今日だって茜色の空の下で生きている 作:オイリーギフト
4
今が深夜だと感じさせない光の下で、暇だからと言って隣に座ったルミコさんと二人、他愛もない自分語りに興じていた。
耳に入る「音」は誰かが設置したアナログ時計の針の回る音、どうして神機使いはフェンリルの制服を着なくなるのかという至極どうでもよいことを議論する二つの声、そして延々とカードで暇を潰す者たちのシャッフル音だけ。
昼間は喧騒に満たされているエントランスとのギャップがノスタルジックでアンニュイなサムシングを掻き立てているから、平生なら余り口に出さないような少し深い話まで簡単に出来てしまうのかもしれない。
「元々はフェンリルに就職できただけで満足でした。でも、皆さんの仕事に関わっているうちに新しい夢が出来たんです」
「それがお医者さん」
「はい。今のところはお金を貯めて、夜間学校の学費を稼ぐのが目標です」
「学校か……フェンリルも手広くやってるんだな」
とは言うが、このご時世だ。教育機関もフェンリルの傘下にあるのだから不思議なことでもない。
ルミコさんがいつ頃目標金額を達成するかは定かではないが、彼女から治療を受ける日も来るのかもしれないな。もちろん、その日まで俺が生き延びていればの話だけど。
そう冗談めかして言うとルミコさんは眉を僅かに釣り上げて、少々怒気を含んだ口調で言った。
「冗談でもそんな事言わないでくださいっ。……知り合った人と会えなくなるのは、悲しいし寂しいし、辛いことなんですから」
突然の怒り声に思わず面食らう。けれど、どう考えても非はこちらにある。間違ってもこれから人命を救う仕事に就こうとしている人に言う台詞ではなかった。
「……そうですね。もう言いません、ごめんなさい」
「そうしてください! ……あ、いやっ、私こそごめんなさい、突然怒ったりしてしまって!? …………ええと、言い訳、というわけではないんですけど、一つお話をしても良いですか?」
「どうぞ」
ふう、と目を閉じたまま息を吐き、落ち着きを取り戻したルミコさんは静かに話し始める。
「私はここで働き始めるまで、幸運にも知り合いでアラガミの被害に遭った人は居なかったんです」
「でもオペレーターの仕事を始めてからは、もう何人も会えなくなった人達がいます。無線越しに最期の言葉を託されたこともありました。……この仕事がこんなにも死に近いなんて、ここに来るまで全然知らなかったんです。
私も一応神機使いの候補生ですけど、もう何年も経つのに全然適合する神機が見つからないんですよね……でもその時が来たら、前線でも治療を行える衛生兵になりたいんです」
「神機使いになってからは医療だけに専念もできませんからね、余裕のある今から医者としての腕を磨いておかなくては―――って、まだ卵にすらなってないんですけど」
あははは……、とはにかむルミコさん。早口ではあったが、口調には熱がこもっていて中々胸に来るものがあった。
「ちょっと熱くなりすぎましたね。すみませんでした、勉強の邪魔をしてしまって」
「いえ、こちらこそ熱意を分けてもらった気分だよ。情熱、決意って言えばいいのかな、どう言ったらいいか……凄い格好良いと思った。うむ、ルミコさん格好良い!」
「か、格好良い、ですか? 初めて言われました」
「あんまり女性には縁がない表現だしね。ツバキ先輩なんかはよく言われてそうだけど」
脳裏を過った眼光の鋭いアサルト使いの先輩の名前を出すと、途端にルミコさんは激しく首を上下させる。陰を抱えていた表情も一転して歳相応の少女らしいものに変わり、そしてまた先程とは異なる類の熱―――なんか
「確かにツバキさんは格好良いです! あの毅然とした振る舞いと威厳のある態度は女性にとってある種の憧れですからね! しかも美人だしスタイルも良いし、まさに完璧って感じです! 一部では密かにお姉様って呼ぶ子もいるくらいなんですよ! ……わ、私は流石に呼んでませんけど」
