「ず、ずっと前から好きでした!」
突然の告白。
落ち着かない態度。
深呼吸をする。
静かな校舎裏。
これぞまさしく学生の恋愛告白というものだろう。
しかしながら・・・。
「私・・・口先さんのこと前から好きでした!」
「ごめん。俺、三紫って名前なんだけど。」
それは人違いでした。
「す、すみません。私のドジで・・・。」
「い、いいって。そ、それよりもその口先さんって?」
少女はもじもじとしていた。
まぁ、さっきみたいに対面式の告白をするくらいだから余程の思いがあるんだろう。
・・・人の幸せは祝福すべき、また助けるべき・・・だよな。
「その人はこの学校の生徒・・・なんだよね?」
「は、はい!」
「なら、顔のきく友達に聞いてみるからちょっと待っててね。」
携帯を開き、電話張から「嘴 東苑」という名前を選択した。
バイブレーションが響き、しばらくすると声が聞こえた。
『はいはいもしもしー?』
「あぁ、東苑、ちょっと聞きたいことがーーー。」
・・・そういや、なんでこの娘は俺の名前を間違えたんだ?
口先・・・口先なんて名字の奴がウチの学校にいたっけ?
口先・・・口先?
「ごめん。ちょっと切るわ。」
『え?ちょ、待っ。』
通話を無理矢理終了させ、振り返った。
「ご、ごめん。えーと・・・出会いとか聞いていいかな?」
俺の感が正しければ
「えーと・・・は、恥ずかしいのですが、六年前に私が川の流れに流されて溺れていた時に助けて下さった・・・人なのです!」
正しければ
『おい!いきなり電話かけて切りやがって!』
「おい。お前ってさ、六年前になんかした?」
頼む、違ってくれ。
『なんだよいきなり・・・六年前・・・六年前ねぇ・・・あぁ、確か上流から流されている少女がいたからさ・・・・。』
親指に力を入れ、画面を割る勢いで通話終了を押した。
人の幸せは・・・助け、祝福するべき・・・か。
「あ、あの!どうでした・・・か?」
だけど
「うん。街にいるらしいから一緒に探しに行こっか。」
実際身の回りで起きると、なんか腹立たしいものなんだね。
「あの、ここからは私1人でも大丈夫なので・・・。」
「でも告白するのに人払いしてくれる人は必要でしょ?」
でないと妨害できないし
「それに、そいつは俺の親友だからね。幸せな瞬間を俺もみたい訳だよ。」
親友がリア充になって腹立たしいのは阻止しなくては
「じ、じゃあ・・・お願い・・・します。」
こうして、俺はこの少女と共に行動することになった。
この娘は幸せを、俺は親友の不幸の為に
共に学校を出た。
具体的な作戦はこうだ。
まず、俺が待ちゆく人達を助け、彼女の好感度を上げていく。
そしてアイツのもたらした「命を助ける」を超えるのが目標だ。
幸い、アイツにしてもらった事はそれだけらしく
塵も積もれば山となる作戦で好感度あわよくば彼女ゲットのチャンスを掴むのだ。
正直楽な作戦ではないが、頑張るしかない。
そんなこんなで街の路地に隣接する広場を歩いていた。
「あぁ!・・・・。」
目の前の公園で、まだ未就学児であろう子供が持っていた風船を手放してしまったようだ。
これはチャンスだ。
ここで好感度を上げて・・・。
あぁ、いや無理だ。
もう2mを過ぎかけている。
全力疾走しても追いつけな・・・。
フッと横を見ると、そこには少女の姿はなかった。
前を向くと、そこには風船を片手にヒラヒラと宙を舞っている彼女が、いた。
「はい。次は気をつけてね。」
子供は風船を受け取り、何処かへ走っていった。
「えーと・・・凄い運動神経ですね。あんなこと並大抵の人にはできませんよ。」
「ええ。助けて貰った人に憧れて体を鍛えたんです!あの人みたいに人を支えれる人になりたくて!」
はは。
と、この時の俺は笑った。
しかし、これが笑えていたこの時が幸せだった。
その後、荷物を抱え、階段前で困っていたお婆ちゃんを荷物ごとおんぶして階段を上がったり
道に迷って困っている女の子に道を教えて上げたりと
正直言ってハイスペックさにもう真顔でいる事以外できなくなっていた。
「えーと・・・どうして君はそんなにその人に憧れるんだい?」
勢い余って聞いてしまった。
しかも歩道線路の前で。
「それは・・・。」
彼女は黙り込み、くるっと前を向き、顔だけをこちらに向けてきた。
「そんなの・・・好きだからにきまってるじゃないですか。」
・・・・。
どうしよう。
これは惚れてしまう。
というかこれフラグなのでは?
フラグですよね!?
