フランちゃんは引きこもりたかった?   作:べあべあ

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第32話

 空は暗かった。

 夜だった。

 月も星も雲も、きれいだった。

 夜空は、とてもきれいだった。

 

「ねぇ、ゆかりん。私、好きだよ」

 

 フランの言葉。

 紫は首を傾げた。

 フランは言葉を付け足した。

 

「ここ、幻想郷のこと」

 

 紫は嬉しそうに微笑んだ。

 

「そう」

 

 短い返事。

 

「だからね、ゆかりん。とっても綺麗」

 

 紫は可愛らしく首を傾げた。

 

「私のこと?」

 

 フランも同じ方向に首を傾けた。

 

「ん?」

 

 合点がいった。

 

「あぁ、幻想郷のことだよ。あ、ゆかりんも綺麗だよ」

「それはどうも」

 

 にっこり笑顔の紫。

 フランはなんかフォローする気になった。

 

「わぁ、ゆかりちゃんちょーきれー」

「ちょー嬉しいですわ」

 

 笑顔が深まった。

 フランは後ろめたい気持ちになった。

 

「なんかごめんね。呼び出して」

「えぇ、別に構いませんことよ。私とフランちゃんの仲でしょう?」

 

 芝居がかった声色。

 フランは、顔に笑みを張り付けて返した。

 

「わぁ、ちょー嬉しい」

「ちょー、どういたしまして。――で、ただお話しするために呼んだのではないのでしょう?」

「うん、そうだよ。弾幕ごっこでもどうかなって」

 

 どういう意図なんだろうか、ゆかりちゃんはちょっと考えた。

 が、特に思い当ることが無かったので、聞くことにした。

 

「理由を聞いても?」

「ちょーいいよ。そのつもりだったしね」

 

 と言うと、フランは固まった。手をあごに当てて、考えている。

 次に言う内容をまとめようとしていた。

 

「んー」

 

 が、いまいちまとまらなかったので、そのまま垂れ流すことにした。

 

「……なんていうかさ、ゆかりちゃんさ、ぶっちゃけ私の事、警戒してるでしょ?」

「あら、それはどうかしら?」

「いや、別に隠さなくてもいいんだけど。でもここで私がどれだけ言葉をたくさん使ってもきっと信じてもらえないから、てっとりばやく弾幕ごっこでもどうかなって。その為のものでしょ、これ?」

 

 スペルカードを出すフラン。

 

「あら、どうしてそう思ったの?」

「心を読むことなんて出来ないけど、心を感じることくらいは出来るから」

「ふぅん?」

「怒ってることを表すには、ぶっちゃけ殴っちゃうのが早いよね。ま、そんな感じ。行動で表しちゃうのが分かりやすいよね。だから、これ。弾幕ごっこ。美しさを競うだなんて、要は弾幕で何かを表現しようとさせたいんでしょ? それをぶつけ合うことで、理解が生まれて相手を知ることが出来る。そんなとこでしょ?」

「霊夢が言い出したものだから、私にはよく……」

「どうせなんか上手くやっただけでしょ」

 

 じーっと紫を見るフラン。

 紫はゆるやかに視線をそらした。

 

「ほら、ゆかりん嘘つくの上手そうだし」

 

 紫は目元に手を当てて、傷ついたようにして言った。

 

「ひどいわぁ」

 

 しくしく泣きまねをした。

 

「だってゆかりんに都合よく出来すぎてるんだよね。まぁ別に確証を得る必要はないんだけども」

 

 フランは大きく呼吸をした。

 

「私の目的はそんなんじゃないし」

「へぇ?」

 

 紫は泣きまね状態の手から、ちょろっと上から覗くようにして目を出した。

 目が合った。

 

「そんじゃ、本題に入ろうか」

 

 フランはゆっくり目を閉じて、ゆっくり魔力を練った。

 ゆっくり目を開く。

 スペルカードの宣言。

 

『禁忌 恋の迷路』

 

 腕をゆっくり、渦巻きを描くようにして回した。合わせて魔力弾が次々に出てくる。

 

「恋って何だと思う?」

 

 フランは問いかけた。

 

「恋だなんて、フランちゃんは随分可愛らしいこと言うのね」

「ちょー可愛いでしょ」

「えぇ、とっても」

 

 紫は余裕をたもちながら、やってくる魔力弾を避けていく。

 

「私はね、思いだと思うんだ。んで、思いが迷路に迷ったように、ぐるぐる、ぐるぐるして、で、たどり着くんだ」

「どこに?」

 

 避け切った紫。

 次のスペルカードの宣言。

 

『秘弾 そして誰もいなくなるか?』

 

 フランは右手を開いて、閉じた。

 フランの姿は消え、周辺から魔力弾が現れた。

 ――――。

 

「何もなかったことに」

 