「ほ、ほう……」
お、お姉様……漫画の中以外でその呼び名を聞く日が来るとは思わなかった。リンドウの“姉上”でありながら“お姉様”とはツバキ先輩も大変である。
自称、お姉様呼びには至っていないルミコさんもこの様子から察するにツバキ先輩のファンではあるのだろう。……ふむ、ここは一つ、多くの人が知らないであろうツバキ先輩の秘密を教えてあげようか。
もったいぶるように伝えてみると、本当ですか!? と予想以上の好感触。これが前時代に聞く
「ツバキ先輩はね―――」
「……ごくり」
「―――料理が出来ない。それも壊滅的に」
「え、えぇー……予想外に地味な情報じゃないですかぁ」
今までの目の輝きは何処にやったのか、と問いたくなる程にルミコさんのテンションが急下降する。一体どこに不満があると言うのか。
「ちなみにですけど、壊滅的ってどの程度なんですか?」
「それはもう、レーションを丸焦げにする程らしい」
レーション。その言葉の意味を解した瞬間、ルミコさんの瞳に光が戻った。同時に目が見開かれる。
「レーション!? あの固形タンパクって調理できたんですか!?」
「出来るわけ無いじゃん」
あの味覚をこれでもかと軽視した
どうして、よりにもよって焼くのかと。焼いてしまっては要のタンパク質すら補給できない、単なる炭素の塊になるだけなのに。ツバキ先輩は料理以前に材料の選択から勉強するべきである。
「これはリンドウ情報だから確実だよ。ツバキ先輩は今でも月に一度の間隔で料理にチャレンジして、その度になんやかんやで黒い食卓を囲んでいるらしい」
「うわぁ……」
皿に乗る炭塊とそれを囲む雨宮姉弟とサクヤちゃん……ツバキ先輩は沈黙するだろうし、リンドウも姉を恐れて何も言えないに違いない。サクヤちゃんはツバキ先輩に気を遣って「お、美味しそ〜」なんて言っていそうだ。……いかん、想像するだけで可哀想だ。主にサクヤちゃんが。
「……今度、本人に確かめてみましょうか。家事には自信あるんで、力になれるかも」
ぽつりとルミコさんが呟いた。
「うん、俺からリンドウに話しておいてみる。だから、その時はよろしく頼みます」
「た、頼まれました!」
そんなこんなで、当人たちの預かり知らない食事改善プロジェクトが始動した。そんな夜だった。
神機使いにとっての日常とは、訓練を積み、壁の外へアラガミハンティングに赴くことである。
特に極東支部周辺は他所よりもちょっとばかりアラガミが集まりやすい土地柄なのか、外部居住区の防衛に大型アラガミの討伐と第一から第六部隊まで毎日忙しく働いている。
討伐部隊の第一部隊、防衛部隊の第二部隊、エイジス島防衛担当の第三部隊、遊撃担当の第四部隊……と分けられてはいるものの、部隊間での人員の貸し借りは日常茶飯事でそれほど厳密なものでもない。
しかし、それでも所謂“花形”とされている第一部隊に所属したいと思うのは神機使いなら……いや、男子足るもの当然の思考だろう。例に漏れず、俺も第一部隊に配属されることを期待して今日この時を待っていたのだ。
あの適合試験から早三ヶ月、リンドウと俺は支部長室に呼び出されていた。
「まずは、生きてこの日を迎えてくれたことに感謝しよう」
両肘を机につき、胸の前で手を組みながら支部長―――ヨハネス・フォン・シックザールは、そうして口火を切った。
「諸君も知っての通り、十五年前……未だ食物連鎖の頂点に人類が座していた頃、オラクル細胞は発見された。そして単なる一細胞に過ぎなかったオラクル細胞は、僅か四年後には今現在“アラガミ”と呼ばれている段階へと至り、我々を絶対的頂点から引きずり降ろした」
そこで言葉を切り、席を立つと俺達の眼前まで歩み出てくる。
「我々人類は絶滅の危機にあると言って過言ではない。諸君ら
「はっ!」
「本日を以って、極東支部第一部隊配属を命ずる」
「了解!」
一本軸を通した様な直立姿勢でリンドウは短く返答した。
