問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~ 作:biwanosin
主人公’s Side
「・・・なあ、どうしてこうなったんだ?」
「俺に聞くな。ってか、基本的になつかれてるのは夜子の方だろ」
「いやまあ、そうだけど・・・なんでこうなった・・・」
二人は今、百人の子供たちによってもみくちゃにされていた。4:6くらいの割合で。おそらく、一輝の方に行かないのは子供が本能的に『危ない人』であると察しているのだろう。
「おねーちゃん、あそぼあそぼ―!」
「鬼ごっこ!鬼ごっこ!」
「ああはいはい、分かったから少し落ち着けお前ら!」
と、夜子は全力でもみくちゃにされている。一輝の方はもそう変わらず、何なら両陣営に属している子供もいるレベルであるのだが・・・と、そこで。いい加減疲れてきた一輝が子供たちへと指示を出す。
「俺に群がってるやつら!一回聞け!」
その声は、何かしらのカリスマを孕んでいたのか、もしくはただ本能に従っただけなのか、一輝の方だけでなく夜子へと群がっていた子供に対しても影響を出した。それを見た一輝は満足げに頷き、夜子は休めるとほんの少し一輝に対して感謝を抱いた。
「全員、そっちのおねーちゃんを見ろ!」
そして、一瞬でそれを後悔した。逃げるべきだとも思ったが、自分の周りにはくっつくくらいの近さで子供たちがいる。怪我をさせてしまうのは忍びない。
「主にあの胸を見ろ!」
「何言ってやがる一輝!」
「あのレベルは中々出会えるものではないぞ!そして、今のお前たちくらいの年齢だからだ女問わず許される!人生経験として、突撃してこい!」
「オイコラテメエ!」
『はーい!』
「マジか!?」
そして、一輝の号令に合わせて子供たちが夜子へと群がっていく。近いものは言われたように胸へと手を伸ばしたりしているのだが、その大半は指示されてそれに従って動くということ自体を楽しんでいるのかただ群がったりタックルしたり手を引っ張ったりしているだけである。その物量に耐え切れなくなって夜子が仰向けに倒れると、その周りやら上やらにどんどん、総勢100名の5歳周辺児が群がっていった。さすがに物量的に普通なら死にかねないんだが・・・
「ま、夜子なら大丈夫か」
「大丈夫なのですかね・・・」
「大丈夫大丈夫。アイツは山一個くらいになら潰されてもピンピンしてるって」
と、全て夜子に押し付けることで自由になった一輝は隣に来ていた村長と言葉を交わす。当の夜子が恨みがましそうな目を向けてきたが、情報収集とジェスチャーを返されて何も言えなくなってしまう。哀れ、夜子。
「そう言えば、すっかり休ませてもらっちゃってありがとうございました」
「食べるものは何もだせていませんがね」
「ゆっくりする場所と飲み物、それだけあれば十分休まります」
と、そう一切疲れていなかった身でほらをふく一輝。そう少しばかり会話を交わしてから、少しだけ核心へと迫る。
「というわけで、俺としてもあいつとしても何かしら恩返しをしたいんだけど・・・何かないか?」
「何か、ですか。そうですね・・・そうだ。では一つ、ご迷惑かもしれないですがお願いしてもよろしいでしょうかな?」
「はい、言ってください」
かかった、と。一輝の心情を表すならこうであろう。
「実はですね。今年は100人もの子供があの年まで育つことが出来ました。私の孫も6つになったんですよ」
「それはそれは・・・この時代に珍しいことですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。それで、そのお祝いと今後の成長を祈願して、彼らに山を登ってもらう予定なんです。今日」
また急な話だな、と一輝の心情を表すならこうであった。そして同時に、下手に伸ばされても面倒か、とも考える。
