翌日の昼休み、八幡は戸塚と一緒にテニスコートに来ていた。三浦は
「女子には準備がいるから先行っといて」
ということらしい。
「じゃあストレッチでもして待っとくか」
「そうだね!」
明るく無邪気な感じすらする戸塚に八幡は癒されつつストレッチを始めた。
「待たせてごめん、ヒキオ、戸塚」
「そんな待ってないから大丈夫だよ、三浦さん」
「大丈夫……だ」
八幡が振り向くと美少女がいた。ただでさえ八幡は美少女だとは思っていたが、テニスウェアを着ることで健康的な肢体がさらに美しく際立っていた。
「ん?どしたん?ヒキオ」
一瞬見惚れていた八幡は意識をもどすが
「い、いや何でもないでしゅよ?」
超動揺していた。
「どうしたしヒキオ」
そう言いながら笑っていたが自分の姿をみて
「ふーん、そうかそうかー。あーしに見惚れてたっしょ」
意地悪そうにニヤニヤしながら三浦が聞くと
「っ……あぁそうだよ。ほら無駄話しないで戸塚の練習始めるぞ」
そう言いそそくさと戸塚のいる場所に向かう。
「……不意打ちは卑怯だし」
まさかストレートに来るとは思わなかった三浦はガチ照れしていた。
「次いくよ」
「おっす!」
三浦は取り辛くなるかならないかギリギリのところにボールを打ち続け、三浦の手元にボールがなくなったら戸塚が三浦に対してサーブを打つというのを繰り返していた。三浦のボールは普通にしていれば取れるが気を抜くと取れなくなる絶妙なラインを攻めているのをみて全国大会までいったのは伊達じゃないと感心していた。
「じゃあいくよ、三浦さん!!」
「オーケー!」
ちなみに八幡はボール集めが主だ。
そんな練習をしていると
「そんなヌルい練習で上達はしないと思うわよ」
雪ノ下雪乃がこちらにきた、後ろには葉山と由比ヶ浜もおり
「さいちゃん!テニスとか上手な人連れてきたよ……って何でヒッキーがいるし!?」
「それはまさか俺か?ならその呼び方やめろ」
八幡が面倒くさそうに言うと
「何で?ヒッキーはヒッキーじゃん」
「……引きこもりみたいだからやめろ。インドア派だが決して引きこもりではない」
「別に良いじゃん、ヒッキー」
ため息をつき、頭が痛くなるのを感じる八幡だった。
「由比ヶ浜さん、ごめん。今は三浦さんと比企谷くんに手伝ってもらってるから」
戸塚はそう言うが
「戸塚くん、三浦さんやそこの……腐り谷くんより私が教えた方が上達するわよ?」
「はぁ?」
三浦が怒鳴りそうになるが
「まぁまぁ優美子落ち着いて。みんなでやった方が練習のバリエーション増えるし楽しいよ、ほら試合形式とかさ」
間に葉山が入ってくる。
「隼人、あんさぁ……戸塚はまだ基礎練が良いレベルなの。それに試合形式とか放課後部活動としてした方が全体のレベルアップに繋がるし」
八幡はそこまで考えてるのかぁと再度感心しつつ
「なぁ戸塚?由比ヶ浜に何か頼んだのか?」
「ううん、頼んでないよ。部が弱いからぼくだけでも昼練してるんだって話をしたくらい」
「そうか……」
八幡は再び三浦達を見ると
「そんな生温いことをしてるからスコーピオンも上達しないのよ」
「今はボーダー関係ないし、余計なお世話だし。てか結衣のスナイパーの勉強はどうしたん?」
「今日は海老名さんが新しい参考資料用意できなかったからいったん休みよ」
「そんな姫菜のせいみたいな言い方っ……」
さらに三浦の色んな怒りが加速しそうだったが
「落ち着け三浦」
「っ!!」
八幡の声で怒りが収まった様子はないもののひとまず落ち着いた。
「おい雪ノ下」
「何かしら?」
「テニスコートの使用には学校の許可と練習に加わるなら戸塚とちゃんと話せ。最低それくらいしてから口をだせ」
「っ……分かったわ行きましょう。由比ヶ浜さん葉山くん」
学校の成績などだけなら優等生の雪ノ下は校則違反はできないのだろう。それにもし本気で戸塚の力になりたいなら明日からでもという言葉がでるだろう、そして不機嫌なのを隠そうともせずその場を去っていった。由比ヶ浜は三浦と八幡をチラチラ見ながら雪ノ下についていき、葉山は雪ノ下を宥めていた。
結局3人とも戸塚の事など心から助けようなどと思っていなかったのかと八幡は静かに怒っていた。
「はーっ……ふぅ……ごめん戸塚。練習再開しよ」
大きく息を吸って吐き自らを落ち着かせた三浦は謝りながら戸塚との練習を再開したのだった。