にしても第一部隊か、訓練の感じからも予想はしていたが実際に告げられるとやはり驚きがある。さてはて、俺はどこに配属されるのか……。
「鴻上ユキナリ二等兵」
「はっ!」
「本日を以って、極東支部第二部隊配属を命ずる」
「了解!」
第二部隊……なんだかんだ予想通りである。第一部隊の隊長はヨシノさんだったけど、第二部隊は誰だったかな? 誰であれ上手くやれると良いのだけど。
そんなことを考えながら、俺達はそれぞれの部隊に合流するのだった。
第二部隊はバーチャル訓練での連携訓練から始めるとのことで、訓練室に訪れた俺を出迎えたのは見慣れぬ三人組だった。とは言え一人は既に見知った白髪の頭、シンヤ・ストイルスキー先輩だ。第二部隊だったのか。残る二人は山吹色と艶のある桃色―――ストロベリーブロンドだろうか―――の髪色が特徴的な女性陣である。
「やあやあ! 第二部隊にようこそ新人君! 私が第二部隊の隊長を勤める富井ユウリ、気軽にユウ隊長と呼んでくれたまえ! トミー隊長でもいいよ!」
「よろしくお願いします、トミー隊長!」
「あっはっはっは……出来ればユウ隊長の方が良いかなー、なんて。トミーって男性名だし……」
「ふふ、了解です。ユウ隊長」
群青色のスナイパーをぶんぶん振り回しながら大声を上げたのは山吹色のユウリ先輩だ。
ネイビーブルーのミリタリーボトムスとトップス。開かれたジャケットの前面からは、爽やかな白のニットインナーが覗いている。女性には少々力強過ぎる印象の軍用ブーツやノーフィンガーグローブが印象的だが、何より目を惹きつけるのは、そのへそ出しスタイルだった。あれではお腹が冷えてしまうのではないだろうか?
「はじめまして、オリアナ・ウィンザーよ。一応、サブリーダーをやっているわ。よろしく」
続くように、担いだ黄金色のショートブレードを肩に揺らしながら、ピンク色の髪の女性───オリアナ先輩が掌を差し出した。前述のユウ隊長が野戦的な服装をしていたのに対して、オリアナ先輩の格好はまるで対称的だ。
遠くからは気付かなかったが、俗に言う『天使の輪』がくっきりと見える髪の毛は黄色のリボンでポニーテールに括られていた。黒地を金で縁取った襟高の服は首元まで隙なく詰められていて、襟には真紅の裏地が顔を覗かせる。下衣の気品あるホワイトパンツ&ブーツも相まって
「鴻上ユキナリです。ご指導ご鞭撻の方よろしくお願いします」
「あら丁寧。礼儀正しいのは良いことよ。ホント、うちの若白髪にも見習ってもらいたいものね」
意外だったのは、きゅっと握り返す掌が日頃から神機を振り回しているとは思えないほど小さくて、傷や
思わず握った手をまじまじと見ていると突然、背後から襟首を引っ張られて、たたらを踏んで後退する。
「誰が若白髪か! これは銀髪だって言ってんだろ!」
「いや白髪でしょ、銀髪の煌めきなんて皆無じゃない。ユウもそう思うわよねぇ?」
「間違いなく白髪だね! 最近、更に白くなってない? ストレス?」
「生まれた時からこの頭だから! もし本当に白髪になってたら間違いなくお前らが原因だね!」
唐突に始まった先輩らの軽快なやり取り―――と言う名のシンヤ先輩へのからかいを前に呆然としていると、一番騒いでいた男がビシッと俺に向かって指を突きつけてきた。なるほど、礼儀がなってない。
「俺も忘れんじゃねーぞ、ユキナリ! 正式配属されたんだ、初陣みたいに優しくとはいかねぇからな!」
「あぁ、シンヤ先輩。その節はお世話になりました。これからよろしくお願いします」
「おう! ビシバシいくから覚悟しておけ!」
割り込む様に現れたシンヤ先輩の服装は―――別に描写する必要も無いだろう。黒い革ジャンバーと白髪のコントラストがモノクロってるお方だ。女性に目が行くのは男のサガ、どうか見逃してほしい。
「よーっし! これで自己紹介タイムは終了ってことで、早速訓練を始めよう! 仮想敵はコンゴウ! それじゃあ、お願いしまーす!」
