風速5センチメートル   作:三浦

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マンガワン、読んでますか?ちなみにタイトルに意味は無いです。


良守

001

 

 

 

俺、墨村良守。14歳。

結界師とかいう胡散臭い家業の胡散臭い正統継承者に選ばれてしまい、胡散臭さを煮詰めたような存在になってしまった哀れな男だ。

 

そんな俺には、誰にも言ってない秘密がある。

昔、結界師の仕事中に俺のせいで幼馴染みの時音が怪我をした経験があり、そのショックによってかは分からないが翌日目を覚ました時俺の中には一つの記憶が生まれていたのだ。

 

つまり、俺には前世の記憶があるのだ。まあ、とは言ってもその記憶からは自分や他人の名前なんかは失われていたし、なにより現在に至ってはその記憶自体風化しつつあるんだが。

 

この二度目の人生と俺の奇怪な生まれ、どうにもたまたまとは思えないがしかし、それを考えても現時点では答えなど出せないし気にせず生きることにしている。

 

だから今日も今日とて朝飯を食らい、支度をすませ、ワックスで爆発したがりな髪の毛たちを落ち着かせて学校に行くのだ。普通の生活、万歳である。

 

 

 

002

 

 

 

放課後になった。数行前まで朝だったとか展開早すぎとか知らないし、誰に説明してるのかも分からないがとにかく放課後になった。

 

「ね、墨村くん」

 

キャッキャと姦しい女子グループの一人が話しかけてきたのは、まさに俺が掃除を終えて帰宅しようという時だった。

 

「今、時間ある?」

 

「あるけど...もしかしてそのために待ってたのか?」

 

「あー......うん、まね」

 

「そういうことなら遅くなって悪い、後ろの人達も」

 

「や!それは全然!」

 

用事もあるし俺は悪くない。それでもこういう態度でいるのが前世で培った嫌われないための処世術である。

 

気を使った甲斐があったのか、彼女の後ろにいた女子たちもいいよー、墨村くんいい人〜などと笑いあっている。

 

何がそんなに面白いのか理解不能だが、俺は大蛇の潜む藪をつつく趣味はないので彼女に要件を促した。

 

「えっと......ちょっと、場所変えない?」

 

その言葉と後ろの女子の盛り上がりで、流石にピンとくる。

 

「わかった、屋上でいい?」

 

こういう時に察しの悪い男は嫌われるらしい。昔妻が、いいけど......ここじゃできない話?なんて言ってきた阿呆に心底ムカついた、というのを蛇のように睨みながら教えてくれた。

一体どこの誰なんだろうな、その阿呆。

 

とまあくだらない回想をしてる間に俺の言葉に首肯いた女子がついてくる。

お互い言葉もなく、後ろを盗み見れば人型のりんごが手のひらを握りしめている。

 

あまり考えたくはないが、そのさらに後ろからはあの友達がついてくるのだろう。嫌という訳ではないけれど、自分が告白する立場ならそんな出歯亀趣味とは友達になりたいとは思わない。

まこと女子とは不思議な生き物である。

 

話さなくてもいい雰囲気ならまあいいかと携帯を出しlineをいくつか返す。

 

どうでもいいがこのスマートフォン、持つにあたって爺さんとかなりもめたのだが、珍しく父さんが爺さんを叱って俺の携帯所持を認めてくれたという逸話つきのものだ。ちなみに中等部限定とはいえ普通に校則違反である。先生ごめん。

 

「あっ...」

 

屋上の扉を開けたことによって吹き込んだ風で女子がよろめいた。咄嗟に掴んだ手は、緊張からか少ししめっている。

 

「あ、ありがと」

 

「どういたしまして」

 

屋上の扉を閉めると、彼女は早速喋りだした。

 

「あ、あのさ!」

 

「うん」

 

「あたし、あの......」

 

「うん」

 

その時の.一瞬の沈黙は、ひどく長いように思えた。

 

「......ふぅ、墨村くん!」

 

「なに?」

 

「あたし!墨村くんのことが──────」

 

 

 

003

 

 

 

「ごめん、待った?」

 

「すっごい待った。なんてね、行こっか」

 

「おう」

 

俺の隣を歩くのは雪村時音、お隣さんの幼馴染みだ。言うまでもなくこれはただの下校で、昔からの習慣のようなものである。

 

「用事ってなんだったの?」

 

「先生に呼ばれただけ」

 

「嘘、私その先生にあんたのこと聞きに行ったんだもん」

 

「そっちじゃなくて家庭科の飯田先生な。俺よくお菓子のこと聞くから話すんだよ」

 

「あー、今日のも?」

 

「そ、クーベルチュールにツテがあるからよければそこの人と会ってみないかって」

 

これはホント。家からも近いし、本気でパティシエを目指してるならきっと得るモノがあると力説してくれた飯田先生は本当にいい人だし、説明と違うのは昼休みってとこだけだ。

 

「へー!すごいじゃん!イケメンで有名だよね、あそこ」

 

「そっちで霞みがちだけど、本当にすごいのはあのチョコだよ、俺みたいななんちゃってでも一口で分かった。きっと俺が知らない技術の宝庫なんだと思う」

 

「ふーん、そんなにすごいとこなんだ」

 

「安定した結界で学校囲めるくらいすごい」

 

「それ正守さんでも無理でしょ....」

 

「そんくらいってこと」

 

楽しいかどうかはさておき、話しながらの下校なんてものはすぐ終わる。

気を使う必要のない相手だと尚更そうらしい。

 

「じゃ、またね」

 

「ん、じゃあな」

 

そうして門を通り、斑尾の石を一撫でしてから玄関をくぐる。

 

「ただいまー」

 

これが俺の日常。恋に恋する同級生と同じく青春を駆け抜ける14歳の世界は、結界師なんて仕事よりもずっと陳腐でへなちょこなもので、

 

「時音、めっちゃかわいかったなぁ......」

 

男ってのはいつだって単純なのである。

 

 

 

 

 

 




う、うわあ〜、この人のやつ続かなそ〜。
サクサクを目指して文字数減らしてるけどもう少し増やした方がいいのかな....

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