やはり俺の高校・大学における青春ラブコメはまちがっている   作:一級狙撃手

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はいどうも、文レベルの低さに定評のある一級狙撃手です。


半年くらい前から書き続けて溜まったので投稿します。

稚文なのに量が多いという……。

頑張って読んで下さい。今回は二万五千字あります。


第一章【俺の周りの関係変化】
ある春の日に


春。それは、いろんなものが目覚める季節。それは、植物や冬眠が終わった動物たち、……言いたくはないが、変質者も変な方向に目覚める季節である。

 

そんな春の日の昼下がり、俺……もとい、比企谷八幡は学校で昼休みを満喫していた。

 

「さて、いつもの場所(ところ)へ行くか」

 

最近のマイブームは、《音楽をかけながら読書をする》という、他の人が聞いたら『なぜ、そうなった』と、言わんばかりの訳わからん事をしているが、正確には、読書はしていない。『理由は?』と聞かれたら(絶対に聞かれないが)『ただ、なんとなく』である。

 

さて、話を戻そう。いつもの場所というのは、裏校庭側の校舎の壁のすぐ近くにあるベンチである。

 

この学校…千葉県佐倉市にある私立佐倉大学附属高校(通称、佐倉附属)には、裏校庭があることはあるのだが、前校庭が異常に広いのと、中庭があるので、ほとんど裏校庭に人は来ない。なので、誰にも邪魔されず一人の時間を存分に満喫できるのである。

 

また、チャイムを報せるスピーカーや、自販機もあるので、割と便利なのである。

 

そんな訳で、只今絶賛孤独感を満喫中である。こうしていると、あらためて《ぼっち最高》と思う。

 

ちなみに、俺が昼休みにこうしているのを知っているのは、(ごく)わずかで、同じ奉仕部の由比ヶ浜や雪ノ下ですら知らない。まぁ、同じ部活なだけなので知らなくても当然なのだが。

 

そんな事を考えて、大体昼休みの半分ぐらいが過ぎた頃、いきなりイヤホンが俺の耳からとられた。それと同時に、

 

「よっす、はっちゃん。やっぱここにいたんだ」

 

と言う声。

 

そう、こいつが俺の居場所を知っている奴の中の一人で

春夏秋冬(ひととせ)こより】と言う。

 

明るい性格で、人当たりがよく、友達も沢山いる、全面的に俺とは真逆の奴である。

 

なんでそんな奴が俺と一緒にいるのかと言うと、一年の時に奉仕部に依頼して来たのだが、その時他の案件も抱えていたため、しばらく依頼を聞く事ができない状況だった。そこで、俺が単独で依頼を受け、達成したのだった。それ以来こいつは俺と一緒にいる事が増えて、現在にいたる。

 

「何しに来たんだよ」

 

「いや、ただ見つけたから来ただけ」

 

「なんだそれ」

 

「まぁいいじゃない。別に」

 

「はぁ。お前には口論で勝てる気がしねぇよ…。別に居てもいいが多分、と言うか確実につまんねぇぞ?」

 

「分かってるよ。あ、でも曲は聴かせて?」

 

「まぁ、そのくらいなら…ほれ」

 

と言って、イヤホンの片耳…っと逆か。イヤホンを付け替えて渡す。(ちなみに、俺もイヤホンを付けているため、コードは俺とこよりの間で大文字のYのような状態になっている)

 

基本、HR前などの時間には周りに人が居るため、どうやっても一人になれないので、アニソンやキャラソンなどを聴いていることが多いのだが(主に暇つぶしのため。もっぱらCLANNADやKANON、たまにCharlotteやAIRなんかも。書き続けるとキリがないので以下略で)、一人でいる時は、孤独感を味わうために、少し分かりにくいかもしれないが、イメージとしては、広大な、心地良い風が吹く草原に一人で居る……みたいな感じの【曲】を聴いている。

 

歌でもいいのだが、こういう場合、歌より曲のがイメージにピッタリくるし、歌詞が無い分、曲に集中できる。…というのもあって俺は昼休みになるとここに来て曲を聴いているのだった。

 

「ん。サンキュー」

 

こよりはイヤホンを受け取ると、それを耳にはめて、黙って曲を聴いていた。

 

そこからは特に会話もなく、静かに時は流れていった。

 

 

昼休みが終わり、こよりと別れたあと、五時間目、六時間目を終わらせて、帰宅。我が最愛の妹、小町と適当にしゃべったあと、飯を食べて、風呂にはいり、布団に入った。少しして、俺は意識を手放した。

 

 

 

──────────

─────

 

朝。いつもより少し早い時間に起きた俺は、いつもどうり朝食の準備をすませ、小町を待つ。小町を待っている間に、今日みた夢の事を思い出していた。

 

          ★          ★          ★

 

ーーーピーンポーン

 

『はーくんいますかー?』

 

『ええ、いるわよ。八幡、いろはちゃんが来たわよ』

 

『あ、うん。いま行くよ』

 

ちなみに、いろはちゃんとは、昔住んでた家の向かいの家の子で、世間一般でいう、幼馴染みである。名前は、【木賊(とくさ)いろは】と言う。

 

この頃の俺はまだ今みたいに性格は曲がってはいなかった。なので、友達も何人かいた……筈だ。うん、いたんだ。きっと。 

 

『よう。どうした?』

 

『いや、はーくんと遊ぼうと思ってさ』

 

『別にいいけど、なにすんだ?狩ゲーぐらいしかできないけど』

 

『今日はみっくんとさーちゃんもいるから、もうちょっと他の遊びのがいい気がするんだけど。って、そうじゃなくて!今日、三人で遊ぶ事になってたんだけど、みっくんが『久しぶりに比企谷くんと遊ぼうよ』とか言い出して…』

 

『なるほど、大体理解したよ』

 

ちなみに、みっくんというのは、いろはの友達の【神祈(かんのき)美夏(みなつ)】で、さーちゃんこと、これまたいろはの友達の【早内(さない)瑠花(るか)】である。

 

『まぁ、いいけど、どこ行くんだ?』

 

『んーと、多分公園じゃない?』

 

『ちょっと待て!多分ってなんだ?多分って』

 

『いや、あの二人にどこ集合にするのか聞き忘れて……』

 

          ★          ★          ★

 

っと、ここまで思い出して丁度小町がおりてくる。

 

「おはよ~。お兄ちゃん」

 

「おう。眠そうだな」

 

「お兄ちゃんこそ早いね。どうしたの?」

 

「ん?ああ、いや久しぶりに引っ越す前の夢みてな。隣にいろはって居ただろ?あいつの夢だ」

 

「あー、確かに居たね。いろはちゃん」

 

などと話しながら朝食をとり、学校へ向う。俺は今、附属の三年で、小町は附属一年である。

 

ちなみに、他の知り合いの学年をいうと、附属二年が一色いろは、春夏秋冬(ひととせ)晴美で、附属三年が雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣、戸塚彩加、春夏秋冬こより(一応書いておくが、戸塚は男で天使だ)だな。材木座?そんな奴は知らんな。それから、本校一年に城廻めぐり先輩、本校二年にあまり言いたくはないが、残念ながら雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃先輩がいる。(いつもは雪ノ下さんと呼んでいる)

 

うちの学校は本校と附属が同じ敷地内にあり、行き来も自由である。その為、敷地もそれなりに大きく、前校庭が二つもあり、それ以外にも昼休みには体育館(体育館も二棟ある)も開放されるため、生徒数との割合に比べたら狭い校庭もそれなりに広く使えるのである。

 

おかげで、裏校庭に人が来なくなっているため、こちらとしては万々歳なのである。

 

話を戻して、…朝食を終え、学校に向う準備を済ませて家を出る。学校に着いて自転車を置いた後、昇降口で小町と別れて、教室へ向う。

 

教室に着いて、自分の席に荷物を置くと、こよりと戸塚が俺の席に来て、

 

「あ、来た来た。八幡!」

 

「よっす!はっちゃん」

 

「さっき、二年生が来て八幡の事をさがしてたよ?」

 

と、戸塚が唐突に切り出す。…しかし、記憶の中に該当する人物は見当たらない。

 

「二年生?誰だ?…どんな奴だった?そいつ」

 

と、聞くと、今度はこよりが説明する。

 

「金髪で肩ぐらいまでの髪の長さの女の子…なんだけど、どっかで見たような……」

 

「あー、なるほど、誰だかわかったわ。多分そいつ生徒会長じゃねぇの?」

 

「あ、そうだ。どうりで見たことあると思った。でも、何でその生徒会長様がはっちゃんに?」

 

「多分また『生徒会の仕事手伝って下さい』か?……はぁ、めんどくさ」

 

「ん?何ではっちゃんに?はっちゃん、生徒会のメンバーじゃないよね?」

 

「ああ、でも前に奉仕部で依頼受けたんだよ。内容は言えないんだが…で、結果は依頼と真逆になってしまった訳で、そんな状況にもってったのが俺だから、まぁ、断るに断れないんだよ」

