モモンガさま漫遊記   作:ryu-

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第7話

「話というのは他でもない、カルネ村の一件についてです」

 

 ラナーの一言に、少し間をおいてから二人は大きく動揺する。

 

「何の事でしょうか?」

 

 精神の安定化が働いたモモンガは、とりあえずしらばっくれる。無関係を装うのなら本来モモンガよりガゼフが応じた方が良かったのだろうが、彼は絶賛混乱中だ。ガゼフが腹芸を得意としない事は分かっていたので、しょうがなくモモンが応じる。

 

「カルネ村を襲った法国兵を打倒し、ガゼフ様と共に陽光聖典と戦った凄腕の魔法詠唱者。そして同時期に現れたガゼフ様と繋がりのあるアダマンタイト級冒険者。無関係とは言わせませんわ」

 

 自信に満ち溢れたラナーの物言いに、何の根拠もない言葉ではないことをモモンガは悟る。ちらりとガゼフに視線を向けると、にわかに慌てだした。

 

「ち、違うぞモモン殿。私はもちろん、部下にも箝口令は敷いている! この事は王にも話していない!」

 

(あ、馬鹿)

 

 モモンガが止める間もなくガゼフが口を滑らせると、ラナーはニッコリと笑みを深くする。

 

「ええ、ガゼフ様は何も話しておりませんわ。ですが今ので裏が取れましたわね」

 

「は……?」

 

 あっけにとられるガゼフに、モモンガは軽く頭を抱える。余りの駆引き下手ぶりに、ちょっと幻滅してしまった程だ。

 

「王女がカマかけとは褒められたものではありませんね」

 

「心外です。そもそもガゼフ様の反応がなくても、確証は得られておりました。人の口に戸は立てられないと申しますから」

 

「……彼の部下が口を滑らせたとでも?」

 

「いえ。ですがガゼフ様の部下が全くの無実という訳でもありませんね。彼らの口裏合わせの嘘や、伝え聞くカルネ村の現状、その他もろもろ……人の噂も正しく取捨すれば真実にたどり着きます」

 

 モモンガはラナーの表情に誤魔化すことを諦める。それと同時に彼女に対する警戒心を強めた。先程抱いた認識は間違いではない、この少女はいずれ自らの正体にすら行き着くと。

 

「それで、私が魔法詠唱者だと分かったとして―――お前はどうするつもりだ?」

 

 故に態度を改める。モモンという戦士ではなく、力ある魔法詠唱者(マジックキャスター)として振る舞う為に。

 

「モモン、殿」

 

 ガゼフの背に冷や汗が流れる。隣りにいた気の良い友人が、怪物のような圧力を解き放ったのだ。彼が恐れるのは王族に対する礼節の問題などではなく、豊富な経験から来る死への恐怖だ。

 無駄とは知りつつも自らの剣に意識を移す。王女の回答次第では、この城は明日には跡形もないかもしれないと考えて。

 

「……」

 

 ラナーの表情は笑顔のまま動かない。鈍いのか、現状を理解できていないのか。少なくとも次に彼女が開いた口からは、思慮を感じさせない言葉だった。

 

「私はクライムを愛しているのです」

 

 そして彼女が唐突に言い出した言葉は、やはり意図の分からない唐突なものだった。

 

『……は?』

 

 モモンガだけでなく、ガゼフすら面をくらって気の抜けた声を出す。だがその二人をおいてけぼりにするようにラナーは自らの話を進めていく。

 

「世間からは民に優しい王族等と言われておりますが、ですが私が真に愛しているのはクライムただ一人。彼に好かれる為に、彼が望む王女である為に、優しく正しい姿を演じている、浅ましい女なのです」

 

『はあ……』

 

 思わぬ王女の告白に、二人は生返事しか返せない。すっかり毒の抜かれた彼らは、何か言う事も出来ずにただ王女の独白に耳を傾ける。

 

「クライムが望む王女は、高潔で清純な乙女。“彼女”は王国の淀みに見て見ぬふりはできません。ですが王女といっても所詮は小娘一人、巨大な組織に立ち向かう力はありません。

 報酬は私財からお支払い致します……ですから、ですからどうかモモン様のお力をお借りしたいのです。私の小さな欲望の為に、クライムの安全の為に、そしてクライムが想う民の為に。冒険者のモモン様ではなく、偉大なる魔法詠唱者様のお力の一片を、どうか」

 

 そうしてラナーは深く頭を下げた。

 モモンガは先ほどまでの警戒を少し馬鹿らしく思いながら、嘆息する。

 

「頭を上げて下さい、ラナー殿下。話をお聞きしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 打ち合わせから十数分。

 全てのモノが部屋を出て行った後。ラナーは深く下げていた頭を上げると、倒れこむように座り込んだ。

 

「かはっ」

 

 まるで長い間呼吸が止めていたかのように、荒く酸素を肺へと取り込む。顔色は白というより青く、先程までの自然体が嘘のように端正な顔からは大量の脂汗が溢れていた。

 

