イリヤ兄と美遊兄が合わさり最強(のお兄ちゃん)に見える   作:作者B

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今回、ついに待望の妹達が登場します。



拝啓 親父、妹が3人になりました

学校から帰宅した俺は、現在リビングで夕飯の下拵えをしている。

家事は本来、家政婦であるセラとリズの仕事なのだが、まあ色々あって当番制になり俺も参加させて貰っている。実はこの間の入院騒動でセラから『働き過ぎです!』と暫く家事手伝いの禁止令が言い渡されてしまった。料理も趣味の一つである俺にとっては非常に困ったわけで、長きにわたる説得の末、最近になってようやく解禁されたのだ。

そんな訳で俺が嬉々として料理に勤しんでいると、玄関から元気な声が聞こえてきた。

 

「ただいまー!お兄ちゃん!」

「イリヤ?学校から帰ってきたの―――」

 

リビングに入ってきたその娘の姿を見て、一瞬言葉が詰まった。

そこにいたのは確かにイリヤだ。だけど、イリヤじゃない(・・・・・・・)。確かに肌がやや褐色に焼けてる気がするけど顔は瓜二つだし、何より自分の中でイリヤだという確信がある。でも、同時にイリヤじゃないという確かな自信もあった。

……なんだ、これ?

正体不明の矛盾がグルグルと頭の中を駆け巡り、ある種の前後不覚に陥る。自分で自分が分からない。すると、返答に詰まった俺を心配してか"イリヤ"は不思議そうに首を傾げた。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

"イリヤ"は俺の座っていたソファに駆け寄り、心配そうに俺の目を覗く。

……何やってんだ、俺は。

俺は"イリヤ"の頭を優しく撫でる。頭に俺の手が触れた瞬間ビクッと身体を震わせたものの、そのあとは嬉しそうに目を細め、俺に身を委ねた。

そうだ。さっきは変なことが頭を過ぎったけど、目の前にいるのは確かに俺の妹だ。何を考えることがある。

すると、俺に撫でられて気をよくしたのか、"イリヤ"は俺の胴に抱き着いてじゃれ始めた。

 

「ねーねー、何してるの?」

「何って……下拵えだよ。今晩の料理に使うやつの」

 

へー、とさして興味のなさそうに"イリヤ"が生返事で答える。その後何だか意地悪な、そう、例えるなら小悪魔のような笑みを浮かべた。

なんだか嫌な予感が……

 

「お兄ちゃんてさ、どんな女の子が好きなの?」

「ぶふぅっ!」

 

あまりの想定外からの変化球に思わず吹き出す。まさか、イリヤから色恋沙汰の話題が出てくるなんて思わなかった。

 

「な、なんだよ急に」

「えへへ、お兄ちゃんの好みが知りたいなーって思って」

「そ、そんなの聞いてどうすんだよ?」

 

俺があたふたしながら話していると、"イリヤ"は抱き着く手の力を緩め、そのまま四つん這いになるように両手両膝をソファの上につけた。

 

「それを女の子の口から言わせるの?お兄ちゃんてば、鬼畜(きっちくー)

「き、鬼畜?!」

 

今"イリヤ"は四つん這いになってるため、必然的に覗き見る形のなってしまっている。素肌が広く露出された背中に扇情的な黒の見せブラ。やや褐色な肌がそれらを引き立て、幼さを残しながらも色香というものが醸し出されていそうだ。なんと言えばいいのやら、成長したことに喜ぶべきか、色を覚えて悲しむべきか。

俺が妹の成長の方向に頭を抱えていると、"イリヤ"がにじり寄ってくる。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

右手を俺の頬に添え、顔との距離がどんどん近くなる。その顔は仄かに紅く染まり、熱に浮かされたようにトロンとした目で俺を見つめる。やがて"イリヤ"の顔が俺の目の前に迫り、そして―――

 

「ひぶっ?!」

 

そのままソファの下に倒れた。

 

「い、イリヤ?!」

 

な、何が起こったんだ?!と、とりあえず、今起こった状況は―――何やらパァンッと乾いた音が響いたと思ったら、短い悲鳴と共に"イリヤ"がソファから転がり落ちた。

……駄目だ、状況がさっぱり理解できない。

 

「な、何でもないの、お兄ちゃ―――あばぁッ!」

「え?ちょ、大丈夫か?!」

 

起き上がった"イリヤ"が再び倒れ、そのまま断続的な悲鳴と共に床をゴロゴロと転がる。

まずい。あまりにも俺の予想外のことが起こりすぎて、思考が上手く纏まらない!

するとしばらくして、まるでゾンビの様にぬるりと立ち上がった"イリヤ"が、今度は何を思ったのか唇を突き出して俺の方へ飛びかかってきた。

 

「せめて……最後にキスだけでも!」

「させるかぁー!!」

 

そして、どこからか聞こえた声の後『みぎゃっ』という断末魔を残し、"イリヤ"はその場に倒れた。

……って、棒立ちしてる場合じゃない!ええっと、とりあえず何か冷やすものを!