「元々は村の者を二人ほどついていかせるつもりだったのですが、それをお願いできないでしょうか?なにぶん、農作業などやることは多いものですから。あの子たちもなついているようですし」
「かまいませんよ。何か特殊なことがあるというのなら、それができるかはわかりませんが」
「ありませんとも。ただ低い山を登り、神へ感謝し、そこで食事をとる・・・ただ、それだけです」
であればまあ、大丈夫か。そう考え、同時に山を登る百人の子供とは何とも鬼が好みそうな状況だと、ゲームが進んでいるのを感じて少し上機嫌になる。
「そんなことでよければ、喜んで」
「では、よろしくお願いします。・・・老いぼれはこれで」
と、仕事を与えてからそそくさとその場を離れていく村長。何かと思っていたら・・・結構純粋な、一方的に向けられた殺気を感じた。ふとそちらを見れば、何と見事なことか、子供たちを統率し、こちらを睨んでいる夜子の姿があるではないか。
「・・・アハハー♪」
「かかれー!」
『おー!!!』
今度は子供たちに、一輝が押し潰された。
「あー、腰いてぇ・・・」
「お前も俺にやったことだぞ、分かってんだろうな」
「ったく、だからって一々やり返してくるかよ・・・」
そう言っている一輝も間違いなくやり返すので、お互いさまだろう。
「はぁ・・・それで、いいんだな?このまま間違いなく問題になることに巻き込まれる方針で」
「虎穴に以下略。なんにせよ、まずは挑んでみないと何とも言えんだろ」
そう会話を交わしながら二人は子供たちを待つ。頂上で食べるものや飲み物などを準備するといって帰っていったためにそれまでの時間を情報交換に用いているのだ。
「そっちは何かあったか?」
「あー、そうだな。『友達百人もできたの!めずらしいことなんだよ!』って自慢気にいってたな」
「・・・それだけ?」
「悪いかよ」
子供にもみくちゃにされていたのだから、意味のある情報がないのがある意味では当然といえるだろう。むしろ、村長から情報を引き出している間子供たちを抑えていたのだからそれで十分だと考えるべきだ。
「しっかし、山登り、ねえ・・・」
「どんな形で人食いが出てくるのやら・・・」
「・・・守りたい、とでも思ってるのか?ゲームの登場人物に」
「悪いかよ」
その発言に対して、一輝は何も返さない。そしてそのタイミングで、子供たちの群れが二人の前に現れた。
『おまたせしましたー!』
「・・・耳がぐわんぐわんするから、お前ら声量落とせ」
『はーい!!』
「いや、だから・・・もういいや」
一輝が何とかさせようとしたが、聞く様子がない。大人しく諦めて、耳栓を倉庫の中から取り出した。
「さて、それじゃあ・・・行くか、お前たち」
『はああああああああああああああああああああい!』
「だー、うるせえ!!!」
一輝のその人ことに対して、子供たちは全員そろって爆笑した。夜子もまた、その光景にほおを緩ます。
「・・・二度と、もう二度と、ガキの大群の世話とか見てたまるか・・・」
「そうそうあることでもねえだろ。・・・ってか、あれだな。“ノーネーム”の子供たちって、異常なほどおとなしいんだな」
「それな・・・何とかなると思ってた」
と、子供たちの後ろからついていきつつそう会話を交わす。ついさっきまではそろってもみくちゃにされており、飽きたのか何なのか今は子供たちだけで騒ぎながら進んでいる。
「さて、陰陽師的にどうなんだ?鬼は出てきそうなのか?」
「俺の世界を基準にしていいのかはわからねえけど、正直いなさそうなんだよなぁ・・・こう、瘴気がねえってか、よどんでねえってか・・・わかるだろ?」
「わかるか」
分かるわけがない。
「ってなると、もしかして村の方で何かが起こってるパターンか?」
「可能性はあるな。子供たちが返るとそこには食い荒らされた親兄弟が。100の子供たちは途方に暮れ、怨霊軍となる・・・なくはないか」
「後味悪い話だな・・・」
「妖怪伝承はそう言うのかギャグかの二択だ。だからその分、よけいに候補がいくらでも広がりそうなんだよなぁ・・・」
