艦これ外伝 ─ あの鷹のように ─   作:白犬

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第6話 「輸送船団を護衛せよ! ②」

 

 

 

 スパルヴィエロは右腕に力を込め、目一杯弦を引き絞ると静かに目を閉じた。

 呼吸を整えると、弦にかけた指を静かに離す。

 

 大気を切り裂く鋭い音とともに、蒼窮の空に向けて1本の矢が放たれる。

 瞬時に矢は炎に包まれ、三つに分かれた。

 さらに炎はすぐに爆ぜ、中から機影が飛び出した。

 

 スマートな機体の上に掲げられるように取り付けられたエンジン、その横から楕円翼に近い主翼が延びていた。

 エンジンの設置位置の関係で、操縦席風防の直前でプロペラが回転を続けている。

 

 

 一風変わったこの機体の名は『カントZ501ガビアーノ』。

 

 

 しかも、それは艦上機ではなく、飛行艇(・・・)であった。

 

 最初に矢を放った方角を起点として、スパルヴィエロは少しずつ角度を変え、5本の矢を次々と打ち放つ。

 

 

「お願いします、妖精さん」

 

 

 合計18機のZ501ガビアーノは、しばらく輸送船団の頭上を旋回していたが、やがてスパルヴィエロを中心に、円を描くかのように広がると一斉に敵を探すべく、高度を上げ飛び立っていく。

 

 

─ あいかわらず、訳の分からんことをする奴だな ─

 

 

 

 矢筒から、ため息とともにネロのつぶやく声が聞こえてきた。

 

 ナポリからサルディーニャ島に向かう航路をとっている以上、地形的に深海棲艦の勢力下にある地中海南側、シチリア島方面に向かって扇状の二段索敵を行う方が、よほど効果的なはずだった。

 スパルヴィエロのように、陸地であるイタリア半島を含んだ360度、全周を索敵するなど、無駄な行為と非難されても仕方がないだろう。

 

 

 しかも……。

 

 

─ なんでサルディ二アに向かって索敵機を飛ばす必要があるんだ? おれたちの目的地

だろうが ─

 

「念のためです」

 

 懐疑的なネロの声に答えながら、スパルヴィエロはみるみる小さくなっていく索敵機

を見送った。

 

 

◆◆◆

 

 

 それから30分ほど、何事もなく時間が経過した。

 輸送船団は周りを警戒しながら、なおも目的地へと進んでいた。

 

『コチラ6番機、シチリア島南西150キロノ海域、パンテリア島付近二、敵、深海棲艦ヲ

発見! 編成ハ駆逐艦3隻デス』

 

 スパルヴィエロの頭に、索敵機からの思念による報告が響きわたる。

 妖精たちの声は、輸送艦娘たちにも伝わったのだろう。

 にわかに顔が強ばり、慌ただしさを増す。

 

「だいじょうぶですよ、心配しないでください」

 

 スパルヴィエロは洋上で器用に腰を屈めると、少女たちと目線を合わせ、一番近くに

いたおさげの少女の頭に手をやり、撫でさすりはじめた。

 

「みなさんは、必ずわたしが守りますから!」

 

 スパルヴィエロの自信に満ちた声に、不安そうに身を縮めていた輸送艦娘たちの顔に

笑顔がもどった。

 

─ パンテリア島か……なら、まだ間に合う。おい、最大戦速だ、いまのうちにオロゼイ

に逃げ込むぞ! ─

 

 オロゼイは、サルディ二ア島の東側、ティレニア海側に面した場所であり、その地形から泊地として最適であり、現在はイタリア海軍の主力艦隊が艦隊泊地として使用していた。

 そしてここが、スパルヴィエロたち輸送船団が目指す、目的地でもあった。

 

─ おい、どうした? ─

 

 ネロは、いっこうに返事をしないスパルヴィエロに、ムッとしたように問いかける。

 

─ もたもたしていると、あいつら(深海凄艦)に追いつかれちまうぞ ─

 

「……これって、変じゃないですか?」

 

  あごに指を当て、何か考え込んでいたスパルヴィエロが、顔を上げる。

 

─ 敵が現れ、おれたちを攻撃するために、一直線にこっち向かってくる。いったいこれ

の、どこがへんなんだ? ─

 

「数、少なすぎると思いませんか?」

 

─ 哨戒用の艦隊なんだろ。 じゃなきゃ、ここら辺は第1遊撃艦隊のナワバリだ。連中にボコられた深海棲艦の残存艦艇かもしれんぞ ─

 

 1年前に起きた“タラントの惨劇”以来、イタリア半島にもっとも近いシチリア島は、

深海棲艦から島の形が変わるほどの苛烈な攻撃を受け、いまでは完全な焦土と化していた。

 

 ただ、深海棲艦自体はこの島にさほど戦略的価値を感じないのか、同島の近海に幾つかの艦隊を展開させているだけであり、それ以上イタリア本土への進行を阻止するために、定期的に艦娘たちが派遣され、小競り合いを続けている海域であった。

 

「たしかに現状を考えれば、ネロさんの仮説には説得力があります、でも……」

 

 事態は一刻を争うというのに、どうにも煮えきらないスパルヴィエロに、ネロは苛立ちを隠そうともしない。

 

─ あのなあ! ─

『コチラ11番機、敵艦隊ヲ発見シマシタ』

 

 突然割り込んできた報告に、ネロが息をのむ。

 

─ チッ、増援か。いわんこっちゃない! だから…… ─

 

「ちょっと、待ってください」

 

 今度はスパルヴィエロが、ネロの思念を遮った。

 とっさに反論しようとするが、鋭さすら感じさせるスパルヴィエロの口調に、押し黙ってしまう。

 

「11番機の索敵範囲は、シチリアとは逆ですよ」

 

 表情を硬くしながら、スパルヴィエロは目的地であるサルディーニャの方向に顔を向ける。

 ネロは瞬時に、スパルヴィエロが言わんとしたことを理解した。

 

『報告ヲ続ケマス、深海棲艦ハ、現在ボニファシオ海峡ヲ越エ、南下中、編成ハ軽巡2 

駆逐艦4、輸送船団ヨリ、推定150キロノ距離マデ接近中!』

 

─ ボニファシオだと? 馬鹿な! ─

 

 妖精の報告に、ネロが絶句する。

 

 ボニファシオは、サルディ二ア島とその上に位置するコルス島の間を走る海峡の名前

である。

 深海棲艦の別道艦隊は、よりにもよってイタリア海軍の主力艦隊の座する拠点を回り込んで来たというのだ。

 

 

 

「挟撃、ですね」

 

 

 

 サルディーニャとシチリア。スパルヴィエロは、ふたつの島を順に見ながら、小声でつぶやいた。

 

 

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