「あなた一人の勇気で、他のみんなが救われるのですよ…?」
白衣を着た研究員らしき人物が私に話しかける。交渉、彼らの目的は適正対象である――私。
たった12人でいろんな戦況を制してきた。だが負けた、負けてしまった。周囲にはざっと30はいる人型兵器。さらに言えば、その周囲に20はいたはずの兵器だった残骸たち。この50以上の兵力でやっと勝てたのだ。
彼らの完全なる勝利。『あの人たち』の負け。
それなのに怯えている。自分たちが強敵に勝って誇らしく思おうともしない。それはなぜか、私には分かる。一体自分たちが何のために戦っているのかを、知っているから。そんな連中に対して立ち向かうことも抗う力などとっくにない。今の私たちに戦う力は一切ない。
処刑されるだろう、私を除いて…。
でも、私の決断で『あの人たち』が救われるのならば。あのとき、一人ぼっちの私を救ってくれた『あの人たち』のためならば…。
白衣の男に目が行く。男は頷き手を伸ばす。自然と自分も手を差し出し、握った。私は『あの人たち』を救おうと、この体を差し出した。彼らの言う
「行くな!!――――ッ!!!」
あの人たちの隊長さんが私を呼んだ気がする。でも、行かなきゃ。
ありがとう。
さようなら――。
「か、んり……管理だ、管理しなければ、この世界を…」
彼らの大半は狂っていた、管理という単語をひたすら繰り返し、麻酔特有の眠気に襲われる私の体にメスを滑らせた。睡魔に飲み込まれていく中、「…適応、しない」と聞こえて頭の中に冷たい感覚がひしひしと伝わっていくのを最後に――――。
真っ暗な夢から白の情景が広がる、白は反射的に眩しいと判断し目を細める。
どれくらい眠っていたのだろう……。
視界はなんとかはっきりしてきたけど、体は思うように力が入らないし、まだ眠たい、耳鳴りもする。幸い首が少しだけ動ける…。拘束具はついていない。点滴スタンドと心電図、余計に長い計測用ケーブル、それに手術用ライトそれぞれに数字で54って書いてある。意味はあるのかな、あるとすれば被験番号みたいな…?他には…特になさそう。青色の患者着を着てる、てことはもう終わったのかな…?
耳鳴りが少しずつ減退していくと、研究員同士の会話が途切れ途切れに入ってくる。
「…プロジェクト」
「…
「成功と失敗が半々…」
「…狂気的改…造…」
虫食い状態な話を聞いても内容を理解することはできず、心電図のリズミカルな正常音だけが聞こえるだけ。この部屋は奇妙なほど白で埋め尽くされ、ガラス製の小窓が付いたドアノブ式の扉が一つあるだけという殺風景な部屋であること以外目ぼしいものはなかった。
扉の奥からは先ほどの研究員らだろう会話が聞こえ、コツコツと幾重にもなった靴の音を発しながら離れていった。足先をグーパーと繰り返すと血の巡りを体感できた。十分に足に力を入れ銀の手術台から降りると、裸足故に地面がひんやりと突き刺さり血の気が引くような寒さに襲われた。
ふと手術台に自分の姿が映る。改めてそこで自分有様に気付く、髪の毛が一切ないことに。手術されたのは体ではなく頭なのだと察し、一気に緊張が高まる。映っているのは本当に自分なのかと質問してしまいたくなるほどの恐怖に呼吸が乱れる。テンポが速くなる心拍数に不安が
付随されているガラス窓から覗こうと一歩一歩と地面の確かな冷たさを感じながら扉に歩み寄る。患者着だけではこの寒さはしのげない。体温の急激な低下、ガタガタと震える歯を必死に抑え少しでも温まろうと両腕を使って患者着をさする。真っ黒の鼻血が2滴、紙のような服に落ちる。