 紫は弾幕を避けていく。

 元の場所に光が集まっていった。

 フランの姿が現れた。

 

「でも、私がいなくなるなんてことはない。世界そのものがなくなりでもしない限りね。だから何もないなんてことはないんだけど、私があると思っていたものはなかったりする。――で、ゆかりんは避けてばっかなの?」

「そうねぇ、じゃあ私も何かしてみようかしら」

 

『結界 夢と現の呪』

 

 二つ、光弾を放った。点滅するように、大きくなり光が増した。その後、消え、妖力弾が現れフランへと向かっていった。

 

「夢と現、そこには境があると思う?」

「あると思えばあるし、ないと思えばない。境を作るのは受け取り側だから」

「あら、それは大変。私の術がバレちゃいそう」

「ぶっちゃけ答え合わせにきてたりする。いや正確に言うと、言いたいかから来た」

「ふぅん?」

 

 通常回避困難な弾幕も、フランには当たらない。

 

「では、これはどうかしら?」

 

 スペルカードの宣言。

 

『境符 色と空の境界』

 

 眩い光。光が針のように全方位に伸びた。

 

「ヒントは充分かしら?」

「うん、充分」

 

 針のように伸びた光の間にいるフラン。紫が新たに放った円形の妖力弾を見ている。表情に焦りはない。

 

「境界、それは引くもの。つまりそれは引く前のものがあるということ。境界がないと、全てがどろどろの泥のような何かみたいなものになっちゃう。でも、違う。私はきちんと物事に境を引いて、形あるなにかのように認識することが出来る

 でもゆかりんはそこを操る。物事の境界を操って、認識出来ていたものを認識出来なくしたり、また別に新たに境を作ってみたりする。そうやって世界に干渉してスキマを作ってる。そりゃ真似出来ないはず。私には出来ないことだから。どう? 大筋合ってるんじゃない?」

 

 紫は少し考えた。

 

「……ええ、そうね。それで、何が言いたいのかしら?」

 

 紫は見せびらかすように、大きなスキマを作り出した。その絶対的ともいえる力。例え知られていようと構わない程の。

 

「私は楽しそうにしてるお姉さまがいればそれで良いってことかな? 私がやりたい事なんてものはない。特別欲しいものがあるわけでもなければ、世界を変えようだなんて思わない。ただ私の心が幸福を感じる、それだけで良い。そう、それで充分。その為の方法なんていくらでもあるし、一番の方法も知ってる。初めから変わらなかった。だからね、私は今が幸せだと思う」

 

 スペルカードの宣言。

 

『QED 495年の波紋』

 

「ってことで、もっとゆかりんと仲良くなろうかなって。初めて会った時、ちょっと聞かれたことでも答えようかと思ってね、でもその前に私の考えを聞いて欲しかった」

「それで?」

「私は、世界の中にあるということ。境界を引こうと引かまいと、認識出来なくなるだけで私はちゃんと世界のなかにあるということ。世界の中にある私は、世界を見ることが出来る。私が手を開き、閉じるということは、世界に触れるということ。私の目はあらゆるものを見ることが出来る。見ることが出来るというのは、私の中で見たものを認識出来るということ。それは世界の中から切り出し固定するということ。

 私は世界の中で私の求めるものを見る。私の手の中には世界がある。私の求める世界の破片を世界から見つけ、触れる。つまり、私はありとあらゆるものを破壊出来るということ。あと、ちょー可愛いかもしれないお姉ちゃんもいる」

 

 紫はじっとフランを見ていた。

 

「だから初めに言ったんだ。私はここ、つまり幻想郷が好きで、とっても綺麗に思うって。そんで、ゆかりんと仲良くしたいって。例え境界を歪められても、私の目はちゃんと世界を映してくれる。受け取る私さえ見失うことがなければね。

 そんな感じで、互いに世界を壊すことが出来る程度の力あるけど、互いに壊したくないものはあるはず。てなわけで、言葉はもう使い切ったから、あとは行動で示そうかな」

 

 紫は口を開いた。

 その口元は緩んでいた。

 

「よく、分かりました。では、せっかくですし少し楽しみましょうか。ああ、それと今度、藍でも連れてうどんでも食べに行きませんこと?」

「いいね、それ」

 

 スペルカードの宣言。

 

『深弾幕結界 -夢幻泡影-』

 

 ――――。

 

『霊符 夢想封印』

 

「このっ、馬鹿ちんが!」

 

 なんか飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼。

 博麗神社にて。

 陽があたたかに差し、境内に優しげな影をつくっていた。

 もろに陽が当たっている様子の縁側には、陽の光には似つかわしくない異形の者が正座しており、その前にはぐちぐちと何か言っている巫女がいた。

 

