一人だけオリキャラが出てきますがお気になさらず
「そういや今日はクリスマスイブか」
大学を中退して3年。私…田井中律はフリーターになった。他の皆はというと、ムギは家を継いで澪はモデルとして働き、唯は大型アイドルグループで長年センターを務めている
「この時間だとムギは仕事かな。澪は撮影があるから時間はないし…」
そう、私は暇なのだ。ド派手な街のイルミネーションや大型モニターに映る唯の笑顔から逃げるように公園のベンチに腰を下ろす
「…梓に電話してみようかな」
高校を出た後、いや、中退した二回生の秋まではよく使っていた「中野梓」の名前をタップする
『はい、もしもし』
「…えっ、あ、ごめんなさい!間違えました!」
ダンディーな男性の声がして焦ってしまう。私ってこんなだったっけか
『えっと…その声は田井中律さんですよね?少々お待ちください』
「は、はぁ」
私って有名人なんだな。放課後ティータイムのお陰かね
『お電話代わりました!律先輩!律先輩なんですか!?』
懐かしいその声に少し胸が痛む。ああ、間違いない。この声の持ち主はあずにゃんだ
「そーだよ。そうだから落ち着けー」
『ごめんなさい、取り乱しました』
「ところで今の男性は誰なんだ?彼氏か?」
『あ、いえ、主人です』
「なんであたしの周りはリア充しかいねぇんだよ爆発しろ」
梓曰く、私が中退して間もなく電話番号が変わったらしい。半年後行われた合コンでさっき電話に出た旦那さんと知り合い連絡先を交換したそうだ。
偶然にも彼のその携帯番号は以前梓が使っていた番号だった、というわけだ
「でもなんで声だけでこのりっちゃんだってわかったんだろうな」
『実は彼、私達放課後ティータイムのファンだったんですよ』
「あー…イベントとかで対バンみたいなのやったもんな」
『因みに推しメンは律先輩だそうで』
「嘘でも梓だって言ってほしいところだよな」
『本当ですよ、全く』
それでも結婚したということは、それ以外のところでうまいこといってるということだろう
『あ、そろそろケーキが焼きあがるので失礼しますね』
「すまんね、夫婦で団欒してるところ邪魔しちゃってさ」
『邪魔だなんてとんでもないですよ。…今度ゆっくりお話しましょう』
「うーい」
さて、本当にどうしよう。今家に帰ってもシャワー浴びて寝るくらいしかすることがない。そんなことを考えているとつい眠ってしまった
────────
あれ、暖かい
目を開けると見慣れない毛布が私をくるんでいた。公園には変わりないし鞄の中身も無事でえっちぃことをされたような形跡もないし…誰がやったんだろ?
「あ、やっと起きた。ったく、寝るなら家で寝ろよな」
「……澪?」
「なに?律」
「幻覚じゃない、よな?」
「帰り道、よくこの辺を通るんだ。そしたらお前がなんか悲しそうな顔で寝てるからさ。心配になったんだ」
「…そっか。ありがとう」
「どう致しまして……辛いこと、あった?」
「…いろいろとな」
「私でよければさ、いつでもどんな些細な事でも相談に乗るよ」
「ははっ、軽音部入る前と立場逆転してるな」
「本当だよ」
それからとりとめのない会話がしばらく続いた。楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと……辛いこと。
澪に会うこと自体久し振りだったし、何時間だって話せるような気がした
「…なあ澪」
「なに?」
「本当にさ、何でも相談していいんだよな?」
「当たり前だよ。だって私達は――」
「友だち、だろ?」
今年の初雪が、二人の間にひらひらと揺れ落ちた
どんどん降ってくる雪を見て微笑む澪。改めて私は思う
澪のことが、好き
気付けば私は強引に澪の唇を奪っていた。
ファーストキスの味は苺みたいな甘ったるい味だった
「なにすんだバカ律!!」
平手打ち。少し唇が切れた。あんな事をすれば当然のことだが、今は頬よりも心が痛い
「ごめんなさい…なんか、抑えられなくて…」
「ごめんなさい…本当にごめんなさい…」
涙がポロポロと、次から次へと溢れ出してくる。嗚咽を繰り返す度にさっきの甘い味と血の味が混ざってしまう
「なんで…あんなことしたの?」
「わかんない…わかんないよ…」
後悔と自責の念が強すぎて澪のことを直視できない
────────
「落ち着いた?」
「…ああ」
公園のベンチに二人。私は澪に缶の温かいココアをご馳走になった
それでも目線は合わせられない。逆に何で澪は平然としていられるのだろう
「なんで…なんで澪はそんなに平気なんだよ」
「うぇ!?え、えーっとそれはだな…」
急にゴニョゴニョし始める澪
「嬉しかったっつーか、何ていうか」
「澪」
「は、はい!?」
もう私は逃げない
「あなたのことが大好きです。付き合ってください」
苺みたいな甘ったるい味と白い雪が、私のすべてを奪った
-FIN-