イリヤ兄と美遊兄が合わさり最強(のお兄ちゃん)に見える   作:作者B

5 / 13
5話目にして早くも迷走気味


身体は包丁で出来ている 血潮は鉄分で心は俎板

家にあまり帰れない親父へ

元気にしていますか?今何処に居るかわからないけど、体調には十分に気を付けて下さい。

さて本題ですが、親父が留守の間に……いや、もしかしたら親父は既に知っていたのかもしれないけど―――

 

「従妹のクロエちゃんよ。仲良くしてあげてね」

 

俺に新しく妹ができました。

 

セラや俺が目を見開いて驚いているのを余所に、お袋はニコニコとした笑顔を崩さないまま、まるで大したことでもないかのように家族が増えたことを報告してきた。

お袋が家に連れてきたのは、やや赤に染まった白髪に褐色の肌。そしてなんといっても、双子なんじゃないかっていうぐらいイリヤと瓜二つだ。……これ、隠し子とかじゃないよな?

彼女はやや不安そうな表情で紹介されていたものの、俺の姿を見つけるや否やパァァァと花が咲いたような笑顔になり、そのまま俺の方へ近寄ってきた。

 

「これからもよろしくね、おにいちゃん!」

「あ、ああ、よろしく。ええっと……クロエ?」

「クロ、って呼んでほしいな」

「わ、わかったよ、クロ」

 

名前を呼ばれた彼女、クロは満面の笑みを浮かべて俺に抱き着く。でも、なんだか既視感というか初めて会った気が全然しないな。なんでだろ。イリヤとそっくりだからかな?

……あと、何だかイリヤの方からの妙に重いプレッシャーを感じる気がする。

 

「はい。それじゃあせっかくだし、今日はクロのプチ歓迎会をしましょう!晩御飯も豪勢にね」

「お、奥様?!急に仰られても、今あるのは至って普通の晩御飯の材料しか―――」

「まあいいじゃないか。ありふれた食材だって、いくらでもやりようがある」

 

俺はクロを一旦離し、キッチンへと向かう。

 

「なっ!今晩の料理担当は私ですよ!何を勝手なことを!」

「豪勢にって注文なんだから一人じゃ作るの大変だろ?それに、和食とかは俺の方が作り慣れてるしな」

「ッ!その言葉、宣戦布告と見なしましたよ!」

 

仕舞ってあった俺のエプロンを取り出すと、セラも俺に続いて料理の支度に入る。懐かしいな。俺が料理を始めたてだった頃は、セラとよく一緒に料理したもんだ。

誰かと一緒に料理する。それは、相手よりもより美味しい料理を作ろうと意識し、互いが互いを高め合う。この瞬間こそ、俺という器が満たされ、俺の魂が本来あるべき姿になる。

―――ああ、そうか。衛宮士郎は料理に特化した存在だったのか。

 

「―――ついて来れるか」

「はっ!何を馬鹿なことを。貴方の方こそついてきなさい!」

 

セラの言葉を合図に、俺たちの調理(たたかい)が始まった!

 

「……ねえ、なんだかお兄ちゃんとセラの様子、変じゃない?」

「懐かしいわ。昔はああやって二人で料理対決してたものね」

「うん。あのときは毎日が食べ放題だった」

 

お袋やリズたちはひそひそ話しているのも耳に入らず、俺たちはただ目の前の食材(てき)に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 

 

 

 

「うわぁー……す、すごい」

 

イリヤが感嘆の声を上げる。目の前のテーブルに並ぶのは、和洋折衷あらゆる料理がこれでもかと敷き詰められていた。

流石にやりすぎたかな。セラなんか、気力を使い果たしたのか椅子にうなだれてるし。

 

「それじゃあ、冷めないうちに頂いちゃいましょうか。いただきまーす」

 

目の前の料理に満足した様子のお袋が食事開始の挨拶をする。それにリズ、イリヤ、クロも続き食事を始める。

 

「美味しい!美味しいよ、お兄ちゃん!」

「あはは、ありがとうイリヤ」

 

滅多に見ない豪勢な食事を満足そうに食べるイリヤ。すると、その横に座っているクロはぼーっとしながら箸を止めていた。

 

「うん?どうした、クロ。何か食べられないものでもあったか?」

「え?あ、ううん!違うの!」

 

