問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~   作:biwanosin

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Qなんでこの話を短いスパンで出せたんですか?
A書く内容が決まっていたこともありますが、湖札が書きたかった。湖札が書きたかったんだ!!湖札が!!!書きたかったんだよ!!!!湖札が(うるせぇ)


一族の物語 ―交わした約束― 中断

ゲーム中断後、黒ウサギの指示通りすぐに交渉テーブルの準備に移った。一輝から式神が遣わされると「今すぐに」と返し、森の中、テーブルを一つに椅子を準備しただけの場所でプレイヤー側は待っている状態である。

 

「それにしても」

 

と、そんな中。準備が終わってしまったが故の沈黙に耐えられなかったのか、それともずっと気になっていたのか。理由は分からないが、沈黙を破ったのは飛鳥であった。

 

「十六夜君、しっかり脱出していたのね」

「まあ、あの中で固まってたわけじゃないからな」

 

そして、十六夜も特に思うところもなくそれに答える。

 

「金属に覆われてて動きにくかったっちゃ動きにくかったが、壊せないほどじゃなかった。体感としては、時間の流れが変わってた、って感じだ」

「もはや何でもありだね、一輝」

 

金縛りの範囲を個人から金属塊へ変えた術ということになるのだが、それを指摘するものは一人もいないので関係ない。

 

「ゲーム中断前にレティシアの方も全部ぶっ壊して助けたんだが……あれはもう戦線離脱だろうな」

「そんなにマズいの、レティシア?」

「命の危機は無い。そもそもなんともないはずの物ばっかだったのに何か起こってるのがおかしいんだ」

「あー、それはあれですよ。箱庭にはおあつらえ向きな『認識』があったので、それを利用して書きかえさせていただきました」

 

と、その瞬間。いつの間にそこにいたのか、向かい側の席についていた湖札が答える。

 

「私のギフト『言霊の矢』は伝承とその源流を込め、撃ち抜くことによって霊格を貫く矢と真実になるほど騙られた物語を込め、撃ち抜くことによってその存在の定義を書き換える矢がありますから。今回は後者を利用して私たちの世界の吸血鬼に近づけさせていただきました」

 

なんせこっちの世界での吸血鬼の定義、よくわかんないわ撃ち抜きづらいわですし、と。めんどくさそうに話しながら和菓子を口に放り込む。咀嚼し、飲み込んで。

 

「あ、良かったらいります?」

「いら」

「欲しい。ちょうだい」

「いいですよー、どぞどぞ」

 

十六夜が拒否しようとしたところで、耀が横から瞳を輝かせて手を伸ばす。箱ごと受け取ったそれ。筆頭取り出して、同じように口へ放り込む。

 

「お前なぁ」

「だって今は黒ウサギの審判権限で交戦禁止状態だし。だったら、毒物も出せないじょうたいだもん。美味しそうなものは有りがたくいただくべき」

「まぁ、気を張っていても仕方ないものね。私にもちょうだい、耀さん」

「うん、どうぞ飛鳥。黒ウサギも」

「あ、ありがとうございます」

 

と、女性陣が続々和菓子を食べていく光景。仮にもこれから魔王との交渉テーブルが始まるというのに呑気なものだ、と呆れながらも一息つけている。

 

「それで?一輝はどうしたよ?」

「ああ、兄さんは来ませんよ」

 

と、緑茶を人数分淹れながら湖札は返す。緊張感、どこに消えたのだろうか。

 

「だってほら、多少なりともヒントを与えようと持ったら本人が来るのは色々と聞こえがマズいですし。間に立たされた人間が勝手に言った、って名目が必要なわけですよ」

 

と、湖札は躊躇うことなく発言する。当然、それで納得する参加者ではない。ゲームの公平性を保つというお題目、お情けで獲得する勝利に興味はないという本音のもと発言をしようとして。

 

「だってこの真実、箱庭からの観測は不可能なんですから」

 

