モモンガさま漫遊記   作:ryu-

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第10話:番外2

 そろそろクレマンティーヌに連絡しよう、モモンガ(雇い主)はそう思った。

 彼女と戦い、制圧し、竜王国へ使いに出してからしばらく経っている。何度か連絡を取り消耗品の補給は行ってはいたが、最近は忙しくて少し間が空いてしまった。

 

(あんなのでも一応部下みたいなものだし、定期的に様子をみてやらないとな)

 

 彼女の現状をリアルに例えれば、他社に出向させて24時間自分の判断で働かせているようなものだ。モモンガとしては色々と気を使ってやっているつもりではある。

 

『クレマンティーヌ、聞こえるか?』

 

 伝言(メッセージ)を起動して声を掛ける。繋がった感触はあったのだが、何故か反応がなかった。

 

『……クレマンティーヌ、寝ているのか?』

 

『……モモちゃん?』

 

『だからモモちゃんは止めろと……まあいい、手が離せない状況か? ならば時間を置いてから連絡しなおすが』

 

『モモちゃんモモちゃんモモちゃーんっっ!!!』

 

(!?)

 

 キーン、と鼓膜を突き破るような大音声がメッセージを伝わりモモンガの脳味噌を揺らす。骨だから(略)

 

『な、なんだ! 別にそんな大きな声で言わなくても聞こえている!』

 

『もうやだぁー! 毎日毎日ビーストマン狩りで飽きたよぉー!』

 

『はあ!?』

 

 あんまりと言えばあんまりな発言に、モモンガの口があんぐりと開く。仕事を飽きたと上司に愚痴るのも十分あれだが、その内容が気軽に残酷で物騒だ。

 

『お前……一応給金や物品支給をしてやっているんだから多少は遠慮しろよ……』

 

『だってぇー、流石に私でも毎日毎日おーんなじ面を作業みたいに狩ってたら飽きちゃうしー……あーあ、たまには人間も狩りたいなぁー』

 

『やめろ』

 

 いかれた発言にモモンガは頭を抱える。協力者としての彼女は本当に手間がかかってしょうがない。とはいえそこそこ付き合いは長いし今更首切りというつもりはなく、だからこそ頭を抱えるべき問題でもある。

 

(とはいえ確かに休暇は必要だな)

 

 竜王国の現状は思った以上に貧窮しており、クレマンティーヌを休ませるという事は多数の死人を出すという事でもある。彼女にはリング・オブ・サステナンスを渡してあるので休憩・睡眠・飲食の必要はないが、かといって精神は疲弊する以上24時間働かせるつもりは無かった。竜王国の事情をよく調べずにクレマンティーヌ一人送ったのはモモンガの不手際と言える。

 

『ふむ……分かった、休暇については考えよう。まあすぐにとはいかないだろうがな』

 

『わーい! モモちゃん愛してるー♪』

 

『言っておくが休暇が取れても騒ぎや問題を起こしたら即刻処分するからな?』

 

『分かってるよー、疑り深い上司様だねー』

 

『……ばれなきゃ何してもいいと思ってないよな?』

 

『……』

 

『おい返事しろ』

 

 メッセージを切り、腰かけていた椅子に背を預けて思考に埋没する。

 

(クレマンティーヌの代理か……俺がアンデッドを作れば一発なんだが、こちらの正体と手札は出来るだけ隠したいから却下だな)

 

 死の騎士(デスナイト)を2~3体用意すれば万全になる事は分かっている。だが、モモンガはこの世界に来て経験した色々から、自らの場違いとも言える力を極力振るうつもりは無くなっていた。やるなら隠れて、できるだけ現地人や環境に影響を与えないように。

 とはいえ、偶にミスったりハメを外したりはするが。

 

(クレマンティーヌのように現地人を徴用っていうのがベストだな。チッ、あの死霊使いは残しておくべきだったか)

 

 もはや名前も忘れたハゲの事を思い出しつつ、代案へと思考をシフトする。

 

(徴用するなら裏に生きる人間だな、いなくなろうが誰にも迷惑がかからないのが良い。六腕はどうだ?)