そんなこんなで、冷やすための氷嚢を作るために台所へと向かおうとした、その時―――

 

「クロ!」

「観念なさい!逃しは―――」

 

これまた、予想外の出来事がやってきた。

 

「と、遠坂?!それにルヴィアも?!」

 

同級生でありクラスメイトである留学生コンビが、リビングの入り口から飛び出してきた。手に余る出来事が畳み掛ける様に起こったせいで逆に冷静になった俺は、結局二人は一緒にいるんだな、なんてことを考えていると、二人も俺の存在が予想外だったと言わんばかりに目を見開いていた。

 

「衛宮君……?」

「シェロ……」

 

さっきの"イリヤ"のように頬を紅く染め、視線を逸らしたり前髪を弄ったりとソワソワし出した。というか、俺のことを知らなかったってことは、"イリヤ"に用があったのか?いつの間に知り合ったんだ、"イリヤ"は。そしてふと、さっきの"イリヤ"の小悪魔スマイルを思い出す。

ああ、なるほど。どっかで見たことあると思ったら、遠坂のそれにそっくりだ。言うなれば、アカイアクマならぬ白い小悪魔か。……あまり、遠坂のああいうところは真似て欲しくなかったかなぁ。

そんなことを考えていると、この沈黙に耐えられなくなったのか、遠坂とルヴィアがまだ蹲ってた"イリヤ"を担いで走り出した。

 

「ごめん!ちょっとイリヤ借りてくわね!」

「お、おほほ!ごめんあそばせー!」

「え?なッ?!」

 

あまりに突然で、その上あまりにも見事な体裁きで走り去って行ったせいで反応ができなかった。

 

「ちょッ!待てって!」

 

我に返った俺は、遠坂とルヴィアを追うべく一拍遅れて玄関へと走り出した。しかし、そこには既に二人の姿はなく、代わりに背を向けて扉に手をかけている少女と連れ去られたはずのイリヤが居た。

 

「……あれ?イリヤ?」

 

ふと、さっきまでイリヤに感じていた違和感が消えた。まるで、今の状態こそが自然であるかのように。

……まあ、それはいいか。それよりも気になることがある。何故連れて行かれたはずのイリヤがここに居るのか。何故態々凛とルヴィアがイリヤを玄関まで運んで出て行ったのか。そもそも、二人は何をしに来たのか。

疑問は尽きないが、それは確実にあの二人と関わりがあるイリヤに聞いた方が早いだろう。

 

「お、おおおおお兄ちゃん?!どうしたのそんなに慌てて?!」

 

汗を額に浮かべ、ものすごく吃りながら不器用な笑みを浮かべている。

おいおい。追及する側の俺が言うのもなんだけど、そんなんじゃ、何か隠してますって言ってるようなもんだぞ……

 

「遠坂やルヴィアと知り合いだったんだな。何時の間に知り合ったんだ?」

「いやぁ……その……あはは」

 

まずは軽いジャブ。いきなり核心をついても話してくれそうにないしな。

だけど、結論を言えば、俺はこれ以上訊ねることができなかった。

 

「そ、そう!友達がルヴィアさんのところでメイドやってて、それで知ってて!あ、それでこっちがその友達の―――」

 

なぜなら、それ以上の衝撃が俺を襲ったのだから。

 

「お兄、ちゃん……?」

 

さっきまで玄関の方を向いていた少女がゆっくりと振り返った。後ろで止められた艶のある綺麗な黒髪をしており、俺の姿を映すその金色の瞳には不安、悲哀、孤独、苦痛、後悔、あらゆる負の感情が見て取れた。

 

そのとき、俺の頭に痛みが走る。

 

目の前の少女の、まるで人形のように感情のない姿、俺の手を引きながら楽しそうに笑っている姿、祭壇の上で泣いている姿。俺が見たことないはずの映像が頭の中に現れては消え、そして再び現れる。

……いや、何を言っているんだ。見たことがない(・・・・・・・)だって?そんなはずはない。何故なら―――駄目だ。頭がぼぉっとしてきた。ありもしない記憶と見たこともない風景で俺の思考はぐちゃぐちゃに混ざり合い、ただの一つに定まらない。でもわかる。でもしってる。目の前の少女こそ、俺の―――

 

「……美遊?」

 

ああ、呼んでしまった。無意識だった。言葉に出す気もなかった。

だって、俺は俺が分からない。どれがおれでおれがどれだか分からない。そんな俺に、彼女の名前を呼ぶ資格だってありはしない。

でも、それでも、彼女のあんな表情を見たら、名前を呼ばずにはいられなかった。

 

「―――ッ、ぅあ……」

 

目の前の少女、美遊の目から大粒の涙が零れる。まるで、今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのように。そしてそのまま、俺に縋りつくように抱き着いた。

 

「え……?み、美遊?!」

 

イリヤが美遊の突然の事態に混乱している中、美遊は俺のシャツをこれでもかというくらい力強く掴み、絶えず涙を流し続けていた。俺は、体を震わせながら泣き続ける美遊の頭に手を乗せ、さっき"イリヤ"にしてあげたように優しく撫でる。