 

「ふぅーん、まぁいいや。昼休みに生徒会室来てだってさ」

 

「わかった、サンキュな。戸塚、こより」

 

「いえいえ、じゃねっ!」

 

「先生来ちゃった。僕もいくよ」

 

「おう。…さて、今日は昼休みだけじゃ絶対終わんねーな……絶対放課後までのびるパターンだわこれ」

 

少し憂鬱になりながらも、午前中の授業をなんとか消化し、昼休み。

 

「さて、行くかね」

 

俺は足を(附属高等部)生徒会室へと向けた。

 

生徒会室に着くと、軽くノックをしてから部屋にはいる。(ちなみに、生徒会も附属高等部と、本校大学部の二つあるが、発言権の高さは同じで、会議の時は附属高等部生徒会も本校大学部生徒会に劣らない発言権を持っている)

 

「おーっす、一色、来た……ぞ」

 

「な!?せ、せんぱ…い?」

 

「ゴメン一色、お前にそう言う趣味があったとは……」

 

生徒会室に入ると、高等部生徒会長の一色が、ぬいぐるみに向かってキスをしていた。

 

──そして、それを見ていたのは俺一人だけじゃなかった……。

 

 

──────────

─────

「ち、違うんです!別にぬいぐるみにキスする趣味なんてないですから!!」

 

「いや、でもお前……」

 

「誤解です!誤解ですよ!!こ、これは……その…れ、練習と言うか……」

 

「へぇ、ついに生徒会長様にも彼氏が出来ましたか」

 

「出来てませんよ!!だ、第一[そんなの先輩以外の人を選ぶ訳ないじゃないですか]」

 

「?第一なんだよ?」

 

「な、何でもないです!それよりも今日はこの資料の仕分けと入力やってもらいますから!」

 

「はぁ、容赦ねぇな、相変わらず」

 

「はいはい、それじゃやりますよ(気づかない先輩が悪いんですよバカ)」

 

カタカタカタ、パラパラパラ。

 

「せんぱ~い、なにかしゃべりましょうよ~」

 

「疲れる」

 

「せんぱ~い」

 

「疲れる」

 

「せんぱ~い」

 

「……」

 

「先輩、ひどいです」

 

「…理由は?」

 

「……は?…………あ、ふぇ?」

 

「いや、言い直さなくていいから。あざとい。……だから理由だよ。話さないといけない理由」

 

「そんなの無いに決まってるじゃないですか」

 

「……マジですか?」

 

「大マジです」

 

「………はぁ。話ってのは何でもいいのか?」

 

「してくれるんですか?」

 

「ああ」

 

「やっぱり先輩は優しいですね」

 

「やめろ。まぁいい、とりあえず話すぞ。俺には昔、幼馴染がいたんだよ」

 

「へぇ~。それって男子ですか?女子ですか?」

 

「ん?女子だぞ?って、それはどうでもいい。で、そいつの夢を久しぶりにみたんだがな。今思ったが、なんかそいつお前に似てるんだよな」

 

「私……ですか?………もしかして口説いてます?」

 

「……ハァ。心配すんな、口説いてねぇよ。まあいいや。んで、まぁ、自分で言うのもなんだが、俺もその頃はこんなに曲がってなかったからさ。で、そいつと、そいつの友達の神祈(かんのき)ってやつと、あと…まぁあと一人と俺で遊んだときの夢を見た。はい、以上。お話終了」カタカタ…

 

「え?それで終わりですか?ってか創作話じゃないですよね?」

 

「終わりました。あと、創作話じゃなく事実です」カタカタ…

 

「へぇ。先輩にも仲のいい人いたんですね」

 

「うるせぇ。ってかお前には幼馴染とかいなかったのか?」カタカタ、カキカキ…

 

「私ですか?いましたよ。名前は…忘れましたけど、でも『はーくん』って呼んでた気がします」

 

「なに?はーくんって割と多い呼ばれ方なの?」

 

「?どう言う意味ですか?」

 

「俺もそう呼ばれてたんだよ。(人との交流が少ないから昔の事でも覚えてるんだよな。…自分で考えてて悲しくなってきた。)もう一度会ってみたい気もするが…っても、もうそいつとは絶対に会わないだろうな」カタカタ…

 

「どうしてですか?」

 

「俺もそいつも引っ越してんだよ」カタカタ、カキカキ…

 

「なるほど。(はぁ。先輩のことが好きな女子が目の前にいるって言うのに、他の女子の話をしますか)……まさかと思いますが付き合ってた…なんて事はないですよね?」

 

「……いや、そう言うのは人に話すもんじゃないだろ」カキカキ、ケシ、カタ…

 

「つまり付き合ってたんですね…今も好きなんですか?」

 

「ちょっ!ちょっと待て一色。誰が付き合ってると言った?」

 

「だって先輩口ごもったじゃないですか。付き合ってたからなんでしょ?」

 

「違うっつの!……分かったよ正直に言えばいいんだろ?告白したし、されたよ!でもそれで終わり。引っ越し間際に互いに告白して、また会う事を約束しただけ!…………よし、仕事終わったから帰るわ。んじゃな」

 

「あ………。先輩の、バカ」

 

「…幼馴染の人の名前、聞いとけば良かったかな。はぁ、何であんな人好きになっちゃったんだろ」

 

この時の一色はまだ知らない。この後、思いも寄らない形でこの思いが届くと言う事を…

 

(もう先輩に告白しちゃおうかな?)

 

そんな事を、考え始めたばかりだった。

 

 

 

──────────

─────

 

翌日になり、いつものように自室で目を覚まし、携帯で時計を確認する。

 

「時間は問題無し、か」

 

俺はそう呟いてから、身体を起こし、そのままベッドから出る。

 

部屋を出ようとして、何となく振り返り、室内を見渡す。

 

一見、何とも無い普通の部屋だが、ここには、俺と親父だけが知る秘密がある。……まぁ、もしかしたら小町には気づかれているかもしれないが。

 

──実は、俺のこの部屋は、引っ越す前の家と同じ間取りで、その広さなど全てが前の家と同じだった。ただ、家具が一部変わり、それに伴って家具配置も変わってしまったため、少しわかりにくいのだが。

と、そんな俺の部屋を見て、俺は昨日見た夢を思い出していた。

 

「木賊いろは……か。元気にやってるんだろうか?……ま、今となっちゃ俺にもアイツにも関係ないけどな」

 

俺はそう呟いてから、部屋の扉を閉め、階段を降りて行った。

 

 

階段を降りて、視線をあげると、テレビを見ている親父と小町が視界に入ってきた。が、別にどうでもいい(小町の事はどうでもよくないが)ので、スルーして、用意されていた俺の朝飯を食べにかかる。

 

朝飯を食べ終えて、再び二階に戻り、部屋で制服に着替えていたのだが、何となく携帯を握り、開いたその時、丁度電話の着信音がなり、少しビビりつつもディスプレイを見ると、

 

『こよりちゃん』

 

の文字。(絶対誤解してる奴がいるから一応説明するがアレだぞ。由比ヶ浜の時みたいな感じで俺がこういう風に登録した訳じゃなく、こよりに任せたらこうなっただけだ)

 

俺は文字を見て飽きれつつも、通話ボタンを押して、耳にもっていく。

 

『もしもし?はっちゃん?』

 

「ああ。どした?」

 

『明日あたり遊ばない?』

 

「…………何故?」

 

『何故って言われても……。何となくかな?』

 

「いや、何となくで呼ばれてんでもって行った先で悲しい事になる未来が目に見えてんだが?」

 

『気のせい気のせい。大丈夫よ、私しか行かないから』

 

「………何が大丈夫なのかご教授願えるか?」

 

『え~、面倒』

 

「おい」

 

『まあいいや、とりあえずそういう事で、じゃね!』

 

「っておい!」ツーッ、ツーッ、ツーッ

 

とりあえず学校で聞けばいいか、と無理矢理納得して、俺は着替えて家を出た。

 

 

 

──────────

─────

 

授業間の休み時間。場所は高等部生徒会室。結局、昨日の放課後は特になにもなかった。だが、二日続けて呼ばれると言う事はめずらしい。……もしかして何かミスった?

