翌朝、家族に礼を言い、家をあとにした。彼女は変わらずにギンコの服を掴み、黙ってあとをついてくる。
山中をしばらく歩くと、男性が言っていた通り村があった。最初に出逢った村人に彼女のことを尋ねたが、見えもせず、また失踪した人間などいないと言っていた。蟲の見える人間がいないか、何人かに声をかけてみたが、この村にはそういう目を持つものはいないようだ。諦めて、また別の人里へ向かうことにする。
しかし、次に訪れた場所でも有力な情報を得ることはできなかった。どうも、彼女はこの近くに住んでいなかったのではないかという疑いが強くなる。
夕刻、宿で休んでいると、イサザから返事の文が届いた。手紙によると、ごく少数であるが、彼女と同じような人間が数人いたらしい。光脈を漂い、その後何のきっかけで発見されたのだ。みな光酒を多量に摂取したことで、同じように体が光を帯びていたそうだ。記憶があるものもないものもいたが、調合した薬を服用することでヒトの側に戻ることができるのだという。記された処方を確認する。
「これなら、すぐ作れそうだな」
呟き、足りない材料を紙へと書き留めていく。外へ調達しに行こうと立ち上がると、彼女も合わせて立ち上がった。
「まぁ、いいか」
付いて来るのに任せ、店と山へと出かけると、すんなりと材料を揃えることができた。宿に戻る頃には、もう夜遅くなっていたので、調剤は明日にすることにした。
朝食を済ませ、すぐに作業に取りかかる。彼女はと言うと、ギンコのすぐ側でぼうっと宙を眺めていた。不思議と、ギンコが動かない限り彼女も移動することはなかった。探し歩く必要もなければ、見張る必要もないので、今まで随分楽なものだったのではないかと思った。
薬を作り終え、さっそく彼女に飲ませる。ただ渡しても彼女は見つめるだけなので、ギンコの手で飲ませてやる。飲み終えると、彼女はふらふらと左右に揺れ、そのまま倒れ眠ってしまった。手紙には、初めは飲むと数時間眠り続け るが、何度か服用することで体が慣れるとあった。光酒は毒ではない。多量に摂取すれば影響を与えるが、それは変質であり、病や傷といったものとは別種のものだ。だからこそ、ただ光酒を抜くのではなく、ヒトの側へと戻らせる薬が必要なのだそうだ。そして一度変わってしまった体を戻すには、どうしても時間がかかるとも記されていた。
ギンコは新しい蟲煙草を取り出し、火をつける。次に目覚めたとき、彼女は話せるようになっているのだろうか。だとしたら、一体何を話すのだろうか。ぼんやりと考え、煙を吐き出した。