問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~   作:biwanosin

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北欧神話。当然登場キャラはオリジナル。


北欧神話

「全くもって面倒な事態になったもんじゃ・・・」

「せっかく箱庭救ってやったってのに随分な言いようじゃねえか」

 

眼帯をした老人がナイフを器用に使って肉を食べている正面で、一輝が同様にちゃんとした作法のもと食事を進めている。仮にも神社育ちであり小さいころはちゃんとしていた一輝君、ちゃんと技術としては持っているのである。なお、今それを実践しているのは本人からではなく一輝チームの良心六実姉妹からの嘆願故である。可能なら無駄な軋轢は生むなというお話なのだ。まあ口調が何も変わっていないので意味なしとも言える。

 

「ハン、儂らもプロパカンダにやられたとはいえ上層に席を置く神群、移動する準備はできとったからの」

「んなもんやってる暇があったらすこしは戦力よこせばよかっただろ。神霊が使いもんにならないだけで他はいるだろ」

「何が悲しくて敗北必至の戦争に戦力を貸し出すんじゃ。無駄死にさせる趣味はないわい」

 

それにしたってとげとげしいと思うのだが、それも仕方ない面が存在する。片や今箱庭で知らないものがいないレベルにやらかしている問題児の鬼道一輝、それに対面しているのは北欧神話の主神、オーディンなのだ。

戦の神としての側面、嵐の神としての側面を持つこの賢神は、それなりに激情家としての顔も持っているのである。

 

そして今、この場での発言を許されているのは一輝とオーディンのみ。他の面々は求められた時のみ発言する、トップ同士の会合というわけである。

 

「ちなみにだが、お前らとしてはどういう方針なんだ?勧誘か傍観か条件付きか」

「条件付きの傍観。扱い切れん危険物を身内におくのはロキのバカタレだけで満腹じゃよ」

 

と、そこで一輝が超興味のそそられる名前が出たが、どうにか抑え込んで交渉を続ける。

 

「条件ってのは?」

「お前さんが箱庭を揺るがすような何かをせん限り、じゃな。要は白夜王やらクイーン・ハロウィンやらと同じようなもんじゃ」

「あれと俺とじゃだいぶ違うだろ、下層をちゃんと守ってるかどうかとか太陽神的な役割とか」

「んなもん大差ないわい。昔やらかしとった分の補填と考えればまだまだ足りん」

 

一体どれだけやらかしたというのだ、あの二柱は。というか前回の太陽主権戦争どうやって箱庭は耐えきったのだろうか。ぶっ壊れなかったのかな。

 

「まあ、儂らが手ェ出さないかん状況にならん限りは不干渉でいたる。魔王になったとしてもまあ、よっぽどやらかしたり断れん相手から討伐してこいとでも言われん限りは無視じゃ無視」

「ふぅん、それ以上要求することは?」

「無い。だがまあ現時点ではじゃからな。お互いに必要そうなら言えば手を貸す、くらいでいいじゃろ」

 

しれっと、体よく何かあった時に押し付けられる相手を作っている。だがまあこれは一輝側としても何かあった時に押し付けられる非公式な相手だ。最悪裏な仕事を押し付けたり暇つぶしの手段を探させたりすればいいか、ということで・・・

 

「“ノーネーム”としてじゃなく“鬼道一輝”としてで良ければ、まあいいだろ」

「次の太陽主権戦争で多少は協力したりできんかの?ルールや状況次第じゃが誰かしら潜り込ませるかもしれんでの」

「それこそ状況次第だろ。場合によっては俺が見つけて引きずり込んだってことにしてウチのコミュニティメンバーにしたりはできるだろうが・・・」

「そこまでせんでもゲーム中の協力やらなんやら程度でいい。相互で情報交換をするだけでも大きいであろう」

 

ギフトゲームにおける情報交換は場合によってはこの上ない価値となる。共闘なんかよりハードな気がするのだが、気のせいだろうか?