 

 つい先日ボコボコにした八本指という裏組織の戦闘部門、六腕に焦点を当てる。あれならば死んでも消えても誰も困らないのでは? と考えた。早速ラナーにメッセージ。

 

『六腕使ってる?』

 

『とても便利に使っておりますわ』

 

 まあ省略すると以上のような回答を得られた為、断念。まあ駄目貴族やら小規模裏組織やら、叩けば埃の多い王国だ、まだしばらく力は必要なのだろう。

 余談だが、この数分の会話でラナーは激しく疲弊した。モモンガの一言一句を聞き逃さないように集中し、言葉の裏の裏まで読み取るべく思考をフル回転。結果軽い熱で倒れる程だった。

 その後、クライムの献身的な看病で肉体的にも精神的にも絶頂に至ったのは不幸中の幸いと言える。

 

(うーん、となると草の根活動だな。強さ的にはクレマンティーヌやガゼフ級じゃないと不安だし、候補が少なそうなのが問題だが……)

 

 よし、とばかりにモモンガは立ち上がり全身鎧を纏う。

 やる事は決まった。小金も稼げて、名声も上がり、なおかつスカウトもできる一石三鳥の作戦。

 

「野盗狩りだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 やる事は単純だ。

 街で情報収集し、野盗共の目撃情報を集める。当たりをつけたら現地へ向かい、≪完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)≫で姿を隠し、≪飛行(フライ)≫で飛びまわりながら範囲を広げた≪敵感知(センス・エネミー)≫で探し回る。だいたいこの流れで見つかった群れはゴブリンか野盗なので、あとは戦士モモンの装備でカチコミである。

 数々の野盗共を狩り、彼らの(ねぐら)を潰し、活動に飽きが入り始めたところでようやく――――彼に出会えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「好き放題やってくれたじゃないか、お前」

 

 野盗が塒にしていた洞窟の奥から現れたのは、一人の男。この世界では余り見ない日本刀を腰に下げ、爛々と自信に輝く眼をした戦士だった。

 

「好き放題していたのは貴様らの方だろう? まあ、因果応報というやつだな」

 

「違いない、否定する要素がないな」

 

 批判されても軽く自嘲気味に笑い流す男を、モモンガはよく観察する。武器、態度、立ち姿。

 

(当たりかもしれんな)

 

 モモンガはヘルムの下でニヤリと笑う。

 

「まあ俺は俺で事情があってね、傭兵稼業は金を得る為にやっている。外道と誹られようが知った事じゃないな」

 

「ほう」

 

 聞いてもいない事を言われ、少し方針が変わる。

 

「目的がはっきりしていて結構だが、金を得てどうするつもりだ?」

 

「力を得る為さ。権力なんぞには興味はないから、こういうのが一番手っ取り早い」

 

 そう言いながら男は腰の刀を撫でる。

 

「なるほどな……ではこの傭兵団に未練はないのか? よりよい環境があれば、鞍替えも賛同するか?」

 

「……妙な事を聞くやつだな。まあ、そうだな。否定はせん、が」

 

「が?」

 

「俺はお前との戦いにも興味がある。久しぶりの強敵だ、話し合いで終わりにするつもりなんざさらさらない」

 

 男は、腰を落として刀に手を掛ける。

 

(まあ、どの道一度は実力を見るつもりではあったし)

 

 モモンガは剣を抜き、半身になって構える。とりあえず話の続きは剣を合わせてからする事にした。

 

「ブレイン・アングラウス」

 

 突然、男が名乗る。立ち合いの前の口上とは、古風なやつだとモモンガは思った。

 

「モモン」

 

「……モモン、モモンだと? ほう、あのエ・ランテルの英雄モモンか!?」

 

「ああ、多分な。そういうお前も聞き覚えがあるな。御前試合の決勝でガゼフと戦ったというやつか」

 

「そうだ、英雄殿に知られているとは光栄だな。噂に聞いているぞ、そのガゼフにも匹敵する戦士と名高い男の名はな」

 

「その噂も知らんが……まあガゼフと互角に戦った事は事実だな」

 

 ビリビリと、空気が小さく弾ける。ブレインの過剰に力をいれ込んだ手元から、ギチギチと音が響き渡る。

 

「ならば、貴様を倒せば今のガゼフと俺との差を測るいい基準になる訳か」

 

「さあな」

 

「はっ、ははは! 今日の俺はついている。強者だけでなく、それがアイツ由縁の戦士だなんて」

 

 殺気立った空気がピン、と張り詰める。

 

「来い、英雄。俺の踏み台になり死んでゆけ」

 

