モモンガさま漫遊記   作:ryu-

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第3話

「それではモモンさん、次がありましたら宜しくお願いします」

 

「ええ、こちらこそ」

 

 お互い軽く手を上げて、それぞれの宿へと向かう為に別れた。

 効率良くモンスター討伐を成したモモンガと漆黒の剣は、その日の内に冒険者組合へと帰ってきた。おかげでガゼフから受け取っていた報酬を除いても、財布の中身はかなり潤っている。

 

(漆黒の剣は当たりだったな)

 

 宿への帰路につきながら、モモンガはそう思う。お人よしと言える程に人が良く、未熟ながらも最低限の強さと連携を持つ彼らにかなりの好感を抱いていた。

 彼らが組合に着いてからもモモンガの活躍を事細かに話してくれたおかげで、記録を取っていた受付の印象も悪くない。もしかしたらランクアップも早々に決まるかもしれないと考えていた。

 

(彼らとはこれからも懇意にしていこう。チームに入るつもりは無いが、最低限横のつながりは欲しいしな)

 

 少々ドライな考え方ではあるが、アンデッドとなり人への親近感を失ったモモンガからすればかなりの好印象と言える。今のところモモンガの脳内ランキングとしては、『カルネ村の人々≧ガゼフ>漆黒の剣>その他』といったところであろうか。

 特に急いで帰る用も無い為、露店を冷やかしながらぶらぶらと帰路につく。その耳に、悲鳴のような叫びが届いた。

 

 

 

「アンデッドだ! アンデッドの大群が攻めてきたぞ!」

 

 

 

(……つくづくイベントが多いな、この世界は)

 

 モモンガは来た道を戻り走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは絶望的な光景だった。

 数十、いや数百を超えるのではないかと思わせる程のアンデッドの大群。それ等の歩みは決して速くは無いが、途切れず攻めてくる不死の集団は、分かりやすい危機の襲来だ。

 

「ペテルさん!」

 

 街の外壁にたどりついたモモンガは、見知った顔に話し掛ける。

 

「モモンさん! 良かった、ご無事だったんですね!」

 

 その男はまず此方の心配をしてきた。他にもいた漆黒の剣の面々も、厳しい面持ちは残すも微笑んできた。

 まず自分の心配をしたらどうだ、とモモンガも状況に合わず朗らかな気持ちになる。

 

「状況は?」

 

「分かりません。守衛が言うには、墓地から何の前触れもなく大量のアンデッドが攻めてきたそうです。冒険者組合も手が空いている者全てに防衛参加を依頼しています。そもそも数が多すぎて打って出る事もできません!」

 

 話しながら、お互い近寄ってきたアンデッドを斬り飛ばす。漆黒の剣だけではなく、周りを見渡せばどこもかしこも戦闘中だ。

 今は皆どうにかなっている。だが、視界の先には数えるのも馬鹿らしくなる程のアンデッドの群れ。このまま続ければどうなるか等、子供ですら予想できる展開だ。

 

「……皆さん。これを」

 

 モモンガは、無限の背負い袋から幾つかの武器を漆黒の剣に渡す。

 

「これは……?」

 

「すげえ、銀の武器かよ!」

 

「なかなかの魔力も感じるのである」

 

「この杖も、かなりの逸品じゃないですか」

 

 戸惑いを隠しきれない面々。

 

「とりあえず貸し出しますので、これで凌いで下さい。それと治癒のポーションも幾つか。これは返さなくていいので、好きに使って下さい」

 

 街で買ったポーションも引き渡す。モモンガは使わないが、人間アピールの為に幾つか買い込んであったものだ。

 ちなみにユグドラシルから所持しているポーションもかなりの在庫がある。だが、ガゼフに見せた時に安易に人へ見せるべき物ではない事が判った為、引き渡したのはこの街で買った物だけだ。

 

「か、借りれませんし、貰えませんよ!」

 

「言ってる場合じゃありません。命あっての物種でしょう」

 

「それは……判りました、使った分も合わせていずれお返しします」

 

「下手に遠慮して使い処を間違えてほしくないので、貰ってください」

 

「モモンさんはどうするんですか?」

 

 ペテルとのやりとりに、何かを感じたニニャが声をあげる。

 

「……本当はもっとゆっくり活動しようと思っていたのですが、そうも言ってはいられないようなので」

 

 モモンガは剣を構え、跳ぶ。言うまでもなく、眼下にある地獄の再現へ。

 