・・・疑い出したらキリがないって言うよね、うん。

 

「じゃあま、そんな感じで。俺も太陽主権戦争レベルなら参加許可されるだろうし、参加者してるだろうからそれでいくか」

「そうだのぅ。では、ここからは関係のない話でもするか。料理もまだ残っておるしな」

 

これまでであれば一輝が空気を読まずに出ていったかもしれないが、今回はそれなりに気になったこともあるので食事を続ける。人となりを読み取ろうと考えているオーディンもいるのだが、まあそれならそれでいいかの考えである。

 

「そういやロキっつってたけど、いるのか?」

「いるが、それがどうかしたのか?」

「いや、北欧神話の終末論、ラグナロク。その霊格を誰が持ってるかって考えたらロキだったから、殺されてるか封印されてるかだとばっかりな」

「それができるのならとっくにそうしている」

 

と、会話に割り込んできた巨躯の男は骨付きの肉を取りかぶりつく。唐突に表れた豪快な仕草に驚きつつも、その腰に下げられているものを見て納得する。

そこにあったのは、柄の短い・・・というよりはいっそ柄ではない何か(・・・・・・・)のように見えるものの付いた、鎚のような何か。そんな奇妙な武器を持っている北欧神話ゆかりの存在など考えるまでもなく浮かぶというものだ。

 

「というと、それはどういうことなのかな、戦神トール?」

「どういうことも何もない。我々北欧神話が今それなりの立場まで回復することが出来た一因がラグナロクなのだからな」

 

ほう、と。確かに一度は主神が精霊の立場まで貶められた神話がどのようにして復活できたのか、その点に関して興味が尽きることはない。

 

「一体どのようにして?」

「まず一つ目は、再び神話の一つであるとして情報が広く知れ渡ったことじゃな」

 

問いかけに答えたのはオーディンであった。

 

「信仰や宗教というものにたいして酷く寛容である日本は分かりやすいがな。現代に近づき元々の信仰からは遠ざかったが、『知られ』、『語られ』、『用いられる』というのは、一つの信仰のようなものとなった」

 

現代に近づき、神々の奇跡が科学となるにつれて、どうしても信仰は薄らいでいってしまう。信者の信仰が弱くなったのではなく、『そうである』という明確に証明されてしまった事実が、どうしても弱めてしまうのだ。

そんな不可抗力。それに対して、知識が広まっていく過程や気軽に神話について知ることのできる時代となっていくことで、新たな信仰も当然生まれてくる。とある宗教団体がその蔵書の一部を一般公開したこともまた、そんな新たな信仰の一環となるのだろう。

 

「そのなかでも、我らの神話には一つだけ、他の追随を許さないものがあったからな。それによる復活分はバカにならんというわけだ」

 

まあ言ってしまえば、厨二心のようなものをくすぐるブツ。北欧神話にはそんな側面がそれなりに多くあり、その代表がラグナロクであったというだけの話。はっきり示された終末論、神々同士の戦争や神とそれに比肩するものの戦争が描かれる神話はあれど、あれほどまでにはっきりと『終末』を示している神話はそうない。

 

「なるほど、それをコミュニティ内に保有しておくことで回復してる分があるわけだ」

「そうでなければいかに義父上の義兄弟であろうとも、とうに頭を撃ち抜いている」

 

明らかにホンキの発言である。これは怖い。

と、そんな形で気になった発言の理由を知り満足した一輝は食事を再開するが、まだその話を続けたいものが一人いた。

 

「じゃあ、ロキだけじゃなくてフェンリルとかヨルムンガンド、ガルム、スルト、レーヴァテインなんかもまだ残ってたりするの?」

 

目をキラッキラ輝かせ、一輝の後ろにある席を放りだし、そのよこから身を乗り出すのはヤシロ。終末論を具現化した存在として、終末論について興味があるようだ。

 

「まあ、いるが・・・どこかで見た顔・・・いや、霊格だな、お嬢さん」

「あ、覚えて、ました、かー」

 

ウッソぉ、と言いたげな顔で一輝の後ろに半身を隠した。明らかに何かやらかした顔である。それが示すものは何かと考え、ヤシロの様子を見ようと振り向いたところで別の人物が目に入り、それで納得した。

 

「なるほど、スレイブの時だな」

「うぅ、なんでそこで言っちゃうのかなぁ、お兄さんは・・・」

 

図星だったようだ。

 

「スレイブ?奴隷がどうかしたのか?」

「正式名称はダインスレイブとかダーインスレイヴとか。こっちなら聞き覚えあるだろ?」

「・・・なるほど、あの時の魔王か」

 

思い出したようにトールが見下ろすと、アハハハーと空笑いしながらスレイブが手を振る。

 

「昔何かあったみたいだな?」

「ああ、まだそのような形をしていなかったそこの魔王・・・元魔王か。それに襲撃されてな」

 

