イリヤ兄と美遊兄が合わさり最強(のお兄ちゃん)に見える 作:作者B
原作及びアニメ視聴済みの方にとっては既存のことを語るだけになってしまうかと思いますが、ご容赦ください。
あの激闘の後、俺たちは倒壊した屋敷の地下室に居るルヴィアを救助しに行った。遠坂曰く、この屋敷の惨状のほとんどはルヴィアによって目眩しのために引き起こされたもののようだ。ここに来るまでは一緒にいたから命に別状はないとのことで、実際に駆け付けた時も、苦しそうに腹部を抑えていたものの話せるだけの元気はあった。
それよりも、俺がこの場にいたことの方に驚かれたけど。
一緒に居た執事の人の応急手当てによりルヴィアの容体が落ち着いたのを見届けると、一先ずこの場は解散となった。ルヴィアは勿論のこと、イリヤたちもだいぶ疲れが溜まってるようだし、なにより俺もさっきの戦闘で精神をすり減らして身体が怠い。とてもじゃないけど、話のできる状態じゃなかった。
そういうわけで泥だらけになって自宅に帰ったイリヤ、クロ、俺は、その姿を見て驚くセラを適当にいなしつつ、そのまま自分のベッドに倒れる様に寝転がり、気絶するように眠りについた。
そして翌日―――
「あら、もう工事始まってるのね」
「お見舞いに来ましたー」
お見舞いという名目で、俺はイリヤとクロの3人で再び屋敷を訪れた。セラたちには一応、ボイラーの爆発事故ということで誤魔化してある。まあ、お見舞いってのも嘘じゃないけど。
「衛宮君?それにイリヤとクロも」
「あぁ、シェロ!態々ありがとうございますわ!」
そこには、昨日の負傷が嘘のようにハイテンションなルヴィア、それに遠坂と美遊も居た。
「あ、これ。お見舞いの品。セラが渡しておいてくれって」
「ありがとう、お兄ちゃん」
セラから受け取った品を美遊に渡す。イリヤとクロも昨日はだいぶ疲れてたし少し心配だったけど、見た感じ美遊はもう大丈夫そうだな。
「それにしても、ルヴィア。怪我はもう大丈夫なのか?」
「ええ。
そう言ってルヴィアは優雅に胸を張る。なんというか、淑女って凄いな。
「ならよかった。嫁入り前の女の子の肌に傷でも残ったら大変だからな」
「嫁?!……し、シェロ?もしよろしければ、傷跡が残ってないか
すると突然、ルヴィアが顔を赤くしてモジモジしながら上着を臍の辺りまで捲り始めた。ちょっ!こんな外でそれは流石にまずいって!
「白昼堂々何やってんのよあんたは!」
「ぶべらっ!」
しかし、寸のところで遠坂のツッコミという名の張り手がルヴィアの頭を直撃した。ふう、助かった。……主に俺が、世間体的な意味で。
「またしても邪魔を!何ですの?羨ましい?シェロに触診して貰えるのがそんなに羨ましいのかしら?だったら惨めったらしくそう言いなさいな、この駄メイド!」
「あ、あんたみたいな痴女と一緒にするなーッ!」
そうして、いつの間にか触診することになっていた俺を余所に取っ組み合いを始める遠坂をルヴィア。あー、これを見ると落ち着くのは、俺の日常が段々と侵されているということなのだろうか。
俺が安心した様子で二人の
「痛ッ!な、なんだ?」
すぐさま右側へ顔を向けると、そこに居たのはつーんとした感じで頬を膨らませているイリヤだった。
「ど、どうしたんだ?イリヤ」
「べっつにー」
いや。明らかに不機嫌ですオーラを出されて、別にって言われてもな……
「もうっ!お兄ちゃんってば、ルヴィアの裸を想像してそんなに頬を緩めちゃって!」
「なッ?!」
今度は、クロがとんでもないことを言い出した。なんだそりゃ!もしかして、遠坂とルヴィアのやり取りを見てほっとしてたのを曲解したのか?!
「ご、誤解だって!俺は別にそんな―――」
「お兄ちゃん。どうしても、というのなら私が。物足りないかもしれないけど、きっと私ならお兄ちゃんを満足させてあげられる」
「み、みみみみミユ?!何言ってるの?!」
と思ったら、今度は美遊がクロの比じゃないほどの爆弾を投下してきた。
もう勘弁してくれーッ!