「元凶探して、潰してきます」

 

 買い物に行くように気楽な口調で、モモンガはあっさりとアンデッドの群れに飲み込まれた。

 

 

 

…………

 

 

 

 

『モモンさん(氏)!?』

 

 呆けて固まっていた数秒を空け、漆黒の剣は外壁の下を見下ろす。

 

 ――――爆音が轟く。

 

 肉や骨が弾け跳び、地が抉れ土煙が舞う。そんな光景に再び呆気にとられていた彼らは、やはり数秒してあることに気づく。

 

「おいおい、見渡す限りのアンデッドが全滅だぞ……」

 

 ルクルットの声が、小さな声ながらも周辺にいた者に届き渡る。野伏の彼がそう言う以上、かなりの範囲が一掃された証明になる。

 

「アダマンタイトじゃ収まらない……俺たちは伝説を目にしたのかもしれない」

 

 その、誰とも知れない呟きが、静かな戦場を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たりか」

 

 特に苦もなく墓地へと辿り着いたモモンガを待っていたのは、怪しげな儀式をしている集団だった。これで誤解だとしたら相手を訴えられそうなぐらいには分かりやすい状況である。

 

「お前たちがこの騒ぎの元凶だな」

 

「如何にも……貴様一人だけか?」

 

「うん? そうだが」

 

「そんな訳はあるまい。たった一人であれだけのアンデッドの群れを抜けてここにたどり着ける筈がない」

 

「できるさ。こんな風にな」

 

 モモンガがそう声を上げた時には、怪しげな集団の首は一刀の下に胴から離れていた。ただ一人、赤いローブを着た主犯格らしき男を除いて。

 

「ちっ、使えん奴等め」

 

「冷たい男だな、それでそいつ等も守ってやればよかっただろう」

 

 仲間の死を鼻で笑う男は、骨の腕……いや足によって守られていた。モモンガは一度距離を取る。

 

「その二体がお前の切り札か?」

 

「な、貴様なぜソレを……!」

 

 モモンガの言葉を受け、隠すのも意味は無いと感じたのか2体の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が現れる。地の底から湧き出るように一体、そして空から舞い降りてきた一体。

 

「さてな、それにまだ一人隠れているだろう。顔を出したらどうだ?」

 

「――――ちゃぁーんと隠れてたつもりだったんだけど、どうして分かっちゃったのかなー。タレントかな?」

 

 耳に粘りつくような甘い声が、闇の奥から現れる。一見だけで言うならば愛嬌のある顔をした女だ。

 ちなみに骨の竜はスキル<不死者検知>で、隠れていた女は事前に<敵検知(センス・エネミー)>により感知していた。すれ違いを考慮して定期的に展開していたのが功を奏したのである。

 

「答える必要があるか?」

 

「ふーん。ま、いいや。ねえカジっちゃん、その男私にちょーだい。こっちは放っておいて好きにしていいからさあ」

 

「二人がかりで圧殺すれば良いではないか」

 

「じょーだん。こーゆー僕は強いんですー、て言う手合いは一対一で虐めた方が良い反応みせてくれるんだよね」

 

 二人は戦いの直前とは思えない気楽さで、モモンガを置いて話を進める。だがそれは彼にとっては滑稽なやり取りにしか思えなかった。

 

「冗談は此方の台詞だ。二人と二匹、同時に掛かってこい。わざわざ別々に戦うなど手間をかけたくはない」

 

「あぁ?」

 

 ドスの利いた声が、女から放たれる。先程までの表情は嘘だったかのように、激しい相貌だ。

 

「粋がってんじゃねぇぞ糞野郎。銅ごときがこのクレマンティーヌ様と戦って貰えるだけ幸運なんだよ」

 

「それはすまない。では口だけでは無いことを証明して頂けるかな、クレマンティーヌ様?」

 

 ブチリ、となにかが切れた音がする。

 

「死ね」

 

 遊びの無い、シンプルな殺意。その発露と共に爆発したが如く地を駆ける、いや跳躍したクレマンティーヌの一撃は、違わずモモンガを襲う。

 肉を貫き骨を砕く鈍い音―――は鳴ることは無く、響くのは盾による硬質音だ。

 

「確かに速いな、驚いた。だが見慣れた速度だ」

 

 一撃を弾かれ無防備な姿を晒すクレマンティーヌの体に、モモンガは一刀を放つ。

 

「糞、がぁ!」

 

