イリヤ兄と美遊兄が合わさり最強(のお兄ちゃん)に見える   作:作者B

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暫くは日常回が続きそう


保健室―それは魅惑の空間

えっと、俺はさっきまで何をしてたんだっけ?

確か、裏庭で遠坂と話してたところにルヴィアがやってきて、それで表面上は穏やかな会話で互いを口撃(こうげき)し合って、何故か弁当対決をすることになって、それで、突然謎の爆発が……

 

「せ、先輩?!大丈夫ですか?!しっかりしてください、センパイーッ!」

「あばばばばっ!」

 

誰かに頭をガクガク揺らされて意識が覚醒する。この声は桜?―――てか、揺らし過ぎだ!余計に頭がクラクラする!

 

「も、もういい!起きた!起きたから!」

「あっ、よかった。気が付いたんですね」

 

うん。危うく2度目の気絶をするところだったけど。

裏庭で横たわっていた俺は、桜の手を借りて上体を起こす。周りをよく見ると、俺を中心に小さいクレーターっぽいものができていて、その上俺の全身がボロボロになっていた。

……マジで何が起こったんだ?

 

「でも酷い怪我。立てますか、先輩?とりあえず保健室に」

「あ、ああ。大丈―――痛つつッ」

「もう、あまり無理しないでください。ほら、肩貸しますから」

 

立ち上がろうとするも全身の痛みにすぐさま尻餅をついてしまった俺は、桜の好意に甘え肩を借りて起き上がった。

怪我をしたとはいえ、大の男が女の子の手を借りないと立てないなんて、我ながら情けない。

 

「今日は、保健の先生はいないんですけど……大丈夫ですっ。私が看病しますから。こう見えても看病、得意なんですよ?」

「そうか。助かるよ、桜」

「いえ、そんな……」

 

いや本当よくできた後輩で、感動のあまり涙が出そうだよ。小声で『そう、夜まで……しっかり……』なんて空耳が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。日常の象徴である桜が、一瞬何か黒いものに染まっているように見えたけど、おそらく目の錯覚か何かなんだろう。

 

「さあ、先輩。着きましたよ」

 

変なことを考えていたら、いつの間にか保健室についていたようだ。不用心にも鍵の掛かっていない校庭側の入り口から入った俺たちは、桜の先導の下、ベッドの上に座らせてもらった。

 

「ちょっと待ってくださいね。今消毒液とガーゼを出しますから」

 

そう言うと、桜は薬品棚から手際よく必要なものを取り出し、テキパキとテーブルに並べる。

 

「へぇー、ずいぶん慣れた手つきだな」

「いえ、これでも保健委員ですから」

 

そして消毒液をガーゼに染み込ませ、いざ俺の患部に当てようとしたところで、ぴたっと、桜の手が止まった。ん?どうしたんだろう。

 

「せ、せんぱいっ?あの、上着を脱いで貰っても―――い、いえ!別にやましい意味じゃなくて!服の下も怪我してるみたいですし!特に深い意味はっ!」

 

何やら桜がやたらと浮ついた声で言ってきた。ああ、そういえばそうだな。これから手当してもらおうってのに、気が利かなかったか。

俺は桜に言われた通り、裾が破れて穴が至る所に空いているボロボロの上着を脱いだ。

 

「これでいいか―――って桜?」

 

上半身裸になった俺が桜の方へ向き直ると、桜は口元、というか鼻から下を両手で押さえて顔を真っ赤にしていた。

 

「だ、大丈夫か?」

「はひっ?!も、問題ありませふっ」

 

いや、どう見てもそっちの方が問題ありそうなんだけど……

そんな俺の心配を余所に、桜は改めて消毒液を染み込ませたガーゼを俺の傷口に当てる。桜がポンポンとガーゼを当てる度に消毒液が俺の患部を刺激するが、これ以上みっともない姿を見せられない俺は声を上げるのを我慢する。そして、俺がそんな意地を張っている間も、桜は黙々と傷口を消毒していく。いや、黙々というよりなんか凝視してるように見えるんだけど。

 

「あの、桜?流石にそんなにまじまじと見られると……」

「あ、す、すみませんっ。先輩の身体、鍛えられてるなぁって思って」

「まあ、弓道部のエースなんて広められちゃ、頑張らないわけにはいかなかったからな」

「……」

 