イリヤが美遊の肩をガクガク揺らしているのを横目に、俺の独白は心の中だけで虚しく響き渡るのだった。
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――――――――――
―――――
ところ変わってホテルの一室。
遠坂とルヴィアの取っ組み合いは何時もの通り引き分けで終わり、その頃にはイリヤたちの騒ぎも収まった。そして俺たちはようやく今日の本題を思い出した二人に連れられ、皆でルヴィアが宿泊している新都のホテルへとやってきたのだ。
それにしても、ホテル最上階のスイートルームとか初めて入ったぞ。仮住まいでこれなんだから、やっぱりルヴィアってかなりのお金持ちだよな。
「さあ、自由におかけになって下さいな」
ルヴィアに促されるように、高級そうなソファに腰掛ける。イリヤは雰囲気にやや気圧され、クロは興味津々に辺りを見ながら、俺の後に続いて座る。
「衛宮君、紅茶でよかったかしら」
「ああ。ありがとう、遠坂」
目の前のテーブルに、遠坂が居れたであろう紅茶が人数分配膳される。そういえば、遠坂はルヴィアの家でメイドのアルバイトしてたんだっけ。
一通り配膳が終わると遠坂も椅子に腰を下ろし、これでテーブルを囲うように全員が座った。
「さて、それじゃあキリキリ話してもらうわよ」
遠坂がいつものツンとした言動とは少し異なるベクトルで、やや威圧するように話し始めた。その言葉の節々からは日常とはかけ離れな何かを感じる。なんというか、遠坂の別の一面を見た気分だ。いや、もしかしなくてもこの間の出来事は、間違いなく俺の知らない遠坂やルヴィアの"日常"なのだろう。
「それは構わないんだけど、出来れば俺にもこの間のことを教えて欲しい」
「……そうね、いいわよ。等価交換は魔術師の基本だし、もしかしたら衛宮君の事情にも関わってるかもしれないしね」
魔術師?まあいいか。別に隠すことでもないし、遠坂からも事情説明の確約を貰ったところで、俺はあの日のことを話すことにした。
「イリヤ。俺が入院したの、覚えてるか?」
「え?う、うん。4ヶ月くらい前だよね」
あの日―――今の今まで忘れていた、俺が非日常と出会った日のことを。
「そうだ。あの時はただの過労ってことになってたんだけど、実は俺、その日に妙な奴に襲われてさ」
「妙な奴?」
「お、襲われたって!お兄ちゃん!なんでそんな大事なこと黙ってたの?!」
「どうしてって言われても……俺もつい昨日まで忘れてたんだよ」
イリヤに問い詰められ、俺はあの日あったことを思い出す。そう、理由はわからないが今
「昨日まで、ね。イリヤ、一先ずそのことは後にして。続けて、衛宮君」
「おう。一瞬目の前が歪んで、そう、例えるなら何かが反転したような感覚に襲われて、気が付いたら全身に刺青を施した男に襲い掛かられたんだ。それで―――」
魔術回路に魔力を巡らせる。そして俺は、その手に干将莫邪を投影した。突然武器を出したことで皆一斉に反応したが、構わず俺は話を続ける。
「―――そいつもこれと同じ剣を持っていた」
「ッ?!まさか、それはッ!」
「……」
俺の言葉を聞いて心当たりがあるらしく、その場の全員が反応する。でも、ルヴィアは特に驚愕していたのに対し、遠坂は一瞬目を見開いた後に思案顔となった。
暫く続く沈黙。今の話はそんなの予想外だったのか?いや、それよりも、この反応を見るにあの日のこととイリヤたちの事情はどうやら無関係じゃなさそうだな。
「えっと、その後はどうなったの?」
年長者二人が固まってしまったところで、美遊が話の続きを促す。俺はもう不要だと投影した双剣を消し、話を続けた。
「俺は奴から逃げるために昇降口へ走って、それから―――」
俺は再び思考の海にダイブする。あの時は必死だったな。日も暮れた学園で襲われて、何とか昇降口から外に出て、それで―――
「色々あって今に至る」
「―――はぁ?!」
遠坂が、お前ふざけてんのか、と訴えかけてくるように睨み付けてくる。ちょっ!そんなに威圧しないでくれよ遠坂!