 だがクレマンティーヌも英雄に連なる一級の戦士。沸騰していた頭を一気に冷やして危機を凌ぐ。避けた勢いそのままに、飛び出した位置まで跳ね戻る。

 

「テメエ、何者だ」

 

「冒険者だよ、登録したばかりだがね。さあ全力で来いトロフィーハンター、出し惜しみをしたまま死ぬのは嫌だろう?」

 

 トロフィーハンター、それは彼女の“性癖”を如実に表した呼び名だが、気付いたという事は外套の下にある各冒険者のプレートを見たという事だ。手加減抜きの一撃を受けながらそれだけの余裕を見せつけられるとは、彼女にとって究極の侮辱と言っても過言では無い。

 クレマンティーヌの噛み締められた奥歯が嫌な音を響かせる。普段の彼女ならば聞くに堪えない罵声を返すところだが、発せられた言葉は力有るモノだった。

 

「<疾風走破><能力向上><能力超向上>」

 

 猫を思い出させるような深く沈み込んだ体勢になり、次々に強力な武技が発動する。

 

「死ね」

 

 言葉こそ同じだが、その速度は先程とは異なる。残像さえ知覚できないそれは、一つの弾丸のようなモノだった。

 互いの範囲に入った直後、モモンガの盾が動く。受けではなく、鈍器として振るわれたシールドバッシュだ。対してクレマンティーヌは手にしたスティレットでそれを受ける。モモンガの力と、彼女自身の突撃は並ではない。如何に一流の戦士であるクレマンティーヌであれ、受ければダメージは免れない。

 

「<不落要塞>」

 

 だが武技はそれを覆す。けたたましい金属音に比例し、モモンガの盾は大きく弾かれた。もちろんクレマンティーヌにダメージはない。

 

(糞が、読んでやがったな)

 

 だが見事な防御も彼女に喜びは与えない。あれだけ激しい打ち合いにも拘らず、モモンガの体勢は崩れていなかった。先程のが体重を掛けた一撃であればこうはならない。その証拠とばかりに、今度はモモンガの剣が振るわれた。

 

「<超回避>」

 

 さらにその上を行くのは、やはりクレマンティーヌだ。これだけ武技を使用していてなお、まだ容量が尽きない。モモンガの振るう剣は空しく空を走る。

 

「おーわり!」

 

 それに余裕を取り戻したクレマンティーヌの一撃が、しかし遊び無くモモンガを襲う。狙うはフルフェイスヘルムの目元、防御のないスリットだ。吸い込まれるように突き進むスティレット。

 

「そうか?」

 

 だがそれは金属を引っ掻く不快な音を奏でて、ヘルムの表面を滑り走った。

 

「なっ」

 

 クレマンティーヌは驚愕する。

 一撃を避けられたのは偶然でもトリックでもない。ただ、数ミリ首を振り、点の攻撃を受け流しただけだ。

 ただ避けられたのならばここまで驚愕は覚えなかった。だが、眼球に迫る一撃をギリギリまで引き付け、ほんの少しの動きだけで捌ききるなど、どんな度胸と反射神経があれば可能だと言うのか。

 

「ごふっ!」

 

 一瞬の隙をつき、モモンガの膝が割り込む。まるで逆再生のようにクレマンティーヌが吹き飛ぶと、追い討ちをかけるべくモモンガが動く。だが、骨の竜がそれをさせず、モモンガは一度距離を取った。

 

「げほっ、げほっ、が、ぐっ」

 

「無事か、クレマンティーヌ!」

 

 カジッチャン、もといカジットが地に倒れ伏した彼女に声をかける。言葉こそ心配をしているようだが、その声色には苛立ちと焦りだけがあった。

 

「ぐぞ、糞が!」

 

 口元の血を拭いながら、クレマンティーヌは立ち上がる。モモンガが手加減をしたのか、彼女が上手くいなしたのか、ダメージはそこまで大きくは無いようだ。

 

「あの野郎、武技使いに慣れてやがる。しかも私の速度についてきやがった」

 

「元漆黒聖典のお前が苦戦する相手か……厄介だな。余裕を見せられる相手ではないぞ、共闘して確実に殺すべきだ」

 

「ちっ」

 

 二人と骨の竜二体が構える。それを見たモモンガも少々警戒を強めた。

 

「4対1は私も遊んではいられないな。少し本気を見せよう」

 

 ――――ゾワリ、と空気が変わった。

 