ものすごいことをしれっと言われた。神話一つに対して襲撃を仕掛けるとか、ヤシロちゃんなにやっちゃってんのさ。

 

「あー、魔剣を一振り盗んだと思ったら消えたやつか。正直あっても困るものだったからと深追いはしなかったが」

「あ、因みにその魔剣、今後ろで猫耳メイドしてる」

「・・・・・・知らなかったとはいえ、スマン」

 

正直に頭を下げた戦神トールである。もしかするといい人なのかもしれない。武人ってそう言うところいい人だったりするよね。

スレイブとしてもまああっても困るだけの魔剣であった自覚はあるため、何も気にせず食事を続けている。なお、湖札は会合が終わると同時にいつの間にか仲良くなっていた戦乙女と一緒にどこかに消えている。何をしているのか正直怖いのだけれど、気にしても負けだろう。あの兄にしてこの妹あり。とっても自由なのである。

 

「しかし、うむ。あの時は正体以上に対応でそんな暇はなかったが、どれ・・・」

 

と、オーディンは眼帯を少しだけ上にずらす。叡智の代償として失われた目は当然なく、ただ暗い穴があるだけのはずなのに・・・それは、しっかりとヤシロを『みて』いた。

 

「ノストラダムスの大予言・・・いや、これは後付けじゃろうな。少なくともあの時アンゴルモアはまだ生きておった。であれば別の存在・・・終末を蒐集する、あらゆる終末を集めた存在。そうなれるだけの下地は・・・否、下地を持っていたのではなくそのものとしてあらわれた、人々の終末に対する恐怖、都市伝説の・・・」

「わーわーわーわー!あの時のことは謝りますから、それ以上は無しの方向でー!」

 

よっぽどまずいことを語られているのだろうヤシロは、もっと慌てだした。とっても珍しいヤシロちゃんである。これは貴重だ、これは貴重だぞ・・・!

 

「では、これくらいにしておこうかの。あの時の萎縮返しとしては十分じゃろう」

 

そういって眼帯をもとの位置に戻すオーディン。生きた心地がしなかったヤシロはようやく解放され、席に戻る気力もないのか一輝の膝の上に座った。そっちの方がきつくない?

 

「それにしても、なるほど。あの時期に『終末』や『滅び』の属性を持つものが様々な神話から浚われておったのはそういうわけか」

「ハイ、そう言うわけです」

「そこのダインスレイブ・・・今はスレイブと名乗っとるのか?」

「まあ、意味もなく便宜上、な。さすがに元の名前は目立つ」

「であろうな。滅ぶことを前提とした魔剣の名じゃ」

 

やべえ、オーディンさん発言にためらいがねえ。

 

「スレイブに人の形を与えたのもその一環、というわけか」

「うー・・・あのー、どうしたら、許してくれますかねー?」

「うん?・・・ああ、すまんな。これは本当に他意はなく、純粋な興味からじゃ」

「それでここまで居心地の悪い思いをするとは思ってもみなかったよ・・・」

 

うがー!と思いっきり頭をかきむしり、ポスンと一輝にもたれかかる。その作業でリセットしたのか、ヤシロは会話を再開する。

 

「それで、いるんだよね?だったら会えたりしないかな?」

「会う?それで何の得が・・・ああ、そういうことか」

「うー、自分のガチの主催者権限、その答えを知られちゃったことを嘆くべきなのか、それとも話がトントン拍子で進むことを歓迎するべきなのか・・・」

「歓迎しておけばいい。一輝の支配下にある以上、儂は手を出せんのだからな」

「はぁ・・・もう、そうする」

 

これが締結後で本当によかったと一息つきつつ、やっぱり話を再開する。何度遮られるのだろうか?

 

「というわけで、お願いできないかな?取り込むことはしないから、『見て』『知って』『記す』だけ」

「・・・まあ、取りこまんならいいか。トール、オマエとしては何か気にすべき点に心当たりはあるか?」

「・・・まあ、持っていかれたり殺されたりしなければいいのではないか?ロキだし」

「ロキじゃし、それでよいか」

 

ロキの扱いが取っても酷い。でもまあ、これはこれで仕方ないだろう。

 

「ただ、危険物として準封印状態じゃからな。今からちょっと行ってきて、では済まんぞ?」

「あー、そうなんだ・・・お兄さん、お泊りってあり?私個人として」

「ありじゃねえの?」

 

一輝君の返答がとってもあっさりしている。これでいいのか本当に。

 

