魔女見習いは25歳を前に、美魔女になることを選んだ   作:ミウラ ジン

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第五章

 

「遅いよー」

「ごめん。南口と間違えちゃってさ」

「あー、あるあるだわ」

 撮影旅行当日の朝。待ち合わせ場所である日暮里駅の改札前、集合時刻ギリギリに到着すると、大きめの手提げ袋を肩に掲げた、地味ながらも動きやすそうな格好の釜本が待ち構えていた。

「ごめんごめん。いや、カメラどこに置いたか分かんなくなっちゃってさ」

 私に続いて木山も姿を現す。

「おはようございまーす!」

 そして、普段は見慣れないメンバーがもう一人。

「おー、おはよう。朝から元気だね」

「あれ、りおさんって今日衣装は?」

「あ、今日は撮る側。カメコのお姉ちゃんだよ~」

 先日のオンリーイベで一緒に写真を撮った3人組のうち、一番背が高い女の子。ミサちゃんというらしく、いつの間にか木山に気に入られて今日の撮影旅行にも呼ばれたらしい。

「これで全員ですか?」

「いや、私の後輩も来るの、さやかちゃんっていうんだけど」

「珍しいね、アンタが知り合い連れてくるなんて」

「あ、うん。なんか興味出たみたいで」

 心の奥でもやっとしたものが再発する。彼女はああ言っていたけど、私が用意すると宣言した手前何もしないままというわけにはいかない。

昔使ったことのある制服系の衣装をカバンの奥底にしまってきたし、もし何かあればこれを渡せばなんとかなるだろう。

「お疲れさまで~す」

 甲高い声とパタパタと走る音がこちらに近づいてくる。

「あ、きたき、た……」

私の目に――いや、ここにいる全員の目に飛び込んで来たのは、

「いや、遅れてごめんなさい。ちょっと気合入れすぎちゃって」

 普段なら絶対に着ていない、全身フリフリの、ロリータチックな服装に身を包んだ後輩の姿だった。

「あ、うん……」

「初めまして、畠山さやかって言います。野崎先輩の大学の後輩で、今日は皆さんについていくことになりました、よろしくお願いします」

 恐る恐る釜本と木山の顔を見ると、

「そ、そうなの。ね、よろしく」

「そ、そーだね。じゃあ行こうか」

 分かりやすいほどに困惑している。駄目だ。とてもじゃないけどこのままじゃ連れていけない。

「待って」

「何か?」

 そっと彼女に近づき、小声で話す。

「それさ、今日の衣装?その、袋に入ってるやつ」

 彼女の手には大きく膨らんだ黄色のビニール袋が握られていた。間違いなく、ドン・キホーテで買ったものが入っている。

「はい。ちょっと準備が間に合わなくて、色々買って済ませちゃいましたけど」

 確かに、ドン・キホーテ新宿店なら24時間営業しているから私も困ったときは既製品を買ったりもする。しかし、それはあくまで後で加工するためのものだ。

 さやかちゃんは今、いわゆる『制服セット』をそのまま持ってきてしまっている。

「それ、なに?服」

 それに感づいたのか、釜本が割って入ってくる。

「え、これ? 可愛いでしょ? 貰い物の服なんですけどフリフリが」

「それじゃなくて、袋の。これ、ドンキで買ったやつでしょ」

「あ……すみません、自分で作ろうとしたんですけど、間に合わなくて」

「あ、ごめん。これもともとは私が」

「今日はね、野外の撮影なの、コスプレに馴染みがない土地で撮影なの。それなのにさ、ドンキで売ってるような安いモン着て適当にウィッグ被って、それでコスプレやってるって顔されると、そういう遊びの集団に思われちゃうんだよ」

 釜本は冷静に、淡々と事実を述べる。

「ごめんなさい、色々、分かんなくて」

「そうだよ、その、初心者なんだしさ」

「初心者は仕方ないけどさ。今日は私たちが個人的に撮影に行くの、イベントとかじゃなくて。それなのに、旅行気分で来られると困るの。衣装は、サイズ合いそうなやつ貸してあげる。その私服も、むこうについたら着替えてもらうからね。着替えは向こうで買えばいいから」

