艦これ外伝 ─ あの鷹のように ─   作:白犬

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第28話 「ハジメテノ演習 ④」

 

「へ~、やるじゃん、あのクロネコ」

 

 額に手を当てながら、エスペロは紅いフィアットを目で追いながら、賞賛の言葉を口

にする。

 オストロも相づちを打つが、何か考え込むように、口をへの字に結んでいる。

 

「ホント……でもさあ」

「ん?」

「あのネコ、どうやって、あんな小さな戦闘機に乗ってるんだろ?」

 

 普段は猫の姿をとっているが、ネロとて妖精である。

 ラジコンサイズの愛機に乗り込むときは、サイズを合わせるぐらいお手の物だが、

ふたりはそれに気が付かないようだった。

 

 しばし洋上で、腕を組み考え込む双子の艦娘。

 

「分かった! きっと操縦席にみっちり詰まってんのよ」

「焼きたてのロゼッタみたいに?」

 

 ロゼッタは生地を独特な形の型に入れ、焼き上げたものは薔薇の形をしており、

イタリアでは一般的なパンである。

 

 エスペロとオストロは、しばらく互いの顔を見つめていたが、豪快に吹き出すと笑い

はじめる。

 

「ひいっ!?」

「わっ!?」

 

 耳をつんざく銃声が轟き、ふたりの鼻先を12.7ミリ機銃弾が掠めていく。

 機銃受けた海面が白く泡立ち、思わずのけぞったふたりの間を紅く塗られた古びた

外観の複葉機が駆け抜けていく。

 

「このバカ猫……」

「ふざけんな!」

 

 エスペロたちは怒りに顔を紅く染め上げ、手にした主砲を振りかざす。

 

 なおも上昇を続ける真紅のフィアットCR42の周りにまるで小さな花のように黒煙が

いくつも発生するが、ネロは軽く操縦桿を動かすと、いとも簡単に回避してしまった。

 

 さらに愛機の周りを彩る黒煙など意に返さず、後方宙返りを披露しはじめた紅い

フィアットにルイジから通信が入った。

 

「どうだ、満足したか? そろそろ次の訓練に入りたいのだがな」

【ああ、機銃の試射は終了した。全機、これより爆撃訓練に入る!】

 

「何が試射よ!」

「後で覚えてなさいよ!」

 

 自分たちをからかうように、頭上で旋回を続ける紅いフィアットに、両手をブンブン

振り回しながらエスペロたちが声も限りに悪態をつく。

 

 ネロの号令一下、フィアットCR42は高度を上げ、逆にカントZ501は、海面スレスレに

降下しはじめる。

 

【打ち合わせ通り、3機一組で目標を攻撃せよ】

 

 この場合の目標とは、当然のごとく第1遊撃艦隊の艦娘たちのことを指している。

 

「上等っ!」

「どっからでも、かかってきなって!」

 

 襲いかかる不揃いな編隊を目で追いながら、エスペロとオストロがペロリと唇を舐める。

 

「ふたりとも、訓練だからって、油断しちゃ駄目よ」

 

 トゥルビネが、いつでも発進できるように腰を屈め、真剣な声で姉妹艦たちを叱咤する。

 

「全艦、両舷全速! 使用されているのは模擬弾だが……まかり間違っても直撃など

食らうなよ」

 

 ルイジのかけ声に、第1遊撃艦隊の艦娘たちが一斉に動き出す。

 

「うう、緊張するなぁ」

 

 今回の標的には、もちろんスパルヴィエロも含まれている。

 

 自分から発艦した艦載機たちを、おどおどした目で追いかけていると、海上を這う

ように接近してきたカント501が、トゥルビネの背後に回り込んでいるのに気がついた。

 

 カント501は、腹に抱えた魚雷を一斉に発射した。

 

「トゥルビネさん!」

 

 スパルヴィエロの瞳に、トゥルビネめがけて迫る3本の雷跡が映り込む。

 

 危険を告げようと咄嗟に口を開きかけるが、魚雷が命中する寸前にトゥルビネは脚部の舵を右に切る。

  

 3本の魚雷は、紙一重でトゥルビネの左側を空しく通過していく。

 

(トゥルビネさん、いまの攻撃をどうやって?)