 

「んで?用とは?」

 

「先輩、昨日の話なんですけど、幼馴染の人の名前ってなんて言うんですか?」

 

「何だ、そんな事か。名前だったか?え…っと、木賊いろは…だったかな?それがとうしたんだ?一色」

 

「…………………………………………………………………………………え?」

 

今の物凄い空いていた間は何だろかうか。疑問には思ったが、とりあえず一色にその事を聞くのはやめておいた。

 

「………あの、先輩?もう一度、言ってもらえます?」

 

一色は、信じられないものを見るような顔で俺にそう呟く。

 

「木賊いろは」

 

俺が再び幼馴染みの名前を言うと、今度は、

 

「………えっ!?嘘!!」

 

驚かれた。どうやら一色の頭の中では何かが繋がったらしい。

 

ビクッ!「ど、どうした?」

 

[うそ…先輩が私の幼馴染だったなんて]

 

「あのー、一色?」

 

一色は、さっきからとても百面相(ひゃくめんそう)をしている。

 

そして、いきなり、

 

「せ、先輩!」

 

急に呼ばれたと思ったら、

 

「ひゃい!」

 

「もしかして、先輩が住んでたのって二宮ですか?」

 

一色は、俺が昔住んでいた場所を言い当てた。何故か俺が千葉に引っ越して来る前に住んでいた家の場所を知っていたのかは知らないが。……まあ、二宮なんて日本中どこにでもあるけどな。

 

「……何で分かった?」

 

少し警戒しながら聞くと、

 

「(うそ!本当に!?)た、多分なんですけど、その、幼馴染って、金髪……っていうか、金髪っぽいような茶髪じゃないですか?」

 

「あ、ああ。言われてみればお前に似てたのってそれが原因かもな」

 

──と、俺が答えた直後だった。

 

「!……せ、先輩っ!!!」ダキッ!

 

気付けば、一色が俺に抱きついていた。

 

 

 

──────────

─────

 

ーー(いろはside)ーー

 

「な!?お、おい!?」

 

私は、感動のあまり抱きついてしまった。

 

しばらく抱きついたあと、自分の今の状況を認識し、ひどく赤面してから、先輩に説明をする。

 

「…………先輩、その幼馴染って私です」

 

おそらく、先輩にとっては、『こいつ、何言ってんだ?』みたいな感じなんだと、今更思う。そして、案の定……

 

「………は!?何言ってんだ?確かに名前は同じだけど苗字が違うだろ」

 

どうやら先輩は私がその幼馴染み本人だとは思えないようです。まあ、今まで『ただのあざとい後輩』として接してたのがいきなり『先輩の昔を知ってる人』に変わっちゃったですもんね。当然と言えば当然ですが。

 

「私の家が引っ越したのは、離婚が理由だったんです。その前の苗字が木賊です。先輩の幼馴染の友達に早内瑠花っていませんでした?」

 

「さない…るか?…………『私は早内瑠花って言うの。よろしく、比企谷くん』………ああ、いたな。…………まさか!……本当に!?」

 

「はい。……久しぶりだね、はーくん!」

 

この時、私がどんな顔をしていたのかはわからないけど、おそらく、本当に心の底からの笑み、というのができていたと思う。

 

「はぁ。こんな偶然ってあるのな。……ああ、久しぶり、いろは」

 

「これからは先輩の事はーくんって呼びますね?」

 

「なして?別に昔の事なんだから呼び方を戻さなくてもいいだろ。それに、そんな呼び方したら絶対誤解されるぞ」

 

「イヤです!誤解されてもいいのではーくんって呼びます。もうこれは決定事項です。なのではーくんも私の事昔みたいにいろはって呼んでください」

 

「待て、お前が俺の事をどう呼ぼうが構わないが、なぜ俺も強制されてるんだ?」

 

「そこは……その方が昔に戻った気がして私的にもはーくん的にも嬉しいじゃないですか」

 

「…お前、本当に変わったよな。昔はそんな変な言い方じゃなくて普通の女の子だったのにな」

 

「はーくんこそ変わりましたよね。昔はそんなに捻くれて無かったのに」

 

「これはアレだ。俺の周りの環境が悪かったんだよ。俺は悪くねぇ」

 

「はいはい。っと、休み時間が終わっちゃう。それじゃはーくん、またね。教室、遅れないようにしてくださいよ。…あと、放課後もお願いします!」

 

「マジですか……。分かったよ。……いろはも遅れんなよ」

 

「私のが教室近いですから!」

 

私はそう言うと、ご機嫌気分のまま生徒会室を出た。

 

 

──────────

─────

 

ーー(八幡side)ーー

 

一色いろはは、クスッと笑い、俺にむかってそう言い放ちながら背を向けて教室へ軽い足取りでむかって行った。

 

「さて、俺も急ぐか」

 

空は、雲ひとつ無く、陽の光が眩しいくらいに照っていた。

 

「…………一色……いろは、か」

 

そう呟くと、俺も教室へ向けて歩き出した。

 

 

 

──────────

─────

 

そのまま時間は過ぎていき、昼休みになる。

 

クラスの連中がやれ購買パン取り競争だの一緒に弁当食べようだのと言っている間に、俺はいつものごとく教室を出て例の裏校庭の場所へと向かう。

 

戸塚やこよりは、友達が多い為、基本的にこういう時に一緒になる事はまず無い。さらに言えば、由比ヶ浜は女王様のご機嫌取りがあるし、小町に関しては教室に来た事も無い。……いや、教室に来た事はあるけど、大体その場合、目的は由比ヶ浜だ。偶に川崎の場合もあるが、俺の場合は存在しない。

 

そんな訳で、俺は誰にも声をかけられる事なく、無事に目的の場所へと着いた。………が、

 

「よっす!」

 

そこに着くと、俺を待っていたかのような感じで声をかけられる。

 

そして、その声はもう一つ。

 

「お久しぶりです、比企谷先輩」

 

何とそこには、春夏秋冬晴美がいて、姉妹が揃っていた。

 

 

そんな二人に呼ばれるとはどんな奴!と思い、振り返るも誰もいない。

 

すると、そんなリアクションをとっている俺に、こよりと晴美が、

 

「いやいや、はっちゃんを待ってたんだって」

 

「比企谷先輩が来るのを待ってました」

 

と、それぞれ言って来た。

 

俺は、いつもの癖で、最初に何かやらかしたのか?と思って考えたのだがそんな事はないと思うので、振り出しに戻ってしまう。

 

「何のようだ?」

 

「私は今朝の電話の件。晴は着いて来ただけ」

 

「そうか。………とりあえず俺はどう行動するのが正解なんだ?」

 

「んー、じゃ、ここに来て座って?」

 

と言いながらこよりは自分と晴美の間のスペースを手でポンポンとたたく。

 

つまり、ここに来い、という事だろうか。

 

「……………」

 

ポンポン

 

「……………」

 

ポンポン

 

「……………」

 

戦いは開始直後から、いきなり膠着状態に突入してしまった。

 

流石に俺にはハードルが高いので、妹の晴美に視線を向けて、助け舟を求めたが、

 

「こうなったらお姉ちゃん、絶対に曲げないので………」

 

と言われてしまった。

 

だが、それでもまだ解決策はなくもない。

 

 

──妥協案だ。

 

そう、妥協案なら──。俺は、希望をかけて、賭けに出た。

 

「そこじゃなくてもいいだろ。隣にもベンチはあるしな」

 

そう言いながら俺は進んでいき、こよりと晴美の座っているベンチのこより側にある隣のベンチに座………

 

グイッ!

 

すとんっ

 

「はい、OK」

 

気付いた時には、俺はこよりと晴美の間に移動していた。

 

「………あれ?」

 

「ん?どしたの、はっちゃん」

 

「いや、俺今隣のベンチに座ってる筈なんだが」

 

「そーなんだ、変な事もあるんだねー」

 

「いや、でも、さっき……」

 

そう抗議しながらこよりの方を向くと──

 

ニコニコ。

 

ニコニコ。

 

 

完璧な笑みでした。

 

………どうやらこの件は触れてはいけないらしい。

 

とりあえず、今から立って移動してもまた連れ戻されるだけだろう、と早々に見切りをつけた俺は、

 

「そう言えばこより、明日の件だが」

 

「うん」

 

「何をやるんだ?」

 

「うーん、…………はっちゃんはやりたい事ある?」

 

「行きたくない」

 

「成る程成る程。んじゃはっちゃん家で集合だ」

 

「待て待て待て、その返しはおかしいでしょ?」

 

「え?何で?」

 

「いやいや。だって俺は行きたくないんだよ?」

 

「うん、知ってるよ?……で、私ははっちゃんと遊びたい。で、はっちゃんは行きたくない。つまりは家で遊べば両方の願いが叶う」

 

「……………………」

 

俺が黙っていると、晴美が、

 

「すみません、お姉ちゃんが」

 

と、言って来たので俺は、

 

「やっぱ口論じゃ勝てる気しねぇわ」

 

とだけ言った。

 

 

──────────

─────

 

ーー(いろはside)ーー

 

先輩と別れてから、教室に帰ると、私の席に座っている女の子がいた。

 

そして、目が合うと、

 

「あ、帰ってきたー」

 

と、一言。

 

彼女は、このクラスになって始めて出来た本当の意味での友人。

 

名前は白石木葉(しらいしこのは)

 

彼女もまた、奉仕部…………、いや、先輩に助けられた一人だ。

 

その前までは、先輩と同じ、いわるゆるぼっちだった。

 

その彼女が、奉仕部に依頼したのは、『いじめをなくしてほしい』というものだったそうだ。彼女が教えてくれた。

 

そして、奉仕部は見事にその『手助け』をしてくれた。

 