退院した後に参加した部活動のとき、やたらと弓の調子がいいのを見た美綴が『ウチの衛宮は最強なんだ!』ってガッツポーズで野次馬に言ったせいで、噂に尾ひれがついていつの間にかエースにさせられていた。そんな偶々よく当たる日が続いただけでそんなこと言われちゃ、普段通りに戻った時どうなるかわかったもんじゃない。そんなわけで、自宅での筋トレの時間を増やしたりと色々努力することになったというわけだ。

俺が過去のあらましを振り返っていると、それまで俺の身体をぼぅっとみていた桜が突然ペタペタと触り始めた。

 

「うふふ……先輩の身体、素敵……」

 

サ、サクラサン?なんか虚ろな目をしてて怖いんだけど。

何かに取りつかれたかのように頬を紅く染めて息を荒くし、一心不乱に俺の身体を優しく触り続ける桜の姿を見た俺は、怖くて何も言い出せなかった。さっき大の男がどうのって言ったけど、訂正する。今の桜には誰であっても逆らえる気がしない。

 

「はぁ……はぁ……私、何だか熱くなっちゃいました」

 

そう言うと桜は、自分の制服のボタンに手をかけて―――って流石にそれ以上はまずいって!

どうのこうの言ってる場合じゃなくなった俺は、桜の手を掴んで止めようとして、固まった。何故か、と聞かれればそんなのは決まっている。

それ以上の衝撃があったからだ。

 

「あら、どうしたのかしら?私に気にせず、獣のように盛ったらどうなの?」

 

いつの間にか、入り口に保険医のカレン先生が立っていた。

 

「…………か、カレン先生?」

 

カレン先生の声を聞いて我に返ったのか、桜がギギギとぎこちない音を立てて入口の方へ振り向く。

 

「あの……何時から其処に?」

「そうね。あなたが獲物を密室に連れ込んで、看病の名目で雌犬のごとく盛り始めたあたりかしら」

「それって最初からじゃないですかぁ!うわぁーん!」

「さ、桜ぁッ?!」

 

桜はカレン先生を押しのけると、そのまま廊下を走り去ってしまった。

 

「随分と根性のないこと。そんなんじゃいずれ、気が強くて文武両道容姿端麗の猫かぶり優等生ツインテールに掻っ攫われそうね」

「……やけに具体的な予言ですね」

「まあ、いいけれど。[検閲済]の匂いを取るのって面倒だもの」

 

真昼間の学校で女性がそんなこと口にしないで欲しい。飛び出していった桜やベッドに座る俺を無視して、カレン先生は深いため息と共に椅子へと腰を下ろした。

 

折手死亜(オルテンシア) 華憐(カレン)

イリヤとは違った銀色の髪を後ろで留めてポニーテールにしていて、太股の半分ほどの丈しかないスカートを履き、何故か大層な白衣を身に纏っている見た目20代前半の保険医だ。さっきのような毒舌を吐くこともあり、一部を除いて生徒はあまり保健室に近づきたがらないらしい。俺もお世話になるのは今回が初めてだけど、確かに評判通りの人のようだ。

 

すると、カレン先生は窓の外を眺めながら、スカートから延びる肢を組む。その薄幸を感じさせる憂えた瞳と、肢を組んだことで強調された脚線美が合わさり、その扇情的な姿は世の男性の心を掴んで離さないだろう。

そんな一男性である俺はというと、こんなあからさまに怪我してるんだから治療してほしいんだけど、なんて視線で訴えていた。いや、黄昏るの良いけど最低限の職務は全うしてほしいなぁ。

そして暫くの沈黙の後、観念して自分で消毒しようとガーゼに手を伸ばそうとしたら、先にカレン先生がこれまた深い溜め息をついた。

 

「あの……何か?」

「この駄犬は、なんで何もしてこないのかしら」

「……はい?」

 

何もしない?いや、何もしてこないって言ったのか。それってどういう―――

 

「あら、今ので理解できない程度の知性しか持ち合わせていないの?誰もいない部屋で、目の前に不用心にも足を組んで挑発している銀髪美女保険医がこうして無防備に座っているというのに、なんで発情期の獣の如く襲い掛からないのかしら、って言ったのよ」

 

改めて言い直されたけど全く理解できねぇ!