「付き合ってやろう、修羅よ。お前の力を見定めてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いに構え、ピクリとも動かず数秒が過ぎる。

 ブレインは刀を鞘に納めて抜刀、待ちの構え。モモンガは半身になり構えながら、相手の姿を観察した。

 

(なるほど、単純だが攻めにくい構えだ)

 

 刀使いとはこの世界で初めて相対したが、戦士として対峙すると何ともやりにくかった。戦士としてまだまだ初心者のモモンガとしてはおぼろげな感覚なのだが、此方から手を出しても後の先を取られる予感がある。

 下手に手を出して隙を突かれるぐらいならと、モモンガは武器を振らずにすり足で近づいていく。

 

(こいつ、知っているな)

 

 対してブレインもそのやり難さに内心舌を打つ。明らかに居合抜きを知っての振る舞いをするモモンガを見て、過剰に温まりつつあった思考を冷却させた。どの道、相手はかなり面倒な相手だ。頭に血を登らせている場合ではない。

 ガゼフと同等の実力者、というだけでまず全力で当たる必要がある。だがそれ以上に厄介なのはその装備だ。全身を覆う高品質な鋼鉄は、流石にブレインの腕と『神刀』を以てしても容易に切り裂ける気がしない。となると狙うは一つ、極限まで絞られた一撃が必要になる。

 

(当然ヤツもこちらの狙いに気づいているだろう。だからこそ、避けるどころか守る余裕など与えない最速を繰り出してやる)

 

 じりじりと近づいてくるモモンガ。間合いまで後2歩分。1歩分。0―――

 

「―――シッ!」

 

 極限まで身を振り絞り、放つ息さえ小さくまとめた抜刀が空を駆ける。狙うは全身鎧に唯一残された隙間、ヘルムのスリット。

 

(どいつもこいつも狙いは同じだな)

 

 対して、モモンガの内心は冷めていた。剣閃の軌道を見て、相手の狙いが何時も通りの部分だと判ったからだ。腕に憶えのあるやつと戦うと、大抵の相手がヘルムのスリットを狙う。動く相手をして狙い通りの場所を攻撃するだけで大したものなのだが、此方とすればマンネリだ。

 確かに、ブレインの一撃は鋭い。ガゼフよりも……いや、剣速だけで言うのならばクレマンティーヌ以上。だが、逆を言えばそれだけだ。モモンガの対処は何も変わらない。

 

(ギリギリまでひきつけて……よっと)

 

 数センチ、いや数ミリという距離で攻撃をひきつけ、首の動きだけで刀の軌道から逃げる。後は刀が表面を滑り流れてから――――

 

(何っ―――!?)

 

 そうなる前に、モモンガに驚愕が疾走る。躱した筈の刀が、まるで追いかけるように軌道が変わった(・・・・・・)のだ。

 

(全ては<領域>の手の内! 殺った!)

 

 もはや為す術もなく、切先が小さな隙間を貫く。薄い肉と骨を断つ感触がブレインの手に返る―――

 

「なっ!? がっ!」

 

 こともなく、驚愕に硬直したブレインの鳩尾に深く沈み込んだ拳が、彼の意識を奪った。

 

「……見事だ、ブレイン・アングラウス」

 

 地に伏し、その目が閉じきられる前に、ブレインは力と深みのある誰かの声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……負けたのか」

 

 ひんやりとした大地、草葉の匂いを感じながら、ブレインは目覚めた。

 痛む腹を摩りながらゆっくりと身を起こすと、そこは先ほどまでいた塒の外。洞窟の目の前だった。

 

「目覚めたか、ブレイン・アングラウス」

 

 声の方向へと目をやると、その洞窟から現れる全身鎧の姿が見えた。相変わらず傷一つ無い立派な武具だ。

 

「その様子だと中は全滅か?」

 

「ああ、悪いが全員殺した」

 

「女共もか」

 

「女? まだ仲間がいたのか」

 

「いや、やつらが性欲処理用に捕まえてたのがいる筈だ」

 

「……お前の顔を覚えている奴はいるか?」

 

「あ? いや、俺は剣以外興味無いからな、ほぼ対面した事は無い」

 

「ふむ、ならいいか。後で解放してやるかな」

 

 相変わらず妙なやつだな、とブレインは思う。改めて自分の状態を確認するが、拘束されるどころか武器も奪われていない。舐められている? とも思うが、戦いを始める時の態度に余裕はあれど侮りは無かった。