湖札の発言によって、遮られる。

 

「……それは箱庭の定義、ギフトゲームの定義に当てはまらねぇだろ」

「そりゃそうですよ、こっちの世界系には一切当てはまらないんですから」

 

十六夜にそう返しつつ、コートの内ポケットから一枚の紙を取り出した。

 

「さて、面倒な議論を挟む暇はないのでまず言わせていただきます。今回のゲーム、一切の不正はありません」

「それについては疑ってない。何が何だかわからないルールではあるが、だからこそ変に手を加えられるだけの技術は持ってないだろ」

「まあ、それもそうですね。兄さんにも私にも詩人としての能力はありませんし」

 

ヤシロさんがいたらワンチャンあったんですけどねー、とボヤきつつ契約書類をつまむ。

 

「まあなんにせよ、です。一切不正がないにもかかわらず中断させられている、という立場を利用していくつか条件を出させていただこうと思いますが、よろしいですかね?」

「……まあ、中断したのはこっち側だからな。拒否権もねぇだろ」

「ありがとうございます。まあ、あれですよ。この世界で自力で答えにたどり着ける存在なんてヤシロちゃん位なものですし、気にするだけ無駄かと」

 

あ、もう十六夜さんが参加者側代表、ってことで話し進めますね、と。先ほど取り出した紙を開き、読みあげる。

 

「一つ目。本ゲームに参加する全プレイヤーに対する疑似創星図の使用禁止」

「それはプレイヤー『が』使ってはいけない、なのか。それともプレイヤー『に』使ってはいけない、か?」

「後者です。完全に使用を禁止することはありませんが、その矛先を主催者側参加者側問わずプレイヤーへ向けることを禁止します」

 

当然のこととして、これは参加者側が有利になるルールである。なにせ参加者側が保有しているのは十六夜の一つのみ、主催者側で考えるのであれば合計四種類。アジ=ダカーハに渡したままにするのであれば三人が使える形になる。それを禁止するということは……つまり、参加者側に対する温情だ。

 

「さて、これの可否を審判に問う前に次のルールも言ってしまっていいですか?」

「なら、先に話せ」

「ではお言葉に甘えて」

 

と、そう言って。次の追加ルールも口にする。

 

「二つ目。参加者側のプレイヤーを逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀。以上三名のみとしてください」

「……まあ、これといって損はないかな」

 

この耀の発言は、至極その通りのものだ。何せ、元々の参加者の内レティシアが戦闘不能になっている以上戦えるのは名前が挙がった三人のみだ。

 

「ただ、そっちの意図が読めん。何が目的だ?」

「どちらかといえばゲームクリアへのちょっとした手助け、と言ったところですね。今回準備されているゲームクリア条件。一個でもクリアすればいい中の一つは、この三人以外の参加者がいると達成不可能なものですから」

「ふーん……ゲームギミックはある、と」

「一応ギミックと言えるものは、という程度ですけどね。おまけみたいなものですよ」

 

そこまでで、十六夜は……というか、三人は一輝の意図が大よそ読めた。それでも念のため、確認を取る。

 

「つまり、『今のまま挑んできても絶対負けなくてつまらないから少しは脅かして来い』、とでもいったのかしら?」

「That’s right!」

 

パチパチと拍手を送る湖札に対して、問題児三名の額に青筋が浮いた。だがこればっかりは仕方ない、だって完全になめられているんだもの。

 

「で、どうします?ちなみにこの条件を飲んでくれない場合は『一切ゲームを中断される謂れもないにもかかわらず中断されたということで即時再開を求める』って伝言預かってますけど」

 

しかし結局、この一言で飲むこととなってしまうのであった。この分は完膚なきまでに解き明かして殴り飛ばすことで返すと心に決めながら、条件を飲む。即時再開などとされてしまえばゲームの仕組みがかけらほども分かっていない以上、そのまま負けるのみだ。

 

「で、では」

 