それによって、もちろん彼女の頑張りや、ほのぼの系キャラと言うこと(例外も存在するのだが)もあって、今は普通の人と変わらないくらいには友達がいる。

 

そして、その『手助け』をしてもらっている際に、先輩が他の人とは違う事に気付いたらしい。

 

彼女自身がぼっちだった、という事もあるのだろう。

 

そんな事があったおかげで、彼女は先輩の事をそれなりにはわかっていた。

 

つまりは、

 

本当の意味で先輩の事を理解しようとしている人。

 

それが白石木葉だった。

 

だから、同じような経験をした私も、木葉の気持ちが理解出来た。

 

そして、木葉と先輩の話をしている内に友達になり、今現在に至る。

 

やっぱり、先輩の影響を受けると変わるんだな、と思った。

 

私と木葉は、共に先輩に影響を受け、そこから友達になった。

 

だから、今までいた友達とは違い、何となくだけど、猫を被る必要がなくなった、というのだろうか。そんな感じで、二人の間では割と本音が飛び交う事が多かった。

 

 

 

──────────

─────

「あれ?どうしたの、いろはちゃん。嬉しそうな顔して」

 

「え!?……あ、えーっと、そのー」

 

どうやら、先輩との新たな関係が嬉しくて、顔に出ていたらしい。

 

「ふーん、へー、成る程成る程。後で詳しく聞かせてよ」

 

「私何も言ってないよね!?」

 

そんなやり取りをしつつ、私達は次の授業へ向けて、用意を始めた。

 

 

 

──────────

─────

 

その授業も終わり、何とか木葉からの猛攻をかわして、昼休みまで逃げ延びた。

 

私は、木葉からの猛攻を受けつつも、先輩の事を考えていたため、昼休みに入ると、体力テストですら出した事のない速度で、廊下を走り抜けた。

 

そして、先輩のクラスへと向かう。

 

階段を曲がり、上に行き、さらに廊下を進む。

 

すると、見えてきた先輩のいるクラス。

 

私は、そこまで来ると走るのをやめ、息を整えてから歩いてクラスに向かった。

 

クラスに着くと、丁度クラスから出て来た戸塚先輩とぶつかりそうになる。

 

それをギリギリでかわして、ついでなので聞いてみる事にした。

 

「あ、戸塚先輩。先輩見ませんでしたか?」

 

「一色さん。……八幡に用事?」

 

「あ、はい、そうなんですけど……えーとその、まぁ、……そんなところですね」

 

「ちょっと待っててね?うーんと………八幡、もういないみたいだよ?」

 

戸塚先輩にそう言われ、私も中を確認するが、確かにそれらしき姿はもうなかった。

 

(もういつもの場所に行っちゃったのかな?……行動の早い人、と言うよりは逃げ足の早い人、か)

 

「戸塚先輩、ありがとうございました」

 

「ううん、こっちこそ」

 

私は、そう言って戸塚先輩と別れてから、仕方なく教室に戻ろうと考えて、振り向いた直後。

 

 

「さあ、行きますよ?」

 

 

──後ろから声をかけられ、振り向いた正面には、先程教室にいた、白石木葉が立っていた。

 

 

 

──────────

─────

 

「さて、もう逃げられませんが、抵抗してみますか?」

 

木葉はそう言うと、私の向かいに座る。

 

「………抵抗もないようですね。さて、それではあなたがあの休み時間に帰って来てからずっと機嫌がいい理由を教えてもらいましょうか。先輩の話をすると過度に反応するところからみて、理由は先輩でしょう?」

 

「い、いやー、えーっと……。[エ、エスモード全開になってる……]」

 

「何か言いましたか?」

 

「………何も言ってないです」

 

そう。木葉には二つのモードが存在する。

 

一つ目は普通のモード。この場合の木葉はちょっと奥手な大人しめの女子高生……なのだが、

 

もう一つのモード、今現在のモードである、『ドSモード』である。

 

この状態の木葉は、押せ押せというか何と言うか……。かなり強気な感じになる。

 

無口系の独得な──普通の人や逆に明るい系の人では絶対に出せない──口調で、淡々と質問やらなんやらをして来る。……というかこれはもはや尋問だ。

 

「ではでは、理由を教えてもらいましょうか。……もし教えなければ、あなたがあの休み時間にぬいぐるみ相手にキスをしていた情報を全校生徒にばら撒きます」

 

「えっ!?ちょっと待って!?何で知ってるの!?!!?」

 

「ふっふっふ、私の情報網を甘く見ない事です。……安心して下さい。先輩からは何も聞いてません」

 

「先輩………助けて下さいぃぃ~」

 

私は、涙目になりながらも、何かないか考えたが、結局、どうしようもなかった。

 

 

 

──────────

─────

 

「へぇー、そんな事があったんだ」

 

「うん。でね……」

 

結局、あの後私は先輩と私が幼馴染みであった事を言ってしまった。

 

言った瞬間からおそらく二、三分は動いてなかったと思う。

 

 

ちなみに、現在、木葉は『通常運転』に戻っている。

 

私が、先輩と幼馴染みだ、という事を言ってから、再び動き出した時には既に戻っていた。

 

 

 

──別人格なんじゃないかと、たまに真剣に思う。

 

通常運転時と、Sモードでは、話し方もそうだが、口調も変わるのだ。

 

例えばさっきの木葉のセリフ。

 

『へぇー、そんな事があったんだ』

 

は、Sモードの時に言うと、

 

『成る程、そんな事があった訳ですか』

 

と言った具合になると思う。

 

なので私は、こういう時の仕返しは、基本的にSモードの時に受けたら仕返しもSモードの時に。通常運転時に受けたら仕返しも通常運転時に。と言った感じでわけている。

 

ちなみにだが、通常運転とそうでない時は、私の呼び方にも違いがあり、通常運転時は『いろはちゃん』なのに対して、Sモードでは、『いろは』や、『あなた』と言った感じに変わる。

 

……本人は無自覚らしい。

 

本当に謎の多い……というか謎しかない人だった。

 

いずれにせよ、本音で言い合ってて、友達になっても謎が多い彼女であった。

 

 

 

 

──────────

─────

 

ーー(八幡side)ーー

 

「お姉ちゃんはこの後どうするの?」

 

場所は再び戻って、現在は俺を挟んでこよりと晴美が話している最中なのだが……

 

「うーん……。あ!先輩に呼ばれてたの忘れてた!はっちゃん、晴、私先行くねっ!」

 

こよりはそう言うと、俺の返事も待たずに校舎に向かって走って行った。

 

そして、後に残ったのは、沈黙と、気まずい空気感。

 

晴美とはこよりを経て知ったのだが、基本的に仲が良い訳ではない。……まあ、悪くもないけど。レベル的には俺の感覚で言ったクラスメイトくらいだろうか?いや、それよりは上か。

 

そんなわけで、それにプラスして俺のコミュ障と、晴美のちょっと内気な性格のおかげもあって、物凄く気まずい状況になっていた。

 

……そう言えば由比ヶ浜が後夜祭終わった後のあの集まりの時になんか言ってたな。

 

『会話回してる中心がいなくなるとなんたら』とか、『友達の友達がうんたら』とかなんとか。……まんまこの状況じゃないですかやだー。キモイわ……。

 

とりあえず気まずさに耐えられず、スマホとイヤホンを取り出して、晴美にジェスチャーを送ると、

 

「あ、はい。どうぞ。時間になったら伝えますね?」

 

軟らかい声で返事が返ってきた。しかもオプション付きで。

 

俺は、ちょっと申し訳なくなりつつも、会釈をしつつイヤホンを耳に差し込んだ。

 

 

 

──────────

─────

 

頭の中を、スムースクリミナルが流れ、あの人が居た頃を思い出して軽く目尻に水滴が溜まりかけていたその時、

 

急に背中に軽く触れるものがあった事に気が付いた。

 

いや、正確に言えば、その触れているものの重みが増して、それで気付いたのだった。

 

晴美が時間を報せてくれたのか、と思い、イヤホンをとって首だけで振り向くと、

 

 

──その晴美が、俺の肩に頭を乗っけて寄りかかる形で寝ていた。

 

 

つまり簡単に言えば、電車でよく見るあの状況。頭を肩に乗っけながら寝ちゃうやつである。全く簡単じゃないし説明変わってないね。うん。

 

「…………へ?」

 

思わず間抜けな声を出してしまった。

 

「…………へ?」

 

しかも二回目まで存在してた。

 

 

 

──俺はこの後どうするの?どうするのが正解なの?