「―――っ!」

 

「がっ」

 

 クレマンティーヌとカジットの体が、震える。特にカジットに至っては呼吸さえ不自由になる程、肉体が恐怖に苛まれていた。

 

「くっ、ラ、<獅子ごとき心(ライオンズ・ハート)>!」

 

「カジッちゃん、やれる?」

 

「な、なんとかな……今のは一体何だというのだ」

 

「……殺気、かな。あんな呼吸まで止まりそうなのは初めてだけど」

 

 そう言いながらクレマンティーヌにはこのレベルの威圧感に心当たりが有った。法国に居た際、異端児だらけの漆黒聖典でも異質な存在。1でも12にでもない、番外に属したあの女。

 

「お前、まさか神人か……?」

 

「シンジン?」

 

 唐突に出てきた単語を、モモンガが知る由もない。ある国で病的なまでに隠蔽されている事を、個人でしかない彼が手に入れるには日が浅すぎた。

 

(知らねえって事は法国関係者じゃない。だとしたら……八欲王由来って可能性も有る。どっちにせよ)

 

「はん、何にせよテメーをぶっ殺せれば目出度く私も英雄級って訳だな」

 

「自称なら好きにしろ」

 

「ふふ、ふふふ。いちいちムカつくヤローだ!」

 

 戦士が地を駆け、骨の竜が吠える。

 たった数人の戦争が、観客の居ない墓地の中で始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 骨の竜の足が砕け飛ぶ。追い討ちで本体が狙われる前に、クレマンティーヌの刺突が割り込む。数度の交錯を重ね息切れした彼女に迫る一撃を、させじと放たれたカジットの魔法で仕切り直す事になる。この数秒の間に、復活した骨の竜が再びモモンガに迫る。

 

 何度繰り返したことか。

 

 そう長くない筈だが、一瞬の油断で死に至る戦いは彼らの意識を引き伸ばした。

 互いに致命的な傷こそ負っていないが、彼らの精神はギリギリの所を彷徨い続ける。常識外とは言え、人間である以上は限界があるのだ。

 

――――片方の決定的な(種族)に気づかないまま、戦いは終演へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「もういいか」

 

 ふと、モモンガがそう呟いた。それを耳にした二人の人間は、言葉の理解に悩んだ。

 

「あぁ? 降参のつもりか、その脳髄ぶち抜くまで終わらねえぞ」

 

「息も絶え絶えに良く言えたものだ。しかし認めようクレマンティーヌ、お前は強い」

 

 嘘偽りのない称賛に続いて、モモンガはカジットを指差す。

 

「だがお前は違う。そのアイテムがなければ、ここにいる価値が無い」

 

「ふん、死の宝珠を恐れる愚図の戯言だな」

 

「少しは殊勝な所でも見せてくれれば対応も変えてやったが……」

 

 モモンガが剣を納め、呟く。それが戦いの終わりを告げる言葉でもあった。

 

「<完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)>」

 

 聞き覚えのない言葉に二人が警戒していると、突然近距離で爆発が起きる。

 

「骨の竜が!」

 

 二体左右に控えていた骨の竜が、粉々に砕かれた。何が恐ろしいと言えば、その瞬間を全く感知出来なかったことだ。

 

「野郎消えやがった!」

 

 クレマンティーヌに焦りが生まれる。モモンガが消えたと同時に骨の竜が倒された。無関係だとは考えられないが、骨の竜には魔法の完全耐性がある。少なくとも魔法で壊された訳ではない。

 

「まさか、転移魔法か! やつは何処へっ……」

 

「カジっちゃん、後ろ!」

 

「ぬ!?」

 

 振り向けば、何かを手にしたモモンガが立っている。

 

「き、貴様いつの間に死の宝珠を!」

 

「何を言っている、お前が『手渡して』くれたんだろう?」

 

「馬鹿な、ば、ばかなあああっ!」

 

 モモンガの片手には、死の宝珠がある。では、もう片方にある『腕』は誰のものか?