そう言いながらも、一輝は頭の中で妖怪伝承をあさっていく。夜子もまた同様に妖怪伝承をひたすら思い出していくのだが、ズバリこれだというものは浮かんでこない。
「あ、お兄ちゃんにお姉ちゃん!もう頂上だよ!」
「ごっはん!ごっはん!」
「美味しい美味しいおにぎりだ―!」
と、そうしている間にも山の頂上についていたようだ。確かにこれなら子供でも登れるほどに低い。そしてそれはつまり・・・この山には、妖怪がいない可能性が高くなってくる。
「・・・・・・さて、これは困ったぞ。妖怪いなくなってる可能性がある」
「だとすれば・・・どうなるんだよ?」
「さて・・・そうだな。正直今一番可能性があると思ってるのは、正しい意味でのカーニヴァル・・・カニバリズムってところか」
「・・・まさかオマエ、あの村が」
「ねえねえ、何話してるの?」
と、小声で話していたところで目の前に少女が現れる。村長の言っていた孫娘だ。
「何でもないよ。一緒についていってくれ、なんていわれたから何かあるのかと思ってて拍子抜けしただけだ」
「なーんだ、そうなの。じゃあ、もう食べてもいいのね?」
「ああ、食べろ食べろ。俺達のことは気にしなくていい」
「はーい。みんなー!食べていいってー!」
と、そう夜子が言って少女は子供たちの元へ戻りながらそれを伝える。それを聞いてから鞄に手を入れているのを見て、まさか許可を持っていたのかと少し申し訳ない気分になる。
「さて・・・改めて、どうする?」
「・・・ここまではっきりと村があって、しかも謎の風習がある。だったら、これがギフトゲームに関わっていないはずがないんだ」
「ああ、まあそうなるよな。ってか、そうじゃないとしたらミスリードにもほどがある」
「けど、ミスリードはむしろさっきまで考えてた鬼の方だろ。子供だけ、この人数で動く、ってなればその方が自然だ」
「神、って発言も現実以外の者がいるって言う誘導だろうな」
だとすれば。鬼による、妖によるものではないとなれば解答は一つ。先ほども話が出たように、人が人を喰らうパターン。
「だとすれば、やっぱり喰われるのはこの子たちだろ。襲われるのは弱いもので、言い方は悪いが若いほどいいにきまってる」
「だな。だとすればやっぱり、この山で・・・いっそ山賊辺りにでも襲われる流れってのが自然なんだけどな・・・」
しかし、だとすればその山賊を鬼として伝えるのが伝承というもの。結果起こるのは堂々巡りであり・・・
「・・・外敵によるものではない?」
「それだ」
夜子のつぶやきに、一輝が同意する。外敵によるものが全て妖の類に書き換えられそうな状況。であるのなら、その要因は外にはなく・・・
「例えば、儀式か」
「だとしたら、今この状況まで含めてその一部・・・この後、誰かしらがふるまわれる?」
「その可能性もあるんだが、どうにも引っかかる。何か、何か忘れて・・・」
と、そこで。ふと顔を上げただけの、それだけの動作だった。その動作で、自分がどれだけ愚かな判断をしていたのかを知る。そうだ、どうしてそれを除外していたのか。
そもそも、これは比較的そう言うゲームなのだ。人間の『嫌がる』という感情を最後の武器とすることで、ゲーム内容に含まれている不利を、含まざるを得なかった不利を帳消しにしようという考え。それを持って始めてゲームが公平なものとなり、審判権限でもってもゲーム内容に対する改変を拒否できるだけの形になりえるのだ。
だから、そう。このゲームは、相手プレイヤーとの一騎打ちのような形であり。殺すのを忌避するような形を、最も好む・・・!
「夜子、あれを見ろ」
「は?何を・・・」
だから、今回は大人しく負けを認めよう。その上で、次の繰り返しでは確実に勝利できる。その為にも、相方にはその事実を見せつけなければならない。だから、夜子にそれを見せた。
「なんで、おにぎり、って、言ってたのに・・・」
赤い、血の滴りそうなほどに新鮮な、肉の塊を喰らう子供たちの姿を。