そんな葛藤で言葉がとまってしまった以上、進行を請け負うのは中立の立場の役割であり。今回それにあたる黒ウサギが、それを執り行う。審判に徹することしかできない以上、中立の存在であり続けることが彼女のすべきことだ。

 

「参加者側はそれでよろしいでしょうか?それならば箱庭中枢へ申請し、正式なものとしますが」

「…………分かった、その二つの条件は飲む」

 

非情に。非常に腹立たしそうな表情を浮かべながら。それでも立場上飲むしかないが故に、参加者側の代表として回答した。目を閉じウサ耳をピコピコさせた黒ウサギが受理されたと伝えると、湖札は続けての条件を口にする。

 

「では、三つ目です。今回のゲームに関して質問をする相手として一部禁止する人物を上げさせていただきます」

「禁止?」

「ええ。まあ、『この人に聞かれたら答えが分かってしまう』って言う意味の禁止ではなく、『この人が真実を知る機会は別にちゃんと設ける』って方針ですけど」

 

つまり、ちょっと後の都合が大変だからやめといて、という程度のお願いだ。上げられた名前はある種想像通りの、一輝の従者たち。ヤシロを除く三人の名前が上げられた。

 

「まあこれについてはどっちでもいいと思います。できることなら、程度のラインですから」

「まあ、知らないやつに聞いても意味がないか。ヤシロに聞くことが許されてる以上、あんまり変わんねえだろ」

「あの子が素直に教えてくれるとは思えないけどね~」

 

あれはあれで立派な問題児である。

 

「なんにせよ以上です。なのでここからはちょっとした質問タイムと言いましょうか。まあそんな感じの時間にしましょう」

「さっき言ってた、箱庭から観測されないってのは?」

「あ、それはゲームクリア条件に直結するのでNGです」

「だったら、鬼道の一族は善か悪か」

「どっちでもありどっちでもないですね」

 

現状何もわかっていない感がある。

 

「そもそも、善悪の定義って難しいところですしねぇ」

「一般的な主観とか、個人的な主観とか、国という単位から見た場合とか、定義しやすい基準はあるんじゃないかな?」

「まあ、そう言うのはあるんですけど……ほら、何代目、って継承していくような形なので、それこそ人による、といいますか。契約書類を見たとおり、と言いますか……」

 

うーん、と悩んで。まあ話したところで何もないか、と決断する。

 

「私たち鬼道の一族に連なる人間は、生まれつきいくつかの感情や本能が欠落しています」

「……それで?」

「まあそう焦らず、何か情報があるかもしれないと思って話を聞いていてくださいよ」

 

実際問題として、鬼道に関する情報がまるで存在していないのだから聞くしかない。この言い方は少しばかり卑怯である。

 

「例えば私ですと、そこまで人間として支障が生まれるような欠落はありませんが、恋愛感情、性欲関連の部分で欠落が存在していますね」

「性欲って……それ、話して言い内容なの?」

「別に大したことでもないですし、気にしませんよ」

 

そんな歳でもないですし、という彼女の年齢はまだ十代、この中でも下の方だ。十分そんな歳だと思うのだが、彼女はまるで気にする気が無い。

 

「で、欠落内容ですけど。実の兄、近しい血縁者に対して恋愛感情を抱き、性的興奮を抱いてしまう、って結果になるように欠落していますね」

 

実際には実の兄だと思っていた相手に、だったんですけどねーなんて言っているがただのブラコンカミングアウトである。はっきり言ってリアクションに困り、というかツッコミ待ちなのだろうかと思って黙る四人。

 

「まあそう言う反応になるのは分かりますけどね。でもこの感情の欠落は、人間という『動物』にとっては大きすぎるものですよ?」

「あー……まあ、確かに。種の保存、って観点でみると欠陥品にもほどがあるか」

「その通り。まあ他にも細かい感情がそこそこ欠落しているわけなんですけど、その辺は模倣して作ったりしましたので誤魔化せている状態になります」

 