ハッと我に返ったクロは慌てて食べ始める。その様子は別に無理しているという訳ではなく、純粋に美味しそうに食べているように見える。うーむ、だったらさっきのは一体……

すると、クロの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

 

「あ、あれ?どうしたんだろ、私。おかしいな。幸せなはず、なのに……」

「クロ……?」

 

まるで決壊したダムのように次々と涙があふれ出す。クロ自身も自分がなぜ涙を流しているのかわからないようで、必死に涙を止めようと目を擦る。そんな様子を見た俺は、ハンカチを持ってクロの側に寄り添い、目尻に当てて涙を拭き取る。

 

「……お兄、ちゃん?」

「大丈夫。俺達はもう家族なんだから、我慢なんてする必要はないんだ」

 

俺は出来る限り優しく微笑みかけた。過去、クロに何があったのかは分からない。だけど、これからは俺達家族の一員として暮らすんだから、クロの負担を減らしてやることは出来ると思う。

涙を拭き終えると、クロは俺の胸に飛び込み、服を力強く掴んだ。

 

「……じゃあ、少しだけ……このまま」

 

クロは身体を震わせ、再び涙を流す。それを俺に、いや、誰にも見られないように顔を埋める。俺はそんなクロを宥めるように、優しく頭を撫でる。

こうして、俺たちとクロは家族になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫く経ち、クロはすっかり我が家に馴染んでいった。いつの間にか俺の布団に潜り込んでいたり、調理実習でイリヤと料理対決したり、俺の布団に潜り込んでいたり、姉妹頂上決戦が勃発したり、俺の布団に潜り込んでいたりetc.

そして今日はというと―――

 

「というわけで、第一回衛宮家お料理教室の開催よー!はい、拍手!」

「わ、わー」

 

ノリノリのクロと顔がやや引き攣ってるイリヤ、そして美遊と共に、何故か料理教室が始まった。

 

「すみません。私までお邪魔しちゃって」

「ん?いいって、気にしなくても。妹の面倒を見るのも兄の務めだからな」

「あっ―――」

 

そう言って、委縮気味だった美遊をリラックスさせるために頭を撫でる。最初はビクッと身体を震わせたものの、次第に緊張が解れて表情が柔らかくなっていく。

 

「あー!ミユばっかりずるーい!私も私も!」

「お、お兄ちゃん!そうやって直ぐ手を出すのはどうかと思うんだけど!」

「ちょっ!そんなんじゃないって!いいから落ち着け!」

 

その様子を見たクロとイリヤが、ここぞとばかりに俺の周りに近づいてくる。小学生とはいえ、女三人寄れば姦しいということか。まあ、主に騒いでるのは二人だけど。

 

「で、でもどうしたんだ?急に料理を教わりたいなんて」

 

とりあえず話を進めるために話題を振る。俺の知る限り、二人が特別料理に興味を持ってる様子はなかったと思うんだけど。あと、イリヤから聞いた話じゃ美遊の料理の腕は凄いらしいし、こっちは付き添いかな?

 

「なんでもなにもない!この間の料理対決の雪辱を果たすために決まってるわ!そして、この前はイリヤに奪われた『お兄ちゃんのちゅー』を今度こそ手に入れてみせる!」

「な、何言ってるのクロ?!」

「お兄ちゃんのちゅー……?イリヤ、どういうことか説明して」

「ひぃっ!ミユが今まで見たことない能面みたいな表情になってる?!」

 

この間のってことは、家庭科のお菓子作りの実習のやつか。確かあの時は、勝者のご褒美としてイリヤのおでこにキスして、そのままセラに折檻されたんだっけか。

 

「まあ、なんであれ、料理を教えてほしいって言うんなら大歓迎だ。それで、何を作りたいんだ?」

「うーん、そうね。どうせなら甘~いスイーツがいいなー」

「それならホットケーキはどうだ?今ある材料で作れるし、クリームとか果物でトッピングすればそれっぽくなるだろ」

 

小麦粉や卵とかは常備してるし、まさかイリヤたちに触発されてお菓子を作ろうと生クリームやドライフルーツを買い込んでいたのが役に立つとは思わなかった。

 

「ホットケーキか。それだったら然程難しくなさそうだし、決まりね。ほら、いつまでもじゃれてないでさっさと始めるわよ」

「……分かった」

「た、助かったぁ~」

 