 

などと考えつつも、イヤホンを外し、音楽を止めて風を感じる事にした。

 

かっこよく言ったけど実際ただの現実逃避だわー。

 

 

 

──だが、この時既に、もう一つの事件が動き始めていた。

 

 

──そして、その始まりを告げる事になる人物は、今の俺のこの状況を校舎内から見ていた。

 

 

 

 

──まだ、昼休みは終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

─────

 

タラッタラーン、タラッタラーン

 

「お、もうそんな時間か」

 

俺は、左肩に熱と重みを感じながらずっと上を見上げて、流れゆく雲を見ていたのだが、スマホの音で現実に戻される。

 

この音が鳴ったという事は、昼休み終了五分前になった証拠だ。

 

俺は、隣で俺の肩に寄りかかりながら寝ている晴美の顔を見て、少し名残惜しくなりつつも、本人の肩を叩いて起こす事にした。

 

「おーい、晴美。起きろ」

 

「ん………うぅ……すぅ…………」

 

意外と朝は弱いのかもしれない。そんな事を考えつつも、叩きながら声をかけ続けていると、

 

「ん…すぅ……ん…。………えっ!」

 

とても小さな声で起き抜けに目を丸くして驚かれた。

 

……まあ、無理もないよな。起きたら俺の顔が視界の真ん中にあったんだからびっくりするのは仕方ないけどさ……。

 

などとマイナスの方に捉えていると、

 

「えっ、…えっ、あっ!?ご、ごめんなさい!」

 

「……ほぇ?」

 

今度は俺が驚いちゃったよ。

 

何だよ「……ほぇ?」って。俺がやるなよ。キモいわ。

 

──っと、話を戻そう。

 

えーと、何で謝られた?

 

俺、いつ晴美に告白したっけ?……て、つまりその場合俺はフラれたわけか。

 

「えーと、……何が?」

 

思い当たる節がなく、聞いてみる。

 

「あ、いや、その、………か、勝手に肩を使ってしまったので……」

 

……何その理由。可愛い過ぎるでしょ。てか顔!……その若干上目遣いなのにあざとくないその顔やめろ!……悶え死んじゃうだろ。

 

「……いや、別に……良いけど」

 

「あ、ありがとう……ございます。……あったかくて気持ちよかったです」

 

「……………」

 

「え……あ!?えっ、えっと、そ、その!ご、ごめんなさい何でもないです!」

 

何かとんでもない事を言われた上に盛大に自爆してるんだが……。

 

「………ま、まあ、気にしないでいい。……と、そうだった。授業開始まで五分切ったぞ」

 

「え!?あ、本当だ。比企谷先輩、先行きますね!」

 

そして、晴美は赤い顔のままトテテテ、と走っていった。

 

 

 

 

 

──────────

─────

 

ーー(いろはside)ーー

 

「じゃ、私先輩探しに行ってくるね」

 

私はそう言うと、木葉の元から離れ、もう一度先輩のクラスへ行く。

 

が、やはりそこには先輩のあの見慣れた姿はない。

 

「先輩、どこいったんだろ?」

 

思えば、今までもそうだった気がする。

 

あの人の目撃情報は、何故か昼休みだけ極端に少ない。

 

私の(生徒会としての)手先である戸部先輩に追跡を依頼した事もあるけど、戸部先輩が下手なのか、先輩が気配薄いのかで、今まで全戦全敗。

 

先輩の事になると割りと動かしやすい由比ヶ浜先輩も、女王様に捕まったり、捕まらなくても友達の多さが仇になって身動きがとりずらい。

 

もう一人、葉山先輩もいるけど、あの人はそもそも協力してくれないから意味がない。

 

雪ノ下先輩はクラスが違うため、どうしても追跡が遅れてしまう。

 

そして、さらに上の本校生には陽さん先輩や、めぐり先輩もいる。本校生は昼休みに入る時間が何故か附属生より少し早いので、いけるかと思ったら、

 

『理由を教えてくれたらいいよん♪』

 

と、ウインクかましながら言ってきた陽さん先輩に、適当に言い訳つけて見たものの、敵うはずもなく、機能せず。(本人はもう情報をもってるんだろうけど)

 

めぐり先輩は依頼したら答えてくれたけど、先輩に辿り着いたところで思いっきり、

 

『あ、比企谷君いた。ねぇ、いつも昼休みはどこにいるの?』

 

と、正面からあたって、その上先輩に、

 

『ベストプレイスです。教えると混む可能性があるんで何処かは言えませんが』

 

と返されて撃沈。

 

小町ちゃんは私より条件が悪いけど兄妹なら、と期待を込めたけど、結局敗退。

 

どうやらこればかりは本当に誰にも言いたくないらしい。

 

 

 

──結果として、(陽さん先輩以外)誰一人として先輩が昼休みにいつもいる場所を特定出来なかった。

 

「ううん……先輩が情報を秘匿したら私には勝ち目ないですねー。……陽さん先輩が羨ましい」

 

と、呟きながら、先輩の教室の前でどうするかを考える。

 

 

この学校は高校・大学がくっついているので、生徒数も当然多く、それに伴って校庭や校舎など、学校の敷地自体もかなり広い。

 

そんな中で、目的が人一人を探し出す事なのに、やみくもに動き回って見つかる訳がない。

 

携帯で連絡したところで意味がないし、これはそろそろ本格的に手詰まりなんじゃなかろうか?

 

──と、先輩に携帯(スマホ)で電話しようとしていたのだが思い直し、携帯をしまう。

 

廊下の時計を確認すると、後六・七分位になっていたので、タイムアップだな、と思いつつ、廊下の窓を開けて、入ってくる風を浴びる。

 

ここは三階なので、結構見晴らしもいい。と言っても見えるのは住宅街何だけど。

 

「………はーくん」

 

ぽそっ、と呟きながら何となく下を見た。

 

 

 

──その時だった。

 

ここから下を見た時に見えるのは裏校庭。

 

その裏校庭の端にある三つのベンチ。

 

──その中の真ん中のベンチに、目的の人物がいた。

 

しかも──オプション付きで──である。

 

 

 

──────────

─────

 

先輩の座っている隣に、先輩に体重をかけ、肩に頭を乗せている女子。

 

──これは、どういう状況!?

 

一瞬、胸の奥が痛くなる。

 

そして、今すぐあそこに行きたい衝動に駆られるが、何とか踏みとどまる。

 

すぐ思い直して、振り向くと、丁度先輩のクラスに入って行く女子の先輩を見かけ、

 

「あ、すいません」

 

と言って止めると、そのまま続ける。

 

「比企谷先輩に、放課後またお願いします。と伝えて下さい」

 

と言うと、足早にその場を去った。

 

 

 

 

──────────

─────

 

ーー(八幡side)ーー

 

「……んじゃあ俺も行くか」

 

晴美が走って行ったのが見えなくなった頃、俺もベンチから腰をあげ、教室へと向かう。

 

俺ら三年は教室が三階にあるので少し急ぎつつも、何となく左肩に残っている熱を感じて、意識しないように気を付けよう。と、思い直しては気を付けてる事自体意識してるって事じゃねえか!……と、一人で脳内ボケ突っ込み(もう慣れた)をして、気分を紛らわせながら、教室へと向かった。

 

 

 

──────────

─────

 

教室に着くと昼休み終了直前だったらしく、俺が入ってすぐにチャイムがなった。

 

俺は、そのまま自席に着いて授業の用意をすると、机に突っ伏した。

 

 

だが、ここでこよりが話しかけてきた。

 

「あー、そうそうはっちゃん」

 

俺の肩を軽く叩きながら話しかけてきたこよりは、俺を滅入らせる事を言ってきた。

 

「会長が『放課後にまた』ってはっちゃんに言っといてー、って私に言ったんだけど、どういう意味?」

 

「…………マジかよ」

 

どうやら一色は、また俺をこき使うらしい。俺じゃなくて戸部を使え戸部を。あいつこそ生徒会の備品だろ。俺は奉仕部の備品だ。……自分で言っちゃったよ。

 

俺は、放課後を想像してだるくなり、次の授業は捨てた科目、という事もあって、寝て過ごした。

 

 

 

──────────

─────

 

今日の授業も全て終わり、現在はようやく放課後になったところ。

 

「ヒッキー!部室行くよ!」

 

「………おう」

 

由比ヶ浜の相変わらずの高いテンションに飽きれつつも、とりあえず部室を目指す。

 

しばらく歩いて、特別棟の最上階の一室。

 

ちなみに、ここに来る途中の本棟と特別棟の連絡通路は、T字になっている。それは、曲がると大学側へ向かう、唯一の校内同士が繋がっている通路だ。

 

附属と本校が繋がっているのは附属棟(高校側の本棟と特別棟全体の名称)の西側にある本棟と特別棟の連絡通路の二階と三階が、本校舎(大学側の本棟と特別棟全体の名称)の東側にある本棟と特別棟の連絡通路の二階と三階にそれぞれ繋がっている。

 

 

つまり、図にすると、

 

───────────────

───────

            北

 

(↓本校本棟)

ーーーーー   ーーーーー(←附属本棟)

 |    |ーーー|    |

ーーーーー    ーーーーー(←附属特別棟)

(↑本校特別棟)

 

             南

 

※真ん中の横棒三つの奴が本校と附属を繋ぐ連絡通路になっている。

 

───────

───────────────

 