「――――まさか、アレ程だとは」

 

 ある程度の落ち着きを取り戻すと、ラナーは小さく呟く。

 ラナーが少ない情報から導き出したモモンガという人間性の評価は、かなりの精度まで確立されていた。少々迂闊な面もあるようだが、メリットを理解して行動を起こす冷静な人物。力は有るが顕示欲が薄く、目立つ事を余り好まない隠匿の賢者。理由こそ不明だが、ガゼフという人間を信頼している。

 一つだけ誤算があったとすれば、彼は凄腕の魔法詠唱者等といった可愛い存在ではなかった。もっと別次元にいる恐るべき存在だったと言うことだろう。

 

「フフフ、それでも私の勝ちですわ」

 

 今回の件に限れば、ラナーの目論見は想定通りに進んだと言って良い。表向きの依頼だけでなく、モモンガの力を当てにした『本来の依頼』についてもある程度は賛同を得られたのだ。同じ場に居たガゼフには分からないように歪曲気味に目的を伝えたが、モモンガにはある程度は伝わったようである。

 

「結果的にはこっちの思い通りになってくれた。けど問題はこの後ね……」

 

 ラナーは初め、ガゼフを中心とした人の縁でモモンガを縛り、ラキュースのように都合の良い駒にするつもりでいた。だが、それは不可能だ。彼という存在はそんな生易しいモノではない。

 彼の力の一欠片と対面したラナーは、まるで神とでも対峙しているかのように身を竦ませ、一つの嘘を口にする事にさえ恐怖を覚えた。その瞬間、ラナーは計画全てを切り替えた。『真実』を全て話す事にしたのだ。ただ、人聞きの悪くないように表現だけを繕って。

 当初の予定通りとならない以上、この件が終わればモモンガは邪魔な存在だ。制御の方法がガゼフしかなく、先ほどのやり取りを見る限りそれも絶対とは言えない以上、何時問題が発生してもおかしくない。となると抹殺するのが一番良い手となるのだが。

 

(ガゼフ・ストロノーフが恐れる男を抹殺? どんな勇者様ならそんな事を成しえるのかしら)

 

 今となってはかの帝国における最強の魔法詠唱者ですら可愛く見えるだろう。となるとアレは一国を軽く超えた脅威という事になる。天災を抹殺など愚かな妄想でしかない。

 

「自滅するか帝国に滅ぼされると思っていたけど……たった一人の怪物に壊されるのが先かしら?」

 

 自国の行く末を他人事のようにつぶやきながら、ラナーは自らの立ち振舞を考える。彼女に救国の意思等ない、ただクライムとの蜜月を謀略するだけである。

 

「それにしてもやっぱり今のクライムも素敵だわ。踏みつけながら罵ってくれないかしら……」

 

 己の新たなる可能性(リバ可)に、恐れを抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紹介しますモモンさん。私達5人が“蒼の薔薇”です」

 

 彼女達の集まる宿についたモモンガは、ラキュースに各メンバーの紹介を受ける。噂通り女だけのパーティーで、神官、戦士、忍者二人、魔法詠唱者とバリエーションに富んだ冒険者達だ。

 

「初めまして皆さん、私はモモン。エ・ランテルの一冒険者です」

 

「はっ、同じアダマンタイト級のアンタが一冒険者ってんなら、俺達なんぞで5流冒険者だな」

 

「これは酷い評価」

 

「謝罪と賠償を要求する」

 

 ガガーランの冗談に、ティアとティナが悪乗りする。

 

「は? あ、いえ、そんなつもりではなくてですね」

 

「ちょっと、人をからかうのは辞めなさい。すみませんモモンさん、この娘達はいつもこんな調子でして」

 

「えっ、ああ、いえいえ、まあ挨拶みたいなものですね」

 

 ラキュースがすかさずフォローしたが、当のモモンガは不思議と懐かしい感覚に襲われていた。会話のノリと勢いにユグドラシル時代を感じたのかもしれない。

 

「早速ですが戦力の振り分けをしましょう」

 

 ラキュース提案の下、八本指各施設に攻め込む編成を話し合う。各員の役割はハッキリしているので、誰からも反論が出ることもなく打ち合わせはスムーズに進んだ。

 

「クライムはどうする」

 

 今まで黙っていたイビルアイが発言する。彼女達にとって彼は戦力というよりラナーご執心の相手だ。短期間で腕を上げたようだが、それでも危険な場所に送り出すのには不安がある。

 ガガーランはイビルアイの意を汲んで同意を示す。

 

「正直なところを言うなら連れていかないのが一番だとは思うんだがなあ」

 

「そうも行かないわよ、私たちが犯罪者にならないためにもクライムの参加は必要だわ」

 

 蒼の薔薇もアダマンタイト級とは言えただの冒険者だ。今回の襲撃が明るみに出た際は犯罪者扱いされる可能性だってある。だがラナー直属の臣下であるクライムがいれば王族の加護と『王国兵の協力』という大義名分が立つ。冒険者が国に協力すること自体が組合の規約に反するのでノーリスクではないが、それぐらいは彼女達も折り込み済みだ。

 もちろん、全てを内密に進めるのがベストなのだが。

 

「……よろしければ彼とは私が組みましょうか?」

 

「モモンさんが? 貴方の力を疑うわけではないのですが……本当に大丈夫ですか?」

 

「ええ、戦士長級が二人同時にでも出なければ彼を庇う余裕ぐらいはあると思います。それに彼とは少々縁がありまして。どの程度戦えるか分かっていますから」

 

 ラキュースの心配を余所に、モモンガは当たり前のように答える。ガゼフ級の相手を一人以上相手に出来ると言っているのだから、相当な自信家である事は伝わっただろう。

 

(イビルアイ、どうだ?)