 

「それで、俺をどうする気だ」

 

「本題に入ってもいいのか、お前を回復させてからにしようと思っていたんだが」

 

「いらん、まだ敵かもしれないやつの施しなんぞ危なくて受けられん」

 

「まあ、いい警戒心だとは思うがな」

 

 モモンガはブレインの目の前に腰かけると、さっそくとばかりに話し始める。

 

「先程も言ったが、鞍替えの件だよ」

 

「マジだったのかよ、アレ」

 

「ああ、それでその気はあるのか聞きたい」

 

「そうは言ってもな……まず元の鞍がもう無い訳だが」

 

「はははは」

 

 笑いごとじゃない、と思いつつもブレインは何も思っていなかった。元より自分を含め、好き勝手に生きていた連中だ。こうなるのも自業自得だと思っている。

 

「条件次第だな。良ければ乗るし、そうでなければ乗らない」

 

「ドライだな、まあ付き合いやすくていいが」

 

「それで条件ってのは何だ、まさかお前の部下になれと?」

 

「当たらずとも遠からず、だな。俺の依頼を受けて欲しいのだが」

 

 モモンガはかつてクレマンティーヌに命令した内容を、依頼という形で話す。かいつまんでではあるが、各国と敵対しない為のポーズであるという核心的な部分も含めて。

 ブレインは顔をしかめる、意味が分からないからだ。

 

「おい、お前どういう立場なんだよ」

 

 国と喧嘩する個人などありえない。今聞いた話が本当なのだとしたら、目の前の存在は一国と同等だという事になる。

 

「ははは、まあそれは後で聞かせてやる。それで、返答を聞かせてくれ」

 

「……正直まだ疑問はあるが条件は悪くないな。修業にもなるし、報酬に文句は無い。だが単純に俺一人じゃ戦力不足だろ」

 

「それは此方で補う」

 

 そう言ってモモンガは数々のマジックアイテムを出す。ほぼクレマンティーヌに渡した物と同等品だ。

 

「おいおい、まじかよ!」

 

 ブレインの驚愕は計り知れない。どれだけ大金を積んでも、見るチャンスすら得られないような宝の山が目の前にあるのだから当然だ。

 

「お前の実力にこれだけのアイテムがあれば、戦場を有利にするぐらい難しくはないだろう。後は……これだな」

 

 そう言ってモモンガは一振りの武器を取りだす。ブレインの浮ついていた目の色が、変わる。

 

「刀、か? まさかそれも」

 

「マジックアイテムだ、試してみろ」

 

 差し出された刀を、ブレインは震える手で受け取った。吸いつくように馴染む柄を握り、適当な木へと向かって構える。

 

「……?」

 

 気づけば、抜刀していた。断たれた木の幹が倒れる中、手には何の感触も残らない。まるで水の中を通したように。

 

「お前の仕事ぶり次第ではそれもやろう、まずは―――」

 

「受ける、受けるぞ!」

 

「―――試し、に……」

 

 モモンガが言い終わる前に、興奮冷めやらずのブレインは答える。

 

「お、おい待て。乗り気なのは助かるが、まだ説明は途中だ。もうその様子なら細かい話は省くが、雇い主の正体を聞かずして受けていいのか? 例えば俺がいわゆる魔王的な何かでお前を先兵として取り込もうとしていたらどうするんだ」

 

「そりゃあ……」

 

 一度冷静になって話を吟味する、事もできずに浮ついた精神のまま刀と自称魔王をフラフラ見やるブレイン。子供が欲しかったおもちゃを手に入れた時の反応そのままだ。

 

「それでもまあ、雇われるかな」

 

「うわあ……流石の俺もそれは引くわ」

 

「しょうがねえだろ! これ程の一品、一生掛かっても巡り合えないかもしれないんだからよお!」

 

「……まあ、思った以上に乗り気で此方は助かるが」

 

 この世界の常識から考えれば、ユグドラシルでワールドアイテムを手に入れた程の感動なのだろう、とモモンガは無理やり納得する事にした。

 

「さて、とはいえ契約は互いの立場がはっきりしてから結ぶのが常識だ。餌で釣るだけ釣ってそこを誤魔化しては詐欺同然だからな」

 

 そう言ってモモンガは指をたて、自らの目元を指す。

 