ユウ隊長が観察室に向かって大きく手を振ると、スピーカーから了承の返事が聞こえてくる。そして十数秒後、鋼鉄の床と壁に囲まれていた部屋が荒野へと姿を変え始めた。
平坦な床には起伏が生まれ、電光の明かりは照りつける太陽となる。唐突な始まりにも関わらず、当然のように臨戦態勢に入る先輩たちに倣って、一歩遅れる形で自分も神機を構えた。
無意識に全身に力が篭もる。
とうとう、やっと、遂に始まるのだ。俺の神機使いとしての本当の第一戦が。確かにこれはバーチャル訓練に過ぎないが、この人たちと一緒に戦う……第二部隊隊員としての初陣には違いない。神機を握る手が震えないように少しだけ力を抜いて―――
「目標確認! 行くわよ!」
「了解」「よっしゃあ!」「了解!」
―――その第一歩を踏み出した。
「きっつ……」
訓練終了後、神機保管庫にて壁に背中を預けて座り込むリンドウに遭遇した。コバルトブルーの制服は砂に汚れ、髪に混じる砂埃は汗で固まり酷い様相を呈している。ちなみに俺のカーキの制服はさほど汚れていない。バーチャルの砂は所詮幻影、汚れらしい汚れは汗ぐらいなものだ。
「何でそんなに疲れてんの?」
「んあ……? ユキナリか……いや何、初めてだってのにハードな仕事だったんだよ。具体的にはコンゴウ五匹。新兵を群れの掃討に駆り出すなって話だよなぁ……ヨシノさん、予想外にハードな人だぜ」
「へえ、俺は連携訓練だったよ。先輩たちとも上手くやっていけそうだ。そっちもツバキ先輩とヨシノさんだから心配無さそうだな」
「まあな、その辺りはな」
手を掴んでリンドウを引っ張り上げる。第一部隊に配属されてかなり精神的に負担が掛かったのだろうか、とことん疲労困憊しているようで、どこか足下もおぼつかない。千鳥足とまでは言わないが足取りは不安定で、見ていられずに思わず腕を掴んで先導する。
まるで初陣の時の自分を見ているような気分だ。腰が抜けて立ち上がることすら出来なかった俺よりはマシだが、常日頃から飄々としていて、どれだけ疲れていてもお首にも出さないこいつでもこんな状態になるのかと、少し新鮮である。
「サンキュ。取りあえず部屋まで頼む」
「ったく、今度なんか奢れよ?」
「かーっ! ケチくせえ奴! ……自販機の飲み
「俺は優しいからな、十本でいい」
間髪入れず答えたそれを聞いたリンドウは、何かを言おうと口を開いて、しかし何も言わずに閉じた。そして項垂れた首を小さく振り、諦めたように呟いた。
「……仕方ない、か」
「なに変な小芝居してんだよ。冗談だよ、一本でいい」
「ゼロには」
「なりま……せんっ!」
「けっ!」
そんなこんなで新人区画までやって来た。
扉のカードリーダーにリンドウのIDカードを挿入すると、リーダー上部の小さい赤ランプが緑へ点灯し、扉がスライドする。
リンドウはもうヘロヘロの様だが、砂利まみれのままベッドに放り投げる訳にもいかない。とりあえず有無を言わさずシャワールームに押し込むと、しばらくして水音が聞こえ始めた。
さて、どうしようか。急いでシャワーを浴びるほど汗をかいた訳でもなし、やらなければいけない仕事があるでもなし。夕飯までの時間をどう潰すかが目下の議題だが―――やることがない。
何気に初めて入ったリンドウの部屋を観察してみると、ベッド上のブックスペースにファイル類と一緒に数冊の本が並んでいた。手に取ってみると、ハードカバーは所々擦り切れているが元は立派な装丁だったことが伺える。一冊二百
軽く捲ってみるが内容は難解でほとんど理解できない。哲学書であることは分かったがそれだけだ。カルネアデスの板やらなんやら、著者の名前も聞いたことすら無い人ばかりだが、どうやら本の元になっている文書は紀元前―――二千年以上も昔に記されたものもあるようだ。
遥か昔の文章が今なお受け継がれていることもだが、リンドウが哲学書を読んでいたことも驚きである。
あいつは、あいつがこれを読めると言うのか……!