 

(こっちは全く分からん。お前はどうだ?)

 

(俺もさっぱりだ、不気味なぐらい何も感じねえ)

 

(私と同じだな……認識阻害系のマジックアイテムかもしれん)

 

 本人の自信はともかく、戦士と魔法詠唱者である二人はモモンガの実力を測りかねていた。別の部隊に分かれるので直接影響はないが、同じ作戦に参加する以上実力を見極めたいと思うのは当然の事だろう。

 

(まあ一見特筆すべき武具はないようだが、それでも相当なものを身につけている。組合も嘘やごまかしでアダマンタイトを認定しないだろうさ)

 

(ま、それは同意だな。だが……こいつもしかしたら……)

 

(何だ、何か分かったのか?)

 

(いや、まだわかんねー)

 

 彼女たちが内緒話をしている横で、モモンガとラキュース達の話は進んでいる。とは言え話すことがそう多い訳ではない為に交流という名の雑談に話題が流れ始めた。

 

「モモンさんはパーティーは組まれないのですか?」

 

「ええ、まあ。特別な場合を除いて今後もパーティーを組むことはないと思います」

 

「野伏や神官、魔法詠唱者と組んだ方が何かと都合が良いと思いますが……」

 

「それは否定しません。昔はパーティーというかあるギルドに属していたこともありますから。ただ私が組む相手は条件がありまして」

 

「条件ですか?」

 

「ええ、より正確に言うなら条件と言うより拘りですかね。それを満たしていない限り誰かと組むつもりはありません」

 

「へえ、ちなみに条件って何ですか?」

 

「すみませんがそれは言えません、あまり公言するような事でもないので」

 

「気になりますね……例えば私達の中で条件を満たしているのはいますか?」

 

「蒼の薔薇の皆さんでですか」

 

 モモンガは彼女達を見渡す。条件というのは他でもない、彼が属していた“アインズ・ウール・ゴウン”の参加条件に他ならない。今の彼は一人でいるためギルドの縛りなど関係ないが、何となくそれを守るつもりでいた。

 条件の一つは社会人であること。これは冒険者である彼女達は満たしている。そしてもう一つは―――

 

「もしかしたら、イビルアイさんなら満たしているかもしれませんね」

 

「わ、私か?」

 

 突然話を振られたことで動揺を隠せないイビルアイ。

 

(ロリコン?)

 

(それなら私達も選ばれる筈)

 

(顔隠し同盟とかじゃねえのか?)

 

(全身隠してるのが条件とか)

 

(貧乳―――可愛げない―――ロリババア――――)

 

「オイ、聞こえてるし途中からただの悪口になってるぞ」

 

(わざわざ顔を隠しているから、もしかしたら異形種かもって思っただけなんだがな)

 

 モモンガは蒼の薔薇のかしましさを横目にしつつ、アインズ・ウール・ゴウンの面々を思い出してしんみりする。

 彼等は予定時間まで何気ない会話で交流を深めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備はいいか、クライム」

 

「はい、師匠」

 

「もう師匠はよせ。私の修業はアレで終わりだ」

 

「分かりました、モモン様」

 

 人々が眠りにつく深夜、荒れ果てた空き家に二人、彼らは時が来るのを待っていた。

 

「確認だ。私は正面から、お前は裏からあの拠点に侵入する。私の役割は敵の目を引きつけて手当たり次第の殲滅。お前は可能な限り身を隠し、裏口から逃げる者がいればその始末だ」

 

「はい、それと万が一の脱出経路の確保ですね」

 

「ああ、分かっているとは思うが無理はするな。本来なら拠点の襲撃なんてものは調査をするだけしてからやるものだ。というよりも調査が8割だと言ってもいい。

 今回は時間との戦いがあるからしょうがないが、慎重になりすぎても足りないくらいだからな」

 

「モモン様はアレだけの力を持ちながら、慢心されないのですね」

 

 先日の苦行、もとい修業の際に、クライムは何度か手合わせをしてもらっていた。アレだけの圧倒的な強さを持ちえながらも、臆病とも取れる程に慎重さを求める事に疑問を持ってもおかしい話ではない。

 

「私より強い者などごまんといるさ」

 

 それだけはない。とクライムは言いかけた言葉を飲み込む。

 