「先程の攻撃、何故俺にダメージが無かったかカラクリを知りたくはないか?」

 

「なんだよ突然。まあ確かに気になってはいたが」

 

「マジックのネタは俺の正体だ。まあ、こういう訳さ」

 

 モモンガは魔法で作っていた鎧を解除し、魔法詠唱者の姿へと戻った。仮面はつけていない。

 

「ア、アンデッドだと!?」

 

「その通り。これが答えだ、ブレイン・アングラウス」

 

 身を引いて刀を構えるブレイン。だが頬に冷や汗を流すも、それ以上の行動は起こさなかった。

 

「成程な……正真正銘化け物だった訳だ……」

 

「その通り。が、別に人間をどうこうするつもりはない。先程までの話にも嘘はないしな」

 

「国レベルの案件ってのもマジって訳か」

 

 乾いた笑いがブレインの喉から漏れ出る。

 

「それで、これでも俺の依頼を受ける気はあるか?」

 

「……ちなみに断ったらどうなる」

 

「どうもしない。流石に俺と会った記憶は消させてもらうが、それ以上は何も。ああ、もちろんアイテムも返してもらうぞ」

 

「先程話した契約以外の仕事はあるのか?」

 

「さあな、だがその際は新たな報酬を用意しよう。また、その依頼を受けるか受けないかはお前次第だ。まあ流石に長い付き合いとなれば記憶消去も難しいし、その際は何かしらの制限を掛けさせてはもらうが」

 

 企業秘密というやつだな、とアンデッドは笑う。

 ブレインは少し悩み、構えを解いて再び胡坐をかいた。

 

「分かった、お前の仕事を受ける」

 

「ほう。俺がこう言うのもなんだが、アンデッドと契約してもいいのか?」

 

「お前の話す内容は不気味な程文句がない。正直人間同士の方が不親切なくらいだ。それに……俺はどんな手段を取っても強くなると決めた。その為なら悪魔との契約程度、なんて事はない」

 

「悪魔でなくてアンデッドだがな」

 

 二人は小さく笑いあう。ここに契約は完了した。

 

 

 

 

 

 

 

「で、直ぐにでも竜王国へ行けばいいのか?」

 

 ブレインは新しい刀で試し切りをしたいのか、かなり乗り気でいる。

 

「ふむ」

 

 モモンガは考える。今からでもよかったのだが、少し懸念事項があった。それはブレインの戦闘スタイルに起因する。

 彼の戦い方は後の先、得意なのは1VS1である事は明らかだ。多人数戦をできないという事はないだろうが、クレマンティーヌ程に戦場を駆ける戦い方に慣れてはいないだろう。となると足が欲しい。ビーストマンとの戦闘に耐えうる、強靭な足だ。

 

「数日こちらの連絡を待て。まだ戦力に当てがある」

 

「……ガゼフとか言わないだろうな」

 

「言わん。表の人間は極力巻き込まないつもりだ」

 

「万が一死んでも後腐れがないからか?」

 

「ほう、よく分かってるじゃないか」

 

 軽口を吐くブレインを横目にしつつ、モモンガは生ける伝説を思い浮かべる。目指すはトブの大森林、森の賢王。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふ、それがしを見て恐ろしさに声もでないのでござるな」

 

(えぇ……どう見ても愛玩用げっ歯類じゃん)

 

 森の賢王はでっかいハムスターだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳でこれがお前の相棒だ」

 

「同じ殿に仕える身、よろしく頼むでござるよ!」

 

 そんなハムスター、命名ハムスケをブレインに紹介する。

 

「……まじかよ、凄え魔獣だな。瞳に力強さを感じる」

 

(えぇー!? 可愛いとかじゃなくてー!?)

 

「ふふん! それがしの雄大さが分かるとは、お主もなかなかでござるな」

 

「ああ、伝説の魔獣殿にそう言って貰えると嬉しい限りだ」

 

「……あー、ごほん。という訳でブレイン、竜王国ではハムスケに騎乗して戦場を駆けるのだ」

 

「そいつは……いいのか? 俺なんかが乗っても」

 

(えぇー!? そういう反応なのー!?)

