糸が切れたように動かなくなった彼女を背負い、ひとまず元いた岩へと戻った。彼女を横たわらせ、毛布をかけてやる。ヌシに呼び掛けても、応答はない。あとは任せるということだろうか。
何にせよ、関わったからには放置はできない。しかし、疲れと眠気も限界に達していたギンコは、横になり目を閉じた。明日になれば彼女も目を覚まし、何かわかるだろう。まずはそれからだ。
しかし次の朝、ギンコの思惑ははずれる。目覚めると、彼女は相変わらずすやすやと穏やかな寝息を立てて眠ったままだった。陽の光のせいか昨夜より体の輝きは収まっているように見えたが、光を帯びている以上、まだ光酒が抜けきっていないのは明らかだった。
自然と目を覚ますのを待つことにしたが、やがて太陽が真上に登り、さらに西に傾き始めても、彼女は一向に目を覚まさなかった。眠り続けるのは光酒の影響か、それとも彼女自身の体の問題か、ギンコには判断がつかない。
ギンコは荷物から筆と紙を取り出す。イサザへ便りを出すのだ。光脈に関係することならば、ワタリの者でしか知り得ない情報があるかもしれない。
書き終えた文をウロ繭に入れた。あとは返事を待つばかりだが、自らの体質上、ここにそう長居もしていられない。
ふと彼女に目を向けると、瞳が開かれていることに気付く。
「なんだ、起きてたのか」
彼女は返事をするように数度瞬きをし、重たそうに体を起こした。ぼうっと宙を眺めている。
「あんた、近くの里の者か?」
彼女は起き上がったときと同じような気だるさで、ギンコに視線をやる。しかし、返事はなく、昨夜のようにまたゆっくりとギンコに手を伸ばしてくる。彼女の位置からでは、目一杯腕を伸ばしてもギンコに届くことはないが、動こうともせず、ただふらふらと手をこちらに向けるばかりだった。ギンコ自分の頬に触れる。
「俺の顔に何か付いてるのか?」
顔を拭うが、何もない。彼女の腕は尚もギンコに伸ばされている。これも光酒の影響なのだろうか。わかるのは、今はまだ会話はできそうにないということだけだった。
「まぁいいさ。とにかく、これを飲んでくれ」
ギンコは用意していた蟲下しの薬を、彼女に渡す。受け取ったそれを、彼女は見つめたまま動かない。仕方なく、薬と水を飲ませてやる。
「起きたばかりで悪いが、山を降りよう。人里に降りたら、あんたの知り合いがいるかもしれないからな」
彼女は言葉が通じているか曖昧な眼差しで、こちらを見つめている。
「ほら、立てるか」
腕を取り立たせると、力が入らないように彼女の脚はふらふらとしていた。肩を持ち、支え直す。彼女の腕を自らの首に回して支えると、なんとか歩くことはできそうだった。苦しそうな表情はまったく見せないので、怪我をしているわけでもなさそうだ。一応は安堵して、足元の覚束無い彼女を支えながら、山を降りていった。