イリヤ兄と美遊兄が合わさり最強(のお兄ちゃん)に見える   作:作者B

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暫く日常回が続くといったな。
あれは嘘だ。



鶴翼不欠落

思えば、違和感を感じていたのは最初からだった。

家の目の前に突然建てられた西洋風の豪邸。始めは、違和感はその現実離れした存在感のせいだと思っていた。でも、それは間違いだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな衛宮。こんな遅くまで手伝ってもらって」

「気にするなって。俺だって弓道部員なんだから、当然だろ?」

 

季節も初夏に入り暑さが日に日に増していく頃、テスト期間に入る関係で部活動が休みになるので、俺と美綴は部室や弓道場の片づけをしていた。二人で始めたはいいものの思いのほか時間が掛かってしまい、気が付けが太陽がもう沈もうかという時間だった。

 

「結構暗いし、送ってこうか?」

「いいっていいって。家の方向全然違うし。じゃあ、また明日な」

「おう、じゃあな」

 

俺に背を向けて手を振ると、美綴は校門を出て俺の家がある方向と逆の方向へと歩き出した。流石にこれ以上遅くなるのもあまりよろしくないので、俺もそのまま帰路に就いた。

なんて仰々しく言ったものの、辺りが薄暗いからと言って特にこれといった事件に巻き込まれるなんてこともなく、俺はそのまま自宅の扉を開けた。

 

「ただいま」

 

学園指定の靴を脱ぎ、2階にある俺の部屋へと向かう。ん?イリヤの部屋、やけに静かだな。いつもならクロと騒いでることが多いんだが。

勉強中かな、なんてさして気にも留めず、自室に入った俺は普段着に着替えるべく制服を脱いだ。

 

「士郎さんちょっといいですか―――」

 

すると、珍しいことにセラが俺の部屋に尋ねてきた。……俺が上半身裸のタイミングで。

 

「―――ッ?!し、失礼しましたッ!」

 

俺の姿を見たセラは瞬く間に顔を赤らめ、そのまま勢いよく部屋の扉を閉めた。いや、別に上着ぐらいでそんな気を遣って閉めなくても、ちょっとした要件ぐらいなら言ってくれてよかったんだけどなぁ。まあいいか。

俺は素早く上着を羽織り、ズボンも履き替える。そして、扉の向こうのセラに着替え終わった旨を伝えた。

 

「……さ、先ほどはすみませんでした。私としたことがノックもせずに」

 

まだ頬が紅潮しており、気まずそうに俺から目線をずらしながら入ってくるセラ。別に、家族みたいなもんなんだからそんなに気にしなくてもいいのに。

 

「いいって別に。それで、何の用だったんだ?」

「あ、そうでした。実はイリヤさんとクロさんが先ほど急いで出かけて行ったらしくて」

「イリヤとクロが?こんな時間に?」

 

確かに妙だ。学校に忘れ物をしたとか?だとしても、こんなくらい時間に出歩くのはあまりよくないな。

 

「はい。リズが言うには、向かいの家に行ったのでは、と」

「なるほどな。それなら少し見てくるよ」

 

俺は再び玄関に出戻る。もしルヴィアのところに居るならそれでいいし、もし居なかったとしても美遊なら何処に行ったか見当がつくかもしれない。なんにしても、一度訪ねてみれば分かるだろう。

そして玄関の扉を開けた俺は、向かいの豪邸(いえ)の門の前に立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――今、俺の目の前の洋館から放たれる違和感は異様だ。門の外から見た外観は何ともないはずなのに、まるでそれがあるべき状態でないかような、よくわからない感覚が俺の中に走る。

そうだ、俺が感じている違和感はこれだ。本来の姿を捻じ曲げて誤認させているような。でも何故、今になってその違和感が強くなったんだ?

