魔女見習いは25歳を前に、美魔女になることを選んだ   作:ミウラ ジン

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最終章

 ☆  ☆   ☆   ☆   ☆

「いらっしゃいませ、3名様で。おタバコはお吸いになられますか?あ、会員証を……ありがとうございます。二時間で。ドリンクはどうなさいますか?はい、かしこまりました。では、205号室になります。ごゆっくりどうぞ」

 いつもどおりの日常。普通の仕事量。

 私がフロントで客対応し、店長が裏回りの手筈を整える。

今日は私と店長の二人でしばらく回さなければならない。平日の昼間だし、まぁそこまで難しいことではないのだけれど、それにしたって忙しいことには変わらない。

「店長」

「今忙しいんですけど」

「私このバイトやめます」

「……どうして?」

「ちょっと、ちゃんと就活とかやろうかなって」

 これは半ば本心だ。そろそろちゃんとしなきゃいけない。学生の身分でいられるのもあと1年しかないのだ。

 いや、就活のことも考えたら1年なんてアッと言う間だろう。

「……そう。頑張りなさい」

「理由聞かないんですか?」

「聞いて欲しいんですか?」

 我ながらめんどくさい質問の仕方だと思う。

「できれば」

「じゃあ、聞きましょうか」

 フロントのマイクの本数を数える作業をしていた店長が手を休める。

「私、けっこうシフトに穴あくじゃないですか」

「そうですね」

「あれ、実はその、コスプレやってまして」

「……うん」

「毎週イベントとか、撮影とか。平日は衣装自分で作ったりとか。それで、だいぶ休んじゃったんですけど」

 言いながら、どれだけそれに時間を費やしていたのかぼんやりと計算する。我ながら、かなりの時間を注ぎ込んできたものだ。

「今度、コスプレ、やめることにしました」

 バイトとコスプレ。私の学生生活のほとんどを占めていたその2つを、今私は手放そうとしている。

「もうすぐ、25で、そろそろ引き際かなって。今からならやりなおせる気がするし」

 そうだ。私はまだ若い。いくらでもやり直しがきく。そういう年齢なんだ。

「普通に就職して、普通に働いて、できれば結婚して。その、できればお金持ちの人と結婚して、玉の輿に乗って、そんで、エステとか美容とかにめっちゃお金使って、ワイドショーとかに美人妻とか美魔女って取り上げられて」

 人より、2、3年。ちょっとだけ遊びすぎただけだ。がんばれば、取り戻せる。

「そんな生活を送りたいんです。だから、やめます」

「……わかった」

 何が分かったのだろう。コスプレもしない、大学にも通ってないカラオケ店の店長が、何を分かったというのだろう。

「……ちょっと待っててくれる?」

 そう言い残して、店長はバックヤードへと姿を消した。

 この店で働いているのは、私のような学生か、フリーターがほとんどだ。社会的にまだ未熟な立場の人間をまとめて指示をする。シフトに急に穴をあける奴もいるし、口の利き方もきちんとしていない奴もいる。そんなグータラ集団をまとめて店を切り盛りするとこがどれだけ大変なことか、今なら少しだけわかる。

店長が戻ってきたら、ちゃんとお礼を言おう。そう決意して数秒後。バックヤードから人が入ってくる気配がした。

神妙な面持ちで店長が姿を現した。

「店長。いままでありがとうございまし―――」

『ようこそ、魔法堂へ。よほど切実な願いを持つと見える。私が魔法で、願いを叶えてあげようか。願いによっては、何かよからぬことが起きるかもしれないけどね……』

 マジョルカのコスプレをして。

「…………………」

「どうですか」

「えっと、店長?」

「私もコスプレしてるんです、実は」

「……は?」

「私もコスプレしてるんです。私は、アナタの、味方です」

 

【急募】この状況を説明してくれる人。

 