こうなっている。

 

その連絡通路を渡って附属特別棟の最上階(四階)へ行くと、我らが奉仕部の部室はある。

 

そこへ行くと、既に雪ノ下がいた。

 

「あら、今日は早かったのね」

 

「うん。連絡が少なかったんだー」

 

と、いつもの「やっはろー!」を言ってから普通に会話を始める二人。

 

俺は、会話が一段落したタイミングを見計らって、

 

「雪ノ下、悪いが今日も呼び出しがかかったんだ。そっちに行って来る」

 

と言って出ていこうとすると、由比ヶ浜が、

 

「え、今日いついろはちゃんに言われたの?……今日はいろはちゃんが教室に来てた時ヒッキーいなかったよね。しかもいろはちゃん戸部っちと話してたし」

 

と言った。

 

そして、それを受けてか、雪ノ下が、

 

「つまりそこのクズは嘘をついて休もうとしたのかしら?」

 

冷酷な冷たい視線でそう言われた。

 

その視線に軽く身震いしつつも、一応反論する。

 

「いや、嘘じゃねえよ。何だったら後で一色かこよりに確認して来れ。伝言受けたのこよりらしいし」

 

俺がそう言うと、由比ヶ浜が訳のわからん反論をして来た。

 

「なら、監視も含めて私達もヒッキーと一緒に行くってのは?」

 

この一言がきっかけとなり、今日は三人で生徒会室に向かう事になった。

 

 

 

──────────

─────

 

生徒会室に着くと、いつも通りノックをする。

 

──が、ここで、事件が起こった。

 

「おーい、俺だー。来たぞ」

 

「あ、せんぱ……『はーくん』ちょっといつもより遅くないですか?」

 

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

ガラッ

 

「『はーくん』、何やって……た……んで…………すか?」

 

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……せ、先輩、何やってたんですか?」

 

今更言い直してもおせーよ。

 

 

──全世界が、停止したかと思われた。

 

 

 

──────────

─────

 

「さて、さっきのはどういう事なのかしら?」

 

場所は再び奉仕部の部室。

 

俺と一色は、床の上で正座している。

 

……どうしてこうなった。

 

「何か弁明はあるのかしら?」

 

「あー、………その……」

 

と、俺が言い淀んでいると、となりの一色が、

 

「……別に変な事はしてませ……ひっ!」

 

反論しかけて黙った。

 

「何か……言ったかしら?」

 

雪ノ下のその言葉に弁明があれば言え、と言ったのはそっちだろ、と毒づきながらも、俺も加勢する。

 

「いや、雪ノ下。本当にやましい事はしてないぞ」

 

「そう?……あの一色さんのあなたへの呼び方は何なのかしら?」

 

「そうそう!まるで……その…物凄く仲いい……みたいな呼び方で……」

 

と、由比ヶ浜まで雪ノ下に加勢した事実を確認しつつ。俺がどう誤魔化すかを考えていると、一色が、とんでもない事を言った。

 

「だって別に私がどんな呼び方で呼んだって先輩が認めたんですからいいじゃないですか」

 

「はっ!?ちょっ…おまっ!?」

 

まさかここで俺に振るのか!?と、ちょっと信じられないが現実はそうなってしまった以上仕方がない。

 

「そうなのかしら?」

 

「そうなの?ヒッキー」

 

「あー、まー、……そう、なるのか?」

 

──と、俺が曖昧に返事をして、肯定を示した瞬間だった。

 

「じ、じゃあ私もっ!」

 

と、突然由比ヶ浜が声を出し、

 

「……ヒッキーの事名前で呼んでいい?」

 

──(再び)全世界が、停止したかと思われた。

 

 

 

──────────

─────

 

ーー(いろはside)ーー

 

がらら、と戸を引き、開けてみると、そこには額に手を当てて少し下を向きつつ首を横に振っているその仕草だけが何故か無駄にカッコいい先輩……もといはーくんと、メガテン(目が点)になっている雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩がいた。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

しばらくの沈黙。

 

その沈黙を破ったのは私で。

 

「せ、先輩、何やってたんですか?」

 

──無意識で、気付けば言い直していた。

 

雪ノ下先輩は、その私の言葉を聞くと、我に返ったように先輩を見ている。

 

その隙に私は生徒会室の戸を閉めようとしたのだが、

 

「一色さん?……何をしようとしてるのかしら?」

 

──笑顔で言われてしまった。

 

 

 

──────────

─────

 

……という事があったなー、なんて遠い日のおもいでみたいな感じで思い出しつつ、先輩に投げてしまってよかったのかどうか少し不安になりつつも、正座を続けた。

 

「だっ、大体、俺が一色にどう呼ばれたってお前らには何の関係もないだろ」

 

「そうかしら?一色さんの場合はそうではないと思うのだけれど?」

 

「……どういう意味だ?」

 

「一色さんはよくここに来るわ。つまり、それだけここであなたをそうやって呼ぶ回数も自然と増えるし、それを私が聞く回数も増えるということよ。……私も、あなたほどではないにしろ、目の前でイチャイチャしているのをみればイチャイチャしてるのが誰であろうと関係無くイラつくのよ」

 

「……まあ、気持ちはわからんでもないが……。呼び方変えるだけでイチャイチャになるのか?……そもそもの大前提として、俺と一色は恋人じゃないんだぞ?」

 

……話が物凄いスピードで展開されてて突っ込む場所がありませんね。どうやら由比ヶ浜先輩も同じみたいだし。

 

「そうね。でも、恋人かそうじゃないかはあまり関係無いわ。例えば授業中、男女ペアを組むシーンがあったとして、あるペアが恋人でもないのに仲良く……というよりはそう、イチャイチャする感じで活動する事もあるでしょう?」

 

「……まあ、それは……確かに。でも俺と一色は呼び方だけだぞ?さっきの雪ノ下の例みたいに何か活動する訳じゃない。……それに、一色がウザい程あざといのは知ってるだろ?」

 

「はい、『はーくん』ストップ。何がウザい程なのかな?」

 

「あのー、一色さん?……怒りを沈めて下さらないでしょうか?」

 

「比企谷君、あなたは今、誰と話しているの?」

 

「そうですよ『はーくん』。それに、昔みたいに私の事を『いろは』とは呼んでくれないんですか?……あ」

 

 

言い終わってから気づく最大の失敗。

 

……ごめんなさいはーくん。頑張って生き延びて下さい。

 

ってかこれ、私も死ぬパターンじゃ……。

 

 

 

──────────

─────

 

ーー(八幡side)ーー

 

結果としては、押し切った。

 

途中で一色が言った『昔みたいに……』で、仕方なく幼馴染みの件を話してしまった(確認は小町の携帯にかけたのだが、当然小町は知らなかったのでちょっとやばかった)が、そこに一色がどうたらこうたら言って、何とか押し切った形になった。

 

「雪ノ下先輩達にもバレちゃいましたし、これからは心置き無く奉仕部で幼馴染み面出来ますね」

 

俺は、そういった一色に苦笑を返しつつも、そうなった瞬間に死なないだろうか、と真面目に心配した。

 

「そう言えばいっし……いろはは最近サッカー部はどうしたんだ?」

 

「え?……あー、そう言えば出てないですね」

 

今、そう言えばって言ったよな。存在忘れてんのかよ。

 

「ま、でも、私いなくても何とかなってますし」

 

と、いろはは顎に立てた人差し指を当てて答える。……あざとい。

 

「お前、本当に変わったよなー」

 

「はーくんには言われたくないです」

 

こんな感じで、部活も終わったので現在は昇降口に向かっている。

 

と、向こうから春夏秋冬姉妹がやって来た。

 

「あれ?はっちゃん、今帰り?」

 

「ああ。こよりと晴美も今帰りなのか?」

 

「うん。……えっと、そっちの子は?……って、昼間の!」

 

「え?……あ!はーくんのクラスメイト!」

 

どうやら、この二人は既に知り合いだったらしい。

 

「なんだ、知り合いだったのか」

 

「うん。……てか、それよりはっちゃん、どういう関係なの?」

 

「それは気になりますね、私も。……はーくん、あの人とはどういう関係なんですか?ただのクラスメイトって感じじゃないですよね」

 

「じゃあ私から言うよ。私、名前は春夏秋冬こより。漢字で春夏秋冬って書いて『ひととせ』って読むの。はっちゃんに助けられたクラスメイト。そして、はっちゃん自身が認めた唯一の女子の友達なの」

 

「……本当にいつもお姉ちゃんがすみません。……あ、私は妹の春夏秋冬晴美です。晴美は晴れに美しいって書きます」

 

「[なるほど、つまりはーくんに助けられた人達グループの一員ですか。……目的も木葉と同じみたいだし。それならいいか。]私は附属生徒会会長の一色いろはです。はーくんとは幼馴染みでもあります」

 

と、自己紹介?をしているいろは達を見ながら、何となく視線を廊下の奥へ向けた時、視界に隠れている女子生徒がうつった。

 

