問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~   作:biwanosin

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カーニヴァル ③

家族’s Side

 

「さて・・・では、夜になったことですし作戦会議といきますか」

「ああも関わってこられるんなら、この時間帯にやるしかないんやろうなぁ」

 

と、つい少し前、村人たちが皆眠るまで思いっきりバカ騒ぎに巻き込まれていた二人は話し始める。

 

「では蛟劉さん、ギフトゲームの先達、そして同じ魔王として何かあればお願いします」

「なあ、君丸投げひどない?あと、君も元魔王だって聞いてるんやけど」

「やだなぁ、兄さんと再開するためだけに魔王やってた私が分かるわけないじゃないですか」

「・・・魔王って、一体・・・」

 

残念ながら、この妹のブラコン度合いはかなり振り切っているから仕方ない。

 

「まあ、せやなぁ・・・ここまではっきりとした自我がある村な以上は、無関係ではあらへんやろうな」

「じゃあやっぱり、この村がクリアのカギに?」

「この村そのものなのか、あの鬼を食べてたのが伝承的になのか、その辺は分からへんけど」

 

やはり、結論はそこへと落ち着く。どう考えても鬼を煮て喰うとか異常なのだから。

 

「報復、ってパターンが一番わかりやすいんやけど」

「あー、確かに」

「けど、まだなんの伝承なのか分かってへんのがなぁ」

「ちょーっとわかり辛いんですよねぇ・・・土着系なのかなぁ」

 

そうなると、その地域の人以外は分かり辛くなってしまう。あるいは一輝であれば、日本にいた期間の長さや国の第三位としての活動範囲の広さから知っている可能性は高い。日本について詳しく知る、狭く深い知識が一輝だ。それに対して、湖札は世界を回ることによって広く浅い知識になっている。特に日本については深くないのだ。

それは、蛟劉についても同じ。むしろ箱庭という世界にいるからこそより有名な、より大きな霊格を持つものに対しての知識が大きくなり、日本という国の一地域、などという形になるとその判別が難しくなる。

もし仮に知識があったとしてもそれと結び付けることこそが難しい。湖札の持つある種の叡智もまた、この障害故に情報不足の現状では使えない。

 

「・・・で、結論は?」

「何か起こるか待って、君の知識から引っ張り出す」

「ま、そうなりますよねー」

 

なんにせよ、ギフトゲームの鉄則、情報収集から。そう言うことで二人は同じ部屋にとどまり、眠ることなくただひたすらに何か起こるのを待つ。

 

「しっかし、他はどうなっとるんやろうなぁ」

「なんだかんだ、誰が行っても何とかする気がしますけどねー。あ、スレイブちゃんは難しいか、性格的に」

「こっちもその辺りは何とかなるやろうな。誰と誰がなったんかとかで問題はあるんかな?」

「そうですねー・・・ギフトゲームの内容によっては、兄さんと夜子さんが一緒になるとマズいかもです」

「そうなん?」

 

その湖札の発言に対して、蛟劉は首を傾げる。

 

「確かに彼、夜子ちゃんを隙あらば弄って楽しむ・・・というよりは誰であろうと隙あらば弄って楽しみそうやけど、ギフトゲームの最中なら大丈夫なんとちゃう?夜子ちゃんはこんな状況で喧嘩うらんやろうし」

「あー、そっちじゃないです。弄るのについては間違いなく隙あらばやってますけど、それにしたってギリギリ大丈夫な範囲を責めるはずですから」

「ギリギリなんか・・・」

 

可能な限り手を抜かず全力で。それが一輝である辺りが、どうしようもない。

 

「ただ、そうですね・・・たぶんウチの人たちだと兄さん辺りは、このゲームの状況を理解してそうなんですよね」

「とゆうと?」

「この伝承を再現する核が『伝承』ではなくて『主催者側プレイヤー』である、ということです」

「・・・そう言うこと、分かった時点で言ってほしかったなぁ」

 

まさかのゲームに関する情報交換がなされていなかったという事実に、蛟劉は少しばかり頭を抱える。そして、湖札に続きを促した。

 