「し、しょうがないだろ!その時はとにかく無我夢中でよく覚えてないんだから!気が付いたら、俺も同じような力を使えるようになってたんだって!」
何故だか分からないけど、あの時の、初めて
あれ……?そういえばこの感じ、前にどこかで―――
「もういいわ。つまり、4か月前の一件で初めてその力を使えるようになった、そういうことでいいのね?」
「ああ、そうだ」
俺の答えを聞いた遠坂はルヴィアと小声で相談し始めた。やはり、何か思うところがあるのだろうか。といっても、このまま蚊帳の外で、二人で勝手に納得されるのは困る。
「遠坂、ルヴィア。話し合うのもいいけど、今度は俺にも説明してくれないか?」
「……それもそうね。結局、衛宮君のことは、何もわからないってことが分かっただけだし」
あはは、それを言われると何も言い返せないな。まあ、当事者である俺自身が理解できていないんだから当然て言えば当然だけど、中々手厳しい。
「さて、何から話したものかしら。そういえば衛宮君。貴方のその力、どういうものか理解してる?」
「え?ああ、なんとなくだけど。魔術によるものだろ?」
俺の言葉を聞いてイリヤが驚いたようにこっちを見る。そりゃそうか。少し前まで一般人だったはずの俺が、魔術の知識を持ってたんだから。
そう、俺の力は剣を生み出す投影魔術
「……そう、理解しているのね。じゃあ取り敢えず、私たちがロンドンから日本にやってきた理由から順に説明しましょうか」
また少し思案顔になった遠坂は、すぐに切り替えてテーブルの上に3枚のカードを並べる。これは、確か遠坂が昨日のあいつから受け取ったやつか。
「これは『クラスカード』といって高度な魔術理論で構成されている―――って言っても分からないか。要は英雄の力を呼び出せるトンデモカードなのよ」
「セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。この7枚のカードが冬木の地に散らばっているのを魔術協会が発見しまして、それの回収の為に私たちが派遣されましたの」
英雄っていうと、アーサー王とかヘラクレスみたいな偉業を残し伝説に語られる存在ってことか。
魔術協会がどういったものなのか知らないけど、何だか映画や小説みたいな話だな。実際にこんなことがあるなんて。いや、そういえば俺も、非日常って意味なら昨日体験したばかりだったか。
ん?でもおかしいな。
「なあ、遠坂とルヴィアの目的ってカードを回収するだけなんだろ?何でそれだけのために態々二人が来たんだ?」
「それは、勿論それだけじゃないからよ」
俺の問いを聞いた遠坂が、眉間に皺を寄せて頭を押さえる。
……何かあったのだろうか?
「クラスカードはさっき言った通り英雄の力を引き出せる。でもそれが、地脈に流れる魔力を吸って、あろうことかカードが実体を持ったのよ」
「本物には遠く及びませんが、曲がりなりにも英雄。普通の人間じゃ相手にもなりませんわ」
そんな化け物が
「そこで、大師父に対抗策として礼装を持たされてこっちに来たんだけど―――」
『それこそが私、愛と正義のマジカルステッキこと、カレイドルビーちゃんなのでぇす!』
「うわっ!」
すると突然、イリヤの髪を掻き分けて、輪の中に星形の飾りがある羽の生えた変なのが飛び出した。
いや、マジで何なんだこれ?
「ルビー。今日は朝からやけに静かだと思ったら、出待ちしてたの?」
『イエ~ス!こういうのは第一印象が肝心ですからね!』
イリヤと
……なるほど、一理あるな。おかげでこいつの性格がよく分かった。こいつは真正のトラブルメーカーだ。
『そして私が妹のカレイドサファイアです。士郎様、以後お見知り置きを』
「え?あ、ああ。よろしく」
続いて美遊の髪をかき分けて、妹と名乗るサファイアが出てきた。さっきのルビーと違って羽が青いリボンのような形をしていて、中央の飾りが六芒星になってる。そして何よりも、
『私たちカレイドステッキは、もうそんじょそこらの礼装とは比べ物にならないくらいすんごい魔術礼装なのです!』
『主な機能としましては、Aランクの魔術障壁、物理保護、治療促進、身体能力強化、無制限の魔力供給などがあります』
「そのかわり、フリフリの衣装を着されられるんだけどね……」
イリヤが死んだ魚のような目で虚空を見上げる。昨日の恰好はこのステッキのせいだったのか。
と、とにかく、詳しくは分からないけど凄いってことは伝わった。そのすんごい魔術礼装とやらの力を使って冬木中に散らばった実体化英雄を倒し、クラスカードを回収するのが遠坂とルヴィアの仕事ってことか。
でも、それだとひとつ分からないことがある。
「今の話を聞いてる限り、このカレイドステッキってのはカード回収のために渡されたんだよな。それなら、なんでイリヤと美遊が使ってるんだ?」
俺の記憶が確かなら、確か昨日の戦いのときにこのカレイドステッキに似たものを見た気がする。そのときは円形の胴体の下から棒見たいのが伸びてて、イリヤと美遊がそれを杖みたいに持ってたはず。
「それは、その……」
「ええっと、なんといいましょうか……」
俺の問いかけを聞いた途端、遠坂とルヴィアがあからさまに目を逸らした。おい、何をしたんだ一体。
俺が二人を呆れたような目で見ていると、やれやれ仕方ありませんねぇ~、と言いながらルビーが説明を始めた。
曰く、カレイドステッキで変身した魔法少女は二人で一人と言われるくらい互いの連携が必要なんだとか。それを聞いて、俺はすべてを理解してしまった。あー、いつも通り喧嘩して、ステッキに見放されたのか。確かにこの二人が仲良く手を取り合う姿なんて想像できない。向こうの責任者は、いったい何を考えてこのステッキを渡したんだ?