「さて、時間だな。最後の確認だが、私と別れてから予定以上の時間が経つか、想定外の何かが起こったのなら……」

 

「踏み込んでモモン様の下へ参ります」

 

「……ハァ、逃げろと言っているのに頑固なヤツだな。まあいい、俺は警告はした、後は好きにしろ」

 

「はい!」

 

 モモンガが何らかのアイテムを使うと、彼から発せられていた音が消える。彼は潜んでいた空き家から出ると、数秒としない間にその姿が闇の中へ消えていった。

 

「よし」

 

 それを見送ったクライムも自身に活を入れ、空き家を出る。店の裏口に身を寄せると、“物音”が立つのを静かに待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉を目の前にし、モモンガは一瞬悩んだ。騒ぎを大きくしすぎてもいけないし、目立たなくては囮の役目を果たせない。結果として、ごく普通に侵入する事にした。

 

 ――――キンッ

 

 鍵を剣で切り断ち、ノブに手をかけて扉を開く。堂々と室内へと入るその姿に、中で待機していた男たちは武器を抜くこともなく呆然としただけだった。

 室内を見渡して敵の姿を確認する。3人、だが装備は見窄らしく警戒に値する者はいない。

 

「あの、どちら様でしょうか」

 

 男の一人が丁寧に話しかけてくる。無理はない、扉は元から鍵がかかっていなかったように開かれ、敵対心を見せることもなく堂々と全身鎧が入ってきたのだ。八本指の関係者と考えてもおかしい話ではなかった。

 それが幸いだったのかは分からないが、男は少しの苦しみを得ることもなく死を迎えた。

 

「ふむ、見かけどおりだな」

 

 ごとり、と落ちた首を見てモモンガは一安心する。装備や立ち振舞で想定した男のレベルに差異がなさそうなので、思わずつぶやきが口をついてでてしまった。本来見掛けで相手の判断をする等モモンガらしくない行動ではあるのだが、戦士として戦っている以上はどうしようもない。

 そもそもガゼフ級の敵がそうごろごろ居る筈もないので、モモンガとしては自分の心配をする必要はない。問題は弟子のおもりについてだ。この程度の者達ならば無理をしないかぎりクライムでも死ぬことはないだろう、と判断した。

 クライムもこの国の兵としては上位の力を持つ者なので、モモンガの真意を聞けば流石の彼も気を悪くするかもしれなかったが。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「てめ、何しやがった!」

 

 首の落ちた男が倒れこむのを見て、ようやく残りの男達も武器を構え始める。だが全ては遅く、モモンガの剣は一人を両断し、一人の両腕を切り落とした。

 

「へ、あ、が、あがあががあっ――――ぶっ」

 

「では少し派手にやろうかな」

 

 両腕を失い絶叫を上げ始めた男の顔を鷲掴む。奥にある扉へ振りかぶり、ボールのように軽々と投げつけた。

 木や肉や骨が飛び散り、大きな音と共に扉が穴を開ける。同時に騒ぎを聞きつけたのか数名の男たちが掛けつけてきた。

 

「侵入者だ!」

 

「“警備”に連絡しろ!」

 

 騒ぎたて、モモンガに次々と襲いかかる男たちを枯れ木のように断ち切っていく。

 

「な、何だコイツ!」

 

「バケモノぉ!」

 

 背を向け逃げ始める者達も出てくるが、視界に入っていれば適当な物を投げて足を止める。まあ投げたモノで相手が爆砕するので足止めどころではないのだが。

 

「ヒィィッ! 助けてくれぇえ!」

 

「くるなくるなくるなぁ!」

 

 数分とおかずに戦いは戦いでなくなり、殲滅作業へと変わる。

 

(……久しぶりのギルド戦だと思って気合入れてきたが、拍子抜けだな。人員はともかく、まともな罠の一つもないじゃないか)

 

 ここで言うまともな罠とは、最低でも第8~10位階魔法級の威力か、行動阻害耐性を突破する特殊な物を指している。もちろん、この世界においてそれは神話級の一品となる為、こんな所で見られる筈もないのだが。

 モモンガは内心ため息をつきながら悠然と歩を進める。数々の警備兵共を斬り、並み居る罠を(無傷で)受け流し、拠点の奥へと下へと押し進み―――少し広い空間へとたどり着いた。

 

「成る程、随分と薄い警備だとは思ったが……待ち構えていたのか」

 

「流石の俺たちも昨日の今日で襲撃されるとは思っていなかったがな」

 

 そこには、二人の男がいた。

 一人は炎を模した文様が裾に縫い上げられた黒いローブを纏う魔法詠唱者。

 もう一人は禿げ上がった頭に筋骨隆々の体躯をした素手の修行僧(モンク)

 

「さて、初めましてだな冒険者モモン」

 

 修行僧の言葉に、モモンガは軽く驚きを覚える。

 

「俺を知っているのか」

 

「もちろん、強者の情報は常に集めている。エ・ランテルのような田舎でも、アダマンタイト級となれば話は別だ」

 