「え、着替えないとダメなんですか?」

「だから、遊びじゃないんだって」

「……遊びじゃないんですか?」

「は?」

「可愛い衣装着て、みんなと撮影会して、終わったらみんなとご飯食べて」

「あー、ごめん。なんかいろいろ伝わってなくて」

 確かに、撮影旅行としか伝えていなかった。普通の人ならそういう感想でもおかしくない。

「なんで先輩が謝るんですか。コスプレってそこまで完璧にやらなきゃいけないんですか。趣味じゃないんですか?」

「畠山さん。趣味に本気出してる人もいるんですよ」

「完璧主義っていうやつですか?」

「さやかちゃん!」

 ああ、ダメだ。なんでこうなるかな。

「……ねぇ、この子今日はちょっと無理じゃない?」

「……わかりました。やめておきます」

 

 ☆  ☆   ☆   ☆   ☆

 

「どうなった?」

 待ち合わせ場所からそう遠くないところにあるガードレールに、木山は腰かけていた。

「どうにもこうにも」

 目を腫らして帰ってしまうそうだったさやかちゃんを追ったはいいものの、どうにも慰められる状況ではなかった。

「ミサちゃんは?」

「なんか、ついててくれてる。今二人でマックにいるって」

 先輩として何もできてない。慰める、というか、声をかけてあげることも、近くにいてあげることもできない。

「釜本は?」

「吸いに行った」

「そっか」

 大抵、釜本はこういう時はニコチンに頼る。普段は滅多に吸わないのに。

「あの子さ、さやかちゃん? そっくりだったよね」

 木山の言わんとしてることがなんとなく解る。

「昔の釜本に?」

「そう。食いつき方とか、さり際の捨て台詞とか」

「なんかさ、面白くなっちゃった」

「そう」

 何が面白いのかわからないけど。

「……あのさ、野崎。関係ない話ししていい?」

「どーぞ」

「昔はさ、本気でお姫様になりたかったんだ」

「へぇ」

 急に語りだした友人の意図を汲めず、気の抜けた相槌を打つ。

「可愛くなりたくてさ、その、可愛いモノばっかり集めてさ。なんだろね、可愛いモノ持ってると私まで可愛くなったような気がすることって、あるじゃん?」

「知らないけど」

「あるの、そういうの」

「ふぅん」

「でもさ、その、あるとき気づいちゃうんだよね。気づいちゃうっていうか、気づいてるんだよね」

「……」

「私、」

「……ねぇ、その話やめない?」

「なんで」

「聞いててイライラする」

「私に?」

「もう、色々」

「そっか」

「……あー。死にたいね」

「そだね」

「あ、そだ。もう、流れで言っていい?」

「何?」

「今度結婚するんだ」

 

―――結婚か。そっか。そうだよね。

 

「いつ?」

「社員さんと」

「あ、私の知らない人か」

「そ」

「おめでとー」

「うん」

「じゃあさ、辞めるの?」

「何を?」

「私たちはコスプレイヤーだよ?」

「……多分やめる」

「急だねぇ」

 急じゃない。たぶん、前々から何となく知っていた気がする。

「いや、だって、ねぇ。引き際じゃん。もうそろそろ、25だしさ」

 正確にはまだ24だ。でもまぁ、24も25もそう変わらない。ババアだ。

「あーーーー。そっか、もう25か。ババアだね」

「アンタもね」

「死ね」

「ホントのことじゃん」

 木山の言うとおりだ。まだ若いとかなんとか言われるけど、この世界じゃもう生きてゆけない。

年齢は残酷だ。

「木山さぁ……たまにはさ。普通に旅行したくない?」

「それな」

 

――――PbPb

 

(釜本未来 からの新着メッセージ)

 

「……」

「……」

「サイゼで何か食ってから帰るか」

「うん」

 

 

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