 

「さて、これでお前は用済みだな」

 

 そしてあっさりと、モモンガはガジットを一刀のもとに両断する。悲鳴の一つ、悔いの一つも吐き出すことはなく、エ・ランテルを騒がせる首魁の一人は墓地に相応しい姿に変わり果てた。

 

「……」

 

 クレマンティーヌは動かない、いや動けない。正直もう勝ち目は無いので逃げるしかないのだが、後ろを見せれば一瞬で殺られると確信していた。

 

「まさか転移魔法が切り札だとはな、戦士に持たせていい魔法じゃねえぞ」

 

「勘違いしているようだが、今のは魔法ではないぞ? 速く動いただけだ」

 

「は?」

 

「見えなかったか、では少しゆっくり動いてやろう」

 

 その言葉と共に、モモンガが消える。いや、今度は見えた、見えてしまった。目に追えないほどに、此方だけが時に置いていかれるような感覚すら与える、その速度を。

 

「があ!」

 

 突然脹ら脛が焼けるように熱くなる。斬られた、と思った時には地へと倒れ伏していた。

 

「これでご自慢のスピードも台無しだな」

 

「ぐ……て、てめえ、一体何者だ。流石の神人だってあんな速度じゃ動けない」

 

「ふむ、では答え合わせといこうか」

 

 モモンガの鎧が、燃え上がるように消える。現れたのは見るも恐ろしい、ヒトガタの骨だった。

 

「アンデッド、エルダーリッチ、か?」

 

「残念ながら半分外れだ、それより上位の種族さ」

 

 クレマンティーヌは痛みに脂汗を流しながら、疑問に囚われていた。エルダーリッチの上位種族とは? 魔法に優れているだけならともかく、なぜ戦士としてあそこまで強いのか? そもアンデッドが何故人の街を護るのか?

 そして一つ、そんなあり得ない事をしかねない、一つの存在にたどり着いた。

 

「お前――貴方は、まさか……ぷれいやー、なんですか?」

 

 モモンガの動きが止まる。精神の強制安定が入るほど、強い衝撃を受けて。

 

「興味深い言葉を知っているじゃないか。言え、どこでそれを聞いた。どこまでそれについて知っている」

 

 急に饒舌になったモモンガに、クレマンティーヌは一縷の希望を見る。

 

「全部、喋ります。だから、命だけは、助けてくれ、ませんか」

 

「…………」

 

 モモンガは思案する。だが、そう時間の必要な問題ではなかった。

 

「いいだろう」

 

「本当、ですか!」

 

「だが一つ保険を掛ける」

 

 骨だけの指先が、クレマンティーヌの額に添えられる。

 

「私に絶対服従の呪いさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も明け、墓地から凱旋したモモンガを迎えたのは喝采だった。

 なんとか守りきれた街に皆が喜び、新たな英雄の誕生に誰もが瞳を輝かせる。

 犠牲が出なかったわけではない。だが事態の大きさに対して被害はほとんどなかった点も、皆の喜びに一役買っていた。あの漆黒の剣も無事生き残り、ひとかどの活躍をしたと後日聞くことになる。

 復旧作業とお祭り騒ぎの同時並行のなか、モモンガは冒険者組合に招かれる。此度の活躍を評価され、ミスリルまで一気に引き上げられた。アダマンタイト級の活躍ではあるとされたが、流石に今回の事態をもう少し精査してからとの事だ。

 

「はあ、疲れた。体力は減らないけど」

 

 数日経って、モモンガは漸く解放された。事情聴取に復旧作業に見回り。ほぼ不眠不休で動き回っていたのだ。飲食を一々断る理由の一つとしていたことも確かだが、それにしてもハードスケジュールだった。

 

「うーん」

 

 街に来て初日の宿とは比べ物にならない部屋のベッドでゴロゴロと少しの間ころがりまわり、ぐったりとしてから腹筋の要領で起き上がる。肉とか無いけど。

 

「さて、<転移門(ゲート)>」

 

 目の前に黒い靄が現れる。本来なら開いた門に入るのは詠唱者だが、今回の場合は呼ぶために使う。

 

「入れ、その闇の向こうに私がいる」

 

 少しの間を空けて、女が現れる。先日墓地で戦ったクレマンティーヌだ。

 あれだけ深い傷を負ったにも拘らず今は無傷で、特に精神支配を受けているような素振りも無い。

 あるのはただ諦めだ。

 

「まあ、適当に座れ」

 

 モモンガの言葉に、クレマンティーヌは(ひざまず)く。

 

「……いやまあお前がそれで良いなら構わないが」

 

 如何に力の差を見せ付けられたとしても、彼女の態度は極端過ぎた。理由はもちろんある、ある呪いを掛けたのだ。それは単純な死の呪術。

 詠唱者の意思一つで長い間もがき苦しみ息絶える、世にも恐ろしい呪い―――と、そんな感じの呪いを掛けられたと記憶を弄ったのだ。何しろそんな遠隔で死をもたらす魔法なんて無い。