クロの呼びかけで二人が落ち着いたところで頭巾とエプロンを身に纏う。まあ、教室なんてクロは言ったけど、今回は気軽に楽しんで貰えることが第一かな。

 

「それじゃあ―――って、そうだ。家はフライパンとか泡立て器とかも2つずつしかないんだった。どうするか」

「あ、今日は私も教える側にまわるから、大丈夫」

「そうか?一人だけごめんな、美遊」

「ううん、平気。えへへ」

 

まだ小学生なのにしっかりしてるなぁ。俺が小学生のときなんて結構やんちゃしてた気がするのに。

 

(……ねえ、なんかミユの様子おかしくない?なんであんなにお兄ちゃんにデレてるのよ!)

(そ、そんなこと言われても。確かに、お兄ちゃんがミユに『お兄ちゃんと呼んでもいいんだZE☆』って言ってたけど)

(くっ!お兄ちゃんの誑し力を甘く見てたわね)

 

今度はイリヤとクロがこそこそ話してる。うむうむ、姉妹仲良くやってるようで、お兄ちゃんは安心だ。

 

「じゃあ始めるか。まずは、そうだな……ボウルを冷蔵庫に入れて冷やしておくか」

「え?空のボウルを?」

「ああ。生クリームを混ぜるのに使うんだけど、生クリームは常温だと水と油に分離しやすくなるから、あらかじめ器を冷やしておくんだ」

「へぇ~そうなんだ」

 

とりあえず、ボウルを冷蔵庫に入れるついでに必要な材料を取り出してっと。

 

「改めて始めるぞ。最初は薄力粉をボウルにふるい入れて、泡だて器でかき混ぜるんだ」

「これは家庭科の実習でもやったから大丈夫!」

 

そう言ってイリヤがふるいに薄力粉を入れ、元気よくふるいにかける。こらこら、そんなに激しくやったら零れちゃうぞ。

クロの方はというと、イリヤとは違って静かに作業してる。が、カサカサカサカサと単純作業が続き、中々減らないふるいの中身を見て段々作業が雑になってきてる。

 

「はぁ……なんか、思ってたよりも地味ね、これ。省略しちゃダメ?」

「クロ、雀花と同じこと言ってるし」

「あはは。こういう作業をコツコツやるのも、おいしい料理を作る秘訣だからな」

 

はーい、と生返事で返すクロだけど、一応は作業に戻った。

暫くして、二人ともボウルに薄力粉をふるい入れ終わる。

 

「二人とも終わったな。それじゃあ、別のボウルに卵と牛乳を入れてかき混ぜてくれ」

「やっと料理っぽくなってきたわね。卵を割るの、一度やってみたかったのよね」

「卵は平らな所でコンコンって叩いて罅を入れるのがコツだぞ」

 

イリヤとクロは卵を手に取ってボウルに出そうと四苦八苦している。まあ、卵を割るのって慣れないうちは難しいからな。

 

「むむむ、中々割れな―――あぁっ!」

 

そうこうしている内に、イリヤが卵を割るのを失敗して黄身ごと殻をボウルに落としてしまった。

 

「あらあらあら。イリヤってば、上手に割れないからってドジッ娘アピール?なんてあざといのかしら!」

「ち、違うもん!それに、クロだって似たようなものでしょ!」

「落ち着いてイリヤ。落ちた殻は菜箸でとれば大丈夫だから」

 

すぐさま美遊がイリヤのフォローに入り、卵の殻を取り除く。イリヤの言ってた通り結構慣れた手つきだな。あれ?もしかして俺、要らないんじゃ―――

 

「そんなことない。お兄ちゃんは必要」

「お、おう。そうか……」

 

俺の思考を読んだかのように、美遊が作業の手を止めずに言い放った。ま、まあ、必要と言われて悪い気はしないかな。あはは…………背筋に冷たいものが走るのに目を瞑れば。

 

「はい、取れたよイリヤ」

「わぁ!ありがとう、ミユ!」

 

美遊が殻を綺麗に取り除いたボウルをイリヤに渡すと、俺に視線を合わせた。その姿からは心なしか、ブンブンと激しく横に振る犬の尻尾が幻視()えてきた。

取り敢えず美遊の頭に手を乗せ、頭巾がずれないように頭を撫でてみる。すると、美遊は嬉しそうに目を細める。もしかして、お兄さんに会えなくて寂しかったのかな。それで代わりに俺に甘えてるとか。

 

(やっぱり、ミユの様子おかしくない?あのデレッぷり、下手したら凛やルヴィア以上よ)

(うーん。でも、お兄ちゃんもこの間の一件より前に会ったことないって言ってたし……あっ、でも確か、お兄ちゃんがミユのお兄さんに似てるって言ってた気が)

(…………)

(クロ?)