 

「ちょっ!何言ってるんですか!先生!」

「なによ。こうして懇切丁寧に話してあげたのに、まだ説明を要求するの?それなら、その場で3回まわって『私めはカレン様の忠実な犬です。ワン』と言いなさい」

「いや、言葉の意味は分かりますけど!ていうか、その3回まわった後の台詞もおかしい!」

 

な、なんなんだこの人は?!桜の暴走を止めずに観察しようとしてたり、俺に襲わせようとしたり、まるで意味が分からんぞ!

 

「だ、大体、女性に無理やりとか、そんなのするわけないじゃないですか!」

「どうして?……あっ、もしかしてホ―――」

「違います!ていうか、意味もなく相手を傷つけるわけないでしょう!」

「……随分と殊勝なことね。男子高校生と言えば万年ピンク脳だと思っていたけれど」

 

それは流石に偏見だ!なんて心の中でぶつくさ不満を言っていると、カレン先生は立ち上がり俺の方へ近づいてきた。

その姿はただ歩いているだけなのに―――言いようのないナニカを感じる。

 

「『女性に手を上げない』なんて高らかに謳う自称紳士でも、その根底には雄の獣欲が伏在している。彼らはそれを尤もらしい詭弁で抑え込めている気になっているだけ」

 

カレン先生の毒舌交じりの暴論。普段なら一蹴しているであろうそんな与太話から、俺は気を逸らせないでいた。

 

「似非紳士でも草食系(ヘタレ)でも、その瞳には隠し切れない色欲が現れる。それこそが人の業であり、心に巣食う魔であり、そして生類の証でもある」

 

カレン先生は俺の目線に合わせる様に屈む。

目を逸らせない。

身体が動かせない。

抵抗できない。

 

「でも、貴方にはそれがない(・・・・・・・・・)

 

彼女の言葉が、俺の剥き出しの心を侵食する。

 

 

 

 

 

「貴方は番でない雌に手を出さない(性欲を抱かない)。それが人の世の常識だから。でもそれは矛盾している。だって、そもそも性欲のない雄が番を見つけることなんてできないのだから」

 

「貴方には人としての当然の機能がない。それでいて、人であろうとする貴方は、そう―――まるで、人に憧れる人形のよう」

 

「元々素質はあったのかもしれない。けれど、少なくとも今までの貴方は、私の記憶に残らないほど平凡な犬だったはず」

 

「どうしたら、短期間でここまで壊れられるのかしら。ふふっ……こんな欲のない眼なんて初めて」

 

「貴方、興味があるわ。とぉっても、ね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、終わったわよ」

「へぁッ?!」

 

気が付くと俺の身体は包帯が巻かれており、治療が完了していた。

いつの間に?確かさっきまで―――えっと、あれ?何があったんだっけ?

 

「今まで見た患者の中で一番の損傷具合だったけれど、まだまだね。今度は骨を折ってきなさいな」

「なっ、はぁっ?!そこは、もう怪我をしないようにー、とかいう所じゃないんですか?!」

「何言ってるの。それだと、重傷で苦しむ患者が私に罵詈讒謗を浴びせられてそれでも私の介護を受けざるを得ないという、怨恨と屈辱入り混じった視線を向けて貰えないじゃない」

 

め、滅茶苦茶だこの人ー!なんなんだ?!ドSなのか?!ドМなのか?!それとも、今はやりのハイブリットってやつなのか?!

 

「ほら、治療が終わったんだから出ていきなさい。元気な人間の声を聴くと虫唾が走るの」

 

なんだそりゃ?!―――ってカレン先生!モップで押さないで!まだ俺上半身何も着てないからぁーーー!!

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 

 

 

 

「―――みや、風邪を引くぞ。起きろ、衛宮」

「ぬぁッ?!」

 

こ、ここは何処?!俺は、さっきまで保健室に―――

 

「何を寝ぼけている。早くしないと次の授業が始まってしまうぞ」

 

あ……っ、そうか。さっきのは夢だったのか。そういえば、そもそも保健室に行ったのは二か月も前の話だったな。

まだ重たい瞼を擦りつつ、次の授業の準備をしようと鞄から教科書を取り出す。すると、廊下の方からドタバタと何やら大きな足音が聞こえてきた。これは―――こっちにへ近づいてきてる?そして、教室の扉が勢いよく開けられた。

 

「たいへんたいへんたいへんたいへんたい!変態ー!じゃなかった大変よぉー!」

「ふ、藤村先生?!」

 

教室に乱入してきたのは、イリヤのクラスの担任をしている藤村先生だった。

……なぜか全身ジャージ姿で。

 