「さむい……」
自分の背より少し高めの小窓から様子を伺おうと、扉を支えにつま先立ちする。誰もいない。ドアノブに手をかけ右に回す、鍵は…かけてない。扉を少しだけ開き、頭だけそっと出す。左右確認すると灰褐色のコンクリートの道が続いているだけで、誰もいない。足が部屋の外へと運ばせる、特に行く当てはないがここにいるよりかは断然いいに決まってる。
「助けて…」
点滴の針が抜かれた腕から一筋の血が流れ、中指から落ちる。鼻血の道筋も上唇で止まりそこからたまり、落ちる。動脈と静脈それぞれの血が一滴一滴とコンクリート上のパステルに彩られる。
しばらく歩いた気がする。10分かもしれないし30分以上歩いたのかもしれない。それともただ歩くのが遅くなっただけなのか、殺風景な場所とは体内の時間を狂わせてしまうから困る。同じようなと廊下と部屋ばかりでいて、中には誰もいない。人ひとり会わないなんておかしい。
「…扉が…あいてる…」
不自然に開いたドアがおよそ10m先の視界に入る。人には会えずとも変化のある場所に着けたのは、自分ひとりだけではないんだとようやく安堵できる。
「ディー…プロジェクト……?」
その一室のドアは半開きの状態、コンクリートの廊下や壁には明らかに自分のではない無数の血痕が点々と散らしてある。扉の表札も血で汚れているため、『D』と『プロジェクト』の2つしか読み取ることができなかった。
そっと扉を押す、きしみ音がするのと同時に内部の様子が伺える。
床には無造作に置かれた死体。
片付けてもいない死体。
四肢がない死体。
手術痕が残り、切開したままの頭部。
これ以上見ていられないような――死屍累々たち。
とっさに手で顔を覆うも嗚咽がこみ上げる。今ならば手が動けることが一番の幸福だと心から思える。目をつむる中で血塗られた情景が脳裏にしっかりと焼き付けられる。
「こんなの…見たくない、見たくない」
暗闇の視界にうっすらと見える情景に、一瞬違和感を感じた。遺体はこれだけじゃないと。ゆっくりと目をあけ、再び惨劇を視界に入れる。最低限の視界だけを限定して部屋を巡る。足先の間にヌメリとした血が浸み込み、嗚咽を抑えているのもままならない。
「ぐず……えぐっ…」
口から漏れる声は誰一人として聞いてくれない。だがそんな嗚咽もすぐに止まる。
「………………え?」
12の手術台。その上には手術の際によく見る滅菌されたドレープが、不自然に盛り上がった何かを隠している。12という数字が嫌な胸騒ぎを引き起こす。
滅菌されているとはいえ、血がべっとりと付いたものを触るのは気に障る。だがその正体が知りたいという好奇心のせいなのか、手は止まることを知らず、ドレープを握る。
「………………」
手の震えが止まらない。自分の心拍数がはね上がるのを感じる。
やめるのなら……今のうち―――。
でも……………。
でも…………!
でも………!!
でも……!!!
腕に力が入り、鮮血のドレープをはがす。掴んだドレープは勢いよく宙を舞い、血が眼球に飛び散る。黒、白ときて次は赤の世界が広がる。ドレープを離し両手で目に入ってしまった血液を拭い去ると、それらはあった。
「――――隊ちょ、う…さん?」
「じ、じゃぁ…ここに、いるの…は……」
血眼になりながら、残ったドレープをはがしていく。
あの人も、この人も全部……。
一生の後悔として記憶に刻まれた惨状に、絶望的で断末魔にも似た悲痛の叫びをあげる。
なんで?どうして?私が行けばみんなは助かったはずじゃ―!