模倣して作った感情。しかし人間というのはそう言う存在ではないのか。育つ環境によって感情が育てられる、とはそういう意味ではないのか。

そんな疑問は、続く言葉でかき消される。

 

「で、まあ欠落してる感情の数や重要性が大きい感情が欠落しているとより強大な霊格を獲得する、という体質を初代のお嫁さんである魔王・ジャンヌダルクから継承しているわけなんですけど」

「オイちょっと待て」

「待ちません。で、歴代当主の中にはざっくりと『愛』という感情が欠落している人がいたんですよ」

 

衝撃的なカミングアウトに対する反応をしれっと流して、勝手に話を続ける。

 

「しかしその人は欠落していることを問題だと判断したみたいでして。神社の人間にも関わらず教会へ聞きに行ったんですよ」

「……まぁ、『愛』ってものを聞く相手としちゃ間違ってなさそうだけどな」

 

時代によっては問題になってしまいそうな行動である。

 

「さて、そこで優しい神父さんは明確に『愛』というモノを教えることはありませんでしたが、いずれ誰かから与えられる日が来る。その時はそれを、他の人にも与えてあげなさい。なんて伝えたそうです」

「変に愛の定義を教わってそれを模倣するよりはいいんじゃねえか?」

「いやー、この場合は最悪の結果ですねー」

 

と、その後のどうなったのかを告げる。

 

「当時少年だったその人は、博愛主義を名乗る方から愛を学んでしまったのです。これはもう、最悪の一言ですね」

 

博愛主義者。人種・国家・階級・宗教と言った違いを超え、人類を平等に愛するという存在。なるほど、その考えは素晴らしいものだ。人間としての理性を正し曇った上でそれを唱えられるのであれば。そしてそれを心に抱ける人間が増えたのであれば。そこから争いがなくなるのかもしれない。

 

「結果少年は、博愛主義の愛を自分なりに解釈して、咀嚼して、模倣して、自らの中に作り出しました。周りはそれを始めの内は歓迎しましたね。人格者として、鬼道の印象をいい方向に持っていけるのではないか、と」

 

いけるのではないか、という言い方。それが示すところとは、つまり。

 

「さて、彼はその感情の異常性を表に出さないまま当主を継承し、誰にでも優しい素晴らしい人としてちょっとした有名人になりました。お嫁さんをもらって、子供もできて。まあその辺りのどーでもいい人生は割愛します」

 

カットです、と両手の指をハサミの形にして、物を切る仕草をする。その姿だけを見れば、可愛らしいものだ。

 

「そうして過ごしていたある日、鬼道の家に暗殺者が侵入します。暗殺者はまず子供を殺し、偶然遭遇したお嫁さんを殺し、最後に当主を殺そうとして……まあ、あっさり捕まります」

 

『愛』という大きすぎる、重大すぎる感情の欠落。それは確実に、彼の力を増加させていたのだろう。

 

「さて、暗殺者が何をしたのか知った当主は何をしたのかといえば……答えは単純、何もしなかった、です」

「……嫁と子供を殺されたのに、ですか?」

「はい。だって彼にしてみれば、自らの嫁と子供に向ける愛と目の前にいる暗殺者に対する愛は、全く同じものなんですから」

 

そう、これが起こってしまった最悪。博愛主義、という考え方を言葉の通りに受け取り、模倣してしまったが故の弊害。一度も会ったことが無い人物に対してすら、殺意を向けてきた相手に対してすら、家族に向けるのと同質同量の愛を向けてしまった、狂人。

……いや、家族に対してすら、赤の他人に向けるのと同じ愛を、というべきなのかもしれない。

 

「とまあそんな人物がいたわけなんですけど、これは果たして善なのか悪なのか。イカれてることだけはまちがいないですけど、それ以上のことが分からないんですよねぇ」

「……ちなみに、その人はその後どうなったのかしら?」

「そんなイカれた思考回路を知り、恐怖を抱いた近隣住民の方々に殺されました。最後まで笑顔だったそうですよ」

 