「いい歳してアニメ見て、コスプレなんかして、恥ずかしいですよね。普通に就職しろって話ですよね」

「そ、そうですよね」

「あまったれんなああああああああああ」

「はいいいい?」

「私は、アニメが大好きです!コスプレが大好きです!それでいいじゃないですか!私、コスプレ始めたの小学生の時からなんですけど!ずっとやってますよ!コスプレのために生きてますよ!コスプレのためにカラオケの店長とかいう微妙な職で婚期も逃しながら全力でキャラクターになりきってますよ!私は、コスプレが好きすぎて!もう職場にも取り入れてますからね!知ってますか?カラオケ館でコスプレ衣装の貸出してるの、あれ、私が実現させたんですよ!私が自腹を切って本社にお願いして始めたんですよ!今じゃ大体の店舗でやってます!そのくらいコスプレ大好きなんです!」

「……」

 呆気にとられる、というのは、このことなのだろう。私はただ、目の前で起こっている出来事を認識するのに精いっぱいであった。

「まぁ、どういう選択を取ろうと自由ですけど。嫌になったからってやめてるようじゃどのみち玉の輿に乗って美魔女になんてなれませんからね」

 もっともらしいことをコスプレしながら言われてもなんとも言えない気持ちにしかならない。

「よし!歌おう!」

「は……? 勤務中ですよ?」

「関係ない! 私が! おごるから! 今日は! 好きなだけ !歌おう! 歌うんだ!」

 

 ☆  ☆   ☆   ☆   ☆

 

 そこから先はよく覚えていない。

 確か、最初は私と店長だけでひたすら懐かしのJ‐POPを歌っていたのだけれど、途中からなぜか近所の別の店で一人カラオケをしていた釜本が来て一緒に歌った。

 店長が勝手に私のスマホで「コスプレ仲間」で電話帳登録していた友人たちに連絡を取ったらしく、そのあとも釜本だけではなく、木山やミサちゃん、ほかにも別のイベントで知り合った藤真廉ちゃんとか、古くからの知り合いのカメコの鈴木さんとか、本当にいろんな人があの場に集合した。

 店長が何者なのか、それも未だにわかっていない。

 

「怖いですね、その店長って人。殆ど犯罪じゃないんですか?」

「いや、携帯にロックかけてなかった私も悪いんだけどさ……」

「あーあ。私も先輩と一緒に歌いたかったですよ」

 さやかちゃんも呼べればよかったけど、生憎電話帳のカテゴリは「大学仲間」だったので店長からの強引な呼び出しの被害には合わなかったらしい。

「それよかさ、結局釜本に謝った?」

「あ、はい。一回電話しました」

「え、連絡先知ってたっけ?」

「先輩の携帯拝借したんで」

「殆どじゃなく完全に犯罪でしょ」

「まぁまぁいいじゃないですか。それより、今度じゅりさんたちと行くイベントのことなんですけど――」

 さやかちゃんはというと、反省の意思を見せんばかりにコスプレにのめり込んでいる。

それまであまり観ていなかったアニメも観はじめ、ゆっくりとだけどこの世界にどっぷり浸かって行く様を見ていると、先輩としてストップをかけるべきか悩みどころだ。

「先輩、新しいコス作らないんですか?」

「いや、作る気はあるし、作りたいんだけど……」

「魔女マギの放送終わるからやる気でないんですか?」

「知ってるなら聞かないでよ」

 アニメというものに限らず、始まったら終わりを迎えるのである。私が今季一番のめり込んだアニメ『おジャ魔法少女☆どれみ♪マギカ』は、今流れている放送を最後に最終回を迎える。

「あー……終わっちゃった……」

「泣かないでくださいよ。また次、面白そうなアニメ見つければいいことでしょ?」

「それが簡単に見つかったら苦労しないよ……」

 目の前のテレビでアニメが終わってゆく。最終話にありがちな、オープニング曲をエンディングに使い、主人公たちのその後みたいなものが匂わされる演出がつけられたシーンで幕を閉じる。そして、

 

「「みんな、久しぶり!私たち、美魔女のミツとレイ。ちょっぴりご時世に疲れちゃった年齢不詳の美魔女。え、え~~、どうして私が魔女になって悪の組織と戦うことになっちゃったの!?なんだろう、胸の奥がキュンキュンしちゃう、ドキドキが止まらないよ~!新番組『ふたりは美魔女』毎週日曜あさ8時半から、9月6日より放送スタート!年取ってるからって、舐めるんじゃないわよ!」」

 

「見つかった……」

 

 二期の放送が決まった。

 

 

 

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