「それで、俺がモモンと分かったとしてどうするつもりだ?」

 

「……先日、あの娼館を壊してサキュロントを殺したのがお前だということは調べが付いている」

 

「サキュロント?」

 

 つい昨日の娼館の件についてバレている事には驚きだが、突然語られた知らぬ名に首をひねる。

 

「あの店に居た我ら六碗の一人だ。軽戦士(フェンサー)幻術士(イリュージョニスト)を修めた男だ、知らぬとは言わせんぞ」

 

「ああ、いたなそんなやつ」

 

 剣を構えてから「いくぞっ」と声を上げつつコソコソとカニ歩きし始めた男を思い出す。幻影が効かないモモンガとしてはただのバカとして薄く記憶されている。ちなみにその後は一撃で胴体を断ち切って即死である。

 

「成る程、アレを歯牙にも掛けないとはアダマンタイト級というのもガセではないらしいな」

 

「はあ、だから何だ。仇でも取るのか」

 

「まさか、六腕でも最弱の男など、目の前の強者に比べれば何の価値もない」

 

 男は手を差し出す。何かを掴むように、何かを差し出すように。

 

「このゼロの手を取れ、モモン」

 

「何?」

 

「新たな六腕の一員となれ。お前ほどの強者ならば分かるはずだ、我々の強大さが。

 金や、女や、権力全てが手に入るぞ。冒険者なら、この提案を受けるメリットも理解できるだろう」

 

「……俺に犯罪組織に入れと?」

 

「堕ちる事に抵抗があるか? ならば安心しろ、冒険者を仮の姿とする分には何も言わん。表では英雄として名を馳せ、裏では姿と名を変えて活動すればよい。さすれば思いつく限りの力と富が手に入るぞ?」

 

「そうやってそこのアンデッドも勧誘したのか?」

 

 ゼロが軽い驚きを見せる。喋らず、ただ隣に控えていた男がフードを下ろした。そこには肉のない骸骨の顔が暗い蝋燭の火に照らされている。

 

「気づいていたか、我が正体に。その割には驚いていないようだな」

 

「まあ、見慣れているからな」

 

 六腕の二人が内心首を傾げる。分かる筈もない、目の前の男も鎧を剥けば骸骨の顔を見せる等と、想像の外だろう。

 

死者の大魔法使い(エルダーリッチ)か」

 

「如何にも」

 

「少々興味があるのだが、お前は何故六腕に入ったんだ? アンデッドは生者を嫌う、そこのゼロという男も人間だろう」

 

「私は類まれなる叡智と理性によりその衝動を克服している。求めているのはただ魔法の深淵に触れる事のみだ。だがアンデッドが魔法を学ぶ場などは何処にもなく、苦心していた時にゼロに勧誘されたのだ」

 

(意外と普通の理由だな)

 

「私はこの組織に入ったことにより、数々の魔法とマジックアイテムを手に入れる事ができた。お前も戦士とはいえ、この魅力が分かるだろう。六腕に入ればお前も新たな力を手に入れることが出来るぞ?」

 

「成る程、な」

 

 モモンガは、内心を押し隠して言葉を切る。そこでふと思い出した事があり、問いを口に出した。

 

「確か、六腕に“不死王”デイバーノックとか言うヤツがいたな」

 

「我が名を知っていたか」

 

 誇らしげに胸を張るアンデッドに、こらえきれずモモンガは失笑してしまう。

 

「貴様、何がおかしい」

 

「いや、すまない。ぷっ、ああいや、何でもないんだ」

 

 精神抑制が利く直前で、モモンガは笑いを耐えていた。

 たかが第三位階魔法しか使えないエルダーリッチごときが“不死王”を名乗り、ゴミのようなマジックアイテムを装備して胸を張る。自身の種族を名乗ればこの“不死王”はどんなリアクションを見せるだろうかと、モモンガは笑いを抑えきれなかった。

 

「……成る程、死にたいらしいな」

 

「まあ待て、まずは返事を聞いてからだ。それでモモン、組織に入るつもりはあるか?」

 

 再度、ゼロからの確認。彼らのピリピリとした態度から、これが最後通告だと分かる。

 

「無いな」

 

「正義感だとでも言うつもりか?」

 

「いや、俺はそんな崇高な人間じゃないさ」

 

「では向こうの方が金を積んできたか」

 

「さあな、多分お前の方が大金を用意できると思うぞ?」

 

「ならば義理立てか、忠誠か」

 

「まあ、それは近いな。だがそれが全てではない」

 

 モモンガが剣を抜き、<絶望のオーラⅠ>を解き放つ。

 

「単純な話さ、お前たちは俺に何一つ魅力的な提案ができなかっただけ。要はプレゼンに失敗した訳だな」

 

 言葉の意味を分からずとも、尋常ではない気配に六腕の二人は身構える。ゼロは強者としての気力で、デイバーノックはアンデッドである為に耐性で恐怖を撥ね退ける。

 

「さて、それではアダマンタイト級に匹敵する六腕とやらの力、見せてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そろそろ定刻だ)

