目の前に鎮座する無骨な白い騎士甲冑のようなもの。まだ未完成なのかところどころパーツがかけているように見えていたり、各部にコードがたくさん繋がれている。
「これは……?束さん」
「これはね、いっくん。私が作った子、私の……私たちの夢が詰まった、象徴。その第一歩だよ」
彼女は愛おしげにそれを撫でる。前に聞かせてもらった彼女の、世間の一般常識から考えれば少女の語る絵空事のようなもの。だが、彼女の言葉にはそんなことは関係なしに魅せられるものがあり、そして自分も共感した。
だから、彼女の撫でるそれを聞いた瞬間、自分の中の何かがカッチリはまる気がした。
「これからはいっくんにも手伝ってもらうよ。最低限の知識は教えたからね」
そういって彼女は笑い、俺は彼女に向かって手を……
「………!織斑一夏君!」
誰かの声にはっとなり、反射的に顔を上げる。それと同時に周りから聞こえる笑い声。どうやら気が付かないうちに眠っていたらしい。
「大声出しちゃってごめんなさい。でも今"あ"から始まって"お"なんだよね。自己紹介してくれるかな……?」
目の前の教卓をはさんで向こう側にいる薄緑色の髪をもったメガネの女性。確か、山田先生だっただろうか。困ったような顔つきでこちらに手を合わせている。
どうやら眠っている間に自己紹介の番が来たらしい。
寝起きでボーっとしていたせいだろうか。気づいたら、すぐに返答をしない俺の姿をみて山田先生は若干涙目になっていた。
「だ、だめかな……?」
「い、いえ!そんなに謝らなくても……」
立ち上がりながら山田先生を安心させるようにそう告げて後ろを向く。誰もがこちらをじっと見つめ続けていることに気圧された。
「え、えっと……」
落ち着け、落ち着くんだ。自分にそう言い聞かせながら深呼吸を一度。
「織斑一夏です。よろしくお願いします」
IS。それはこの世界に突如登場したパワードスーツ。篠ノ之束によって生み出されたそれは女性にしか扱えないという特質を持っており、さらに兵器としての側面も持っているため世界は激変した。
そして、今俺のいる場所はIS学園。女性にしか扱えないはずのそれの使い方を学ぶための学校に生徒として通うこととなった。つまり何がいいたいかというと、
(これは……想像以上につらい)
周りは全員女の子、もしくは女性のみ。男性の職員もいるのかもしれないが、気軽に接することができるかどうかが不明な上に確認もしていないので意味がない。
うつ伏せの恰好のままばれないように横目で廊下のほうに視線を向ければ大勢の女子の姿。教室内の女の子も一定距離以上から俺を眺める始末。客寄せパンダの気持ちがよくわかる状況だった。
「ちょっといいか」
目の前から声をかけられ顔を上げれば、そこには知り合いがいた。彼女はそのまま顎で外を指し歩き出す。どういうことかわからないが慌てて俺もついていった。
「久しぶりだな。一夏」
「あぁ。こうして顔を合わせるのは6年ぶりだな。箒」
昔から変わらないポニーテールの彼女、箒に連れられてきた屋上で俺たちは再開の言葉を交わす。
「それにしても驚いたというべきか、よく考えれば当たり前だと思うべきなのか迷うな」
箒がこのような世界で唯一の男性IS搭乗者として少し前に発表された俺だが、それ以前より関わっている。それこそ、世に出る前から。
「ま、それは置いておいて。剣道の全国大会優勝したんだってな。おめでとう」
「それはこのあいだも言われた覚えがあるが?」
「面と向かって言うのとはまた違うだろ?」
「それもそうか」
そんな感じで箒との久々の対面は和やかに過ごしたのだが、思いのほか話が弾んでしまい二人そろって千冬姉の出席簿アタックに撃沈したのだった。
授業開始時、千冬姉はそのままはじめず、別の話題を出した。
「さて、授業を始める前にクラス代表を決めるとしよう」
話を聞く限り、対抗戦やこまごました雑用、会議への出席などを行うクラス委員長のような役割らしい。そして、それには自他推薦による決定となったのだが、これがいけなかった。通常ならきっと話し合いで決めることになるだろう。押し付け合いになる可能性もあるだろうが。
しかし、このクラスには俺がいる。この学校、世界の中で唯一のびっくり存在。そんなのがいるとなれば、
「はい!私は織斑君を推薦します!」
こうなる。次々とその声に応じるかのようにクラスの大半が俺を推薦していく。一瞬俺以外に織斑がいたかどうかとバカな考えが浮かんだが一瞬で破棄した。全員が全員こっちを見つめながら推薦してたらそうなる。
そんななかで、強く机に手を叩きつけて発言をした人物がいた。たしか……
「納得がいきませんわ!」
セシリア・オルコットだったか。彼女、どうやらこの時代の典型的な女尊男卑主義みたいな女性のようで、口を開けば男性に対する罵詈荘厳。挙句の果てには日本が後進的だのなんだの言っている。
そんな彼女を横目に周りを観察してみれば、彼女が暴言を吐くたびにクラスの雰囲気がピリピリとしたものに変わっていくのがわかる。世界中からきているとはいえ、IS学園は日本にある。そして生徒の多くは日本人であり、自分の生まれた国がここまで貶されるのは聞いていて気持ちよくはないだろう
。というかそれ以上に表情だけはいつもの仏頂面に見えるが知ってる人が見ればわかるほど、千冬姉がだんだんとイライラしてきている。個人的には言いたいことを言わせておけばいいと思うのだがこのまま放置するわけにはいかない。
というかあの娘はこの空気に気付かないのだろうか。嫌な感じだ。自分の立場を振りかざすばかりで人の話を聞こうとしないなんて。
「イギリスだって何年連続で不味い料理で世界覇者とってると思ってんだよ」
「あ、あなた!わたくしの国をバカにしますの!」
俺の発言に顔を真っ赤にして声を荒げる。その言葉が自分にブーメランで返ってくるということがわからないのだろうか。
「決闘ですわ。もし不甲斐ない結果を残したとなったらあなたを小間使い……いえ、奴隷にして差し上げますわ!」
「おういいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」
外面だけは強気で発言。正直なんで俺だけが面倒しょい込まなきゃならないんだ……。
「話はまとまったな。では勝負は次の月曜日。それまでにお互い準備を済ませておくように」
俺の強気の発言がよかったのか、何とか千冬姉がぶち切れることは阻止できた模様。しかし、新たな面倒事が生まれてしまった。少し横目で幼馴染のほうを見れば、心底同情したような目で見られた。泣きたい。