そんな疑問に応えるかのように、無意識に俺の手が門の扉に掛かる。普段ならこんな時は、チャイムの一つでも鳴らすところなのだろう。だけど俺は、その手を止めることができなかった。

そして、この選択が良くも悪くも、俺の運命を大きく動かすことになる。

 

「な……ッ?!」

 

目の前にあるのは瓦礫の山。いたって普通の住宅地に圧倒的な存在感を放ってそびえ立っていた先ほどまでの豪邸は見る影もなく、瓦礫の所々からは火の手が上がり、煙が日の沈んだ夜空をさらに黒く染める。

そして、その炎に照らさせるように、瓦礫の前に4つの人影が見えた。ひとつは俯せになりながら顔を上げ、ひとつは膝をつき、ひとりは地面に倒れていた。そして最後にひとりは、倒れている人影に近づき―――

 

「ッ―――!」

 

それを見た瞬間、俺の身体が動き出す。何故だかわからない。状況は全く呑み込めない。だけど、直感が俺に訴えかける。

あれを守れ。なんとしても守れ。それこそが俺の、たった一つの願い!

脚に力が入る。魔力が行き渡り強化された俺の脚力は、普段の何倍もの速度で敵に肉薄する。

 

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

 

俺が手を振り上げると同時に一振りの大剣を投影する。銘も逸話もない、ただ振り下ろすためだけの剣。それが、俺の腕力と自重による自由落下の力が加わり、強力な一撃となって敵に降りかかる。

 

「ッ?!」

 

しかし、俺の存在に気が付いた奴は、振り返ると同時に自身の右拳で剣の腹を殴り、その軌道を逸らした。

 

「く―――ッ!」

 

躱された!いや、構わない。この攻撃は倒すためのものじゃない!

俺は大剣をすぐさま放棄し、相手の突き出した腕の外側を回り込むように身体を横に右回転。そのまま奴と立ち位置を入れ替える。

これでいい。これで倒れている人との間に割り込むことができた。

 

「……お兄、ちゃん?」

 

背後から投げかけられたその言葉を聞いて、ようやく気が付く。奴と距離が開き、戦場を見回す余裕ができた俺は改めて認識する。

目の前で俺の剣を躱したのは、二の腕や脇腹の部分が破れたワイシャツに、至る所がボロボロのスーツを着た男装の麗人。そして、俯せになり驚愕の表情で俺の方を見ているのはイリヤ、同じく膝をついているのがクロ。そして、俺の後ろで倒れているのが、美遊。

正直訳が分からなかった。どうして三人は普段の装いとは全く違うコスプレのような恰好をしているのか、そもそも何故こんなところで倒れているのか、そして目の前の女性は何者なのか。すべての状況が、俺の理解を超えていた。

 

「……どうして、ここに?」

 

だけど、これだけは分かる。これだけは言える。俺は妹達を害する奴らの敵で―――

 

「助けに来たぞ、美遊」

 

―――妹達の味方だということだ。

 

「またしても増援ですか」

 

すると、目の前の敵が拳を構え戦闘態勢に入る。

 

「見たところ、貴方の登場は彼女たちにとっても想定外のようですが」

「ああ。俺は、イリヤたちがここで何をしてたかなんて知らない」

「そうですか。私は貴方に用はありません。抵抗しなければ、身の安全は保障しましょう」

 

奴から上から目線の忠告。当たり前だろう。おそらくこいつは俺よりも格上だ。そんなこと、対峙してる俺が一番理解してる。だけど―――

 

「それは無理だな。お前が、妹達の敵である限り」

 

そんなこと、俺が引く理由にはならない!

 

「わかりました。それでは、実力で排除します」

 

俺の言葉に淡々と答えた奴は、人間離れした速度で俺に接近する。常人なら反応することさえ難しく、かつての俺なら何もできなかっただろう。でも、今は違う!