 

 クライムは身を隠していた場から顔を出し、そろりと動き始める。

 周りには数人の男が転がっている。息のある者もいるが、そうでない者もいた。どれも裏口から逃げだそうとした者をクライムが対処した男達だ。

 

(音と震動、間隔からすると……エルダーリッチの<火球(ファイヤーボール)>だろうか)

 

 地下から伝わる僅かな情報を基に、クライムは敵と思われる者の情報を予測する。あの修業では何故かアンデッドが多かったので、今のクライムは一般的なアンデッドの事ならかなりの知識を要していた。

 

(“不死王”デイバーノック自身の魔法か、それとも召喚したモンスターか)

 

 モモンガが荒らした後を慎重に歩きつつ、敵戦力の予想と対処を考える。

 修業で得られたのは何も経験値だけではない。数々のモンスターの性質、弱点、戦い方。冒険者が何年も掛って得られるような知識を、彼はたった一日二日で覚えたのだ。

 ちなみにこれについてはクライムが特別優秀な訳ではない。ただ、何度も何度も同じ強敵とアドバイスをもらいながら死闘を続ければ、嫌でも覚えられると言うものだ。そもそも覚えなければ死んでいたのだから、必死にもなる。

 

(ここ、だな)

 

 壊された隠し階段の前に立ち、ゆっくりと下をのぞき見る。そこで行われていた戦いに、クライムは軽く身を震わせた。

 

 ―――それは化け物達の戦いだった。

 

 弾ける爆炎に身を躍らせ、二人の男がぶつかり合う。一撃一撃の硬質音が空気を震わせ、物理的衝撃を生む。

 それはもはや、人の領域で行われる戦いではない。化け物達の戦いか、あるいは……彼が憧れる英雄譚(ヒイロックサーガ)そのものだった。

 

(っ、怖気づいている場合か、クライム!)

 

 呆けかけていた意識を歯を食いしばって取り戻し、戦場をしっかりと目に収める。

 戦いは互角だった。

 モモンガと修行僧は剣と拳で撃ち合い、間隙を打つようにフードの男から攻撃魔法が飛ぶ。モモンガがそれを華麗な体裁きで避けると、休みを与えんとばかりに修行僧が襲いかかり、撃ち合う。

 2対1だ。このまま続けば相手より動く量の多いモモンガの体力が尽き、戦況が傾く。だが、表情の分からない二人を置いておき、焦りを見せているのは修行僧だった。あの男は強い、だがモモンガの方がさらに強い。はたから見ているクライムには、それがよく分かった。

 このまま放っておけば、モモンガは勝てるかもしれない。だが、それができるならクライムはここへと来る事はなかった。

 

「助太刀します、師匠!」

 

「ああ、やっぱり来たか。人の言う事を聞かないやつだな」

 

 苦笑染みたモモンガの声に、クライムは心強さを感じつつも身を引き締める。

 

「それと、師匠はやめろ。奴等此方の素性は知っているようだ」

 

「ラナーの腰巾着か……貴様ごときが入れる世界ではないぞ」

 

「そう思うなら、こいつは無視して俺とだけ戦ってるんだな」

 

「チッ、デイバーノック。そこのガキをさっさと殺してこっちに戻ってこい」

 

「了解した」

 

 修行僧の裏に控えていたローブの男、もといアンデッドがクライムへと立ちはだかる。

 

「エルダーリッチ……」

 

 数日前までの自分だったら手に余る化物。

 

「そうだ、ここは狭いが、対処の方法は分かるな?」

 

「はいっ」

 

「大きく出たな、ニンゲン」

 

 デイバーノックが苛立ちに声を震わせる。底冷えするようなその声を前にしながらも、クライムは自らの意思だけで平静を保つことができた。

 

「さて、私達も再開だな。一人で大丈夫か、ゼロ」

 

「ほざけ、ここからが本番だ」

 

 二人の闘気が膨れ上がり、衝突して弾ける。それに呼応するようにクライム達の戦いも始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「<火球(ファイヤーボール)>!」

 

 デイバーノックがエルダーリッチ得意の<火球>を放つ。それは一般的なものよりも少々小さく、威力はともかく範囲は小さい物だった。室内である以上あまり大きい威力の魔法は自分たちの身にも振りかかる。先ほどまでモモンガ達の戦いに使っていた魔法も、そういった事情で全力は出せていなった。

 だが、これが単純に相手にとって有利になる話ではない。比較的広いとは言っても室内であるここは、逃げる方からしても隠れる場がないことを意味している。

 

「ふっ!」

 

 クライムは駆ける。その速度は凡人としては目を見張るモノで、危なげなく<火球>の威力範囲外へと逃れ出る。

 

「ほう、王国兵ごときが大した俊足だな。だがいつまで避けきれるかな」

 

 感心を覚えるも、デイバーノックの余裕は陰らない。何の工夫もなく再度<火球>を放つ。

 

「くっ」

 