 

 背後から迫る魚雷の存在を、とうに気づいていたといわんばかりに回避したトゥル

ビネの動き。

 だが、頭に浮かんだ疑問は、頭上から迫る、独特のエンジン音によってかき消されてしまった。

 

 

 攻撃を終えたカント501が、背中を向けたままのトゥルビネを、追い越すように通り過ぎていく。

 

「ごめんなさい」

 

 トゥルビネが、謝罪の言葉を口にしながら右手を空に向ける。

 

 握りしめた12センチ連装砲が火を噴く。

 無防備に背部をさらけ出していたカント501が1機、回避する間もなく四散した。

 

 何気なく、外れた魚雷の方に目を向けたトゥルビネが、悲鳴に近い声を上げた。

 

「アルマンドさん、危ない!」

 

 目標を見失い、あてどもなく直進を続ける魚雷の進行方向に、よりにもよって

アルマンドが背中を向け、ボ~っと突っ立っていたのだ。

 演習の最中だというのに、アルマンドは本を読むのに夢中で、はぐれ魚雷の接近に

気づいていないようである。

 

 何度目か、トゥルビネの必死に呼びかけに、ようやくアルマンドは顔を上げる。

 

 片手を口元に当て、必死に一点を指さすトゥルビネ。

 迫る魚雷に首だけ捻り億劫そうに目をやると、アルマンドの艤装が音を立てて

動き出す。

 

 背中に取り付けられた2つの箱状のパーツから、細長いレールのようなものが海に

向かって倒れ込む。

 レールが海面スレスレまで延びると、鉄の箱から黒い球体が、ガイドに沿って転がり出す。

 

ちゃぽん、ちゃぽんと、連続して小さな球体が飛沫を上げみるみる海中に没していく。

 トゥルビネは、すぐにソレが機雷であることに気がついた。

 

『アルマンド・ディアス』は、通常の機雷敷設艦には及ばないものの、実に96発もの

機雷を搭載することができた。

 

 

 3発の魚雷の内、2発はアルマンドの両脇をかすめて通りすぎたが、残りが未だに投射

され続ける機雷の群に突入したらしい。

 

 アルマンドの体をすっぽり覆うほどの水柱が収まると、海水と爆発の際生じた熱の

せいで発生した水蒸気の向こう側に、小柄な人影が浮かんだ。

 

 

「……問題ない」

 

 

 手にした本から目を離すことなく、海水でずぶ濡れになったアルマンドが、サムズアップしている。

 

 トゥルビネは胸をなで下ろしながら、困ったように微笑んだ。

 

 

 

 

 

「なにやってんのよ、アイツ?」

 

 全身濡れネズミ状態になりながら、得意げに親指を立てているアルマンドに、エスペロが

うろんげなまなざしを送る。

 

「エスペローッ、上、上!」

 

 前を向くと、落下してくる爆弾を右に左に軽快に避けながら、オストロが上を指さし

ながらこちらに向かってくる。

 

 頭上を降り仰ぐと、3機のフィアットが急降下してくる。

 

 エスペロは小悪魔チックな笑みを浮かべると、ぎ装に意識を集中する。

 限界まで缶の圧力が高まり、エスペロの体は30ノットを越える速度で前進しはじめる。

 オストロも、姉妹艦とまったく同じ笑みを浮かべると、急加速する。

 

 これを見て驚いたのは、今まさに爆撃コースに入ろうとしていた妖精たちであった。

 

 爆弾を避け、てっきり距離をとると思っていた2隻の駆逐艦が、お互い衝突せんばかり

に接近しはじめたのだ。

 

 エスペロたちの真意は測りかねたが、結果的に的は大きなったのである。

 妖精たちは、同時に投下索を引いた。機体に吊下されていた模擬爆弾が、一斉に

解き放たれる。

 

「オストロッ!」

「了~解ッ!」

 

 互いに通り過ぎる寸前に、エスペロの伸ばした手を、オストロががっちりと握りしめる。

 2隻の駆逐艦娘が、海面に円を描くように旋回しはじめた。

 腕がちぎれんばかりの衝撃に、エスペロたちは苦痛に顔を歪めるが、それはきっかり

180度旋回した瞬間に終わりを迎えた。

 

 操縦席からこの光景を見ていた妖精たちのつぶらな瞳が、限界まで見開かれた。

 

 互いに握りしめていた手を離した瞬間、眼下の駆逐艦が直角に近い角度で旋回したのだ。

 こんな動きは、海の上を行く船舶には絶対に不可能なことだった。

 

 目の前で起こった事が理解できず、一瞬妖精たちは呆然とするが、目標を失い空しく

海上で上がった水柱を目にし我に返った。

 

 眼前に迫った水柱を間一髪でかわし、機体を水平に保つ3機のフィアット。

 だが妖精たちは、左右から併走するエスペロとオストロに気づき、今度は自分たちが

標的になったことを悟った。

 

 フィアットは一斉に機首を上げ逃げようとしたが、時すでに遅かった。

 オストロたちの手にした12センチ連装砲と、ぎ装の背部からせり出した、40ミリ機関砲と13ミリ機銃が、一斉に火を噴いたのだ。

 

 機体に無数の銃痕が刻み込まれ、3機のフィアットは、次々に海中に墜落した。

 

「お互い、模擬弾でよかったね~」

「うんうん、当たっても死なないし」

 

 

 

 ペロリと舌を出しながら近づくと、エスペロとオストロは手にした主砲を、軽くぶつけ

合う。

 

 

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