フランちゃんは引きこもりたかった?   作:べあべあ

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第12話

「困ったわね」

 

 徐々に改装が進んでいるパチュリーの部屋。その中央でパチュリーとフランは悩んでいた。

 

「私たちが行くだけなら簡単なのだけど……」

 

 館ごと行くとなると少し勝手が違った。

 

「パチュリーが前に本を転移させた時の魔法は使えないの?」

「出来ないことはないと思うのだけど、転移する場所に私がいないといけない」

 

 互いに眉を寄せる。

 良い案が思い浮かばない。

 

「そもそも私が幻想郷に先行して屋敷を転移させようとしても上手くいかないと思うわ」

「なんで?」

「あの本は私の魔力をよく染み込ませておいたのよ。私との繋がりが強いからこそ出来たことなの。でもこの屋敷はレミィの魔力がよく染みついている。だからレミィにやってもらうしか……」

「あー、お姉さまかぁ。無理そうだねー」

 

 力技はかなり使えるが、そういった魔法らしい魔法は相変わらずである。何より本人が好まない。魔法より早く動いて攻撃した方がよくない? とかいう考えが根底にある。

 

「術式だけ組んで、それをなにかに移してそれをお姉さまに持たせるとか?」

「レミィに一人で任せてしまうのは危険よ。きっと予測外のことが起きるわ」

 

 どうなるだろうか、考えた。

 

「なんかお姉さまが爆発して終わる運命が見えた気がする」

「ええ、私もよ。本来はレミィの専売特許なのだけど」

「いやあれ結構適当だと思うけど」

 

 なんかそんな気がするとか急に言いだしたり、占い師まがいのことをやってみたり、フランはその都度姉を微笑ましく見ていた。

 しかし、よく考えてみると、

 

(当たってた気がしないでもないような、……ような? )

 

 そんな気もしないでもなかった。

 実際、フランが思ってるよりもレミリアのそれは頼れるものだったわけだが、

 

(いやいや、お姉さまに限ってそんな超能力まがいのことが出来るわけ……)

 

 まるで信じていなかった。別に馬鹿にしているわけではない。ただ純粋に信じていないだけなのだ。

 そんなレミリアが部屋にやってきた。

 

「ねー、まーだー?」

 

 催促。

 なんのことか即座に理解した二人は静かにキレた。

 

「レミィ、一人で先に行ってきてていいわよ」

「え? なんで? 皆で行きましょうよ?」

 

 なにいってるの? と言わんばかりのレミリア。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと後で追いかけるから。十年くらいかかるかもしれないけど」

「いや、すぐきてよ。ていうか、普通に皆で行きましょうよ」

 

 頭使いすぎて頭おかしくなっちゃったのかしらと、レミリアが思ったその時――。

 パチュリーは閃いた!

 

「分かったわ! 館ごと転移する方法!」

 

 テンション高いレアパチュリーに、姉妹はその方を見た。

 

「レミィに幻想郷に行ってもらえばいいのよ!」

 

 姉妹はパチュリーを可哀想なものを見る目で見た。

 

「……こほん。間違えたわ」

「あ、よかった。パチェの頭がおかしくなったのかと思ったわ」

「あなたに言われると屈辱ね」

「なんでよ!?」

 

 ぷんすか怒り出すレミリアを見ている内に、パチュリーは落ち着きを取り戻した。

 

「レミィの魔力が染みついたこの館を移動させるには、レミィに行ってもらうしかないのだけど、別にレミィ本体である必要はないのよ」

「どうゆうこと?」

「疑似的なレミィ、つまり眷属よ」

 

 フランが合点がいったように、あぁとうなづいた。

 

「でも私、そんなのした事無いわよ」

「でしょうね」

 

 おそらくやろうと思えば出来る。ただ考えたことがない。え? 直接殴ればいいじゃん? とかいう脳筋である。

 パチュリーはレミリアの手を見た。正確にはその先。

 

「爪をちょうだい」

「……私の爪?」

「それを使って呼び出すわ」

「爪でいいの? 牙とかのほうがいいんじゃない?」

 