 

「それがしとしては殿以外を乗せるのは少し抵抗があるのでござるが……ブレイン殿はやはり同じ殿に仕える身。遠慮は無用でござるよ」

 

「そうかい。それじゃ、遠慮なくっ」

 

 飛びあがりハムスケに乗るブレイン。

 

「はは、強大な魔獣に乗って戦場を駆ける、か……子供の頃の夢が叶っちまうなんてな。どうだい雇い主様?」

 

「……あ、あ……様に、なっている、ぞ」

 

 目の前にはいい歳こいたおっさんが巨大なハムスターに乗る図。モモンガは感極まったように震えている。実際は笑いを必死にこらえている。

 

「それじゃ、行ってくるぜ!」

 

「戦果を期待して下され、殿ぉー!」

 

 はいよー、シルバー! とばかりにひと鳴き?してから駆けていくファンシー・ナイト。

 その背中が見えなくなってすぐに、モモンガは倒れ込んで腹を抱えて小一時間ほど爆笑した。

 

「断られると思ったのにwwwwww抵抗なく乗りやがったwwwwwwww」

 

 無い筈の腹筋と喉の痛みは、モモンガがこの世界に来て一番のダメージだったとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ:顔合わせ】

 

クレマンティーヌ「初めましてー、お一人と一匹さん。私が先任のクレマンティーヌだよー」

 

ブレイン「話は聞いている、ブレイン・アングラウスだ」

 

ハムスケ「それがしはハムスケでござる」

 

クレマン「二人ともやっぱりモモちゃんに逆らって呪われちゃったクチなのかなー?」

 

ブレイン「モモちゃ……? まあ挑んで負けはしたが、別に呪いなんぞかけられちゃいないぞ?」

 

ハムスケ「それがしの時は殿がなわばりに入ってきたから戦ったところ、その威圧感に完敗しただけでござるが……呪いとは何の事でござるか?」

 

クレマン「え……」

 

 

 

 

 

 

 

モモンガ「ではひとまず1週間の休暇だ。くれぐれも問題はおこすなよ?」

 

クレマン「ね、ねえモモちゃん。何か私の待遇だけ悪くない? 足切られてたり呪いかけられたりさー」

 

モモンガ「そりゃあ……お前元々敵だしな。あいつらはスカウト対象だから」

 

クレマン「うぐ」

 

モモンガ「言っておくが給金は同じだぞ。むしろ奴隷扱いしてないだけ優しいものだと思うが(呪いもブラフだし)」

 

クレマン「そりゃあ……ハイ、モンクアリマセン」

 

モモンガ「よろしい。では休暇にあたり、宿代と変装用のマジックアイテムだ」

 

クレマン(あれー……休暇にお金貰えるとか漆黒聖典以上に好待遇かもー?)

 

モモンガ「宿の手配は大丈夫か? 仮の身分が必要なら用意するぞ。衣服については流石に用意できなかったから、必要な分は後から請求してくれ。まあ明らかな無駄遣いについては自腹とするが」

 

クレマン(あれぇー? 過保護なのかなー?)

 




【3行のハムスケ】

 そりゃあほぼ本編と同じような流れはカットですわ。
 いや、むしろブレインも3行で終わらせるギャグ回のつもりだったんですが何故かこうなった。


【ハムスターナイト】

――――その男、銀の魔獣に跨がり戦場を駆ける。
   南方に伝わる剣を手に、海藻の様な髪を獣人の血煙の中で靡かせて――――

 後日そんな伝説が残ったとか残って無いとか。


【森のお化け】

モモンガ「お、レイドボスかな?」
ザイトル「グワァー!」
モモンガ「ボス退治で何の報酬も無いとか、常識無いのかよ……」

 そんなエピソードはたぶん無い。
 真面目に考えるとザイトルさんとの戦い目立つだろうし、色々な国に眼を着けられちゃうからね。
 ただここで倒しとかないと法国がザイトルさん洗脳しちゃったり大変な事になりそうだから、やっぱりたぶんモモンガ様が倒してる。そういう事にしておこう。


【英雄の噂】

 ある朝、モモンの泊まっていた宿の部屋から見知らぬ美女が出てきた。その後も何度かモモンと一緒にいる所を目撃された事から、英雄のカキタレなんだろうという噂が流れた。

クレマン「モモちゃんに肉があって血が流れてイケメンでスッといってドスっとさせてくれたら付き合ってもいいけどー」
モモンガ「お前世にも面白い感じで呪い殺すぞ」


【11巻】
 ドワーフちょろくて可愛いよね。

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