 目印は付けておいたので、何かあったらいつでも捕まえられるから問題ないだろ、とモモンガは思っていた。

 そんな事だとは露知らずにクレマンティーヌは死を恐れ、モモンガに絶対の忠誠を誓ったというわけである。

 

「さて、何から聞くべきか……取り敢えずお前が所属していた組織と、一般に知られていないことを全て話してみろ」

 

「わかりました」

 

 クレマンティーヌは思い付く限り知っていた事を話した。

 ズーラーノーンからスレイン法国。六色聖典から神人、ぷれいやーについて。六大神や八欲王、竜王等。

 モモンガにとっては貴重な話ばかりで良い情報を得られたと喜ぶ反面、ゲームを始めて早々にネタバレを受けたような複雑な気持ちになった。

 

「成る程、成る程。色々と情勢が掴めた。ちなみにお前は何故漆黒聖典を抜けてズーラーノーンにいたんだ?」

 

「…………」

 

「話したくないか? なら、」

 

「いえ! 話します! 話させてください!」

 

 ひどく怯えた声で、クレマンティーヌが話し始める。話したくないなら別に構わないと言うつもりだったのだが、殺されると思ったのだろう。無理のない話ではある。

 

「私には兄がいまして。優秀で、神に愛された力を持っていると、家族にも愛される男でした。対して、私は大した力も持たず、失敗作と罵られ続けていました」

 

 怒りか、悲しみか、複雑過ぎてかえって感情の掴めない表情をした女は、自らが堕ちていった理由を語った。

 その生々しい話に、うわぁ、失敗した。とアンデッドは思った。

 

「な、成る程。お前の性格も幼少期の虐待が元で……」

 

「いえ、これは元々だと思います」

 

 昔から虫とか小動物を苦しませて解体とか好きでしたから、と彼女は続けた。

 

「アッ、ハイ」

 

 うわぁ、聞くんじゃなかった。と神にも等しい男は思った。

 

「ところでスレイン法国についてなのだが」

 

 咳払いをしてから、無理やり話題を変える。

 

「実はこの街にくる前に、陽光聖典と事を構えてな。ある村と王国戦士長を襲ったのでつい彼らを助けてしまったのだが……法国はどう出ると思う?」

 

「追い返されたのですか?」

 

「いや、殆ど殺した。余ったのは王国に引き渡したな」

 

 クレマンティーヌは改めて目の前のアンデッドに恐怖を覚えた。

 陽光聖典は個々人の戦力は“一流”程度だが、その真骨頂は集団戦にある。それを下したというのなら、法国にある殆どの戦力は通用しないことになってしまうからだ。

 

「……あいつらの役目は数が多い相手の掃討戦なので、今なら竜王国に貸し出す戦力が無くなって頭を抱えているんじゃないかと。あと、モモン様を破壊の竜王の復活とでも考えて、討伐隊でも組んでくると思います」

 

(竜王国。確かビーストマンの脅威にさらされている小国だったか?)

 

 記憶の片隅から引きずり出す。

 

(ってことは規模はどうあれ、既に二国に喧嘩売っちゃった訳か……竜王国は大したことが無さそうだが、その名の通りに竜が出張ってくるような事になったら厄介そうだな……)

 

 正直、モモンガはその二国と戦っても勝てる自信はあった。だが、まだ見ぬプレイヤーや竜の魔法、ワールドアイテムの可能性を考慮すると、流石に気楽ではいられない。

 

「あの……」

 

 沈黙に耐えられなくなったのか、クレマンティーヌが声をあげる。

 

「なんだ」

 

「私は、これからどうなるのでしょうか」

 

 聞きたいことは聞き出せたし用済みだ―――という可能性を二人は逆方向から考えていた。だがモモンガとしてはガゼフですら使えない武技を用いていたクレマンティーヌを、殺すには惜しいと思っていた。しかも元法国の幹部であり、ズーラーノーンとやらにまで入りこんだ情報通。勿体無い心と、レアキャラがモモンガのコレクション魂を擽る。

 ふと、モモンガは思い付く。これを使っていくつかの問題を解決してしまおうと。

 

「クレマンティーヌ、お前は竜王国に行け」

 

「何故、でしょうか」

 