 牙を見せるレミリア。人差し指でちょんちょんと触れている。

 

「爪くらいのほうがいいのよ」

「でも、もししょぼいのが出てきたら私の沽券に関わるかもしれないじゃない?」

 

 紛れもない本心だった。

 

「爪くらいのほうがいいのよ。レミィもかなりの、……そこそこの悪魔なのだから、変に格の高いのが出てきても困るのよ」

「ねぇ、なんで言い直したの?」

 

 話を進めるパチュリー。

 

「準備に少しかかるから、出来たら後で呼ぶわ」

 

 

 

 

 

 

 準備が出来ると、パチュリーは皆をとある空き部屋に呼んだ。

 部屋の中心には白い線で引かれた魔法陣あった。

 

「で、私は爪を渡せばいいのね」

「ええ。後の二人はなにかあった時の為に待機よ」

 

 フランと美鈴は気の抜けた返事をした。

 パチュリーが爪を受け取る。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 受け取った爪を魔法陣の中心へと放り投げ、目を閉じ本を抱えてなじゃらほいと唱える。

 すると、ぼわんと煙と共に、人型の影が現れた。

 

「――お呼び頂きありがとうございます」

 

 そのシルエットはうやうやしく頭を下げる。

 やがて煙が晴れると、その姿が見えてきた。

 赤く長い髪に、大小二対の蝙蝠の羽が頭と背中に生えていた。

 顔を上げると、その姿がはっきりと分かってきた。

 それは口を開いた。

 

「貴方がマスターでよろしいので?」

「そうよ」

 

 短く答えるパチュリー。その横に「っえ?」と、パチュリーの方を見る爪の欠けた悪魔がいた。

 

「では契約を――」

 

 周囲を確認しようと視線を移動させた悪魔は、ぎょっと目を見開いた。なんか面子がおかしい。

 その中でもひときわ存在感を放つ悪魔が口を開く。

 

「契約も何も、私たちの命令を聞くのがあなたの仕事よ」

 

 それは至極当然のように。

 契約を無視したその発言、だが呼び出された悪魔に反抗の意思は浮かび上がらなかった。

 力の差があまりにもありすぎた。悪魔も自身の能力に多少の自信はあったが、目の前の悪魔はレベルが違う。大きな蝙蝠の羽に、優雅に微笑む口から見える牙。有無を言わさずひれ伏すしかないようなカリスマ性、従う他に無かった。

 

「……ご命令を」

 

 呼び出した悪魔の様子を確認したパチュリーが口を開く。

 

「ちょっとレミィ。私が呼び出したんだから邪魔しないで」

「えぇ? でも私の爪じゃない」

「ただ媒介にしただけよ。無くても呼び出すことくらいは出来たわ」

「なによそれ」

 

 ぶーっと頬をふくらませるレミリア。

 

「話を元に戻すわ。えっと、あなた……、なんて呼ぼうかしら」

「小悪魔じゃない? そんなもんでしょ」

 

 ふてくされたように口をはさむレミリア。

 レミリアからしたらそんな感じの存在である。他の比較対象をロクに知らないから仕方がない。

 目の前の悪魔は否定したかったが、確かに目の前の存在と自分とではそのくらいの力の差があると、何も言えずにいた。

 

「そんじゃ、よろしくねー」

 

 紅魔館の良心フランは、小悪魔に手を差し出した。

 

「あ、はい――」

 

 手が繋がれた瞬間、小悪魔は硬直した。目だけ動かし、フランの目を見る。深い赤色が見えた。良心じゃなかった。

 小悪魔は反射的に頭を下げた。ギャラリーその2くらいなものだと思っていたが、触れた瞬間色々と分かってしまった。

 

 状況を察したパチュリーが口を出す。

 

「一応言っておくけど、召喚したのは私。つまりあなたの主人は私だから」

「――かしこまりました」

「理由は分からないでもないけど、ある程度は楽にしていいわ。扱いづらいのも困るから」

「はぁ」

 

 色々とついていけずに曖昧な返事になった。

 

「そう、そんな感じでいいわ」

 

 紅魔館に新たな住民が加わった。




次は少し長いです。

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