「まあそんなことは置いといて、ですね。例えば・・・再現された伝承が『オオカミと七人の子ヤギ』であったとすれば、この伝承の中で人食いにあたるものは誰でしょう?」

「そら、オオカミやろ」

「はい。そして、オオカミであれば殺すことにためらいは生まれません。だって、明確に『悪』ですから」

 

では、と。湖札は人差し指を立ててくるくると回し、別の伝承の名前を口にする。

 

「その伝承が『ヘンゼルとグレーテル』であれば、どのような解釈になりますか?」

 

それは、偶然にもヤシロとフェンリルが挑んだ伝承であった。そして、その答えは。

 

「可能性として魔女、そして確定しとるんは・・・人が材料であったお菓子を食べたヘンゼルとグレーテル、やな」

「はい、正解です。ですからクリア条件はその三人の殺害。魔女についてはさしたる抵抗もないでしょう。ゲームであると割り切れる状況であれば何も知らずただ騙されて食べてしまった二人を殺すことも可能だったかもしれません。・・・では、それができない状況では?|相手も本当に生きていると分かっている状況では《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》?」

「・・・難しい、やろうな。魔王の軍勢と分かっていてもなお、心理的に難しいもんがある」

「はい。それこそ蛟劉さんのように汚れた世界に生きていた悪人や私、兄さんのような一種の破綻者であれば、抵抗なく殺せます。・・・夜子さんの心は、そのレベルに強いですか?」

 

蛟劉は、何も言えなくなる。

 

「夜子さんの心は、そのレベルに壊れていますか?」

 

なぜなら、それはできない可能性の方が高いから。

彼女の目には、世界は綺麗なものに映っている。その全ては一部を除いておもちゃ箱の中身であり、人形であり、自分にとって美しいものであって。そう映ってしまうような方向に、自分にとって都合のいいように歪んでいる精神であって。

であるのならば、その世界はそんな悲劇をただ自然に受け入れられるものなのだろうか?

 

「・・・たぶん、その事実を知った上で殺すことは、できるんやと思う」

「では、殺した後は?」

「心に負担がかかるかもしれへんし、さらに壊れるかもしれへん。もしかしたら堪え切れるかもしれへん。・・・分からない、のが本音のところやな」

 

けど、と。蛟劉は続ける。

 

「それでも、大丈夫や。その事実にたどり着くには、君たちみたいな特殊な何かがいる。夜子ちゃんがそれに気付くことはあらへんよ」

「そうですね。・・・兄さんと一緒でなければ、ですが」

「・・・話す、と?」

「はい、間違いないく」

「・・・それは、自分が今から罪のない相手を殺さなければならないと知る義務があるとか言う、価値のないクソッタレな偽善のために?」

「いえ、むしろ兄さんや私は殺しに特殊な意味を感じていませんから。ただ、試すために伝えます」

 

湖札の言った言葉の意味が、蛟劉には理解できない。試す、とは一体何を?

 

「もし仮に夜子さんが兄さんにとって友人程度に考えられる相手であれば、そんな人間一人が簡単に壊れるような事実を伝えることはないんですけどね。身内と定めた相手にはダダ甘なんです、あれで」

「・・・つまり、そうは思ってないから?」

「はい。思っていないから、ちょっと試しに、とやってみる。それで面白い結果を見せられる相手であればよし、そうでないのなら・・・度合いによりますけど、最低でこれまで通りのどうでもいいけど弄ったら楽しい相手、ですかね」

「・・・それならまあ、今と変わらんから問題ない。ただ・・・最大なら?」

「殺します。つまらなさ過ぎたのであれば、躊躇なく」

 

瞬間、蛟劉の顔は怒りに染められた。こうしている場合ではないと、組み合わせがどうなっているのかを知らなければならないと、その手段を躍起になって探す。たどり着いた結論はこのゲームをクリアする・・・すなわち、終わってから確かめる、と言う方法だけ。

 