半々だけどもしかしたら俺の・・・。
「あーあ。早く会いたいなー。口先さんに・・・。」
「・・・多分そいつの名前はーーーっておい!今赤信号・・・!」
「へ?」
瞬間、トラックのブレーキ音が聞こえた。
だが、ブレーキも間に合わない。
「クソ・・・!間に合・・・。」
横から、俺をすり抜け、彼女を助けた影があった。
俺は、その影が誰だかわかってしまった。
このタイミング。
まさに少女漫画の主人公。
俺の親友にて、
不幸にすべき対象。
「く、くちばし・・・・!」
トラックはキュリキュリと音を出しながら、道路脇に止まった。
そして、歩道線路の向こう側では、甘い空気が漂っていた。
「あ、ありがとうございます!えっと・・・お名前は?」
「僕は嘴 東苑というしがない高校生だ。まぁ、でも間に合ってよかったよ。」
「嘴・・・くちばし・・・あ!?もしかして貴方は・・・。」
初めてだ。
こんなに人が幸せそうで腹が立ったのは。
でも付け入る隙がない。
だってあいつは命を二度助けてる。
しかも本人にあってしまった。
あぁ・・・もう。
キツイな・・・。
「おやまぁ・・・大きな音がしたと思ったら若々しさ全開じゃあないか。眩しいのお。」
さっき彼女が助けたお婆ちゃんと子供2人がそこにいた。
「えぇ・・・本当に。眩しいですね。」
・・・と。
さっきのトラックの音で野次馬がよって来たらしい。
何やらガヤガヤとしだした。
「トラックの人には悪い事しちまったし・・・代わりに謝っとくか。」
もう俺が付け入る隙がないなら、応援するだけだ。
今は2人の時間を過ごして貰おう。
「あのーすみません!」
トラックのドアをノックしても返事がなかった。
「開けさせて貰います・・・よ?」
ドアを開けようとした瞬間、何か手に余計な重量を感じた。
俺はそれを無視して、強引にドアを開けた。
すると、体格のいいよく日焼けしたオッサンがドアから落ちてきた。
どうやら運転手らしい。
「いや!どうやらじゃなくて泡吹いて倒れてる!心臓の音・・・って聞こえない!?」
辺りが騒然となる。
「「パパーーーーー!」」
「泰造ーーーーー!」
「あんたら家族かよ!」
さっきのお婆ちゃんと子供2人がわんわんと泣き始めた。
「あぁ・・・もう!泣いてる場合じゃないんだよ!えっと・・・あ、AED!誰かAEDを持って来てくれ!じゃああんた!探して来てくれ。それと・・・あんた!野次馬B!救急車を呼んでくれ!あとあんたら!家族ならずっと声を掛け続けてくれ!俺は心臓マッサージとかなんとかするから!」
親友は、甘い一時を。
俺は乾燥しきった一時を、この時過ごした。
親友は彼女を。
俺はお婆ちゃんの野菜を手に入れた。
後日談。
「なぁ三紫!僕彼女が出来たんだ!」
「へぇ、良かったじゃないか。」
「ふふふ。これからデートなんだよな!羨ましいだろー?」
手に胸を当て、今さっき金メダル取りましたよーみたいなドヤ顔で、嘴は俺を見た。
「ソウデスカー。ウラヤマシイナー。」
「そうだろそうだろ!あぁそうそうこの前彼女とプリクラ撮った写真見ーーー。」
「あぁうん。大丈夫だから。」
「そうか?あ、急がないと!じゃあなー!」
俺は手を振り、席を立った。
最近、あいつの言動がむかつく時があるが、まぁそれは思春期特有のものだろう。
が、怒る気はない。
俺が狙っているものはそんなものではない。
「あ、えーと・・・三紫ー!」
来た!
今になって考えて見れば友達の彼女の告白を助けて上げたということで俺の女子に対する好感度は上がっている筈だ!
「あぁ、三紫だけど・・・どうしたの?」
来い来い来い来い!
ツンデレでもクーデレでもヤンデレ・・・は辞めておいて欲しいがまぁ来い!
そしていつか彼女をゲット・・・。
「あんた凄いね!まさに恋愛漫画の親友役見たいじゃない!」
「・・・へ?」
「だってさ、彼女が告白相手を間違えた時あんたは告白相手に連絡してやったんだろ!?」
「え・・・うん。あぁそうだ・・・けど。」
・・・あれ?
これってもしやーーーーー
「そんであの娘が、やらかした失態を尻拭いしたんだって?あんた本当に凄いよ!」
「あぁ・・・どうも。」
「あぁ、もうすぐバイトか。それじゃね。また今度私が告白したい時はあんたに親友役を頼むよ。」
・・・。
フラグ回収に失敗したようだ。
つまり脇役。
恋愛対象にされないと、先程宣言された。
じゃあ俺の苦労は?
全部・・・人の幸せに?
そんな・・・そんなの
「あんまりだ・・・!」
主人公は恋を手に入れ、
俺は人の幸せを見るだけ。
不幸なのは俺だけ。
そして俺は、いつしか恋愛漫画の親友とかいうあだ名を付けられた。
辛い・・・。
そしてこのキュウリみずみずしい。
そして何処と無く、すっぱいと・・・思えるわけなかった。