しょうもない対抗心から文字とにらめっこしていると、ガチャリとシャワールームの扉が開く音が聞こえたので慌てて本を棚へ戻す。
何にもしていない風を装ってソファへ座り直した直後、リンドウが半裸で戻ってきた。全身から薄く湯気を立ち昇らせ、頭にはタオルを乗せている。サクヤちゃんの趣味だろうか? カラフルでポップな星マークのデザインがむさい筋肉男に絶妙にマッチしていない。
「ん、お前まだ居たのか」
「あ、あぁ。いや、もう戻ろうかね」
「かね? ……あ、ちょっと待て」
おもむろに冷蔵庫を漁ると、ほれ、と缶を投げ渡してきた。どうやら約束のジュースのようだ。見覚えのないラベルだが……。
「榊博士とシゲルさんの共同開発。未発表の新商品だぞ」
「なんでリンドウが持ってんだよ」
「この前偶然もらった」
「へぇ……で、うまいの?」
「飲んでないから知らん。でも、たぶんイケるはず」
なんたって天才コンビの合作だからな、と憮然とした表情で言い放たれたリンドウの言葉が俺の不安を煽る。彼らは技術屋としては文句無しに優秀だが、時々突拍子もない方向にその技術力を発揮するのだ。でかでかと『冷やしカレードリンク』と印刷されている茶色カイジ、決断……!
2017/04/09 18:00 (改:2017/04/09 18:25)コイツがジュースですら無いって事実すら吹っ飛ぶインパクト!! 手痛いジャブを喰らった気分だ、これが本当のカレーパンチってか!? アッハッハッハッ!
……とまぁ心中で騒いでみたところで、改めて冷やしカレードリンクを観察する。商品名は「冷やしカレードリンク」、原材料名は『複数の香辛料からなる食物、その他』となっている。原材料の記載が少なすぎやしませんかねぇ、その他に一体どれだけのものが含まれているのか……飲食可能なものではあるのだろうが疑念は尽きない。
それでも中身がラベルに忠実なら飲めない味ではないはずだ。子供はすべからくカレー好き。シゲルさんがリッカちゃんの好物であろうカレーを冒涜する様なことはしないと信じたい……。
「ささ、ぐいっと」
「うっ」
飲むのを躊躇っていると、見かねたリンドウが缶を取り上げ、プルタブを開けて突き返してきた。
匂いは……普通のカレーと変わらない。むしろ空腹の身としては食欲を掻き立てられる。
恐る恐る口をつけると、濃厚なスパイスの風味が口全体に広がった。もっと水っぽいかと予想したが、思いの外とろりとなめらかな食感、これは材料をペースト状にして混ぜてあるのだろうか。カレー自体は甘口だが冷たい状態でもかなり甘みの強い甘口である。温めたら甘くなりすぎて最早カレーじゃなくなってしまいそうだが―――悪くない。「スイーツカレー」とでも言おうか、カレーの新たなる境地に辿り着いてしまったかもしれない。思い出の中のカレーは常に甘口なのだ。
ごっごっごっ、と一気に喉に流し込み、空になった缶を叩きつけるように机に置くと空き缶特有の軽い音が部屋に響き渡った。
大きく息を吸い込んで一息吐くとリンドウが味の感想を催促する。
「どうだ、美味いか?」
「この味を表現するなら―――そう、濃縮濃厚超甘口スパイシーカレーという他ない。未体験の味だが……ふふ、悪くない悪くないぞ……!」
「あ、ど、どうしたお前……?」
冷やしカレードリンク……これは運命的な出逢いだ。俺はおもむろに立ち上がり、確かな足取りで颯爽と部屋を後にする。
「ありがとう、リンドウ。お前という友が居なければ、この出逢いはなかった。心から感謝する……それじゃあ、おやすみなさい」
「お、おぉ……おやすみ……」
扉の閉まる音を背中に聞きながら、足を向ける先は神機整備室だ。きっと製作者の片割れがそこに居るはず。販売実施の催促と予備の試作品があれば譲ってもらえるか交渉してみるとしよう。
カレー新境地へ、いざ―――
到着を告げるいつもの安っぽいゴング音と同時に俺は昇降機へ飛び込んだ。
新たなオリキャラ二名が登場しました。
出来る限りオリジナル感を排除するために、“シンヤ”“ユウリ”“オリアナ”の外見設定は「GOD EATER 5th ANNIVERSARY Official material collection」に掲載されているイラストからほぼそのまま採用しています。
それと私は小林くるみ先生の書く絵が大好きです!