その後、鬼道の家は彼の弟が継承した。弟はその教訓から、「博愛主義を名乗るものが現れたら即刻処刑すること」という家訓を残す。

 

「まあ、個人的には博愛主義者を名乗る人間なんて迷わず殺しちゃっていいと思ってますけどね。本当に博愛主義をやれている人物なら狂人の極みですし、なんちゃってで名乗ってる人間なんてロクでもないでしょうし、博愛主義をやれていると思っている人間もまぁ、害悪でしょう」

 

湖札は後々面倒事になるだろうという考えで、会ったならすぐさま殺してしまうだろう。

一輝であれば……どうだろうか。今後関わることがないと確信していれば放置するだろうか?まぁ、関わりうると思えば面倒に思い殺すのだけれど。

 

「とまあさっきのは極端な例ですけど、鬼道の当主なんてそんな感じのイロモノぞろいなんです。人間のコミュニティ視線で見た場合ですと、本当に当主次第、としか」

「……まぁ、一輝も大概イカれてるし。そう思えば、納得もできる、けど」

「じゃあそのまま納得しておいてください。さて、次は何か質問ありますか?」

 

無駄に長い話であった。

そんな感じで少し待ち、さて何も質問が出ないだろうかと考えだしたタイミングで。

 

「……なら、妖怪や魔物、霊獣、神と言った一輝君の言う異形の存在は、あなたの世界でいつから存在するものなのかしら?」

「……ふぅん」

 

飛鳥から、そんな質問が出る。湖札はその問いに対して柔らかな笑みを消し、一切目が笑っていない笑みに変えてから。

 

「はじめから、ですね」

 

そう、答える。

 

「それは、人間の観測しうる範囲において?」

「いえ、それより前の時間においても。私や兄さんが生きてきた時間軸で語らせてもらえば、それが誕生したときには既に。日本という国の始まりで語るのならイザナギ、イザナミの国産みから始まります。巨人の死体が大地となった場所であればその通りに、様々な国に伝わる国の始まりの神話がそのまま国の始まりです。勿論、さらに遡れば神が手を付ける前の世界があります」

 

一騎に語られた、かなり長いその答え。あからさまに何か情報があると言わんばかりであるが、この場でそれを考察し、問うたところで正誤すら返ってくるはずがないのだ。一旦この情報は脇において、他に質問しておくべきことがあるかを考える。

考えて、考えて、考え続けて……やはり情報がなさ過ぎて、対して出ては来ない。

 

「出てこないようでしたら、繋ぎに一つ忠告をば。十六夜さん、ちょっと手をこちらに伸ばしてください」

「は?」

「いいですから、ほらほら」

 

言われ、まあ現状害することをすれば審判によってとがめられる状態だ。であれば問題ないかと、言われたとおりに手を伸ばす。その手を取り、しっかりと伸ばさせる。

 

「さて、黒ウサギさん。一つ言っておきますね」

「はい?」

「これはあくまでも、忠告ですので。そういうことで一つ、よろしくお願いします」

 

というや否や。ポケットから取り出したナイフを握り、その肌に乗せる。

はっきり言って、意味が分からない。十六夜は保有している獅子座の太陽主権によって切断という概念に対する絶対的守護を保有している。その状態に対してナイフを当てたところで何があるのか、と。

 

しかし、そんな当たり前が当たり前に起こるのであれば。今彼女は、ナイフを取り出してなどいない。少しだけ力を入れて、スッ、と引く。十六夜の肌が薄く切れ、血がプクッと湧く。

 

「何……?」

「とまあ、こんな調子で」

 

ナイフを放り捨て、話を続ける。

 

「私にも確実にその守りを破る方法が一個ありますし、いけるんじゃないかな、って方法ならまだまだありますから。どこまで耐えられるのかをちゃんと実験してみるべきだと思いますよ?」