せめて、満足するまでこうしておいてあげよう。

そう思いながら撫でていた俺の顔は、気づかないうちにとてもやわらかいものになっていた。

 

 

 

 

 

「イリヤのクラスメイトの美遊といいます」

 

暫くして泣き止んだ美遊は、はっと気づいたように俺から離れ、取り繕うように自己紹介をした。その表情はやや紅みを帯びていて、それは泣いたせいで腫れただけじゃなく、気恥ずかしさからきているもののようだ。

 

「ああ、初めまして。俺はイリヤの兄で衛宮士郎です」

 

そんな彼女に対して、俺は微笑みながら言葉を返す。ある程度時間が経ったことで俺の頭は思考を取り戻していき、今では普通に話せるくらいになった。ただ、さっき頭に浮かんだ映像には靄がかかり、思い出せそうにない。

そんな俺たちの何とも言えないような雰囲気に気圧されるイリヤを余所に、美遊は話を続ける。

 

「失礼しました……わたしの兄に似ていたもので……」

「……そっか」

「はい。今は離れて暮らしていて、私はルヴィアさんの家にお世話に―――」

 

確かに覚えていることは少ない。でも、忘れていないこともある。

俺は、さっき振り返ったときの様に表情が暗くなっていく美遊の頭に、もう一度手を添え撫で始める。

 

「え?あっ……」

 

最初は驚いたような顔をしたものの、その表情は次第に崩れ、恥ずかしそうにしながらも気持ちよさそうに頬を緩めた。

 

「大丈夫」

「……え?」

「君はもう一人じゃない。それにもしものときは、きっとお兄さんだって助けてくれる。だから、大丈夫」

 

傍から聞けばなんと無責任な言葉なのだろう。でも、不思議とその言葉にはそう思わせる何かがあった。それはきっと、当人たちにしか分かり得ないだろう。

 

「……はいっ」

 

それを聞いた美遊の表情は、喜びと恥ずかしさが入り混じったような、そんな微笑みだった。

 

「それでは、夜分に失礼しました」

 

俺の手から離れた美遊は、呆然としているイリヤを横切り、玄関の扉に手をかける。

 

「あっ、ちょっと待ってくれ」

「?」

 

俺に呼び止められ、美遊は不思議そうに振り返る。

美遊にこれ以上慰めるための言葉は必要ないだろう。だから、これは俺のわがまま。これは俺の誓い。

 

「出しゃばる様なつもりはないんだけど、その……もしよかったら―――」

 

そして、これは俺の覚悟。

 

「もし、美遊がいいと言うのなら、俺のことを"お兄ちゃん"って呼んでくれないか?」

 

だって、俺は彼女たちのお兄ちゃんなのだから。

 

俺たち(・・・)は、美遊の味方だから。だから、絶対に助ける」

 

俺じゃ頼りないかも知れないけど、なんて頬を掻きながら照れくさそうに言う。だけど、今の言葉に嘘はない。そうだ。絶対に守って見せる。彼女たちを害す、その何もかもから。

美遊は俺の言葉にきょとんとした表情をしていた。そして、再び目尻に溜まる涙に気づいた彼女はそれを直ぐに払うと、再び俺に視線を合わせた。

 

「ありがとう、お兄ちゃん(・・・・・)

 

そう言って俺を見上げた美遊の表情は、咲き誇るほどの満面の笑みだった。そして美遊は玄関の戸を開け、今の自分の家へと帰って行った。

彼女の残していった温かな雰囲気の余韻に浸っていた俺は、突如として襲った脇腹の痛みによって現実に帰ってきた。

 

「ぐふッ!な、イリヤ?!なんだよ急に?!」

「なんだよじゃないよ!何今の?!お兄ちゃん、いつの間に美遊と知り合ったの?!」

 

そういいながら、脇腹を殴ってきたイリヤに問い詰められる。何だか、さっきまで俺がしていた質問をものの見事に返されてしまった。

 

「いや、会ったのは今日が初めてで―――」

「そんな訳ないでしょ?!だって、ミユのあんな顔初めて見たもん!」

 

とは言うものの、これ以外に言いようがないからなぁ。

捲し立ててくるイリヤをいなしつつ、俺は夕飯の下拵えの続きをすべくリビングに戻る。俺に聞いても無駄と判断したのか、イリヤは頭を抱えてしゃがみ込み、「うぅ……クロだけでも頭が痛いのに、凛さんたちやミユまで……」なんてぶつぶつ小言を話し出す。

そんな中俺は、ふと「あれ?冷静に考えると俺、妹の友達にお兄ちゃん呼びを要求した変態ってことになるんじゃ」という事実に気が付き、別の意味で頭が痛くなるのだった。

 

 

 

 

 

 




よし。とりあえず、第一目標の『美遊にお兄ちゃんと呼ばせる』が達成できた。

そういえば、FGOとコラボするそうですね。これを機に、プリヤがますます盛り上がってくれるとうれしい。
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