「もちろん、敵対しないって言ってる以上命の保証はしてくれるだろうし、適宜便宜は図りましょうってなったんだからこう言うところで便宜を図ってくれるんだろ?」

「なるほど、そう使われては断れんな」

 

あまりにもトントン拍子に進みすぎている気がするが、まあいいのだろう。うん、きっといいんだって。大丈夫大丈夫。

 

「でも、ヤシロちゃん唐突にどうしたんですか?そんなに興味をそそられるものが?」

「あー、そういう面もまああるんだけどね。それ以上に、戦力強化。お兄さんと一緒にいたら今後何があるのか分からないし」

 

終末を蒐集する存在であるところのヤシロとしては、会ってみるだけでも十分な強化となるのだろう。それも、相手はそこらの滅びの物語ではなく一つの神話体系の終末だ。その効果は計り知れない。

 

「そういえばそうね・・・とはいえ、私と鳴央はそうもいかないわね」

「そうですね。北欧神話ゆかりというわけでもありませんし」

「うん?そうでもないんじゃないか?黒髪の方はともかく、茶髪の方はタイターニアだろう?」

 

と、二人の会話に対して首を傾げるトール。それは事実であるしティターニアとタイターニアの二つの霊格をその身に宿す音央は素直に頷いた。

 

「だとしても、あれは正確には北欧神話じゃねえだろ?」

「まあ、厳密に述べればそうじゃな。だが、そも『真夏の夜の夢』は北欧神話復興の一環としてシェイクスピアに書かせたもの。故にオベーロン、オベイロンという形で読者を信者に、感想を信仰に見立て、少々裏技を交えて神霊の座を作り、招き入れた。結果副産物としてタイターニアという精霊が生まれたがな」

 

確かにあの作品北欧神話的エッセンス多めではあるが、それにしたってそれはありなのだろうか。無しな気がする。というか魔王になってやりたい放題してたしどう考えてもアウトだったよねそれ。

そういう意志を込めて見つめると、さすがにバツが悪いのか目を逸らすオーディン。

 

「今にして思えば、絶対にありえない、やってはならない選択であったよ。しかし、当時は全く、考えもせんかった。済んだこととあきらめたといってもいいだろうな」

「・・・まあ、それはいい。いや全然よくねえけど、むしろ当時よく他の神群に叩き潰されなかったなと思うけど、やすやすとつかえる手段じゃないなら、まあ大丈夫だろ」

 

そう飲み込み、どうにか納得して、話を自分の中で整理する。

重要なのは、つまり音央のほうもここでなにか、自分の新たな可能性を知ることができるかもしれないということ。

 

「どうする、音央?」

「そうね・・・オーディンさんがいいんだったら、しばらくお邪魔したいけど」

「別にかまわんぞ、一人が二人になろうが三人になろうが大差ない。恩を前もって売れると考えれば、むしろ得であろう」

「三人も大差ないなら、私もいいか?」

 

と、ここで。当然といえば当然だが、スレイブも手を上げる。

 

「当然構わん。が、お前の目的は・・・」

「ヘグニに会う。いるのならヘジン、ダーインもだな」

「・・・紹介はしてやれる。だが、よいのだな?」

「私は構わない」

「だが、剣であるお前の意志で決めることはできないだろう。武器の意向ではなく、全て持ち主の意志で決められるものだ。それを何をしようとしているのか話もせず、」

「いやいや、別にいいけど」

 

シリアスっぽい空気を出していたオーディンの言葉を何のためらいもなく遮る一輝クオリティ。もうちょっと空気読んでお願いだから!

 

「いいのだな?」

「いいよ、別に。持ち主変更ってなればさすがにはんたいするけど、そうじゃねえんだろ?」

「当然です」

「だったら、別にいい。コイツが俺の期待外れなことをすることはねえだろ」

 

己の武器に対する絶対的な信頼。それを見せつけられた以上オーディンとしては何も言えず、三人の神話見学を許可した。

こうして。何か唐突に、一輝一行から三人が減った。しかし前もってもらっている旅費は返さないらしい。さすが一輝君、汚い。

 

・・・というか、湖札は一体何をしていたのだろう?

 




トール様については、ミョルニルの情報箇条書きを見て悪ふざけ的にいっこネタが思いついてしまったので、(自分が知らない作品で既出の可能性はありますが)まただしたいです。一輝とバトらせるととっても楽しそう。
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