「それで、新しいパートナーとしてイリヤと美遊を選んだって訳か」
『
なるほどな。イリヤたちが関わっている理由はわかった。
この調子じゃあ、イリヤたちの代役として魔術協会とやらから補充要員を連れてきたとしても、おそらく交代には応じないだろうなぁ。
「遠坂。カード回収の任務、まだ終わってないんだろ?」
「え?ええ、そうよ」
「だったら、俺にも手伝わせてくれないか?」
「えぇっ?!」
俺の提案にイリヤが声を上げて驚く。そんなに意外だったか?
「えっと、私としては助かるんだけど、いいの?正直、衛宮君には関わりのない話だと思うんだけど」
「なに言ってんだ。俺も冬木に住んでるんだから無関係じゃないさ。それに、イリヤたちだけに無茶をさせるわけにはいかないからな」
俺としては正直、イリヤたちが昨日のような危険な目に合うのは到底許容できるものじゃない。だけど、クラスカードを放っておけば冬木に住む皆に危険が及ぶ可能性がある。もちろんそれは、イリヤたちだって例外じゃない。
だったら、俺にできることは近くに居て皆を守ってやることだけだ。
「……ごめんなさい。貴方の妹を巻き込んでしまって」
「別に、遠坂が直接何かしたわけじゃないんだろ?だったらいいって。本人達も、納得しているみたいだしな」
そう言って、イリヤたちの方を見る。昨日、あれだけ危険な目に合っていながらも、その瞳の奥にあったのは戦いの恐怖ではなく守れたことへの達成感だった。そんな眼をされたら、俺はもう何も言えなくなってしまった。
いつの間にか人間的にも大きくなっていて、その成長が嬉しいような寂しいような。
「そういえば、まだ昨日の奴のことを聞いてなかった」
「バゼットのことね。あいつはカード回収任務の前任者。アーチャーとランサーの実体化した英雄をステゴロで倒した、怪物じみた奴よ。因みに、そのアーチャーが多分、衛宮君が戦った相手ね」
そんなとんでもない奴だったのか!よく昨日は追い払えたな。
「あれ?なんで遠坂は俺が戦った相手が分かったんだ?さっきの言いぶりだと、直接接敵したわけじゃないんだろ?」
「あ、えっと、それは……」
「それは、私がアーチャーのクラスカードの力を使えるからよ」
遠坂が言いよどんでいるところにクロが割り込んで答えた。
なるほどな。だから、昨日俺が宝具を使おうとしたタイミングが分かったんだな。言われてみると、昨日のクロの恰好は何処となくあの弓兵に似ていたような気がする。
「その後、任務は正式に私達へ引き継がれたはずなのですが、何やら協会の方で動きがあったらしく。まったく、困ったものですわ」
忌々しそうにルヴィアが吐き捨てる。
あー、もしかして、なんかお決まりの派閥争いとかそこらへんが原因なのか?冬木の危機だってのに手柄の争奪とか呑気なもんだな、そういう奴らは。
「でも、今その件は大して重要じゃなくなったわ。むしろ問題なのは―――」
「……八枚目のカード」
遠坂に続くようにそう呟く美遊の表情は、どこか暗く、なにか追い詰められているようだった。
「そう。協会でも見つけられなかった八枚目。発見が遅れたせいでどれだけの魔力を溜め込んでるか、どれほどの化け物になってるのか想像もできない。その上、カードがあるのが遥か地下深くって言うんだから厄介なんてもんじゃないわよ」
その遠坂の口ぶりから、おそらくイリヤたちが今まで戦ってきた
『もう!そんなにネガティブじゃ勝てる者も勝てませんよ。凛さんもルヴィアさんも、普段は対して活躍できないんですから、こういうときぐらいは頑張ってください。
「うっさいわ!元はと言えばあんたが―――」
ルビーの煽りを皮切りに遠坂が騒ぎだし、イリヤと美遊がそれを諌めに向かう。
俺はそんな様子を見ながら、この平和な日常を守って見せると心に誓いながら、仲裁を手伝いに行くのだった。
ただの解説回のはずなのに無駄に長くなってしまった。
次回からは日常パートに戻ります。