艦これ外伝 ─ あの鷹のように ─   作:白犬

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第14話 「ルイジアナ」

 

 

「はぁ、やっぱり、怒られちゃうんだろうなぁ」

 

 がっくりと肩を落としながら、“ドック”を後にしたスパルヴィエロは、足取り重く

エスペランザへと歩を進めた。

 

【仕方ないだろう、あの場合。それにお前自身が決断したことだろうが?】

 

 ドックの前で合流した後、ひとりスタスタ歩いていたネロが振り返る。

 

 とつぜんスパルヴィエロに下った、司令部への出頭命令。

 おそらく、前回の輸送船団護衛任務の失敗と、無断で貴重な輸送物資を捨ててしまったことへの尋問が待っているのだろう。

 

 ふらふらと、階段に足をかけるスパルヴィエロ。その後ろ姿は、まるで一段一段13階段を登ってゆく死刑囚のようだ。

 

 あの輸送船団護衛の際、ネロが舌を巻くほど見事な指揮をとってみせたスパルヴィエロと、目の前をゼンマイの切れかかった人形のような動きで進む少女が同一人物とは、

ネロにはどうしても信じられなかった。

 

 

(まったく、これがあの時(・・・)と同じ艦娘とねぇ……)

 

 

 ネロはため息をひとつつくと、スパルヴィエロを追って、階段を駆け登りはじめた。

 

 

 

 スパルヴィエロは、階段を上がるとそのまま奥へと向かった。薄暗い廊下を少し歩くと執務室にたどり着く。

 

 なぜか、あちこちに継ぎ接ぎがしてあるドアを遠慮がちに叩くと、中からしわがれた男の声が聞こえてきた。

 

「おう、入れ!」

「失礼しま~す、うっ!?」

 

 そう言いながら、ドアノブに手をかけるがピクリとも動かない。左右どちらに回しても結果は同じだった。

 

「あ~、そのドアは立て付けがわるくてのぉ。思い切り押してみぃ」

 

 しばらくガチャガチャとやっていると、中からさっきの男の声が聞こえてきた。

 

 スパルヴィエロは軽く眉をひそめたが、大きく息を吸うと両手でノブを掴み、力のかぎり押してみた。

 

「フンッ!! って、きゃあああ!?」

 

 いきなりドアが枠からすっぽ抜け、スパルヴィエロはドアごと室内に転がり込んでしまう。

 

「痛たたた、はっ!」

 

 一瞬、痛みで意識が朦朧となったが、すぐに我に返った。

 顔を上げると、目の前に置かれた質素な机から、乗り出すように小柄な老人が自分を

見下ろしていた。

 

 

 

 

「ス、スパルヴィエロ、命令により、ただいま出頭いたしました」

 

 ドアの上に腹ばいになり、スパルヴィエロは顔だけ上げて敬礼するが、だれひとり、

それに答えるものはいなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

「わっはっは、噂通り、なかなか面白い嬢ちゃんじゃの」

 

 体に付いた埃を払いながら、羞恥で顔を朱に染めるスパルヴィエロを見ながら、

バルドヴィーノは腹を抱えて笑っている。

 その横では、トレントが頬をピクピクと痙攣させながら、額に指を当てていた。

 

 このふたりとは面識のあるスパルヴィエロだったが、部屋の隅に立ち、無言で自分を

見ている女性……ルイジとは面識がなかった。

 

 

 

 ルイジはスパルヴィエロの視線など気にしたそぶりも見せず、歩きながら口を開く。

 

 

 

「私は、軽巡洋艦『ルイジ・ディ・サヴォイア・デュカ・デグリ・アブルッチ』級1番艦、ルイジ・ディ・サヴォイア・デュカ・デグリ・アブルッチだ」

 

 

 

 

 

 

「……………………へっ?」

 

 

 

 

 

 ポカンと口を開けたまま、たっぷり1分ほど経過した挙げ句、スパルヴィエロの口を

ついてでたセリフは、上記のようになんとも間の抜けたものだった。

 

 

 ルイジ大きく息を吸うと、もう一度自己紹介を始めた。

 

 

「私の名は、ルイジ・ディ・サヴォイア・デュカ・デグリ・アブルッチだ!」

「どうした、せっかくルイジが自己紹介しとるというのに嬢ちゃんは挨拶なしか?」

 

 あきらかにバルドヴィーノの口調は現状を楽しんでおり、スパルヴィエロをからかっ

ているのは明白だったが、本人にはそれに気づく余裕はなかった。

 