 

投影開始(トレースオン)!」

 

奴が振るった拳を、干将莫耶を交差させて受け止める。しかし、衝撃は殺しきれずに俺の身体が少し後退する。

 

「ッ?!その剣は―――ッ」

「はぁぁぁッ!」

 

俺の双剣を見て奴が一瞬怯んだ瞬間、俺は右手の莫耶で切りかかる。しかし、相手は難なく左手の甲で受け止めると、そのまま外へ弾いた。

馬鹿な?!こいつの身体は鉛でできてるとでもいうのか?!でも、ここで引くわけにはいかない!

すかさず左手の干将で攻撃、今度は右手の甲で弾かれる。

 

右斬上 逆袈裟 袈裟斬り 左薙

俺の陰陽剣から繰り出される斬撃のすべてが弾き、弾かれ、打ち合うたびに火花が散る。くそっ!攻めきれない!

そして、気持ちに焦りが出た俺の隙を、奴は見逃さなかった。今まで守りに回っていた敵は、俺の懐に深く踏み込む。

 

「くッ!」

 

ジャブ フック ストレート ボディブロー

奴の繰り出す拳のすべてを流し、受け止め、いなす。打って変わって攻勢に出た奴の拳はまさに嵐の如く。いつも凛とルヴィアの殴り(じゃれ)合いを見てたけど、本当にあれがじゃれ合いに見えてくるほどこいつの拳は速く重い。

 

「すごい……あのバゼットと、互角に戦ってる……!」

 

誰かから呟きが零れる。有効打が入らず互いに攻めあぐねている今の状況は、傍から見れば拮抗しているように見えるだろう。でも、それは違う。俺の方は既に本気に近い力を出しているのに、奴はまだ底を見せちゃいない。まだ手札があるという意味なら俺も同じだが、そもそも奴はそれを見せる隙すら与えてくれない。

しかし、このまま戦えばポテンシャルの差で確実に負ける。なら、ここは無理してでも押し通す!

 

俺は再び干将莫耶を交差させて受け止め、奴の拳を押し出す。それと同時に後ろへ跳び、追撃に干将莫耶を投合。体勢を崩された奴は両拳で双剣を弾くも、その場で一瞬動きを止めた。

たった一瞬。でも、俺にはそれで十分だ。

俺は魔術回路に魔力を流し投影を開始する。創り出すのはあの夜の再現。あの黒い弓兵を打ち抜いた、捻じれ狂った一振りの剣。それが今まさにこの手に現れ―――

 

「ッ―――!お兄ちゃん!宝具を使っちゃ駄目ッ!」

「ッ?!」

 

突然叫んだクロの言葉を聞いて、手に込めていた魔力が霧散する。どういうことだ、宝具を使ったらいけないって―――

 

刹那

俺の思考が空白になった瞬間、奴は瞬く間に俺に近づき、そのまま腹部に強烈な蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐあぁッ!」

 

そして俺は為す術もなく、背後のルヴィア邸だったものと思しき瓦礫に突っ込んだ。

 

「お兄ちゃん!」

「……急所を外しましたか」

 

イリヤの悲痛な叫びが聞こえる。砂塵が舞う中、俺は腹に溜まった痛みを吐き出すように咳をして、気絶しないように何とか意識を保つ。奴に攻撃される寸前、咄嗟に体幹をずらしたのが功を奏したようだ。腹部に鈍痛が走り意識は朦朧とするものの、致命傷は何とか回避できた。

 

「お兄ちゃ―――ぐぅッ!」

『美遊様!まだ動くのは危険です!』

 

これは美遊と……誰の声だ?