「あなた一人の勇気で、他のみんなが救われるのですよ…?」
「行くな!!――――ッ!!!」
――――ぜんぶ、わたしのせい…わたしの、勝手な…みんなが…死…ごめんなさい。
ごめんなさい…。
「あなた一人の勇気"なんかで、他のみんなが救われるとでも思ったのですか…?"」
聞こえもしないはずの幻聴が体の中に入り込んでくる。自責の念と変わり果てた『あの人たち』の肉塊に吐き気を催し、我慢をするもモノが出てしまう。ここに来る前、大したものを食べてこなかったはずなのに、異常なまでの胃液と血ヘドが地面に広がっていく。
「嫌…いや、いやあぁ…」
だらしなく開いた口から血が混じった体液を垂らしながら右往左往する。逃げ道などどこにもない。どこを見たって肉塊だらけ。
あぁ、もうすぐだ、もうすぐで精神の糸が…。
「それで、例の被験番号54番は見つかったのかな?」
「血の痕からしてそう遠くへは行ってない、探しだして拘束しろと上からの報告です。全く、そんな警備員の連中に飯を食わせていることを考えると実に腹立たしいです」
「そうかそうか、新しく入った12体が今回のデザインドプロジェクトに
防犯用の警報が現在進行形で鳴り響く廊下を2人の白衣を纏った男が足早に進む。一人は口もとが歪み狂いに狂ってしまった博士、研究に関係ない話の内容は一切聞かないでいる。もう一人はそんな博士のもとで働くことに少々不満、この研究の価値を見出だせないでいる研究員。
「…博士?何か聞こえません?」
「んんん?ホントだなァ?どこからだ?」
金切り声と物を倒す乱雑な音が彼らの耳に入り込む。あの部屋か、と歪んだ笑みをする博士を遠目で見る研究員。
「ココにいたのかァ?54番―――ッ!!?」
手術台がすべて倒され、部屋中は血みどろ。そして肉塊とその他無数の血肉を頭から浴びたであろう女が部屋の中央に直立している。研究員は重たい息を吐き捨てながら無線機を取り出す。
「はぁ…ったく、こんなところに。こちらデザインドプロジェクト研究棟被験体室、被験番号54番を発見。えーっと?中でかなり荒らした模様、大至急警備員の要請を――」
研究員が要請する中、博士は目頭に涙を溜め口を開く。
「素晴らしいよ…コレとのコラボレーション!まるで渦の中の芸術そのものじゃないかッッ!!」
「――は?」
「これだよ54番くん…。君がァ、我らが探し求めている『管理』がァッ!正にこれだよ君イィッ!!
狂った博士は血みどろになった54番の両肩につかみかかる。『発言の意味が不明』という頭の中がぐしゃぐしゃの最中、常識範囲を超えた喜悦をする博士を前に後ずさりをする。が、思うように動けない。それどころかこの部屋の外へ出されようとしている。
離れたくない。いっそのこと、この場で死んでやりたい。
死んでやる。
「ぃ…ぃゃょ」
「大ァ丈夫大丈夫、君には一緒にコレと
「別に構いませんよ?その方がコストも安くなりますし。警備員さんにはこちらから伝言入れときます。呼んどいて申し訳ないけど…この54番はウチらで預かることにから、心配しなくていいよ」
男の腕力に勝てるわけがない、ましてや既に改造済みになっている54番にとっては―。
「いやよッ離して!私だけでいいから…『あの人たち』を帰してあげてぇ!」
「さてと、それでは行きますか博士」
「うむ、そうするか」
この場から離れたくない――!
『あの人たち』から離れたくない――!!
「いやあああァァァアアぁぁぁ……
…
……
………
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メインシステム…戦闘モード起動……
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ACVDにおいてエクストラミッションに登場する、LiVのssでごさいました。
鳥主任Mk-2じゃなくて、ごめんね。
今回リハビリをかねて作成した作品です。
そして今回の作品、これから再開する連載ものにも関係があるものですので、よろしければそちらも生暖かく読んで感想書いてくれると大変喜びます。
たぶん亀更新かと思う…(´;ω;)
では最後に、これを読んでいる傭兵に訊きたい…。