「実験、つってもな……」

「私なら、奴隷を10人くらい買ってきて死ぬまで実験します」

 

確かにそれは、確実な方法である。箱庭世界において奴隷を取り扱う商売が存在しないわけもない。そういう意味では、そのやり方は確実なものと言える。しかし、倫理観と照らし合わせたのなら……

 

「……ヤシロは」

 

そんな葛藤故か。実験動物たるマウスとも会話できる耀が、食肉用に育てられていると知ってる動物と会話したことのある耀が、言葉を再開する。

 

「ヤシロは、このゲームのクリア条件、鬼道の霊格に関わる全て、そして一輝の能力とか。その全てを知ってるの?」

「ええ、知ってると思いますよ。箱庭からは観測不可能な領域ですけど、彼女はその特殊な霊格故に全て知っているはずです」

 

それもあって面白がってついてきたんでしょうねー、と。はっきり言ってくれたが、まあ、つまり。

この場で湖札に聞かなければならない情報は存在せず。

なんならヤシロに答えさせることが出来ればより深いところまで知ることができ。

こちらがどこまでの情報を抑えているのかを知られることもなく。

戦う上での方針を考えることまで出来てしまうのである。

 

なんてこった、10ヤシロのほうがいいじゃねえか。

 

「そう言うことなら、この場でこれ以上の質問はナシでいい。そっちの出してきた条件は全て飲む、その上で再開までの期間をよこせ」

「いいですよ、そっちとしてはどれくらい欲しいですか?」

「一ヶ月は最低でも、欲を言えば二ヶ月は欲しい」

「おやおや、欲張りなことで」

 

そう言いながら、飲み物がなくなったためか倉庫から日本酒を取り出し、一口煽る。兄と違ってめっぽう酒に強い彼女はただ言い訳のためにそれを飲み。

 

「でも、いいですよ。個人的にも交渉に飽きてきましたし、それくらいなら許容範囲です。間を取って一月半あげましょう」

「いいのかよ、そんなによこして」

「問題ないですよ。それで必要な謎を全て解き明かしたのなら兄さんは好敵手として喜ぶでしょうし、そうでなかったのなら現状と何も変わらないというだけのことですから。悪化しないことだけは間違いないでしょうし」

 

さらに、一口。瓶から直接酒を口に含み、香りを楽しみながら嚥下する。

 

「あ、いりますか?」

「いらん」

「ですよねー」

 

さらに一口、二口。

 

「それで、他に確認はありますか?」

「ねぇよ、もうこれでしまいだ。酌が欲しけりゃ黒ウサギを貸してやるからとっとと帰れ」

「黒ウサギはお気軽貸し出し要因ではないのですよ!?」

「あ、大丈夫です。兄さんに頼むので」

「しれっと断られるのもそれはそれで辛いものがあります!!」

 

面白い人ですねー、と言いながら立ち上がる。手に握る瓶を傾け、大地へと酒が飲み込まれていく。ドプリ、ドプリとこぼれ、酒気がその空間へ満ちてゆく。古来より人の認識をズラし、時に神すらを惑わせるのが酒の効力。であればこそ、酒気の中に立つ彼女の姿は揺れ、薄れ……陽炎の如く、消える。

 

その場に残されたのは、審判が一人に変わらず挑み続けるプレイヤーが三人。机の上には、追加事項が記されたモノクロの契約書類が一枚。

 

 

はてさて、彼らは真実へとたどり着けるのだろうか。それはまだ、誰にもわからない。

だが、もしも。彼らが完璧な真実へとたどり着いたとして……その時、自ら暴いた真実を前にして。彼らは戦うことが出来るのだろうか?

 




つーわけで次回も湖札書くからな!
まるで本編関係ない話を湖札で書くからな!

何と言われようと湖札を書くんだ俺は!!!!書くんだよッ!
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