 クライムは同じように<火球>の範囲外へと逃れるが、休む間もなく次の魔法が飛んでくる。

 エルダーリッチの恐ろしいところはその魔力容量の多さだ。使えるだけで一流とされる第三位階魔法を連打する事ができる。数十人の兵を集めたとしても、何の対策もなければ纏めて焼き払われるだけの強さを持っている。それが数々のマジックアイテムを持ち、人間の世界に住む程の狡猾さを持っているとしたら、もはや国が討伐隊を用意して対処するべき案件と言えるだろう。

 

「ちっ、いい加減燃え尽きろコバエが……!」

 

 だが、いつまでたってもその魔法は当たらなかった。鍛錬により鍛えられたクライムの身体能力は大したもので、身のこなしだけではなくその体力もあってデイバーノックの魔法は次々と躱される。早々にゼロへ加勢する必要もあってか、彼の身中にはじわりじわりと焦りがくすぶり始めていた。

 

「だが、退がり過ぎだ小僧」

 

「う……」

 

 逃げ場を求め続けたクライムは、ついに部屋の角まで追いやられていた。モモンガ達とも少々離れた事により、今なら多少威力を上げても巻き込む恐れはない。

 

「<火球>!」

 

 最後となる一撃は、『真っ直ぐ』クライムへと飛翔する。着弾すれば、壁ごとクライムの肉体を焼きつくすだろう。

 

(1……2……3!)

 

 クライムは駆ける。今までとは違いギリギリまで引きつけ、あろうことか『前へ』と。

 姿勢を低く、低く、まるで這いずるように地に伏せ、背を通り過ぎる<火球>を確認してから飛び出した。

 

「何だと!?」

 

 その命がけの回避方法は驚きであったが、それだけならデイバーノックはすぐに平静を保てただろう。だが、まさか<火球>の爆発を背に受ける事で加速するなど、想像の範囲を大きく超えていた。

 失敗すれば火だるま、事実クライムの体は少なからず烈火に煽られダメージを受けている。

 十分な距離は保てていた。クライムの身体能力を何度も確認したデイバーノックは、たとえ<火球>が避けられてから攻めこまれても十分対処できるだけの距離を取っていたのだ。その数mを彼は、敵の魔法を加速剤とする事で消してみせたのだ。

 

「ぐぬっ、<恐慌(スケアー)>」

 

「―――!」

 

 だが、それでも一つの魔法を唱える余裕はあったのか、クライムの精神が恐怖に蝕まれる。これで足を止めれば、デイバーノックも再び間合いを取り直すこともできるだろう。

 しかしクライムは止まらない。その魔法を、この流れを、彼は『知っていた』からだ。

 

「おおおお!」

 

 一喝。

 最後の一足を跳ぶと共に、<恐慌>を気合で弾き返す。

 

「<斬撃>!」

 

「カッ!?」

 

 一刀両断。脳天から股下まで容赦のない切り落とし。

 王国の影に長く暗躍した化け物は、まだ何の名声もないただの一兵によりあっさりと死滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一部始終を男達は見ていた。一人はただただ絶句し、一人はクライムを褒め称えた。

 

「大したものだ。他の才能はないが、同じ流れを繰り返す事だけは一流だな」

 

「どういう……事だ」

 

「あいつは少々、俺が面倒を見ていてな。エルダーリッチごときなら数十は狩っている、慣れているのさ」

 

 ゼロは再び絶句する。何の名声もないただの若者が、それほどの力を有している筈がないと。そもエルダーリッチとそんなに出会える場など聞いたことがないと。様々な疑問が浮かんでは消え、ゼロはそれを処理できないでいた。

 

(まあ貸してる武器がなければ一撃は無理だけど)

 

 しかしマジックにはタネが有るものだ。流石にそれを教えてやるほど、モモンガは優しい男ではなかったが。

 

「さて、2対1で不利だったものが、1対2にとさらに悪化したな。どうする、今降伏するなら少しは手心を加えてやるが」

 

「ほ、ほざけ! キサマ等二人とも俺がミンチにするだけだ!」

 

「ほう、どうやってだ?」

 

「……俺の、最強の技を以てだ」

 

 ゼロの刺青が輝きを増す。一つや二つではない、全てだ。

 終始ある程度の余裕を見せていたモモンガにも警戒の色が現れる。

 ゼロのクラスである<シャーマニック・アデプト>の特殊能力は、モモンガから言わせれば回数制限の有る割には効果がショボい。

 レベルこそなかなかのようだが、技術はガゼフ以下、速度はクレマンティーヌに届かず、肝心の力もモモンガの鎧を壊すに至らないと何とも緊張感のない相手だった。だが、そのヘボい能力とはいえ全てを同時併用となると話は違う。少なくとも力と速度で言うなら、先程の前提をひっくり返す程度の強化は見込めるからだ。

 まあ最終的にはモモンガのスキルでダメージは無効なのだが、クライムがいる前で鎧を粉砕されるのは多少都合が悪い。

 

「貴様のその余裕が崩れるのが楽しみだな」

 