 

俺が頭を撫でてると、またイリヤとクロが内緒話してる。今どきの小学生は色々あるのか?まあ、とやかく口出しすることもないか。

そんなこんなで、料理教室は少し不安を抱えつつも始まるのだった。

 

 

 

 

 

「結構かき混ぜにく―――うわぁっ!」

「おっと、危ない危ない。零すところだった」

「イリヤ。泡立て器はそんなに力を入れてかき混ぜなくても大丈夫だから」

 

イリヤが力いっぱいかき混ぜた結果、ホットケーキのタネが入ったボウルが明後日の方向に跳んでいったり

 

「焼き加減はこんなものかしらね。そぉーれ!」

「のわぁぁぁ!熱い熱い熱いッ!」

「あっ」

「クロ!何やってるのー!」

 

クロがフライパンで焼いてるホットケーキを片手でひっくり返そうとして、ホットケーキが俺の顔面に跳んで来たり

 

「お兄ちゃーん(猫撫で声)、クリームってぇー、これくらい混ぜれば―――」

「デザートの上に流し込むとかならこれくらいでもいいけど、絞出しに使うならもっとかき混ぜた方がいい」

「……あらー。ありがとう、ミユ」

「……どういたしまして」

 

クロと美遊が時々火花を散らしてたり

とまあ、所々ハプニングはあったものの兼ね兼ね順調に進んでいった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 

 

 

 

「よし、完成ー!」

「うん。二人ともよく頑張ったな」

 

料理開始から2時間後、ホイップクリームとフルーツでデコレーションされた2つのホットケーキが完成した。

 

「じゃあ、お兄ちゃん!食べて食べて!そして、美味しかった方にご褒美のちゅーを!」

「なっ!クロ!またそんな!」

「……ずるい」

 

またかー。食べ比べるのはいいんだけど、ご褒美はちょっと……。あれ以来セラが妙に警戒した目つきで俺を見てるしな。

現に今も―――

 

「あはは。悪いけど今回はお預けな」

「えぇー、なんでよ」

「だって、ほら」

 

俺はクロたちの横、リビングの入り口を指さす。そこには、こめかみを若干ヒクヒクさせながらこっちの様子をうかがっているセラの姿があった。

 

「あ、セラ。帰ってきてたんだ」

「なーんだ。もう帰ってきちゃったのね。せっかくお兄ちゃんにちゅーしてもらうチャンスだったのに」

「なーんだ、じゃありません!クロさんはもっと恥じらいといものを持ってですね!」

 

セラの説教をクロは軽く聞き流す。いつもなら暫くしてから適当なところで止めるんだけど、今はホットケーキの試食もあるからな。早々に止めるか。

 

「まあまあ。今はそれくらいで―――」

「なんですか?ああ。そういえばさっき、私が居なければチューしてあげられたのにー、とか言ってましたね。すみませんね、お邪魔してしまって」

「いやいやいや!さっきのはそういう意味じゃないから!変に曲解してないか?!」

「嘘おっしゃい!このシスコン&ロリコン!」

「わぁー!お、落ち着けってセラ!」

 

やべっ!今度は矛先が俺に向いてきた。しまったな、こういうときは大抵俺が巻き込まれるってわかっていたはずなのに。

 

結局セラの矛先は、イリヤがホットケーキの試食をセラに進めるまで収まることはなかった。

途中から愚痴の内容が『貴方はイリヤさんやクロさんを甘やかしすぎなんです!』とか『そんなんじゃお二人のためになりません!』とか話がおかしな方向に行っていたけど、気にしないでおこう。何故かクロは頬を膨らまして美遊は光のない眼でこっちを見てたけど、きっとホットケーキを早く食べてほしかったんだろう。うん、そういうことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず、これでもかというぐらい美遊を書いてみた。
これぐらいの依存度は、境遇を考えれば当然だよね?

冒頭のクロの描写は、もしかしたら原作見てない人には伝わりにくかったかもしれません。申し訳ない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。