「なんやねん、それは・・・!」

「そう言うわけで、正直私としては心配なんです。帰れる手段が見つかっていない相手と面倒な軋轢を生みたくないですし」

「君が考えるのは、それだけなんか!?」

「はい。・・・というか、七天大聖なんて名乗って天に喧嘩を売った大悪党が何を言ってるんですか」

 

湖札の言っていることは、ある意味では真実だ。頭領である孫悟空は人を襲い、殺し、食料とした。それだけでもはっきりと分かるほどの大悪党であり、その義兄弟がどうなのかなど考えるまでもない。

だが、人はしばし、自らの罪を棚上げにして考える。それが自分にとって大切なもののためであればなおさらに。

それでも、それ以上に。自らの誇りのため、愛しき義姉のために悪となり、魔王となり命を奪った蛟劉と。ただ義兄と再会するのに都合がいいかもしれないという理由で悪となり、魔王となり命を奪ってきた湖札では。箇条書きされた項目は同じであっても、本質が全くもって別物過ぎた。

 

「そういう問題とは」

「静かに」

「何を言って、」

「静かにしてください。・・・外が騒がしくなっています」

 

湖札の言葉で、蛟劉は一握りの冷静さを取り戻した。そう、愛するもののことがこの上なく心配である。だがそれ以上に、今はギフトゲームの最中なのだ。クリアして真実を聞くことくらいしか、この状況を解決する手段は、現状存在しない。

 

「・・・その件については、出てから、この目で見てからもう一回判断する。それでええな?」

「はい。元々そのつもりで話しましたし」

 

湖札は立ち上がってギフトカードから日本刀を抜き。蛟劉もまたいつ何が来ても対応できるよう準備をして。そのまま出口を出て互いに背を向けて村を見回す。何かがあらした痕跡こそあれど、その犯人は見当たらず・・・

 

「・・・おったで。鬼が、人を喰いながら家から出てきとる」

 

否、たった今外に出てきた。湖札もそちらを見ると、そこには確かに人の死体を片手に、むさぼりながら次の家を目指す鬼の姿があった。

しかし、それを鬼と断じることが出来たのは、ある意味奇跡だったのかもしれない。その形は崩れかけており、部位の欠損は存在し、人型をギリギリ保っているような状況だ。・・・だが、その見た目であったがゆえに、二人はその鬼の正体を見破る。

 

「うわー・・・正直、ありえないとすら思ったレベルなんですけど、あれですよね」

「せやな・・・あれは、村人がくっとった鬼やろ」

 

形が崩れかけているのは、煮込まれたから。部位が存在しないのは、喰われたから。であるのならば、あの鬼は鍋の中にいたあの鬼なのだろう。

そして、鬼はまるで湖札と蛟劉の二人が見えていないかのように歩き、外に逃げ出していた人間を追う。聞こえてくるのは、悲鳴と、力による破壊の音と・・・鬼と人との間で行われる、会話の内容。

 

「うわちゃー・・・これは、殺す人数が難しいですね・・・タイミングも結構大変かもです」

「せやな。正直、夜子ちゃんがこれじゃなくてよかったと思うわ。・・・やりなおしたらまず、すぐにこの村までやな」

「はい。そこで調理が終わったタイミングで、誰も口にしないところで村人を皆殺し。夜まで待って復活した鬼を殺して終了、ってところですか」

 

念のために、と。湖札は今集まった情報をもとに自分の脳内に検索をかける。少しの負荷と時間を要して・・・その伝承の名前が検出された。

 

「はい、今立てた方針で確定です。伝承は『あぶくたった』。日本の子供たちの遊びとかわらべ歌とか、そんなところですね」

「相変わらず、日本のはえぐいなぁ・・・」

「さて、それでは。そろそろ戻るでしょうし、実行しますか」

「せやな。はよ、終わらせんと・・・」

 

蛟劉のうちに存在する焦り。その感情は、敵が強敵であったのならば大きすぎる枷となっただろう。だが、今回殺す相手はただの村人全員にちょっと生命力の強い鬼が一匹だ。箱庭を揺るがせるだけの力を持つ魔王と元魔王の前では、そんなもの無いに等しい。

 

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