「し、失礼しました。わたしは軽空母スパルヴィエロであります。あ、あの……ル、

ルイジアナ・デュカプリオ・アグ……」

 

「はじめから、豪快に間違っていますよ?」

 

 ため息まじりにトレントがツッコむと、スパルヴィエロはますます焦り出す。

 

「は、はわわ、失礼しました! ルぎゅッ!!!?」

 

 どうやら、今度は舌を噛んだらしい。

 

 口元に当てた手から鮮血を滴らせ、体を小刻みに震わせながら、スパルヴィエロはいきなりしゃがみ込む。

 

「わ~はっはっはっはっ! 気にすることはないわい。ルイジのフルネームをソラでいえるのは、トレントとヴィットリオぐらいじゃからのう」

「私も面倒なので、普段はルイジですませてますが……」

 

 シレッと言いながら、トレントはスパルヴィエロのそばにかがみ込むと、治療をはじ

める。

 

 

「はい、すみましたよ」

「あ、ありひゃとうごひゃいます」

 

 

「同時に、彼女は第1遊撃艦隊の旗艦を勤めています」

 

 瓶やらピンセットを薬箱しまいながら、トレントが付け加えた。

 

 

【ほぉ、じゃあ、お前があの艦隊を指揮していた艦娘か?】

 

 顔をしかめ、盛んに舌の出し入れを繰り返すスパルヴィエロを、呆れたと言わんばかりに見ていた黒猫が顔を上げると、とつぜん話し出す。

 ルイジはかすかに眉を動かしたが、すぐに何か思い立ったような顔になる。

 

「その声……スパルヴィエロの艦載機を指揮していた妖精だな」

【ああ、ネロだ。あのときは色々と世話になったな】

「私は、任務を遂行したまでだ」

 

 ぶっきらぼうに返すルイジに、ネロは軽く肩をすくめる。

 

「あの~、ネロひゃん、この方と、お知り合いなんれひゅか?」

 

 艦娘の持つ治癒能力の高さなのか、あるいはトレントの塗った薬の効き目かは分から

なかったが、辿々しさは残りながらも、スパルヴィエロがネロたちの会話に割り込んできた。

 

【知り合いも何も、こいつはお前の命の恩人だ】

「えっ?」

【お前が深海棲艦にボコられて、ぼろ雑巾みたいな有様で漂流し、挙げ句に波にさらわれ未知の船出に旅立とうとしたのを未然にくい止めてくださったのが、こちらにおられるいけすかんお嬢さんというわけだ】

 

 嫌み丸だしなネロの説明に、思わず苦笑するルイジの前にスパルヴィエロが進み出ると、深々と頭を下げた。

 

「あ、あの、その節はお世話になりした。おかげでわたし……」

「勘違いするな」

 

 ルイジは、語気鋭く言い放つ。

 

「さっきも、その妖精に言ったが……」

【おれの名前は、ネロだ!】

「……これは失礼、先ほども、そちらのネロさんに申し上げたが、私は自分に与えられた任務を遂行したまでだ。礼を言われるようなことをした覚えはない……これで、よろしいですかな、ネロさん?」

 

 

 口元に笑みを浮かべながら、互いに火花を散らし睨み合うルイジとネロ、どうやら

このふたり(?)、相性はかなり悪いようである。

 

 険悪なふたりを遮るように、慌ててスパルヴィエロが割って入ってきた。

 

「何だ?」

「やっぱり、お礼を言わせてください」

 

 ルイジの顔が、不機嫌さを増す。

 

「何度同じ事を言わせる? 私は……」

「それでもわたし、嬉しかったです!」

 

 満面の笑みを浮かべるスパルヴィエロに、ルイジは困惑したような顔になる。

 

「あなたが助けてくれなかったら、わたしどうなっていたか分かりません。本当にありがとう

ございました、ルイジ・ディ・サヴォ……サ、さ……」

 

 輝くような満面の笑みが、みるみる引きつっていく。

 

 だらだらと脂汗を浮かべたはじめたスパルヴィエロを見ていたルイジが、頭に手をやり

乱暴に髪を掻きながら苦笑する。

 

 

 

 

「……ルイジでいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ただでさえ知名度の低いイタリアの軍艦を艦娘として使う際に、なるべく艦名は短い物を使うように心がけてきましたが、
ルイジは自分が知る限りもっとも長い艦名が気に入り、本作登場となった経緯があります(笑)。
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