よく見てみると、以前奉仕部に依頼して来た白石がそこにいた。

 

手を振って来たので俺も振り返すと、隠れていた壁の奥に消えて行った。あの先は階段だ。

 

と、手を振っていると、いろはが、

 

「誰に手を振ってたんですか?」

 

と、言って来た。

 

「白石だよ。お前は同じクラスだったろ?」

 

と言うとびっくりしていたが、驚く意味がわからず、今度は俺が頭を捻る事になった。

 

 

 

──────────

─────

 

そのまま四人で歩いて、今は近くのサイゼ。ちなみに、小町は今日は家にいない。今日は雪ノ下の家に泊まる、と言う連絡を昼の内に受けている。

 

「はーくんはいつものやつですか?」

 

「当たり前だろ」

 

「私はどうしよっかなー」

 

「私はお姉ちゃんに任せます」

 

と、三者三様にいろいろ決めて、注文したのを待っている。ちなみに、席は俺の隣が晴美。俺の向かいがいろは。いろはの隣がこよりだ。

 

料理を注文し、それがくるまでの間、俺以外の三人は何やら話してたのだが、雲行きが怪しくなって来ていた。

 

「そう言えば晴、私が行った後はどうだったの?」

 

 

──今思えば、この言葉がトリガーだったのだ。

 

 

「え?あ……」

 

「……その反応は何かあったんだ。何があったの?」

 

一瞬俺に振ったのかと思ったが、そう言う訳ではなく、あくまで晴美に言わせたいらしい。

 

晴美は、顔を赤くして一度こっちをチラ見した後、

 

[比企谷先輩の肩を借りて寝ました……]

 

と、何故かそこだけ言った。

 

当然、こよりといろはは沸騰してしまった。全く、沸点の低い奴らだ。

 

「はっちゃん、晴に手を出したの?」

 

「はーくん?」

 

   ──俺の友達と幼馴染みが修羅場すぎるっ!

 

 

──────────

─────

 

「さて、そろそろ説明しようか、はっちゃん?」

 

「あー、そのー、ですね。まず、俺がイヤホンを付けてたらですね?気付いたら俺の肩に乗っててだな。な?そうだよな?」

 

俺は必死になって言い訳しつつ、晴美にも協力を仰ぐ。

 

「……はい。比企谷先輩がイヤホンを付けたので私は空を見てたんですけど、だんだん眠くなって来ちゃって、ウトウトしてたら寝ちゃったみたいで。……起きたら先輩の肩に寄っかかっていたんです」

 

「……まあ、そう言う事ならいいけど。……手は出されてないよね?」

 

俺の信用度の低さに泣けて来た。ねぇ、もう泣いてもいいよね?

 

「それは、大丈夫だと思います。比企谷先輩の事は信じてますから」

 

と、マジで泣きかけていた俺を、今度は別の意味で泣かせようとする晴美。

 

……そのショートカットの髪型からギリギリ見える首は、少し赤みがかかっていた。

 

──首まで赤くなる程恥ずかしいのに言ってくれたのか。

 

と、ちょっと感動した。

 

 

 

──ちなみに、数日後、俺は晴美に今日のお礼にケーキを持って行ったのだが、その日が誕生日と重なっていたらしく、それを丁度通りかかったいろはに見られ、ややこしくなるのはまた後の話。

 

 

 

──────────

─────

 

サイゼを出ると、既に暗くなっていた。

 

「んじゃあ私達はこっちだから」

 

そう言いながら手を振り、こよりと晴美は先に帰って行った。

 

残っていたいろはと一緒に、二人を見送り、それがすむと、

 

「んじゃあ俺も帰るわ」

 

と言ってチャリにまたがり出ていこうとすると、

 

「ま、待って下さい!」

 

気付けばいろはが、俺のチャリを真正面からとめていた。

 

「い、いろは?」

 

俺がびっくりして少し挙動不審になりかけながら言うと、いろはは今更自分が何をしたのかを悟ったようで、慌てて言葉を紡ぎながら

 

「だ、だってぇ、こんな夜中に女の子を一人で帰したら……そのー、危ないじゃないですかー」

 

「……まあ、わからなくもないけど……。……お前、電車だろ?流石にそこまではなぁ……」

 

「じゃあ幼馴染みとして久しぶりにはーくん家に行く(泊まる)って言うのは?今のはーくん家にも何度か行ったことありますし」

 

「………小町に聞いてくれ」

 

だが、俺はこの時小町に振った事を後悔した。

 

ただなんとなくで言ってしまったのだが、小町に振ったら絶対に了承されてしまう事を忘れていたのだ。

 

 

そして、予想した通り、いろはは俺の家にくる事になった。

 

 

 

──────────

─────

 

「……てか、俺ん家にくる事になったのはいいけど、そしたら余計に帰りが遅くならないか?」

 

俺が素朴な疑問をなげると、いろはもいろはで何故?って顔をしている。

 

「……いやだって遅いから危ない。……なのになんで俺ん家にくる事になんだよ。余計に帰りが遅くなるだろ?」

 

と、俺がそう言うとようやく納得したらしいいろは。

 

だが、返って来た答えは予想の斜め上をいくものだった。

 

「あ、それなら心配ないですよ?私、今日はーくん家に泊まるので」

 

………………思考回路、完全停止。

 

頭の中でサイレンが鳴り響く。

 

(だっ、ダメです!このままでは、容量が大き過ぎて回路がオーバーヒートします!)

 

どうやら、俺の脳内設定では何かの回路がオーバーヒートするらしい。

 

──直後、

 

 

 

──オーバーヒートしたのは俺の思考回路だった。

 

 

 

──────────

─────

 

「……見憶えのある天井だ」

 

いや、知ってる天井なのかよ。知らない天井じゃねぇのかよ。

 

 

気付けば、俺は家の中にいた。

 

……俺はいつ、瞬間移動を無意識で行えるようになったんだろうか。

 

「いつつ……」

 

少し痛む体を起こしながら辺りを見渡す。

 

するとそこはやっぱり自分の家だった。

 

どうやら俺はソファの上で横になっているらしい。

 

瞬間移動をしてまでソファで寝てるとか……ベッドまで行かない辺りが社畜感満載だな。……将来、社畜だけは回避したいなー。

 

と、適当な事を考えつつダイニングのテーブルを見た時、俺は更に驚いた。

 

「んなっ!……い、いろ…は?」

 

そこには、椅子に座ってテーブルに突っ伏しているいろはがいた。

 

 

 

──────────

─────

 

ーー(いろはside)ーー

 

ドサッ

 

後ろで音がしたので振り返ると、はーくんが倒れていた。

 

どうやら少しからかい過ぎたらしい。

 

とりあえず起こしてみようとしたのだが、完璧に気絶していて動ける状態ではない。

 

「うーん」

 

私は唸ってから、とりあえずはーくんの横に立っている自転車を一度サイゼの駐輪場に戻して、その後、はーくんを肩に担いで歩いて帰る事にした。……周りからの好奇の視線がハンパじゃなかった。

 

家に着くと、とりあえず玄関前にはーくんを座らせ、私はもう一度サイゼに戻ろうと、振り返って歩き出した時だった。

 

小町ちゃんの髪型をロングにして全体的に大きくした美人な人が敷地に入ってきた。

 

「あら?あなたは?」

 

どうやら、はーくんのお母さんらしい。久しぶりに見るのと、以前と全然違うのでびっくりした。

 

「あ、こんばんは。……お久しぶりです」

 

と、試しに言ってみる。だけど、やっぱり覚えてないみたいだった。

 

なので、名乗って見ることにした。

 

「いろはです。木賊…いろは。今は一色いろはですけど。比企谷さんもこっちに越して来たんですね」

 

と、そこまで言うと、納得したらしく、

 

「ああ、いろはちゃん……いろはちゃん!?……久しぶりね。今は、この辺に住んでるの?」

 

「いえ、私の家は一駅先なんです」

 

と、急に会話が進む。

 

そして、いきなりお母さんが、

 

「ところで八幡は何をやってるの?」

 

と、ようやくはーくんの話になった。

 

「ちょっとからかってたら恥ずかしさで気絶しちゃって……」

 

私がそう言うと、はぁ、と溜め息をついて、それから、

 

「いろはちゃんはこれから帰るの?なんなら送ってくけど」

 

「……それが…」

 

まさかの事態に驚きながらも、とりあえず事情を説明すると、

 

「なら、いろはちゃんは家に上がってていいわよ?鍵はそこに寝てる奴のポケットにでも入ってると思うから。なかったら叩き起こしてもいいわよ?……その間私が自転車とってくるから」

 

と言って、私が返事を返す前にお母さんはニコニコしながら上機嫌で出て行ってしまった。

 

……何だろうか、この『タイミングの悪い時に部屋に入ってしまって、慌てて「失礼しました!」って言いながら戸を閉めた時』のような気持ちは……。

 

 

 

──────────

─────

 

