1973』の強化服と、『仮面ライダーBLACK』が「仮面ライダー0号を意識して製作された」事に由来する。














 実はこの「強化服・零式」には恐るべき秘密がある。それは動力源に使われているバッテリーが核電池であり、必殺技である「キングストーンフラッシュ」は、言うなればゴジラの放射熱線に近い代物なのである。コードネームの「ブラックサン」も、“人類が造り出した黒き太陽の力=核”に由来している。
 シンさんの弱点は高熱であるが、シャドーシンさんが相手では半端な火力では仕留めきれず、逆に更なるパワーアップを図られる危険性がある為、「文字通り最強レベルの火力を用いる事で、息子を殺してでも止める」と言う、父・呉島真太郎の覚悟が籠められている。しかし……。











創世王 シン・アナザーシャドームーン
 上記の「強化服・零式」からキングストーンの力(意味深)を吸収し、更なるパワーアップを遂げたシャドーシンさんの究極戦闘形態。全身が深紅に染まった事で、見る者にかなり禍々しい印象を与える。最終奥義はベルトから放つ破壊光線「ヒーロー総辞職ビーム」……もとい、「シャドーフラッシュファイナルエクスプロージョン」。コレを使われたが最後、人類は核の炎に包まれて滅びるだろう。
 元ネタは『HERO SAGA』の「アナザーシャドームーン」。必殺技の方は『仮面ライダー11戦記』におけるRXの必殺技「キングストーンファイナルエクスプロージョン」が元ネタ。



後書き

これにて、『怪人バッタ男』シリーズ一周年記念は終了です。本編『THE FIRST』と同様に、楽しんでいただけたなら幸いです。それでは皆様、良い一時を……。
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