 

「でも、お兄ちゃんが……」

『それに、恐らくフラガラックの残弾はまだあのケースに残っています。切り札が封じられている以上、闇雲に行っても返り討ちにあうだけです!』

「でも……ッ!」

 

美遊と誰かの口論を聞きながら意識を覚醒させ、同時に思考する。

 

フラガラック

ケルトの光神ルーが持つとされる短剣。抜こうと思うだけでひとりでに鞘から抜け、一度放たれれば、鎧でも防げない一撃で敵が抜刀する前に斬り伏せる。

 

おそらくこいつが奴の切り札なんだろう。どうやって宝具を封じるのかは分からないけど、さっきの美遊とクロの言葉から察するに恐らくフラガラック(こいつ)は宝具、いや、切り札の発動に反応するタイプの宝具といったところか。宝具そのものに反応するのなら、仮にもC-ランクの宝具である干将莫耶に対して使わないのがおかしい。

そして伝承から考えるに、フラガラックは手に持つことなく剣を抜くことができる。だが逆に言えば、現在無手のあいつはフラガラックを使うために一度抜刀(・・)する必要があるってことだ。

要は、抜刀させる隙を与えずこちらの攻撃を叩き込めばいい。現状で、その条件を満たすことができるのは―――

 

「―――投影開始(トレース オン)

 

両手に干将莫耶を投影、さらにもう一組の干将莫耶を待機。俺は吹き飛ばされてボロボロになった身体に鞭を打ち立ち上がる。

確証はない、保障もない、間違えれば死ぬ。

……上等だ。そんなもの、俺は()()()()()()()()()

頭の中の霧が晴れ、俺の思考が冴え渡る。

 

「―――ッ!!」

 

投げる。

魔力を込め、それぞれ左右から同時に放つ。投擲された刃は敵の首を狙うように弧を描き、鶴翼は美しく十字を象る。

 

「疾ッ!」

 

岩をも砕く宝具の一撃、奴はそれを素早い二撃のジャブで軌道をずらし、躱す。双剣は再び手元に戻ってくること叶わず、そのまま敵の背後へと飛んでいく。

無手となった俺に、敵が間合いを詰める。だが俺は自ら、奴の懐へ飛び込まんと突進する。

 

泰山ニ至リ(山を抜き) 黄河ヲ渡リ(水を割り)

 

待機させていたもう一組の干将莫耶を投影し、投合。その軌跡は奴の首を落とさんと再び飛翔する。

 

「同じ武器……?!だが―――ッ」

 

同じ手は二度通じぬと言わんばかりに両手のガードを上げ、最小限の動作で弾く。双剣は奴の手に押し出され、そのまま両翼に跳んでいく。

これでは駄目だ。これでは足りない。

二度の攻撃の末に距離を詰め、それと同時に放たれた奴の拳が眼前に迫る。その瞬間、俺の腕に魔力が走る。

 

「な―――ッ?!」

 

俺の手に握られた、三度目の双剣が奴の拳を受け止める。急ごしらえの無理のある投影、それは俺の身体の負担となるだろう。だけど、そんなこと後で考えればいい。

再三の振り出し。

接敵、布石、そして現在(いま)。三度に及ぶ攻防、そのすべてがこれからの伏線。

 

両雄、共ニ命ヲ別ツ(なお墜ちることなきその両翼)

 

俺は再び奴の拳を押し出し、それと同時に後ろへ跳躍。干将莫耶を左右に、奴を挟み打つように投擲する。

 

「それはもう見ましたッ!」

 

押し出された奴は即座に体勢を立て直し、目の前に迫る双剣の迎撃態勢に入る。だが、今度のはこれだけじゃない。

 

「―――ッ?!飛来物、6ッ?!」

 

ありえない方向からの奇襲。言うまでもなくそれは、先の二投で弾かれた双剣だ。

 

干将莫耶

その夫婦剣は干将(片割れ)莫耶(片割れ)を引き寄せる。後方、側方、それぞれに弾かれた二組の陰陽剣は今投擲したそれと引き合う。その集約点は中心、無数の白刃と黒刃が奴を六方向から襲撃する!

 

「この程度ッ!」

 

だが奴は怯まない。これでもまだ足りない。

何故なら、6の剣戟が奴の身体を貫くまでに、奴には抜刀と迎撃の猶予がある。だからこそ、これまでが伏線。そして、これが秘策。

奴との距離――――――1m!