「ど、どうしたんですか?そんなに慌てて」

「これが慌てずに居られますかってんだこんちくしょうめぇ!イリヤちゃんが、イリヤちゃんがドッチボールでボールを顔面して気絶がぁー!」

「落ち着いてください!言ってることが支離滅裂ですよ!」

「ええい!まどろっこしい!いいから黙って私についてきなさい!ごぉーとぅーへぇぇぇるッ!」

「わ、わかりましたから!一成!次の授業抜けるって言っといてk―――ちょッ、襟元掴まないでぐぼぁッ!」

 

予想以上の怪力の前に俺は為す術もなく、藤村先生に引きずられながらイリヤが倒れて(先生の言葉から察するに)運ばれたであろう保健室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~intermedio~

「あら、まだ何か用?」

 

ドッチボールの試合で気絶したイリヤが運ばれた保健室。『軽い打撲』と『頭打ってどうこうなる系のそんな感じのやつ』と診断されて、イリヤをここまで運んできた彼女の友達は追い出された。しかし、その中で美遊だけが再び戻ってきた。

 

「いえ、その……イリヤの様子を見に―――」

 

しかし、来訪者は美遊一人ではなかった。ドドドドドッ!と轟音を立て、勢いよく保健室の扉が開けられる。

 

「イリヤちゅわぁぁぁん!お兄さん連れてきたわよ!目を覚ましてぇ!」

「藤村先生!落ち着いて!」

 

騒音をまき散らしてやってきたのは、イリヤたちの担任である藤村大河と、彼女に引っ張られる形でやってきたイリヤの兄である衛宮士郎だった。

 

「ふ、藤村先生?それと―――お兄ちゃん?」

「え?ああ、美遊。丁度よかった。一体何が?」

「あっ、い、イリヤは顔にボールが当たっただけだから大丈夫」

 

大河から大した説明もなく拉致られた士郎は、美遊からイリヤの現状を聞くと安堵の息を漏らす。結局は、大河が大げさに騒いでいるだけのことだった。

 

「……やれやれ」

 

大河の放つ雑音を聞き流しているカレンが小声でそう呟くと、控えめながらも嬉しそうに士郎と話す美遊を見て、思考する。

イリヤスフィール(必然) 美遊(偶然) クロエ(奇跡) そして此処にもう一人―――

するとカレンは何か思い立ったのか立ち上がり、美遊と士郎の下へ歩き出した。

 

「……」

 

シロウの目の前に立つと、濁りきってそれでいて澄んでいるような眼で士郎を、正確には士郎の瞳を見つめる。

 

「えっと……何か?」

「相変わらずね、その眼」

「はい?」

 

カレンは目を合わせながら士郎に近づき、自らの右手を士郎の頬へと伸ばす。そして―――

 

「―――ッ」

「うわっ!み、美遊?」

 

美遊が士郎の身体に抱き着き、視線でカレンを威嚇する。

『私のお兄ちゃんに触れるな』

美遊はカレンのことをあまりよく知らない。いや、それどころか、この学園に居る誰であってもカレンを深く理解している者などいないだろう。それでも美遊は、カレンはよくない人だと本能的に感じ取った。あるいは恋する乙女の勘。

 

「あらあら。小学生なのに、もう立派に女ね」

 

カレンはそれを称賛するわけでもなく侮蔑するわけでもなく、ただ淡々と言葉にした。

カレンは再び思考する。

あの面倒な子達の中心にいる、この壊れたお人形。私が彼を人間にしてあげたら、彼女たちはどんな表情を見せるのだろう。悲痛、拒絶、憤怒、怨恨、憎悪、自棄。そんな感情に染まる彼女たちを想像して、思わず下腹部に熱がこもる。

ああ、なんてこと!それこそ人間の賤劣!人間の悪性!そんな感情に支配された彼女達はきっと―――きっと愉悦な(すばらしい)ことに違いない。

内々から溢れ出そうになる歓喜の声を押し殺し、カレンは士郎から名残惜しそうに離れて再び自分の椅子に座る。そして、徐に活動日誌を開いた。

 

『本日は異常なし』

 

 

 

 

 

 




というわけで桜回、と見せかけたカレン回でした。
要望があったので出してみましたが、どうあがいても真っ当なヒロインにならなそうだったので結果こうなりました。
他のヒロインたちはカレンの手から士郎を守りきれるのか、乞うご期待。



追伸
書けば出る。それは真実だった。

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