「お前にできるか?」

 

「できるだろうさ……流石の貴様も弟子を粉砕されればなぁ!」

 

「な! 逃げ―――」

 

 爆発的な加速で、ゼロが駆ける。クライムへと。

 流石のモモンガも今のままではそれに追い付く術はなく、庇うにしても位置が悪すぎて間に合わない。

 モモンガは、何もできずただ立ち尽くすクライムの姿を目に収め、その結末を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クライムは、立ち尽くす。剣を構える事も、逃げる事も出来ずにただその場に居た。

 圧倒的な死の恐怖、反応すらできない高速の一撃。英雄でもないクライムに何ができようもなく、硬直のまま死を迎えるのが当然だ。

 

 ――――つい先日までの彼ならば、だが。

 

 

 武技、<脳力解放>

 

 

 ゼロが走り出す前に、クライムは修業にて得られた新たなる武技を発動していた。

 見た目に何が変わるでもない、各能力が向上するでもない。ただ、感覚が鋭敏化する。反応速度や、肉体の制御等、戦士として必要なものが、一時的に向上するのだ。

 

(避けられない)

 

 だからこそクライムは、冷静に絶望的な結論を出した。

 デイバーノックとの戦いは決して余裕などではなかった。逃げ回る事で体力を消耗し、<火球>の余波で肉体は傷ついている。

 そんな彼の現状では、武技がいくらあってもゼロの攻撃を避ける程の余力はない。

 

(受けられない)

 

 そして、自らの力ではあの攻撃に耐えきれない事も、容易に推測できた。

 仮にもモモンガと撃ち合っていた相手の全力だ、クライムが何をしようが無駄だという事は簡単に予想できる。実際、今のゼロの速度はモモンガのそれを超えている。

 

(手は、一つだ)

 

 だからこそクライムは、たった一つの細い糸に縋り、武器を捨てた。

 それぞれから感じる困惑の気配。それを無視して、クライムは無手のまま最も慣れ親しんだ正眼の構えを作る。

 

 体五つ分の距離、ゼロの拳が振るわれる。

 

 クライムは片足を前へと滑らせ、体を開く。同時に、前へ掲げていた両手を開いて、『武器を掴んだ』。

 それからは秒にも満たない、一瞬の出来事。

 

 一つ、前に出した足をゼロの踏み出す足に差し込む。此方の足は踏み砕かれたが、ゼロは体勢を崩す。

 一つ、体をひねりゼロに背を向ける。体勢は低く、まるで背負うように密着した。

 一つ、掴んだ武器……ゼロの腕を、最も自らが得意とする一撃で振り下ろす。

 

 ゼロは体勢を崩し、クライムの背を支点に、腕を振り下ろされて水平に宙を舞った。

 

 ―――つまりは、投げっぱなしの『背負い投げ』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音とともに、自ら生んだ速度のまま壁へと叩きつけられるゼロ。

 彼らの戦闘にも耐えてきた頑丈な石壁は、人型に大きくヘコんだ。

 

「ハァッ! ハァッ! ハァッ!」

 

 自らの武技による反動と極度の緊張から解き放たれたクライムは、空の酸素をかき集めるように粗い呼吸を繰り返す。一歩、いや一手間違えれば死んでいたのだから、当然のことではある。

 

「ハッ……ハッ……や、った」

 

 クライムは自身の両手を見て、歓喜に震える。

 一度も成功しなかった技を、ぶっつけの本番で成功したのだ。本来なら大きな力など必要ない技であり、そこを小手先と無理やりで押し通した事には違いないが、それでも成功は成功だ。彼にとってこれは大きな一歩である。

 視界の外からゴンッ、という鈍い音が聞こえる。

 慌ててそちらを見やれば、モモンガが剣の腹を使ってゼロを気絶させているところだった。

 

「さて、これで終わりのようだな。ツメが甘いなクライム。喜ぶのは安全の確認が終わって拠点に帰った後でだ」

 

「も、申し訳ございません師匠……」

 

「だから師匠と……あぁもういい。だがまあ、よくやったな。私の見せた技を自己流に昇華した訳だ」

 

「はい! まだ師匠のようにはできず、無様なモノですが」

 

「いや、まあこっちもサルマネだしな……ゴホンッ、アレはもうお前の物だ、好きに鍛え、好きに使うがいい」

 

「ありがとうございます!」

 

「ははは、相変わらず暑苦しい奴だな。さて、凱旋だクライム。大金星はお前だ、しっかり胸を張れよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ夜が明ける前、彼らは大きな損害を出す事もなく無事に帰還した。

 中でも、未熟だと思われた一人の少年兵の活躍には、聞くもの全てが大きな驚きを覚える事になる。




ティナ「六腕殺すべし」
ティア「慈悲は無い」

三腕「グワアアアア!」




次で王国編は終わりです。
そして書き溜めも終わりです。
つまりは更新が一気に遅れるという事です……

番外編を1~2個挟んで帝国編、そして???編で終わる予定なので完結をご期待ください!

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