「私が人類の敵ではないという、一種のポーズだ。お前はその力を奮って竜王国を救え」

 

 シナリオはこうだ。村やガゼフを襲う者達を見て、義憤に駆られて陽光聖典を殺したものの、その存在は決して慈悲の無い者ではなかった。

 偶然出会ったクレマンティーヌの話を聞き、竜王国の危機を知る。自らの浅慮により殺してしまった陽光聖典の穴を埋めるため、優秀な戦士を送り込んだ。

 

「と、いう流れだ。強引だが益がある方向に持っていけば態度も軟化するだろう」

 

「そのような事をしなくても、法国へ行けば神として受け入れられると思われますが」

 

「面倒そうだ、私は自由に生きたいだけだからな」

 

 もう死んでるけど、という言葉はギリギリで押さえ込んだ。

 

「問題はあるか?」

 

「……私は法国に追われている身です。竜王国に姿を現せば、追手が来る可能性があります。それに一人ではビーストマンの軍勢を対処しきれないかと」

 

「ふむ」

 

 確かに彼女は英雄級の力を持っている。だが人間が故に体力は尽きるし怪我もする。

 

「追手については私の存在を仄めかせ、陽光聖典を殺したものが敵対しかねないとな。ビーストマンについては……」

 

 モモンガはアイテムスロットの中身をあさり、十数個の武具やアイテムを取り出した。

 

「こいつを持っていけ」

 

「こ、これ……!?」

 

 クレマンティーヌは驚愕を極め、まともに声すら出せない。何しろ目の前に並ぶ武具はどれもこれも伝説級のものばかり。一つ取ってもこの国の宝具にひけをとらない、いや上回っているモノすらある。

 

「これは装着することで無限の体力を得られる、こちらは飲食不要。これは第三位階以下の魔法無効化、こちらは一定以下のダメージ無効化だな。防具は治癒と敏捷と攻撃力の向上。武器は単純に魔力ダメージを追加で与えるものだな。どれも大した効果はないが、十分だろう?」

 

「十分どころか過分だわ!」

 

 流石のクレマンティーヌも突っ込まずにはいられない。国宝に引けを取らなそうな装備をポンと貸し出されれば当然そうなるだろう。

 

「あ、いや違う、違います。十分です」

 

「ああ、もう敬語はいらん。こうなればお前は協力者だ、余程の事がなければ殺すことはない。というか敬語の違和感が凄い、やめろ」

 

「……いいの?」

 

「構わん。これからの事は仕事の依頼とでも思っておけ、うまいことやれればその装備もやろう」

 

「へぇー……」

 

 クレマンティーヌがぎこちなさを残しつつも、人に不安を与える笑みを浮かべる。

 

「じゃあぷれいやー様は私の雇い主って訳ね」

 

「プレイヤー様はやめろ、今はモモンと名乗っている」

 

「ふーん? じゃあ、モモちゃんだ!」

 

「ぶほぉ!」

 

 骨が吹き出す。噴き出すものがないのでフリだけだがとにかく吹き出す。

 

「……それは却下だ、昔の(とても性質の悪い)仲間を思い出す」

 

「えー、カワイイと思うんだけどなぁー」

 

 だから嫌なんだって! と内心で叫ぶモモンガ。

 

「ほら、<転移門(ゲート)>は開いたから早くいけ。定期的にこちらから連絡を取るから、何か言うことがあればその時にな」

 

「はーい、それじゃあ行ってくるね、モモちゃん!」

 

「ちょっ、おま!」

 

 闇色の靄に消えたクレマンティーヌに、届かなかった手が空を切る。その手でモモンガは頭を抱えた。

 

(まるで女版のるし★ふぁーさんだな……あんなに嗜虐的な性格じゃなかったけど。うわー、あれに仕事の依頼とか早まったかなぁー)

 

 ベッドに背中から倒れこみ、無い筈の目蓋で視界を閉じる。

 

(だがまあ、なんとなく共感してしまったというか。家族に愛されなかったってのは、響くものがあるなぁ)

 

 この世界に来てからというものイベント続きで慌ただしかった毎日だが、久しぶりにしんみりとした夜を過ごすことになった。

 




 神人の如き圧倒的な威圧感(絶望のオーラⅠ)

 骨の竜2体目は戦闘中に召喚された様なのですが、冗長かなと思ったので最初から召喚済みにしております。
 べ、別に書き上げた後に間違えに気づいて直すのが面倒になった訳じゃないんだからね!

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