はーくんマミーの言う通り、 確かにポケットに鍵は入っていた。

 

そして、その鍵を使い玄関の扉を開けて、「お邪魔しまーす」と言いながら中に入る。

 

玄関になぜか置いてあった漬物石みたいなものを使って扉を固定して、閉まらないようにした上で、はーくんをもう一度、今度はおんぶして、家の中に運ぶ。

 

何となくリビングっぽい部屋に入ると、ソファがあったのでそこにはーくんを寝かせると、再び玄関に戻って石をどけ、扉を閉めて鍵をかける。

 

灯りがついてなかったので、つけてから再びリビング?に戻ると、そのままそふの上で寝ているはーくんが目に入ってくるが、今は我慢して眺めるだけにとどめる。

 

しばらく眺めていると、玄関の方から音がして、少ししてからお母さんが現れる。

 

「あ、ここまで運んでくれたの?ごめんね、久しぶりに会ったのに何も出来なくて」

 

「い、いえいえ!そんな事は……」

 

と、否定した私に対し、お母さんの目がキラッとひかる。……そして、

 

「あれあれ?……もしかしていろはちゃんは八幡を狙ってたりするのかな?」

 

いきなり核爆級の質問をニヤニヤしながら聞いて来た。

 

「なっ!?……ええっ!?」

 

「もしそうなら、親公認で攻略を手伝ってあげるよ?……この子、他に貰い手いなさそうだしねー」

 

「ッ~~~~!!!」

 

……危うく、今度は私がはーくんの後を追う羽目になるところだった。それと後半。あなたがそれを言っちゃマズイでしょ。

 

「で?……どうなの?どうなの?」

 

テーブルの私の向かいに座っているお母さんは、少し身を乗り出しつつ聞いて来る。そのやり方は、小町ちゃんのそれに似ていて、流石に親子だな、と思った。

 

「それは……その……」

 

「歯切れが悪い事から見てどうやらビンゴ……かな?」

 

「う、うぅ~~///」

 

この人の前では、私はどうやら自分のペースを保てそうにない、そう思い始めた頃には、結局気持ちを話す事になっていた。……本当にはーくんはこの人の息子何だろうか。ちょっと怪しかったが、それがもし違った場合、小町ちゃんまで攻略対象に入ってしまうため、考えないようにした。

 

と、いろいろ考えつつ、結局言う事になってしまった事態をどう乗り切るか考えて、諦めた。

 

「……そのー、まー、えーと……や、やっぱり恥ずかしいです!」

 

「その反応……脈アリだな」

 

いきなりキャラが変わった!?と、思ってたらよくよく考えたら私の本心を見抜かれた事に「アワワ……///」となりつつも、オーバーヒートしかけの頭をどうにか冷やそうと、頑張る羽目になった。

 

 

 

──────────

─────

 

最終的には、お母さんも協力してくれる事になり、状況を知らないお父さんと、ターゲットであるはーくん以外は、……要するに、比企谷家の女性陣は、全員こっち側についてくれた。

 

そのお母さんは、私にはーくんを預けて、寝にいってしまった。

 

とりあえずお風呂を借りようと、持ってきたセットを持って、寝ているはーくんの頭を一度撫でてから、お風呂を借りようと、椅子から立つ。その途中で、

 

「……あなたは……いつ、私を………受け入れてくれますか?」

 

ソファに寝ている彼の頭を撫で、髪を払いながら私はそう呟いた。

 

お風呂から上がると、まだはーくんが寝ていたので少し心配になったけど、とりあえずさっきの椅子に座ってテーブルに肘をついてはーくんが起きるのを待つ事にした。

 

 

 

──────────

─────

 

ーー(八幡side)ーー

 

──という事があったとはいざ知らず、俺はむくり、とソファから起きた。

 

何があったのかは知らないが、ちょっと背中が痛い。

 

それはどうでもいいので、とりあえず目の前で寝ているいろはに声をかける。

 

「おいいろは、起きろー」

 

俺が声をかけるも、いろはは起きない。

 

何度か揺するが、起きる気配はない。

 

俺は、どうするか考えた後、そう言えば、と思い出して、それを実行した。

 

──ふぅぅぅぅっっ、と

 

いろはの耳に息を吹きかけた。

 

 

結果──

 

「ひゃううっ!!?」

 

あれ程揺すっても起きなかったいろはが、急に飛び上がって今度は久しぶりすぎるその過度な反応に俺が驚く。

 

「うおうぃっ!」

 

と、いろははその声で俺の存在に気付いたらしく、

 

「あ、はーくん起きてたんですね?……大変だったんですよ?いきなり気絶しちゃうし……」

 

と、その後、起きたいろはから俺が気絶した後の話をされ、親と話した内容に、めちゃめちゃ恥ずかしくなった。

 

 

 

──────────

─────

 

その話が終わると、いろはは二階へ行った。小町の部屋を借りるらしく、場所は既に本人に聞いたらしい。

 

俺は、いろはが階段を上がるのを見てから、風呂に入った。

 

 

 

風呂から上がり、寝巻きを来て自室へと向かう。

 

途中で隣の小町の部屋の前を通ったが、特に何もせずにそのまま自室の扉を開ける。

 

 

すると──

 

「あ、はーくん。やっと来たんですか?遅いですよー」

 

なぜか、俺のベッドの上にいろはがいた。

 

「……………」

 

「……………」

 

 

──互いに、無言。……そして、

 

バタン──

 

 

気付くと俺は、自室の扉を閉めていた。

 

「……俺は何も見てない……俺は何も見てない……」

 

と、呟きを繰り返していると、俺が閉めてから約三秒後、今度は中から扉を開けられ、その瞬間にぐいっ、と中に引っ張られる。

 

「……滅多にない、ものすごく稀な機会なんですし、幼馴染としての再開記念も含めて、一緒に寝ましょ?」

 

そう言う一色からは、いつもの『あざとさ』ではなく、女子……というよりは『女性の魅力』を感じた。

 

いつもの『あざとさ』と違って、『魅力』からはあざとさの中にあった子供っぽいところがなく、それこそ完璧に大人の女性と変わらないんじゃなかろうか?

 

今のいろはからは、なんとも表現しにくい、そう言った魅力をたくさん感じられた。

 

「………あ、ああ。そうだな」

 

俺は、そんな一色の発する『何か』に、当てられたように、気の抜けた返事を返すのがやっとだった。

 

 

──ちなみに、この時の選択が、明日、悲劇を生む事になるとは、誰も想像していなかった。

 

 

 

──────────

─────

 

一色が掛け布団を広げて俺を迎え入れる。

 

俺は、自室の、……しかも自分のベッドであるにもかかわらず「……お邪魔します」といって布団に入った。

 

「えへへー、はーくん、ゲットしちゃいました」

 

「お前なぁ……」

 

何この可愛い生物。マジで可愛過ぎて直視できない。

 

……これはそろそろあれだな、『小町・戸塚・いろは』の三人を神として崇める宗教でも作れちゃうレベル。『妹・(素で)男の娘・幼馴染み』が神とかその時点で神がかってんだけど……。

 

「はーくんのお母さんにも了承取れたし、これからは思う存分全力で当たるからね?」

 

……だからその表情でよりにもよってそのセリフを言うなよ……。もう俺のライフはマイナスだよ……。

 

と、心の底からどうでもいい事を考えつつ、いろはとの夜がスタートした。

 

 

 

──────────

─────

 

とりあえず、こうなってしまった以上仕方がないので、あまり意識しないように気を付けつつ、恥ずかしさを誤魔化すために、いろはが布団からはみ出ない程度に俺側に布団を少し引き、その中に潜る。

 

しばらく潜っていると、暑くなり結局顔を出す。

 

その拍子に、隣で寝ているいろはの無防備な寝顔を見てしまい、悶える羽目になった。

 

 

 

 

──これは、威力が高すぎる。

 

その夜、俺は寝るのに、いつもの三倍の時間を要した。




最後まで読んで下さった親切な猛者達さん、私の駄文はどうでしたでしょうか。

その辺も感想等で教えて頂けると少しは向上するきっかけになると思うのでアドバイス、ここが良かった、など、いろいろ下さい。

まだ、一部キャラしか出ていませんが、これからめぐり先輩をはじめとした未登場正規キャラに加え、オリキャラもどんどん追加していく予定です。

オリキャラに関しては、作者が名前や性格などを一から設定していますので、被ってたら『同じような考えを持ってるなー』ぐらいに思って下さい。また、今回出てきたオリキャラみたいに、『普通、こんな読み方するか?』みたいな名前のキャラも出てきます。(神祈さんは、製作当初は、『かんのき』ではなく『かみき』の予定でした。漢字も『神木』だったんですが、最初にこれが今の『神祈』になり、そのあと読み方も『かんのき』へ変わりました)

これからオリキャラを増やすに当たって、それに伴い被る可能性が高くなるのであらかじめ言っておきます。【元ネタは存在しません】


では、また半年後くらいに。

感想については常時返信します。

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