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

瞬間、囲うように飛来する6つの刃が爆発する。重なる爆音が、奴の姿を包んで光と音の中に消し去った。

 

「ッ?!何、あの爆発?!」

『膨大な魔力の詰まった剣を爆発させたんです!宝具(ノウブル・ファンタズム)を使い捨てるなんて中々大胆ですねぇ、士郎さんは』

 

六つの爆炎が互いを押し合い、その中央は熱と光が犇めき合う。そこは最早、地獄の業火ですら生温い。

だが、その予想とは裏腹に、爆炎の中からひとつの影が飛び出した。

 

「ッ―――はぁッ……はぁッ……」

 

奴は地面を転がりながら爆発から抜け出し、息も切れ切れになりながら両手両膝を地面について立ち上がろうとする。

ワイシャツの背中の布は吹き飛び、そこからは酷い火傷を負ったのが目に見えてわかる。恐らく、剣が爆発する寸前に爆破の範囲以外へ逃れようと、自ら剣のある方向へ突っ込んだのだろう。何故―――いや、もしかして奴は、分かっていてその選択肢を取ったのか?

 

六方向からの起爆は、奴を逃がさないように閉じ込めるだけでなく、中心部の空気が一気に過熱することによって奴は息をするだけで体の中が焼かれる、そうした外と内の二面攻撃が目的だった。もし、囲まれたあの状況でそれを回避するなら、奴の様にダメージ覚悟で外へ逃げるしかない。

あの一瞬でそれを思い立ち、実行したというのなら……いや、今そんなことはどうでもいい。問題は、奴はまだ戦えるということだ。

さっきの技のせいで魔力の残りも少ない、奴の切り札封じがある以上こちらにもう有効打はない。このまま、持久戦に持ち込むしかないか……!

 

「そこまでよ!」

 

俺が覚悟を決めて脚に力を入れようとした瞬間、後ろから制止の声をかけられた。

この声は―――

 

「と、遠坂?!」

 

そこに居たのは急いで此処に駆け付けたらしく息を切らした、トートバッグを持つ遠坂の姿だった。

 

「こんばんは、衛宮君。お互い聞きたいこともあるだろうけど、とりあえず後にして頂戴」

 

そう言うと、遠坂は奴の方へ視線を向ける。

 

「ねえ、バゼット。提案なんだけど、今回はこれで痛み分けってことにしない?」

「なッ?!」

「イリヤたちはステッキから魔力を供給し続けることができるから、時間をかければ回復できる。貴女も随分手酷くやられたみたいだし、持久戦になれば有利になるのはこっちよ」

 

遠坂の口から出たのはとんでもない言葉だった。

痛み分けって、つまり停戦しようってことだよな?奴の目的を俺はよく知らないけど、今更そんなことが通るとは思えない。第一、奴がそんなものに応じる性格じゃないってことぐらい、剣と拳を合わせただけの俺にだって分かる。

それとも、遠坂には何か策があるのか?

 

「……問題ありません。この程度のダメージで戦えないほど、軟な鍛え方をしていません」

 

やはりというべきか、遠坂の言葉を一蹴して奴は再びファイティングポーズに入る。

 

「でしょうね。でも、私としては貴女にあまり無理をされると困るのよね」

「?それはどういう―――」

 

奴が疑問を言い切る前に、これが答えだと言わんばかりに遠坂がトートバッグから1枚の大きな紙を取り出し、奴を含めた俺たち全員に見せつけた。

なんだ?あの、黒くてウネウネしてるような絵は。

 

「これは冬木の町の地脈図。それで、問題はその左下」

「まさか……ッ!」

 

遠坂が示した場所。そこには黒く塗りつぶされた模様の末端に一か所だけ、白い正方形が描かれていた。

 

「そう。この虚数域に存在する正方形、いや、正確には立方体か。これは―――八枚目のカードよ」

「ッ?!」

 

虚数域、カード、八枚目。

俺にはさっぱり理解できない話だけど、ここに居る誰もが目を見開いて動揺しているところを見ると、余程の事態なのか?