「ちょっとぉ、れいむぅ。私、いつもは寝てる時間よぉ?」

「うっさいわね! あんた達のせいでしょ!?」

「あーあ、ゆかりん言われてるよ?」

「あんたもじゃ!」

 

 紫とフランの頭に御幣が振り下ろされた。

 

「もう痛いわねぇ。そんなんだから暴力巫女だなんて里でウワサされるのよ」

「ウワサってか、ただの事実になってるよね」

 

 そう言う二人は「ねー」と顔を見合わせた。

 霊夢のこめかみがひくついた。

 

「……あんた達が真夜中に暴れてるから、私が急きょ出動するはめになったのよ」

「別にいーじゃん、あのあとちゃんと寝たんだし。まさか神社にお泊りすることになるとは思わなかったけど」

「見張っとかないと、あんたら逃げるでしょ」

 

 お泊り会にはもれなくどこぞの吸血鬼(姉)がついてきた。あと、同じ枕じゃないと寝れないとかいうスキマ妖怪のために、どこぞの狐が枕を持ってきていたりもした。尻尾ではない。

 

「はぁ……」

 

 次はなんと言おうかと、霊夢は顔を天へと向けた。

 青い綺麗な空に、柔らかな雲が浮いてた。

 少し眺めると、覚悟を決めた。

 ちょっと勇気がいることだった。

 

「――で、あんたはなんでいるわけよ?」

 

 フランも続いた。

 

「あ、それ私も気になる」

 

 答えが返ってきた。

 

「こうして誰かと一緒に説教とかされてみたかったの」

 

 ピクニック感溢れる嬉しそうな声。

 時間の流れが止まった。

 一番慣れたフランがいち早く立ち直った。

 

「さすがにどうかと思うよ、幽香」

「そうかしら?」

 

 紫、フラン、幽香、の順で、フランが緩衝材のように座っている。みな正座である。

 紫は流し目で幽香の方を見た。少しトゲがあった。

 

「地べたをはいずるお花ちゃんにはお似合いの恰好だと思いますわ」

 

 嘲るような口元を扇で隠す紫。

 幽香はいつもの笑みのままだった。

 でも口からは毒が出た。

 

「あれこれいじりすぎて身の程を忘れてしまったのかしら? 可哀想ねぇ」

 

 紫の笑みが濃くなった。

 

「枯れかけてうな垂れたお花ちゃんにも地面以外が見えたのねぇ。不思議ですわぁ」

 

 幽香はいつもの笑みのまま変わらなかった。ただ、日傘を持つ手付近から妙なきしみ音がしていた。その日傘の庇護下にいるフランもまた笑顔のままである。その視線は、自身を挟む両者にも、前にいる霊夢にもなく、別のところにあった。

 その視線の先から音がした。

 カシャッ。

 同時に、発光。

 

 その音の方向へ、残りの三人が視線を移した時、黒の翼が空を舞った。

 

「うひゃひゃひゃ。超レアもの頂きましたァ! ――それでは!」

 

 幻想郷最速。その名は伊達ではなかった。

 この場を去ろうとした射命丸文の体は超速で飛び去った。

 が、その行く先に大きな空間の裂け目が生まれた。

 

「わぉ! ですが、甘いですよ!」

 

 一瞬止まった文だったが、そらもう早い逃げ足を活かし、素早く方向転換を行った。

 しかし、スキマが出来るより先に、地上から草花が包囲するように伸びてきていた。

 とはいえ成長速度には限界があった。文は足に絡みつこうとしてきた草花に対し、余裕を持って対応した。手に団扇を持ち、それを扇いで風を起こした。起きた風は鋭く、刃となった。

 そしてすぐに空気に散った。

 

「へ?」

 

 文の足に草花が絡みついた。

 

「あ、ちょっ」

 

 もう一度、風を起こし、刃を作った。

 そしてすぐに消えた。

 何にをされたのかと、視線を原因の方向へ向けると、疑問より先に、よく分かる危機が見えた。

 青いオーラを纏う陰陽玉。

 

「」

 

 縁側に正座する者が一体増えた。

 

 おおむね神社は平和であった。

 境内には、独楽回しに興じるべろんべろんの鬼と、なんか妙に熱中している吸血鬼がいた。熱中する主人の動きに合わせて日傘を動かす妖精は忙しそうだった。屋根の下では、台所で一人の瀟洒なメイドさんが慣れた手つきで人数分の昼食の用意をしていた。

 

 幻想郷はおおむね平和であった。




お疲れさまでした。

ここまで読んで頂いたこと、感謝の念しかございません。

ということなので、渾身の一発ネタ

おつか鈴仙!

はい。
きれいに締まりました。ありがとうございました。

 ――――

一応番外編を一つ考えております。
仮題『お稲荷大異変 ~藍しゃまの野望~』
幻想郷中の食べ物が稲荷になってしまうというそらもう大変な異変です
たぶん書きます。

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