8/18はレーベの進水日でした。
まだ早朝だというのに蒸し暑く、普段より早く目が覚めた。二度寝をしようにも時間が中途半端で仕方なく床から出ようと思うが、動くのが億劫に感じる。不快なまでに暑苦しいはずなのに、布団に体を預けることがたまらなく心地よい。
だらしなく横になっていると私室の扉がきぃ、と唸った。
「Guten Morgen。起きて、提督。とっくに六時を過ぎてるよ」
「そうか、もうそんな時間か」
「うん。みんな運動場に集まり始めているよ」
すぐに来てね、と言いレーベは部屋から出ていく。そろそろ行かねばと思うのだが、暑気あたりを口実にしてもう少し寝転がる。
「二度寝はだめだからね」
「わかっている」
私の行動を見透かしたかのような発言に少しムッとしながらも、提督である自分が遅れていくのは艦娘達に示しがつかないのでそろそろ起き上がることにした。体を動かせば少しはこの気だるさもなくなるだろう。
「提督、朝食の準備をするから少し待ってて」
朝の体操から戻るやいなやレーベは食事の支度に取り掛かる。本来そんなことをせずとも食堂に行けば飯にありつけるため必要はないのだが、朝に物を食べたがらない私のためにこの生真面目な子は毎朝こうして食事を作っている。はじめのうちはあの手この手で回避していたのだが、彼女の大人しめな印象からは想像できない根気に圧され、いつの間にか食べるようになっていた。
今日の天気予報を確認しつつスケジュールの確認をしていると、食卓に料理が並び始めた。釜から飯をよそうレーベの隣に腰を下ろす。
「いただきます」
「いただきます」
出てきたのは玄米、ナスの味噌汁、焼き鮭、冷奴にほうれん草のごま和え。銀髪碧眼という日本人と似ても似つかない彼女の風貌とは裏腹に出てきたのはまごう事無き日本食である。初日はパンやバター、その上に乗せる肉、野菜などドイツ風の朝食を出してくれたのだがそれに対し、朝は米以外は食べたくない、と言ったら次からは和食のような物が出てくるようになってしまった。
今では料理に関しては私なんかよりもずっと日本人だと、味噌汁をすすりながら思う。
「ん、何かな。お弁当でもついてるのかな」
「いや、なんでもない。この味噌汁うまいな」
「Danke。間宮から上手なだしの取り方を教えてもらったんだ」
「レーベは熱心だな」
「こうでもしないと提督は食べてくれないからね」
「まだ根にもつか」
「だってせっかく作った料理を食べてもらえないんだよ。あの頃はすごく悲しかったな」
「悪かったな。もうしないから許しておくれ」
「どうかな。提督は反省しないから」
「そんなことはない。こんな俺のためにわざわざ毎日ありがとうな」
彼女の頭を撫でてあげると嬉し恥ずかしそうに口元を緩める。さっきまでのすねた態度が嘘のようだ。
「じゃあ次の休暇は長めにもらえるかな。ちょっと遠出したいんだ」
「いいだろう」
「ならしかたないね、うん。多めに見てあげるよ」
よし、と心の中でガッツポーズをしてるとレーベが続けた。
「なんてね。提督の朝食嫌いは大淀から聞いていたから全然気にしてないよ」
「なんだって」
「すごく有名みたいだったからね。駄目だよ、朝食はちゃんと食べなきゃ」
先ほどとは裏腹に悪戯気に、得意気に目の前の少女は笑う。そんな彼女から私は顔を逸らした。どうやら今度は私自身がへそを曲げてしまったらしい。茶化すように謝るレーベをしり目に朝食をかきこもうとするのだが、慣れない行動にむせてしまうのだった。
朝食後提督室に向かい書類を整理していると、一枚の紙が目に留まった。それは休暇申請書だった、上から戻ってきていたのか。ここ最近中部海域の奥に敵を発見したり、友軍泊地の奪還に動いたりと忙しかったはずなのだが、書類では一か月ほど休暇をもらえている。作戦で多くの鎮守府や警備府が少なからずダメージを受けたため気持ち程度の慰安させるつもりなのか、私の前回の作戦での結果が奮わなかったために期待されていないのか。どちらにせよ今にとっては都合がいい。真剣な顔で書類を眺めているレーベに声を掛けた。
「そういや長期休暇が欲しいと言ってたな」
「そうだけど、どうしたの?」
「一緒に俺の別荘に行かないか。この夏は俺も少し羽を伸ばそうと思っていたんだが、一人だと寂しくてな」
朝食時に自分をおちょくった仕返しだ、と言わんばかりの笑顔で彼女を見た。自分ではすっかり堅物になってしまったと思っていたが存外子供っぽいのかもしれない。
「どうした、嫌だったか?」
「そ、そんなことないよ。むしろ、嬉しい、かな。うん」
「なんだ、ずいぶん煮え切らない反応じゃないか」
予想外の反応にこちらが戸惑ってしまった。てっきりこんな壮年に片足を入れかけている男と休暇を潰すのは年端もいかぬ少女にとっては充分な嫌がらせになると思ったのだが。
「だって僕たち今まで二人で鎮守府の外に出たことはなかったから、びっくりしちゃった」
「そうだったか」
「そうだったよ。提督は休みの日になるとすぐ一人でどこかに行くから」
「言われてみればそうだったかもしれない」
「言われなくてもそうだったよ」
「嫌じゃないのか」
「ううん、すごくうれしいよ」
煽るように風鈴が音を鳴らす。ちょっとした仕返しのつもりだったが思わぬところに話が転がって行ってしまった。しかし悪いことではない。別荘に士官学校時代の旧友を呼んだことはあれど、女性を呼んだことはなかった。今年は少しは華やかになるかもしれない。
「決まりだな」
「うん」
でもこの作戦が終わってからだね、とレーベは見ていた資料をこちらに向ける。この夏に行う予定の大規模作戦の要綱だった。曖昧な返事をしつつ作戦要綱から逃げるように目を逸らす。まあいい、まだ夏は始まったばかりだ。
あとがき
初投稿になります、七天白桃といいます。
今日はレーベの進水日ということでなにかしてあげたいと思い文章を練ったはいいもの、盛大になにも始まらないものができてしまいました。反省。
拙い文章ではありますがいかがだったでしょうか、自分の技術向上のためにもぜひ感想、指南などをお願いします。