 

「魔力を吸収し続けているこいつの戦闘能力は未知数、今は少しでも人手が欲しいのよ。()()()()()()()が貴女の任務なのなら、勿論断らないわよね?」

「……」

 

少しの間遠坂と睨み合いをした奴は、やがてその構えを解いた。そして少し足元をふらつかせながら、地面に投げ捨てられていた奴の物であろうボロボロのスーツの上着を羽織り、同じく地面に転がっていた縦長のケースを背負った。

 

「停戦する、と見てもいいのかしら?」

「好きに取っていただいて構いません。これは現場判断の域を超えています。一度、協会に指示を仰がなければ」

「ちょっと待ちなさい!」

 

門を出て立ち去ろうとしているあいつを遠坂が引き止める。

 

「……何か?」

「停戦協定ってのは、互いに譲歩して成り立つものでしょう?」

 

そう言い放った遠坂からは、心なしかいつものアカイアクマオーラが出ている気がした。……思わず身震いが。

それを聞いたあいつも眉間に皺を寄せて溜め息をすると、懐から3枚のカードを取り出し遠坂の方へと投げる。そしてそのまま、もうこの場に用はない、と早々に立ち去って行った。

相変わらず凄いな、遠坂は。あの状況で奴を追い払っただけじゃなく、戦利品までぶん取るとは。

奴の姿が見えなくなったことで気が抜けたのか、俺は腰が抜けてしまい、その場にしゃがみ込んだ。

 

「お兄ちゃん!」

 

その様子を見た美遊が、慌てて俺の方へと駆け寄ってきた。それに遅れる様に、イリヤとクロも走ってくる。

 

「ああ、美遊。それにイリヤとクロ。大丈夫だったか?」

「う、うん。私は平気―――」

「そんなことよりもお兄ちゃんは?!何処か怪我してない?!」

「あはは、これぐらい問題ないって」

 

三人が思い思いに心配してくれていると、向こうからカードを拾い終えた遠坂がやってきた。

 

「そうね。色々言いたいこともあるけど、取り敢えず―――ありがとう、衛宮君。助かったわ」

「……いいって別に。俺はただ、こいつらを守りたかっただけだから」

 

そういって三人に目を向ける。

今なら自信を持って言える。俺は、自分の手で守ることができたんだ。イリヤを、クロを、そして美遊を。

そして、その充実感と達成感と共にこのボロボロになった服を見て、セラにどう言い訳しようかなぁ、なんて考えながら満天の星空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 




というわけでVSバゼットでした。
此処からようやく原作にガッツリ関わります(バトルがあるとは言ってない)



※補足:フラガラックについて
正直こいつは遊○王に対するK○NAMIの裁定並に曖昧なところがあるので、一部この小説内だけの設定が入っている場合があります。ご注意ください。

まず、フラガラックは相手の切り札(宝具以外も可)の発動直後に真名解放することで、因果を歪め、相手の切り札の発動前に相手の心臓を貫きます。その結果、『心臓を貫かれた奴が切り札を打てるのはおかしい』ということなり、辻褄を合わせるために切り札は発動しなかったことになります。

ここで問題なのが『切り札』の定義なのですが、結論から言うと本編で使用した干将莫耶の連続攻撃『鶴翼三連』にも反応します。何故打たなかったのかというのは、フラガラックを打つには拳の前に構えて呪文を唱える必要があり、本編では士郎がその隙を作らせなかったというのが理由です。

なので、もし『壊れた幻想』を使用しなかった場合、士郎が言っていたようにフラガラックを打てるだけの猶予はあったので、その時点でBADENDでした。

補遺としては、如何に強力な技でも、使用者にとってそれが切り札足りえない場合はフラガラックが反応しません。例を挙げるならプリヤでも出てきたキャスター『メディア』の魔術及びルールブレイカーは、本人にとって切り札ではないのでフラガラックを使えません。



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